獣の戦士
翌朝、ちょっとげっそりしながらも目が覚めた俺は、朝食後少しゆっくりする事にした。流石に2対1はキツすぎた。アヤネが早々にダウンしたとはいえ、アイラは歴戦のオーラを感じるというか、実際底なしだった。彼女に言わせればあれで初めてだというのだから恐ろしい。
次からは1対1でお願いしたいところである。ついでに手加減もしてほしい……。
「おー……。盛り上がってるなぁ」
俺は部屋で掲示板を開いて、昨日の騒ぎを眺める事にした。やっぱり話題の中心は、昨日の一時的な封鎖の件だった。
俺が動いたことで『ホブゴブリン』の叫びが何度も聞こえた事から、何をしているのかまでは分からずとも、俺が『レアモンハンター』の異名に負けない実力者である事は、誰もが確証を持ったらしい。
あと考える事があるとすれば、あんな大量にレアモンスターを狩れるという事から、湧かせるためのルールも俺の行動から逆算して、その内推定され、確定されることもあるだろうという事だ。俺の邪魔さえしなければ、遠くから見ている分には協会の規定的に問題にならないしな。
『100匹論』と『運』と『煙の条件』について、それぞれ公開するかどうかが悩みどころなんだよな。この件に関しては、彼女達にも何度か相談はしてるんだけど、結局のところ『湧かせた場合の権利』を協会側で定めるかどうか、というところに帰結するらしい。
ルール無用とするのであれば、レアモンスターの出現地点で出待ちすれば横取りが出来ちゃうし、ルールができた場合、湧かせた個人やチームで利権の主張をどうさせるかとか、まあ色々面倒な話になってしまった。結局のところ、そういう整備がされない内は条件は公開しない方がいいだろう、という結末になったのだった。
◇
十分に休みを取った俺達は再びダンジョンへと突入した。昨日の遅れを取り戻す為、一気に第二層の丘陵地帯。ヒルズウルフが住まう場所へと向かった。
そうして奴らの領域に入る直前、家を出た時から静かだったアイラが口を開く。
「ご主人様。改めて、おめでとうございます」
「ん、何がだ?」
「これで私達4人コンプリートですね」
「ぶほっ!」
いきなり何を言い出すんだこの下ネタメイドは。
「焚きつけた甲斐があったというものです」
「やっぱり、キスラッシュ以外にも暗躍していたんだな」
「暗躍とは人聞きの悪い。奥方様もご主人様も、変な所で心配性ですからね。円滑なチーム作りのために、背中を押したまでです」
心配性か。気にしてるだけに何も言い返せないな。
それにしても円滑に、ねぇ……?
「前者は良いとして、まるで今まで、問題を抱えてたみたいな言い方するじゃん。……教えてくれ、2人には聞かなかったけど、なんで関係を進めさせたんだ?」
「……そうですね。私達全員と関係を持てた事ですし、お話ししましょうか」
アヤネはアイラの背から降りて、改めて俺の腕に引っ付いた。
「利点はいくつか御座いました。まず、肉体関係で結ばれる事で、関係はより強固になります。信頼構築は勿論の事、本人もそうですが周囲も安心できます。今のご時世、世継ぎの存在は大きいですから」
そういや、支部長も焚きつけて来たもんな。アキも不安を理由にしてたし。
「次にご主人様が他の女性に靡かないようにするためですね。これはどちらかというと、ご主人様がどうこうという問題ではなく、奥方様達の不安を取り除くためです」
「不安って……。俺に対する信頼とは別って事だよな?」
「そうです。ご主人様はこの先もっと活躍されて、注目の的になる事でしょう。そうすると色んな人が集まってくるわけですし、その中にはランクも上がる関係で女性が多いはず。とすれば、自分よりも魅力的な女性が現れたらと、不安に思うものです」
「そういうもんか……」
確か、ランクで妻帯可能な人数も増加するんだったよな。今のA止まりなら4人だけど、A+以上になるのなら最大数も増えるから、その枠狙いの人達の中に自分達の完全上位互換が来るかもしれないと、アキもマキもそう思ったわけだな。
「あーまぁ……納得できると言えばできちゃうな」
「それはよかったです。ご主人様の今後の活躍次第で、また別の女性関係のトラブルが増える可能性が懸念されていますが、それも今回の件でなんとかなりそうです」
まだ他にもあんのかよ。まあでも、皆がそういう、俺の気が回らないところをサポートしてくれるからこそ、俺も気持ちよく冒険できるんだよな。感謝しなきゃ。
「それではご主人様。そろそろ、狩りを開始しませんか?」
「そうだな、今日で第二層を終わらせなきゃだし。まずはこのウルフ連中からだ」
レベルとしてはこっちの方がウサギ連中よりも上だし、レアⅡの出現率は低いだろう。けど、出たら何かしら苦戦する要素はあるはずだ。気を引き締めていこう。
俺はヒルズウルフの群れへと飛び込んだ。
◇
『ギャイン!』
俺は『ボスウルフ』を一撃で屠り、取り巻きのヒルズウルフの群れも軽く制圧した。
「ご主人様」
「ん、どうした?」
「ご主人様の『運』が一般の冒険者と比べ、隔絶した数値に至っているのは存じておりました」
「うん」
「ですが、この一連の戦いだけで、これ程の『俊足』のスキルオーブが集まるとは想像していませんでした」
「えーっと……。何個出たの?」
「23個です」
「うわ……」
まだ最初の100匹目だっていうのに、少しどん引きである。
一応見てみたかったので、アイラに『魔法の鞄』を覗かせてもらった。その中には昨日狩った連中の素材なども入ったままになっていて、一言で言うと混沌としていた。
不思議な事に、アイラの袋は以前の暗闇の宝箱と違って中身が見えるんだよな。そこには有り得ないくらいに奥行きがあるから、知らない人が見たら困惑する事間違いなしだ。
「随分集まったね」
「ご主人様が望まれた事ですから」
そう言えば、2日の連戦でどれだけダンジョンドロップが集まるか見てみたいなーって、軽い気持ちで言ったんだった。アキとマキの負担が増えそうだけど、お仕事をしてる時の2人はとてもイキイキしてるんだよなぁ。まあ負担になりそうなら、その時手伝えば良いか。
さて、改めて『俊足』の扱いを考えるか。売りに出すには単価が安いのもあるけど、数が数だしな。結局、一纏めにしてから売るなり使うなりした方がいいだろう。
「んー……。いちいち圧縮するのは手間だな。こいつらも最後に回そうか」
「承知しました」
そうやって話している内にレアモンスターの煙は消え去り、『ボスウルフ』のドロップが散らばった。どうやら、今回は湧かないようだった。
「よし、次に行こうか」
そうして2カ所目、3カ所目と『ボスウルフ』の次は現れず、最後の丘陵地帯へとやって来ていた。どうやらそこには先客がいたようだったが、俺の事を知っている人達だったらしく、快く道をあけてもらえた。と言っても、彼らはクレーターの外周部で狩りをして、俺達はクレーターの中央部で狩りをするから、取り合いにはならない位置だったけど。でも挨拶は大事だもんな。
前回このエリアで起きた事件の事もあってか、先客には率先して俺から声掛けをするように心掛けていた。無用なトラブルは避けたいし、こういう外交的な事を彼女達に任せて後ろでふんぞり返るのは、気持ち良くないしな。
そして何の問題もなく4体目の『ボスウルフ』を討伐した。
「レベル上昇が緩やかだな……」
実は『ボスウルフ』の3匹目で58に上がっていたのだが、このレベルになると3匹につき1レベルしか上昇しなかった。目的はガチャでもレアⅡでもなく、強化体なのだから、レベルは二の次だしレアⅡがここで出なくても困るほどではないんだけど、どうせならレベルを上げてガチャも回したいんだよな。
これで出なければどうしようかな……。いや、強化体がいるからレベル的には何とかなるのか……?
「旦那様、今回こそは出てくれるでしょうか?」
「んー、どうだろう。結局『運』が上がったとしても、100%にならないんじゃこんな風に波はあると思うんだよね。例え出現率が75%くらいあったとしても、沢山出る事もあれば連続して出ない事だってきっとある」
「それが今の状態、ということですわね」
「今までが上振れ過ぎていたのでしょうか」
「どうだろうね。結局、確定出現に必要な『運』の詳細が分からない以上は、何とも言えないんじゃないかな」
そんな風に話していると、目の前の煙が集まり始めた。
「……お、来るぞ!」
アヤネを庇う様に俺とアイラで前に出て構える。煙の中から現れたのは、全身が漆黒の体毛に覆われ、黄金色に輝く瞳を持った二足歩行の狼だった。その手や身体には、普通の獣には似つかわしくない武器や防具が装着されている。
いや、二足歩行の時点で狼じゃないな。狼男って奴か?
*****
名前:ワーウルフ レベル:45
腕力:400 器用:340 頑丈:400
俊敏:550 魔力:100 知力:100 運:なし
装備:群狼のバグ・ナク、群狼のハーネス、群狼脚絆 スキル:剛力Ⅱ、怪力Ⅱ、俊足Ⅱ、迅速Ⅲ、体術Lv3、格闘術Lv2、暗殺術Lv2
ドロップ:ワーウルフのたてがみ、ランダムな群狼装備、大魔石
*****
現れた奴はこちらを目視した後、大きく息を吸い込んだ。
『ワオオオオオン!!』
「ぐっ!?」
「うっ!」
「きゃあ!」
『ワーウルフ』が雄叫びを上げると、頭を強く揺さぶられたかのような不快な感覚に陥った。頭がまるで鈍器にでも殴られたかのように、ぐわんぐわんしている。視界がぼやけ、足がふらついた。そんな俺達の様子を見て、『ワーウルフ』は顔を邪悪に歪め、舌なめずりをしている。
「くっ……」
頭痛を振り払い、なんとか前を向くと、奴は大きく口を開け、こちらに向かって駆け出していた。
『ガア!!』
マズい!!
「……ウオオオオッッ!!」
『!?』
俺は前後不覚に陥りながらも、自身に活を入れる為、『ワーウルフ』に向かって全力で叫んだ。
今度は逆に、俺の叫びを聞いた奴が驚き、全身の毛を逆立たせていた。
その結果、奴は駆け出した直後ということもあってか、足をもつれさせて盛大にヘッドスライディングをかましていた。
どうやら、『スタン』したらしい。
『グ……ガアッ!!』
「うるせえっ!」
起き上がり二足歩行になった『ワーウルフ』と俺は激突し、2本の鉤爪と剣がぶつかり合う。
『ガンッ! ギャリン!』
『ガアアアアッ!!』
「うおおおお!!」
『ワーウルフ』の拳撃は素早く、『甲殻騎士』の槍捌きを上回るものだった。その上基礎スキルも主力スキルも揃えている。純粋な近接戦闘に特化した拳闘士のようだった。技の練度も非常に高く、スキルレベルの数値では上回っているはずの俺と張り合っていた。
それでも、ステータスで見れば俺の方が数倍は上であり、技術的な部分で大敗していても、力押しで何とかなっていた。その上『予知Ⅱ』のフィードバックもあり、何度か打ち合いをすることで余裕が生まれ始めた。
けど、優位に立てたのはそこだけだ。
相手はかなりの持久力を持ち合わせているらしく、懐に潜り込んでのインファイトを好むようで、少しでも距離を置くそぶりを見せたら果敢に踏み込んできてイニシアチブを取ろうとしてくる。様子見や距離を置いての睨み合いが起きない、休みない攻撃を仕掛けてくる面倒な敵だった。
「ふんっ!」
『ガァッ!?』
なので、剣撃と拳撃の隙間を縫うように蹴りを入れ、向こうから距離を置いてもらうことにした。
「ふぅー……」
『グルルル』
昨日アヤネが言っていた通り、スキルは基本的に数ヶ月に及ぶ練習の果てに、きっちりと練度と精度を高め、己が力とするものらしい。それを思えば俺は、練習する間もなく次から次へとスキルを取得しまくっている。つまり、これらの力を使い熟せてはおらず、スキルの上辺だけを使っているということだ。
十全に使い熟せれば、低いレベルとステータスでも『ワーウルフ』並の力は引き出せると言うことが分かったのは大きい。
その内、行き詰まったりする前にダンジョン攻略はお休みして、訓練に励む必要がありそうだな……。幸いなことに、俺には心強い味方がいるわけだし。
『ガアッ!!』
「休憩は終わりってか?」
再びこちらへと仕掛けてきた『ワーウルフ』とぶつかる。
俺は自身の練度を高める為に、体力が尽きる寸前まで戦い続けたのだった。
【レベルアップ】
【レベルが58から65に上昇しました】
「ふぅー……」
激闘というよりも、訓練と呼べる長い戦いを終えた俺は、座り込んで満足していた。
最後は勢い余って倒してしまいそうになったが、咄嗟にアヤネとアイラの事を思い出し、彼女達に手を出してもらった上でトドメを刺した。
この2人も、連日の戦いで何度かレベルアップや『黄金の実』でかなり成長してるみたいだし、今日の戦いが終わったらどれだけ成長したのかじっくり眺めてみるか。
「旦那様、お疲れさまでしたわ」
「ごめんな、また付き合わせちゃって」
「もう、旦那様。それは言わない約束ですわ」
「はは、ごめん」
そういえば昨日も似たような事をしてたよな。それで同じことを言った気がする。
程よく疲れたが、この後には、『ボスウルフ』の強化体が待ってる、昼食による中断を挟むと強化体が出なくなるからな。2人には悪いが、少し遅れちゃうかもな。
「俺、どれくらい夢中になって戦ってた?」
「昨日より長く続いて40分くらいですわね。旦那様、とっても楽しそうでしたわ」
「そっか……。まあ確かに、楽しかったかも。でもその動画を編集するのは大変そうだな。ちょっとそこは考えてなかったよ」
「あ、旦那様。動画の事なのですが……」
「ん?」
アヤネが少し落ち込んだ様子を見せた。
「最初のモンスターの叫び攻撃で、カメラの電源が落ちてしまっていたのですわ。アイラに電源が落ちてることを指摘されて、再度カメラを回したのですが、結局半分くらいしか撮れませんでしたわ……」
「ああ、アレで落ちちゃってたのか」
「あうぅ、旦那様の格好良い叫びが収録できませんでしたわ……」
「気にするのそこなんだ……」
俺としては後で見返されると恥ずかしいから、残ってなくて良かったんだけど。
そういえばアイツの雄叫び。俺の指輪でも防げなかったところを見ると、『エンペラーゴブリン』の叫びとはまた別の種類の状態異常なんだろうな。頭を殴られたような感じだったし。反撃で叫び返したことで、大きな事故もなく迎え撃つことが出来たけど、一般的にどう対処するのが正解なんだろうか。
「アイラ」
「はい、ご主人様」
ドロップ品の回収を終えたアイラが、いつの間にか傍に戻って来ていた。
「あの雄叫びも、やっぱりスキルかな?」
「ステータスに載らない系統外スキルかと。状態異常攻撃は、上位のモンスターが持ち合わせる厄介な力です。今まで出会ったレアⅡで、系統外スキルを持つ相手は3体。先日は強化体も持ち合わせておりましたし、今後も警戒をした方が良いかと」
「そうだね」
「あれの対策としては、耳栓辺りが妥当でしょうか」
「耳栓かぁ……」
あ。
「あの雄叫びって、動画で視聴しても状態異常になるのかな?」
「あっ……。ど、どうなのでしょう?」
アヤネは不安げにアイラを見ると、彼女はアヤネを安心させるようにふっと微笑む。
「状態異常は直接受けた相手に負荷をかける力です。ですので、録画や録音ではただ煩いだけで、効果は発揮されないかと。『黄金鳳蝶』戦の動画でも、ご主人様の叫びは間近で聞いた時と比べると、気の昂ぶりはありませんでしたし」
「確かにそうでしたわね!」
「え、あ、そう?」
気の昂ぶりって。そう言われると恥ずかしいな。
「ま、まあその話は置いといて、レベルも貯まったから久々にガチャを回すね」
「畏まりました。ではその前に『ワーウルフ』のスキルを一部渡しておきますね」
そう言ってアイラが渡してきたのは『迅速Ⅲ』『体術Lv3』『格闘術Lv2』『暗殺術Lv2』だった。
「では、『ボスウルフ』同様、しばらくモンスターが湧かない可能性もありますが、念のため周囲の安全を確保して参ります」
「わたくしは、旦那様のお側で見守っていますわ!」
「ああ、よろしく」
俺はスキルを取得しつつ、ガチャを出現させた。さーて、何が出るかなっと。
『ジャララ、ジャララララ!』
出たのは、赤3、紫4、緑3。「無料ガチャ」からは青5個だった。
『SR 頑丈上昇+45』『SR 俊敏上昇+40』『SR 俊敏上昇+45』
『SSR 魔力上昇+110』『SSR 頑丈上昇+75、俊敏上昇+75』
『SSR スキル:暗殺術Lv1』『SSR アイテム:眩暈耐性の指輪』
『UR 魔力上昇+200』『UR スキル:元素魔法Lv1』
『UR スキル:魔石操作』『R 腕力上昇+18』
『R 頑丈上昇+18』×2、『R 俊敏上昇+18』×2
*****
名前:天地 翔太 年齢:21
レベル:5
腕力:2149(+1335)(+806)
器用:2248(+1397)(+843)
頑丈:2277(+1415)(+854)
俊敏:2354(+1463)(+883)
魔力:2533(+1577)(+950)
知力:2378(+1480)(+892)
運:2450
*****
2日ぶりのガチャということで、色々と思うところはあるが……。
「あれは『眩暈』だったのか」
当然のように喰らってから出てきた耐性の指輪を前に、ひとりごちた。
「旦那様、それが新しい装備ですの?」
指に嵌めた3つ目の装備を、アヤネが興味津々といった様子で見つめている。
「お星さまが回ってますわ~」
「ああ、『眩暈』に対する防止の指輪らしい。ということはつまり、『ワーウルフ』の叫びは『眩暈』だったという訳だな。……多分だけど」
「いえ、『眩暈』で間違いないと思いますわ。以前に状態異常の講習で見聞きした内容と、同じような感覚を受けましたもの」
「状態異常の講習? そんなものもあるんだ」
「はいですわ。『回復魔法』で治せるものと治せないものを把握するためには、勉強も必要ですの」
勉強か。最近よく思う事だが、力だけあってもそれを使いこなす知識がないと役に立たないもんな。
「それで旦那様、他には何が得られたのですの?」
「ああ、『暗殺術LvMAX』になって、『元素魔法Lv3』。それから新規で『魔石操作』ってやつだな」
「凄いですわ。ではまずは圧縮ですわね!」
「そうだな。よし、圧縮!」
【該当のスキルを確認中……】
【該当するスキルはありませんでした】
「ありゃ……。どうやら、『暗殺術』は圧縮の対象外らしい」
「そうなのですわね……」
うーん、今のところこのスキル、相手を上手く殺す為の技術が向上するだけなんだよな。いや、実際のところ生物としての急所を狙ったり、無力化するための知識が頭にインプットされる感じで、助かってはいるんだけど。
なんというか、これで終わる気がしないんだよな……。他にも必要なスキルや条件があるのか?
「では『魔石操作』は未知のスキルですのでまた今度にして、注目すべきは『元素魔法』ですわ! これで旦那様も、巨大魔法と専用魔法が使えるのですわね!!」
「そういえば、そんな話だったか」
アヤネの言うようにスキルに意識を回すと、確かに使える魔法が増えていた。従来の『ビッグ』シリーズに加えて、見慣れない名称の魔法が1つ。
どうにも、名前からして4属性とは別系統の魔法な気がするな。
「それと旦那様。わたくし、あれから『元素魔法』について色々と調べてみたのですわ。まず入手方法としては、難易度の高いダンジョンの宝箱からしか発見報告がありませんの。そしてご存じかと思いますが、取得すると今まで覚えていた4属性の魔法は、すべて消失するリスクを抱えていますわ」
「ああ、やっぱり他でもそうなんだ」
「そしてレベルが3の倍数に上昇する度、専用の魔法が得られるそうなのですわ。ですが、その専用魔法の内容は個人差があるようで、何が得られるかはランダムらしいのですわ」
「ほぉー」
それでアヤネは、俺がどんな魔法を使えるようになったのかが知りたくて、さっきからワクワクしてる訳だ。まあでも、名前からして破壊力のある魔法ではなさそうだが……。まあ、そこは使ってからの判断だな。
「よし……『マジックミサイル』」
目の前に、不可視の物体が現れた。
その魔法が知覚出来ているのは、魔法があると思われるその空間が、蜃気楼のように歪んで見えているからだろう。形としては……球体なのだろうか?
試しに動かしてみると、どうやら今まで使用していたファイアーボールなどの初期魔法と違って、自在に動かすことが出来るらしい。
初期魔法は、一度動かすとその方向にまっすぐ飛んで行って、その後の調整は出来なかったからな。こいつなら、やろうと思えば回り込ませて敵の後ろからズドン。なんて真似も出来るかもしれない。
「この魔法、知っていますわ! とっても珍しい魔法なのだそうですわ! それに使い勝手が良い魔法らしく、当たりとされていますの。旦那様なら、詳細が見えるのではなくて?」
「ああそっか、『真鑑定』」
名前:マジックミサイル
品格:最高《エピック》
種別:元素魔法
説明:魔力を30消費し、生み出されたエネルギー弾。術者の意思に沿って自在に動き、性能を操作することも可能。威力や大きさに応じて消費魔力が増加するが、限界値は魔法のレベルに準ずる。
「滅茶苦茶強い事が書いてるな」
「流石旦那様ですわ!」
試しに現在の限界である威力3倍、大きさ3倍をイメージすると、目の前の空間の歪みが広がり、そこから感じられる圧力が増したのを感じた。だが、それと同時に消費魔力も飛躍的に増加したのを肌で感じた。
念のためもう1度視てみると、そこにはしっかりと答えが載っていた。
名前:マジックミサイル
品格:最高《エピック》
種別:元素魔法
説明:魔力を270消費し、生み出されたエネルギー弾。術者の意思に沿って自在に動き、性能を操作することも可能。威力や大きさに応じて消費魔力が増加するが、限界値は魔法のレベルに準ずる。
「……どうやら、掛け算で魔力を馬鹿喰いするらしいな」
「ふわあ、ヤバイですわ……。威力3倍、大きさ3倍で30×3×3で、270ですのね。あとは、この魔法がどれくらいの威力を持っているのかですわね」
試しに遠くの視界に映ったヒルズウルフを狙ってみると、マジックミサイルはとんでもない速さで飛来していき、対象を木っ端微塵に消し飛ばした。
「「……」」
オーバーキルすぎる。
ヒルズウルフの頑丈は、たしか50しかなかったよな。魔力を270使った事を考えると釣り合いが取れてるのかもしれない。『紫電の矢』ですら200消費だからな。
「この威力に加えてほぼ不可視の攻撃。速度は『紫電の矢』に劣るものの、微調整が効く上に避けられたとしてもこちらの操作次第で背後からの強襲も可能で、範囲も拡大可能と来たか。使い勝手が良いってレベルじゃないぞ」
「そうですわね。あと試すべきは、標準のマジックミサイルがどうなるかですわね」
「そうだな。そこは追々試していくか」
そう思った矢先、アイラが戻ってきた。どうやら俺の魔法を目撃したらしい。
「ご主人様、今のは?」
「新しい『元素魔法』」
「なるほど」
うーん、納得が早い。
「周囲の偵察をしてきたところ、徐々にモンスターが復活を始めているようです。また、『ワーウルフ』の鳴き声が周囲に響いていたらしく、先程ご挨拶をされていた冒険者達が心配そうにしておりましたので、無事をお伝えしてまいりました」
「あらま。向こうには『眩暈』効果は響いてなかった?」
「はい、そこは問題なかったようです」
「わかった、ありがと」
そう話している内に、周囲をヒルズウルフが囲み始めた。どうやら、他の検証は後回しにした方が良さそうだ。
「よし、ラストスパート行くか!」
「はいですわ!」
「ご随意に」
接近戦では剣、遠距離はマジックミサイルをメインにヒルズウルフを狩り続けた。検証した結果としては、マジックミサイルは等倍でも十分な火力を出した。
消費する魔力30というのは通常のレベル3のビッグシリーズと同コストであり、この消費量は威力よりも操作性の部分に使われているようだったが、それでも通常モンスターなら一撃で倒すことができた。
また、倍率アップはセットでないと動かすことが出来ず、片方を3倍にしたらもう片方も3倍にしなければ発動すらしないようだった。
何回か試してみたところ、やっぱり3倍威力は、オーバースペックだったみたいだな。そうして検証を重ねていけば、いつの間にか100匹討伐は完了し、強化体が出現した。
*****
名前:ボスウルフ レベル:46
腕力:225 器用:405 頑丈:165
俊敏:375 魔力:450 知力:225 運:なし
装備:なし スキル:迅速Ⅲ、統率Ⅲ、限界突破
ドロップ:ボスウルフの牙、ボスウルフの毛皮、ボスウルフのトロフィー 大魔石
*****
『アオオオオン!!』
『ガルル』
『ガァッ!』
出現と同時に子分を周囲から呼び寄せるところは通常個体と同じようだが、明らかに今湧いた奴もいたような……。
だが、そいつらも周囲の雑魚と同じらしく、スペックに差はない。雑魚を召喚するスキルは要注意かもしれないが、呼び出したモンスターが持つスキルが『俊足』である以上、『エンペラーゴブリン』の下位互換でしかないな。
「強くなってもスキル構成は大差ないし、『頑丈』値も低い。召喚能力は厄介だが数も少ない。アヤネ、アイラ。速攻で決めるぞ!」
「はいですわ! ウィンドストーム!」
「ふっ!」
アヤネが魔法を発動するが、それより早く飛来したアイラの短刀が『ボスウルフ』に傷を負わせる。怯んだ所でアヤネの魔法が到達し、雑魚諸共吹き飛ばした。
『ギャイン!』
転がり、なんとか体勢を整えた『ボスウルフ』に俺の3倍マジックミサイルが飛来。『ボスウルフ』の身体は四散し、煙となって消失した。
【ボスウルフのトロフィーを獲得しました】
【レベルアップ】
【レベルが9から64に上昇しました】
特殊能力で出現したと思われるヒルズウルフはレアモンスター消失と同時に煙となったが、元から出現していた連中はどうやらそのままらしい。それでも大した数ではなく、恐れる事なく襲いかかってきた為迎え撃ち、無事に撃破。
これにて、『初心者ダンジョン』第二層のトロフィー、3つ目。取得完了である。
「旦那様、お疲れ様ですわ」
「ご主人様、目標の達成。おめでとうございます」
「ありがと。それじゃ、彼女達も待ってるし、良い時間だからアイテムを回収したら1度戻ろうか」
「はいですわ!」
◇
「ただいまー」
「あ、おかえりショウタ君」
「ショウタさん、おかえりなさい」
会議室に入ると、2人一緒にお出迎えをしてくれた。ちょっと前まではマキだけだったのに、最近ではアキも出迎えてくれるんだよな。やっぱりアイラの言う通り、あの行為で距離感がぐっと縮まったのかも。
2人まとめて抱きしめて、帰ってきたことを実感する。
「にひひ、調子はどう? って、聞くまでもなさそうね」
「おう、絶好調」
「ご無事で何よりです」
席に着き、昼食を食べながら午前中に起きた出来事や進捗を話し、その流れで動画を一緒に観る事になった。そうして穏やかな時間を過ごしていると、不意にノックの音が響いた。
「私よ。入っても良いかしら」
「どうぞー」
「ありがとう」
そう言って会議室に入ってきた支部長は、いつものように対面に座った。
「動画の確認をしていたのね。このモンスターは、ヒルズウルフのレアⅡかしら?」
「はい。ほどよく強くて、いい練習相手になりました」
「練習、ね。……確かに、急にそんなステータスになったんだものね。身体と精神がついていかないのも当然ね……」
俺の一言で、支部長は俺が抱える問題を把握したらしい。
少し考える素振りを見せるが、すぐに振り払った。
「その点は、私も協力出来そうなことがあれば連絡するわ。今回来たのは、今晩開催されることとなった会議について、事前に聞いておきたいことがあったからなの」
となると、あれかな? 俺が昨晩彼女達に聞いた、スキルの件……かな?
今、俺のスキル在庫……。もとい、アイラの鞄は中々に混沌めいている。
まず、一気にオークションに流すと参加者の財布がすっからかんになる事は間違いなく、更には現在進行形でスキルが増え続けているため、もっとヤバイ事になっているのだ。例の第1回目のお願いは満了していないが、次のお願いを聞いておいた方がいいのでは、と彼女達に聞いたところ、本日急遽、会議が執り行われることとなった。
俺の都合で会議が開かれるって、そう考えるとなんか面白いな。
「それで、今アマチ君が確保しているスキルの一覧を教えて貰うことは可能かしら」
そうして俺に視線が集まった。現在、俺がどれだけのスキルを抱え込んでいるか、実のところ彼女達は知らないのだ。なんなら、俺も把握していない。
なので、その管理人に聞いてみる事にした。
「アイラ」
「全てお伝えしても、構わないのですか?」
「良いよ。隠すものなんてないし、というか俺が把握してないし」
「では、失礼して……」
そう言ってアイラは、テーブルに広げられていたお弁当箱を端に退ける。俺達もそれを手伝い、空きの出来た机にアイラは次々とスキルを並べ始めた。
『身体強化Lv1』、『剛力』×5、『剛力Ⅱ』、『怪力』×13、『怪力Ⅱ』×3。
『鉄壁』×3、『城壁』×4、『俊足』×127、『俊足Ⅱ』×4、『迅速』×5。
『迅速Ⅲ』、『統率』×13、『統率Ⅲ』、『水泳Lv1』、『金剛力』×2。
『金剛壁』×2、『金剛外装』×2、『風魔法Lv4』、『水魔法Lv2』。
「それとオマケで」
『鉄の宝箱』×5、『木の宝箱』×2。
「以上です」
溜まっていそうだなーとは思ったけど、だいぶヤバイ事になっていた。
あと、ハートダンジョン第一層の宝箱、完全に忘れてた。
「……目がチカチカするわ」
支部長はこめかみを抑えながら唸った。
うんまあ、このスキルの数だもんな。それに、5億とかふざけた値段してる『統率』が13個もあるし。更には上位の『統率Ⅲ』まである。
「これだけの数のスキル、なぜ使わないのか聞いても良いかしら」
「え、いやー……。別に戦いで苦戦はしていないし、どうせなら全部終わらせてから精算しようかなーって」
「……はぁ。落ち着いてから精算したいって気持ちはわかるけど、溜め込み過ぎよ。一体いつから溜めてるのよ」
「ほとんどが昨日と今日の分ですね」
支部長はますます頭を抱えた。
「アキ、マキ」
「「はい」」
「絶対に彼を野放しにしないように」
「「任せて!」」
その会話、俺の前でしちゃう?
「アマチ君、確認だけど、ここにあるスキルは全て、あなたの特殊な技能を使わずに手に入れた物で、間違いないかしら」
支部長が言っているのは圧縮で混ぜ混ぜしていないか、ということかな?
つまりは、このままの形でドロップする物。『お願い』リストに加えて問題ないスキル群か否か、ということだろう。
「はい。大丈夫です」
「分かったわ。今晩、精算が終わって余ったスキルがあればこの子達に確認するわ」
「あ、でも注意点と言いますか、問題がありました」
「何かしら」
「『風魔法Lv4』だけは、今のところ『黄金鳳蝶』からの専用ドロップなので、お願いリストに加えられないかと」
「あ、それね。分かったわ。といっても特殊過ぎて欲しがる人はいないと思うわね」
「やっぱり、そう思います?」
支部長からも売れないアイテムの烙印を受けてしまった。なんとも哀れなスキルだ。
「うーん、じゃあとりあえず、このスキルはアイラが覚えといてくれる? Lv4の時点でも持て余してると思うけど」
「承知しました」
アイラは『風魔法Lv4』を取得し、スキルとしては『風魔法Lv8』になった。
「それと、せっかくだからこの機会に『統率Ⅲ』も俺が覚えておくよ。2人とも待たせてごめんね」
「これで3人でも全員1・6倍ですわね!」
「3人でも……?」
アヤネの言葉に支部長が眉を顰め、娘達を怪訝そうな目で見る。が、最後には溜息を吐くのだった。そして、話は終わったという事で、アイラは目にも止まらぬ速さで全てのスキルと宝箱を鞄に収納した。
「……確認したかった事は以上よ。午後からは最後のモンスターに取り掛かるのよね。アマチ君は、アレを今まで倒したことがあったかしら?」
「ゴーレムですよね? いえ、倒すどころか目撃すらしてません」
マップ埋めの時にちらっとフィールドを覗いた時は、姿形を確認出来なかったんだよな。
「そう。あのモンスター、実は物理攻撃に耐性があるくらいのことしか分かっていないの。『初心者ダンジョン』ということもあって、ここは駆け出しがほとんどだから、魔法を主体とした冒険者が来ることはほとんどないのよね。魔法が扱える子にオススメなのかと言われても、それ以上の情報が無いから検証も出来てないの」
「でも、他のダンジョンにもゴーレムはいるんですよね?」
「いるわ。けど、本当に申し訳ないのだけど、無理に調べなくても他のモンスターでやっていけてるから、他所のデータと比べるほどの情報を収集できていないのよ。だから、アマチ君がモンスターの情報を収集してくると言ってくれた時はとてもありがたかったのよ」
「なるほど」
まあ確かに、第一層よりもちょっと強くなったゴブリンや、キラーラビットの2体だけでも十分レベルをあげられるし、チームを組んで複数人と行動するならヒルズウルフからの『俊足』狙いでお金も稼げる。強くなれば第三層以降を目指せばいいわけだし、事前に厄介とだけ知られている未知のゴーレムに、わざわざ危険を冒して手を出す必要はないよな。
安全第一。冒険をする上で、これ以上重要なことはない。
そうして支部長が部屋を出て行き、俺達は昼食を再開。食べ終わると同時に俺はガチャを回しておくことにした。
結果としては赤3、紫4、緑3。「無料ガチャ」では青色のカプセルが5個だった。
『SR 頑丈上昇+45』『SR 俊敏上昇+45』『SR 知力上昇+45』
『SSR 腕力上昇+110』『SSR 腕力上昇+75、器用上昇+75』
『SSR 頑丈上昇+75、俊敏上昇+75』
『SSR スキル:自動マッピングⅡ』『UR 俊敏上昇+200』
『UR 腕力上昇+130、器用上昇+130』『UR スキル:鷹の目』
『R 器用上昇+18』×2『R 魔力上昇+18』『R 知力上昇+18』×2
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名前:天地 翔太 年齢:21
レベル:4
腕力:2652(+1650)(+995)
器用:2632(+1638)(+987)
頑丈:2468(+1535)(+926)
俊敏:2864(+1783)(+1074)
魔力:2560(+1595)(+960)
知力:2506(+1561)(+940)
運:2568
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『自動マッピングⅡ』と『鷹の目』はあと1個で次の段階まで来たか。どちらも有用スキルだから、どう変化するのか楽しみだな。