封鎖当日

予定時間の30分前。俺達は、ダンジョン協会第525支部の、支部長室にいた。

「アマチ君、よく来たわね。待っていたわよ」

「数日ぶりです支部長」

「ヨウコちゃんから聞いたわ。あなた、レアモンスターの情報を公開するそうね、動画付きで」

「はい。やってみたかったんですけど、ご迷惑でした?」

「いいえ、そんな事は無いわ。むしろこちらからお願いしたいくらいよ。今までレアモンスターを確実に湧かせられる人なんていなかったから、協会で開示している情報も、冒険者達から寄せられた情報を統合して、欠けたピースを繋ぎ合わせるようにして作って来たデータばかりなの。それがもし、完璧な映像データと共に、相手の動きや得意とする武器、ステータスからドロップまで。その全てが網羅できるとしたら、不慮の事故はぐっと減るわ」

良かった、支部長に怒られないで済みそうだ。

「アマチ君、これはあなたがやりたいことであるのと同時に、マキの為ね? ありがとう、娘の事を思ってくれて」

「い、いえ……。俺に出来る事をやろうと思っただけです」

この人には俺の本音がモロバレしているらしい。誰にも言わなかったのに、恥ずかしいな。ちらりと隣を見ると、マキは嬉しそうに微笑み、アキはニヤニヤしてる。アヤネは目を輝かせてるし、アイラはいつものスマイル仮面だ。

「あれ、もしかして……」

「はい。ショウタさんの気持ち、とっても嬉しいです」

「ふふっ。だってショウタ君わかりやすいもの」

「旦那様の考え、素晴らしいですわ! 撮影はお任せ下さいまし!」

「これからは、撮影用に定点カメラもご用意するべきでしょうか」

「皆……」

なんだ、とっくにバレてたのか。アヤネは違うかもしれないけど。

「私の想像以上に仲が良いわね。結構よ。この調子なら、サクヤのパーティーに参加しても問題はないでしょうね」

「あ、支部長。俺のステータスですけど」

「言わなくて良いわよ? 娘たちが信頼してるんですもの。あの時みたいに詮索はしないわ。あなたの好きにやってご覧なさい」

そう言われると、余計に好きにやらせてもらうけど。

彼女達に視線を送ると、優しく微笑んでくれた。

「『統率』込みで全ステータス2000超えてます」

「……」

支部長は、空いた口が塞がらないと言った様子だった。それは短時間で急成長したことへの驚きからか、それとも単なる呆れからか。多分両方だな。

なぜなら、その後無闇矢鱈と情報を垂れ流すなとお叱りを受けたからだ。

一応この場には俺の恋人達を除けば支部長しかおらず、珍しくハナさんは同席していなかった。いつも気が付いたら近くにいるという、アイラ並みの隠密っぷりを発揮する彼女は、本当に近くにはいないようで、今日の作戦の指揮を執るため一足先にダンジョン入り口で通行規制をしてくれているらしかった。そういう点も踏まえて、支部長しかいないから伝えたと言うと、溜め息で返事をされた。

「あなた達、ちゃんと彼の手綱は握っていなさいよ?」

「大丈夫よー。彼、勘が鋭いから滅多な事はしないわ」

「それでもよ。あまりに無防備過ぎるわ」

「お母さん、本当に危ない時はちゃんと注意してるから。ね?」

「信頼ないなぁ……」

「あのねアマチ君。それならどうして、私にステータスを開示したのかしら? そんな高いステータスを開示して、外に漏れたら色んな所から目をつけられるわ。何を考えてそれを伝えてきたの?」

「まぁ……いくつかありますけど。まずは心配させない為ですね。これくらいのステータスがあれば、そんじょそこらのモンスターには後れを取らないと思います」

「でしょうね。今のアマチ君になら、『中級ダンジョン』の深層でも、安心して送り出せるわ。もしかして、マキが心配性だから、私もそうだと思ったの?」

それは、まぁ……。あと、一応未来のお義母さん……だし?

黙っていると、支部長はまたしてもため息を吐いた。

「……仕方のない子ね。で、他の理由は?」

「あ、はい。あとは、この先色々とやらかす予定なので、その時が来た時に納得してもらう為……ですかね」

「アマチ君、あなた……。何をするつもりなの?」

「今俺が考えている事が実現するかどうかは、俺自身予測がつかないというか、希望的観測が含まれてるのでなんとも。なので、まだ内緒です。ただ、上手くいけば、あっと驚くことになると思いますよ」

今のレベルガチャの傾向からして、次に出てくるスキルというのも何となく分かってきた気がする。だから、俺の予想通りなら……。それに例のトロフィーや鍵の件もあるし、俺がイレギュラーな奴だって改めて認識してもらっておかないと。

ああ、次以降のガチャが楽しみだな。

「……何を企んでるのか分からないけど、まあ良いわ。好きになさい。それと、例のビデオの件だけど、うちのダンジョンはいつから用意が出来そうかしら」

「とりあえず第一層は今日の封鎖で。第二層も数日あれば行けると思いますよ」

「そう、助かるわ。なら第一層と第二層、強化体を除いた全てのレアモンスター……通常レアモンスターとレアⅡを、全てカメラに収めてみなさい。それを達成出来たなら、あなたのランクを『A+』に推薦することが出来るわ」

支部長のその言葉を受け、彼女達からワッと歓声が上がる。

その展開についていけてないのは、どうやら俺だけのようだった。

「『A+』? 推薦?」

「ショウタさん、『A+』は一部の支部長にしか推薦が許されていない稀有なランクなんです。協会や世界に多大な利益をもたらした人にしか付与されません」

「ちなみにあたしやヨウコ先輩には、その権利はないわよ。それに推薦というだけで、最終的に合否の判断をするのはお爺ちゃんだから」

「ほへー」

「今まで誰もなしえなかった事をするんだもの。きっとお父様も許可して下さるわ」

明確に『A』と『A+』で分けてるんだし、何かしら優遇されたり、便利なメリットがあるんだろうな。まあその話は、説明されてもよく分からないことが多いし、必要になった時に彼女達の方から教えてくれるだろう。

「それじゃ早速、一層の調査から着手しますね。支部長、一応確認ですけど、第一層は『ホブゴブリン』だけで『マーダーラビット』やレアⅡは未確認なんですよね?」

「ええ、間違いないわ。そもそも、ある程度『運』だったりステータスが育った冒険者は、皆実益を求めて宝箱のある階層や他のダンジョンに行っちゃうから、第一層の情報は更新されないというのが現状よ」

「なるほど、確かにそうかもしれないですね」

まあ普通の冒険者にとって、第一層は通過点に過ぎないよな。

「アキ、マキ。それじゃ、行ってくるね」

「あ、待ってショウタ君。あたし達も一緒に行くわ」

「え?」

「ほら、封鎖と言っても第二層までの直線通路には、何本も左右に続く横道があるでしょ? それら1本ずつきちんと見張る為には、協会員が目を光らせる必要がある訳。だから、ある程度地力がある受付嬢もこういう行事には参加するのよ。ほら、ヨウコ先輩の時もそうだったでしょ?」

確かに、『黄金蟲』討伐戦の時は所属契約をしている冒険者の他に、トランシーバーで各班をまとめていた受付嬢が5人も参加していた。アキくらい強い協会員は、ああいった立ち回りが求められるのもなんとなくわかる。けど……。

「マキも?」

「私はいつも、こういう事は遠慮させてもらってるんですけど、ショウタさん主導の作戦ですから。参加します」

「……大丈夫?」

「はい。私が担当するのは入り口付近ですし、ハナさんも近くにいますから」

「なら、良いのか……? でも、辛くなったら言ってね?」

「はい。ちょっと武器を取ってきますね」

そう言ってアキとマキが部屋から出ていった。

見慣れない武器を装着した専属姉妹を連れて、『初心者ダンジョン』へと辿り着く。

アキの武器は、スキル構成からも想像していた通り『格闘術』の様で、手脚に黒光りするプロテクターが装着されていた。あれで蹴られたら痛そうだ。

マキの武器も、スキル構成通り『槍術』をメインとするようで、漆黒の槍を背負っていた。どちらも武器レベルとしては鋼鉄以上ミスリル以下といったところで、『初心者ダンジョン』の第一層では過剰な能力を持っていた。それに加えて、俺からプレゼントした『金剛外装Ⅲ』もあるわけだし、これなら滅多な事も起きないだろう。それでも心配なのは心配だけど。

「アマチさん、お疲れ様です」

「あ、ハナさん。お疲れ様です、今日はよろしくお願いします」

2本の短剣を腰に装着したハナさんが、いつものように和やかな雰囲気で出迎えてくれる。この人もしれっとしてるけど、たぶん『二刀流』持ちなんだろうな。思ってたより『初心者ダンジョン』の受付嬢って、ハイレベルなのかもしれない。

今回の封鎖は協会内や端末の専用ページにデカデカと告知がされていたけど、それとは別に、受付嬢が武装している光景が珍しくて注目を浴びてる感じがするな。

「アマチさん、これを」

ハナさんが手渡してきたのは、見たことのある機械だった。

「これは……トランシーバーですか」

「ええ。『ハートダンジョン』のような大人数用の物じゃなくて、3人分しか無いけれど。これをアキちゃんとマキちゃんに持たせておくわ。これなら、アマチ君も安心できるでしょ?」

「ハナさん……。ありがとうございます!」

「あたし達の彼氏は心配性だから、出来れば用意して欲しいってお願いしてたんだけど~。間に合ったみたいね」

「仕方ないじゃないか。2人がどんなに強くても、心配なものは心配だし」

「にしし、ありがと。それじゃ、あたしは奥の通路に行くから、また後でねー」

「ああ」

アキと、付近に待機していた協会員達が小走りで奥へと向かった。そろそろ9時になる頃だし、調査を開始するか。

「ショウタさん、もし終わらなかったとしても、12時までには1度ここに戻ってきてくださいね」

「了解。それじゃ、行ってくる!」

マキとハナさんに別れを告げて、近くにあった左側の通路へと飛び込んだ。

封鎖は昨日連絡をしてすぐに告知がされていたためか、きちんと情報が行き届いているらしく、マップには中央の第二層に向かう通路以外、人を表す白いアイコンは1つも無かった。逆に、1歩横道に逸れれば、倒されずに限界まで湧き出たモンスターで溢れかえっていた。

「まずは『ホブゴブリン』とその強化体を目指して行く。アヤネはキラーラビットがいたら倒してくれ。アイラはアヤネの援護と回収を頼む」

「お任せてくださいですわ!」

「承知しました」

このステータスに達した以上、わざわざ剣で倒さずとも殴打や蹴り、各種魔法でゴブリンを蹴散らすことなど容易かった。結果7、8分もしない内に目標の100匹を討伐する事に成功してしまった。俺ってば、短期間で強くなりすぎだろ。

煙の確認も出来たし、マップの端に向かうと懐からトランシーバーを取り出した。

「あーテステス」

『はーい。こちら愛しのハニー』

『ね、姉さんっ!』

『冗談よ、じょーだん。それで、いきなりどうしたの? 寂しくなっちゃった??

アキって、好きとか愛しの~とか、冗談ならすんなり言えちゃうんだよな。本番では口ごもるけど。

「いや、近くにいるから寂しくはないよ。ただ、1匹目がもう湧くから報告しただけだよ」

『えっ!?

『はやっ!?

『アマチさん凄いわね~』

驚く2人の声とともに、ハナさんの驚きが混じった声が聞こえてきた。まあ、俺が成長したのもあるけど、ゴブリンが溢れてたお陰でもある。そして『ホブゴブリン』が予定していた通り行き止まりの空間から現れ、雄たけびを上げる。

『グオオオオッ!!

「アヤネー、カメラは?」

「ばっちりですわ!」


*****

名前:ホブゴブリン レベル:10

腕力:120 器用:100 頑丈:130

俊敏:80 魔力:300 知力:20 運:なし


装備:鋼鉄の大剣 スキル:怪力

ドロップ:鋼鉄の大剣、中魔石

*****


「うーん、ステータスを見るのは初めてだけど、やっぱ弱いな」

『ガァッ!』

俺の言葉に反応したのか、『ホブゴブリン』は怒りの篭った形相で俺を睨み、『鋼鉄の大剣』を振り下ろす。しかし、所詮はレベル10程度のレアモンスター。『怪力』があったとしても『ミスリルソード』1本で難なく受け止める事が出来た。こいつに『二刀流』は使うまでもないな。力を込めずとも片手で圧倒してしまえているので、空いた手でトランシーバーを起動した。

「もしもし、こちらダーリン」

『グオオ!!

『ちょ、ちょっとショウタ君!? モンスターの声が間近に聞こえるんだけど!!

「いや、ちょっとビデオの件で聞き忘れた事があってさー」

『今それ聞く!?

「動きを画面に収めるって話だったけど、どれくらい映せば良いのかなって」

いつもなら一撃で撃破してしまえばいいが、動画に撮るとなると動きの参考になる資料としても使われる。それを思うと出オチさせるのはなんだか違うように感じたので、聞いてみようと思ったのだ。

まあ、このタイミングである必要は欠片も無い訳だが。

『……はぁ、ショウタさん。とりあえず短くとも、2分から3分程度でお願いします。出来ればスキルの使用が判別できる何かがあると、より分かりやすいかと』

「了解ー」

ちらりと『ホブゴブリン』を見ると、どうやら最初に使った『怪力』の効果は既に切れ、肩で息をしていた。ただの『怪力』は、効果時間がたったの1分しかないもんな。もうここまで疲れ切っているのなら、動画に収める価値もないだろう。

俺はトランシーバーを懐に戻して、その手を上げる。すると背後からファイアーボールと短剣が飛び出し、『ホブゴブリン』の身体を傷つけた。

それを見届けた俺は、懐に飛び込んで首を落とす。

「レベルアップはなし、と」

「お疲れさまでした、ご主人様」

「動画としてはこんなもんでいいのかな?」

「良いと思いますわ」

「問題ないかと」

「それじゃ、レアⅡを待つか」

待つこと数分。煙が集まり、そこからは見慣れたモンスターが現れた。

『ゲギャ?』


*****

名前:ジェネラルゴブリン レベル:20

腕力:200 器用:180 頑丈:210

俊敏:140 魔力:250 知力:80 運:なし


装備:魔鉄の長剣、魔鉄の全身鎧 スキル:怪力、統率

ドロップ:ランダムな魔鉄装備、大魔石

*****


「うーん、弱い」

『ギャギャッ!』

今までの『ジェネラルゴブリン』の例に漏れず、こいつはカメラ役のアヤネに真っ直ぐ突っ込もうとした。その挙動は把握していたし、何よりもスピードが致命的に遅い。初見は騙せても、見慣れた俺には通用しなかった。

「おらっ!」

『グギャッ!?

隙だらけの腹に蹴りを入れて、行き止まりの壁まで蹴とばす。少し加減をしたつもりだったが、それだけでコイツは肩で息をするくらい疲弊していた。

一応、敵対心は完全にこちらに向かせることに成功したが、これ以上動画を撮る意味は、果たしてあるだろうか?

「ご主人様、一応撮りましょう」

「……了解」

背を向けてるはずなのに、それでも心を読まれてしまった。うちのメイドは察しが良すぎる。そうして、数分ほど適当に相手をしてから、撃破した。


【レベルアップ】

【レベルが40から41に上昇しました】


「よし、こんなもんだろ」

「はい、お疲れさまでした」

「録画もバッチリですわ!」

「この調子でどんどん行こうか」

第一層に存在している行き止まりは全部で3カ所。

左手前、左奥、右奥だ。残りの2カ所でも同じように『ホブゴブリン』と『ジェネラルゴブリン』を討伐し、レベルも42に上昇した。

そして3カ所目の右奥で、その場でもう1度100匹討伐を達成し……。

『グオオオッ!!


*****

名前:ホブゴブリン レベル:20

腕力:180 器用:150 頑丈:195

俊敏:120 魔力:450 知力:30 運:なし


装備:鋼鉄の大剣 スキル:怪力Ⅱ、限界突破

ドロップ:鋼鉄の大剣、ホブゴブリンのトロフィー、大魔石

*****


「うん、喧しさが2割増し。何の脅威もないな」

「そのようです」

「強化体の動画は、要らないのでしたわね?」

「いや、公開はしないけど支部長には報告する義務があると思うから、一応お願い」

「はいですわ!」

今までと同様適当にあしらいつつ力量を測り、2人に攻撃させてからとどめを刺す。


【ホブゴブリンのトロフィーを獲得しました】


強化体だからか、今までの積み重ねか。レベルが1上がってくれた。

「さて、トロフィーは……と」


*****

トロフィー:ホブゴブリン、ホブゴブリン

管理者の鍵:810(1)、810(2(1/2))

*****


「どうなるかと思ったけど、完全別扱い、と。まあ、他のダンジョンにも『ホブゴブリン』のレアモンスターがいるだろうし、そりゃそうだよな」

「では、各地のダンジョンで『ホブゴブリン』のトロフィーを獲得すると、ずらーっと並ぶのでしょうか?」

「並ぶんじゃないかな? その光景は面白そうだけど、鍵や宝箱が優先だな」

「そうですわね! 早速探しに行きますの?」

「……いや、折角の機会だからレアⅡの強化体も出るか確認したい。このままここでもう100匹倒すぞ」

「はいですわ!」

「承知しました」

そうして再び狩りを開始し、『ホブゴブリン』を倒したが……。続いて出てきたのは普通のレアⅡだった。やはり、レアⅡには強化体は存在しないらしい。残念だ。

「それじゃ次の目標だけど、ちょっと面倒なキラーラビットの100体討伐だな」

「では、今からは私達がゴブリンを倒せばよいのですね」

「ああ、そうなるんだが……」

「旦那様、何か問題でも?」

「いや……アイラやアヤネでも、『ホブゴブリン』が湧く可能性は0ではないよなぁと思ってね」

「あっ……。そうでしたわね。ここのゴブリンは、わたくしでも煙がハッキリと見えておりましたわ。ですから、きっと湧かせてしまうかもしれないですわ」

そう、このダンジョンに初めて訪れた時の俺の『運』は60とちょっと。この階層の『ホブゴブリン』は、その程度でポロっと湧いちゃう程度の『運』しか要求されないモンスターなのだから、8~10しかない2人でもその可能性は十分に考えられる。

「どうしましょう……」

「まあ、湧いたら湧いたで倒せば良いだけなんだが、俺がそれに手を出してしまうと、キラーラビットの100匹討伐が中断されると思う」

「確かに、仰る通りかと」

「だから、俺は手出しできない。もし出て来たら、アイラとアヤネで処理してくれるかな?」

「承知しました」

「はいですわ!」

そうして、2人に前衛を任せつつ、キラーラビットの時だけ前に出るという、先ほどまでとは真逆のフォーメーションで第一層を回り始めた。いかんせん、本当にキラーラビットは生息数が少なく、マップの右手側だけでは午前までという制限時間に間に合わない可能性が出てきたので、左側に行ったり右側に行ったりと、中央の道を何度も行き来する羽目になってしまった。

そして懸念の通り、アイラが300匹目のゴブリンを討伐した際に『ホブゴブリン』が出現。一時的に彼女が離脱している間も、アヤネは見事にゴブリン討伐に力を貸してくれた。あとでいっぱい撫でてあげようと思う。

そうして、2時間近くかけてようやく100匹目を討伐した。

「これで100!」

100匹目のキラーラビットの身体から吹き出した煙が、もくもくと立ち昇った。そしてその煙はゆっくりと地面に降り立ち、その場で凝縮を始めた。

膨張するでもなく、どこかに移動する素振りもない。今まで見てきた煙とは違う動きに、俺は警戒を強めた。

「アヤネ、俺の後ろに!」

「は、はいですわ!」

アイラと俺で挟み込むように監視する事、数十秒。

煙が晴れたところに、ソレは出現した。

「ははっ……マジかよ」


名前:525-1

説明:525ダンジョン第一層配置の??? 対応する虚像を捧げよ


出てきたのは、『ホブゴブリン』が刻印された宝箱だった。

「この第一層に宝箱があるかもしれないと知った時、違和感があったんだ。5年もあれば間違いなくダンジョンの壁という壁は調べ尽くされる。無いと言われても、俺みたいに気になって探す奴も現れるはずだ、と。けど、1度たりとも宝箱の発見報告は無かった。……なるほどな、こういうことだったのか」

「まさかこのような方法で出現するとは。ご主人様の閃きには驚かされます」

「いや、俺もこんな方法で出るとは思わなかったよ。……でも、全てのダンジョンがこういう仕様というわけじゃないだろう。完全に単一種しかいない『アンラッキーホール』では、きっとこの方法ではなく、普通に隠されていそうだが」

「そんなことよりも旦那様、この宝箱は持ち上げられますの?」

「お、確かにそうだ。これは、最初からここにあった訳じゃないもんな」

アヤネの言葉にハッとなり、持ち上げてみようと試みる。

俺が触れれば錠前が消失してしまうので、アイラに任せてみる事にした。すると、あっさり持ち上がってしまった。その上、アイラの鞄にも入るようだった。トロフィー専用の宝箱なのに、持ち帰れるのか……。

「それじゃ、1度撤収しようか。ここで確認したいことは全て終わったし」

「はいですわ!」

「お疲れさまでした、ご主人様」

俺はトランシーバーを起動し、作戦はつつがなく完了したことを報告した。

「ショウタさん、お疲れ様でした」

「あんなに『ホブゴブリン』の声がダンジョンに響いた事、過去に1度もないわよー。ほんと、お疲れ様!」

アキとマキ、2人に挟まれながら両腕をがっしりと掴まれている。2人がこの状態であるということは、対面には支部長がニコニコ笑顔で座っているということでもある。仲の良さをアピールするためというのもあるだろうけど、一緒に暮らしてるんだし、やらなくても伝わってる気がするけど……。いや、もっと単純に、労ってくれてるだけなのか?

「ああ、心配かけたねマイハニー」

「ちょ、それもう終わったからっ!」

「そ、そうです。お母さんの前だと恥ずかしいです……!」

やっぱり恥ずかしいのか。なら、この手の呼び方はまた今度遊ぶとして、まずは成果の報告からだな。

「おほん。アマチ君、報告宜しいかしら」

「はい。アヤネ、カメラを」

「はいですわ!」

いつもの様に膝の上でちょこんと座っていたアヤネが、カメラを映像端末に繋いで各動画の再生を始める。

流されたのは『ホブゴブリン』戦。『ジェネラルゴブリン』戦。そして強化体の『ホブゴブリン』戦だ。どれもこれも、いまいちパッとしないというか、見所なんてほぼないものだったが、レアモンスターの強さを測るには良い指標になると思う。

「……十分よ。これだけの映像データが集まれば、第一層の問題児も大きな問題にはならないわ。明日のオークションまでに、810ダンジョンの第二層レアモンスターと一緒に公開をするのだったかしら?」

「はい、間に合えばですが……。あと、俺の個人情報に関するマスクは不要です。どうせ俺だってバレてるので」

「良いの? Aランク……近々『A+』にランクアップするとはいえ、注目を浴びる事は間違いないと思うわ」

「第二層までのレアモンスターの情報を、と支部長からの依頼ではありますけど、個人的には狙える範囲の全てのレアモンスターを制覇していくつもりなんですよね。そしたら、これを用意しているのは誰かなんて、バレるのも時間の問題じゃないですか。それに先ほどお伝えしたステータスを持ってる俺を直接どうこうするなんて、なかなか難しいと思いますし」

「それは、確かにそうね……。けど、なりふり構わない連中は、あなたの周囲を脅かすかもしれないわよ?」

「そうなった時の為に、彼女達には対策用スキルを渡してあります。勿論これで一安心とは言えませんから、今後も有用そうなスキルは優先的に彼女達の安全のために使っていくつもりですよ」

『金剛外装』のような有用スキルは、他にもきっとあるはずだろう。

それに可能なら、『レベルガチャ』も彼女達にあげたいところなんだよな……。

今の俺なら、再取得は可能だろうか? 『運』は30倍以上あるわけだけど……。というか、あのダンジョンのトロフィーも気になる所だしな。近々、遊びに行って見るのもアリだよな。俺の提示した内容に、支部長は思うところがあったのか考え込んでいたけど、答えが出たのか顔を上げた。

「わかりました。ただし、公開する範囲はあくまで対象のレアモンスターが出現した協会のみとします。各々の端末や外部への公開及び録画は不可とし、履修用の教材として使わせるようにします。これで良いかしら」

「はい。大丈夫です」

「なら、講習用に使っている会議室の一室を使えるように改修しておきましょうか。1日あれば個人での閲覧用と、チームでの閲覧用の2つを用意できるでしょう。ヨウコちゃんにも、この旨は伝えておくわ」

「ありがとうございます」

支部長は備え付けの受話器を取り、今話した内容をどこかに連絡し始めた。電話先はハナさんかな? 受話器を置くと、支部長が雰囲気を変えた。

「……それで、にも何か報告があるんでしょう?」

「アイラ、あれを」

「はい」

アイラは袋から例の宝箱を取り出した。『ホブゴブリン』の模様入りの特殊宝箱だ。

「こ、これは……!?

「わ、ゲット出来たんだショウタ君!」

「おめでとうございます」

「ありがとう。支部長にお聞きしたいのはこんな特殊な宝箱をご存じかどうかです」

過去一神妙な顔になった支部長が、じっと宝箱を見つめている。『鑑定』でもしているんだろうか。

「……あるわ。ただ、実物ではなく写真でだけどね」

「それはどこで?」

「サクヤに見せて貰ったのよ。だから、私はその宝箱の情報を知らないの。ごめんなさいね」

サクヤ……。アヤネのお母さんか。

やっぱりその人に色々と聞いてみるのが良いのかもしれないな。

「それなら、例の歓迎会の時に聞いてみますよ」

「アマチ君、気をつけるのよ。あの子は強かな所があるから、知らない間にペースを握られないようにね。それと、どんな誘い文句で口説いてくるか分からないから、そこも気をつけるように」

「わかりました。……それじゃアイラ、この宝箱の写真だけ撮っておいてくれる? もう開けちゃおうと思うから」

「承知しました」

アイラが宝箱を多方向から何枚も写真に収めたところで直接俺が触れる。すると、錠前が輝きと共に消失し、自動的に蓋が開いた。そして中に入っていた物が輝きながら俺の中へと飛び込み、宝箱と共に消失した。

一連の流れを黙って見ていた支部長は、色々と言葉を飲み込んだ様子で口を開く。

「……どうやら、私の考えていた以上に色々とやってるみたいね?」

「あはは、お陰様で」

「まあ良いわ。アマチ君、この後は第二層で暴れまわるのよね? せっかくだから、昼食はここで食べて行きなさい。私はさっきの封鎖処理の後処理で席を外すから、ごゆっくり」

そう言って支部長は出ていった。

いいのかな? ここはいつもの会議室じゃなくて、支部長室なのに。

「良いのよショウタ君。お母さんもそれだけ君を信頼してるってことだから」

「はい。英気を養って、後半戦に備えましょう!」

ちょっと慣れない空間での食事だったが、そんな事でマキとアイラの手料理の味が損なわれることはなく、心休まる時間を過ごすことができた。

第二層に降り立った俺達は、第一層に続いてキラーラビットを狩ることにした。邪魔になりそうなゴブリンはアイラとアヤネに任せて、俺はひたすら狩り続けた。

第一層と違って、こっちの平原はゴブリンとキラーラビットの比率がほぼ同数と言って良いだろう。その上、壁なんてものがないから不慮のエンカウントを避けられるのも大きい。

そうして数十分もしない内に最初の煙が出現。そのまま近くにあった無人の林へと飛び込んで行き、『マーダーラビット』が出現した。


*****

名前:マーダーラビット レベル:20

腕力:180 器用:200 頑丈:80

俊敏:280 魔力:300 知力:20 運:なし


装備:なし スキル:迅速

ドロップ:マーダーラビットの捻じれた角、マーダーラビットの毛皮、中魔石

*****


あんなに苦戦した相手は、こんなステータスだったのか……。確かにあの頃を思えば苦戦するのも当たり前だよな。どう見たってコイツは格上だろ。

けど、今となっては……。

『ギウゥ……!』

「アヤネ」

「カメラはバッチリですわ! ……あれ、消えましたわ!?

俺はおもむろに、横へと回り込んでいた『マーダーラビット』の角を掴んだ。

『予知』の効果も相まって、どうやらコイツは、もう俺の敵ではないらしい。目を瞑ってでも……は言い過ぎだけど、それでも問題なく勝てそうだな。

『ギゥゥ!』

角を握られ、ジタバタともがく『マーダーラビット』を見て、アヤネはぴょんぴょん跳ねた。

「旦那様、凄いですわ!」

「こらこら、カメラ役が飛び跳ねないの」

「あわわ、ごめんなさいですわ……」

「いいよ。次から気を付けてね」

そう言って俺は、そのまま『マーダーラビット』を投げ飛ばした。受け身を取れずに打ち身をした様子だったが、それでも奴は頑なに、何度も何度も突っ込んできた。馬鹿正直に正面からだったり、側面からだったり。初見では死の危険を感じたそれも、今となってはこいつの一芸しか無い攻撃方法に、憐れみすら感じてしまう。

「そろそろ良いかな」

「はい。十分かと」

再度突撃してきた『マーダーラビット』の眉間に、『ミスリルソード』を叩き込む。それだけで、奴は地に伏し煙を噴き出した。

そして待つ事7、8分。煙は凝縮し、新たな獲物が出現した。


*****

名前:キリングラビット レベル:35

腕力:300 器用:350 頑丈:200

俊敏:450 魔力:400 知力:150 運:なし


装備:なし スキル:俊足Ⅱ、迅速Ⅱ、暗殺術Lv1、二刀流

ドロップ:アサシンナイフ、キラーブラッド、キリングラビットの毛皮、大魔石

*****


体長180㎝ほどの、二足歩行のウサギが現れた。

『キキキキ……』

「これは、それなりに骨がありそうな相手だな」

奴は両手に短剣を持ち、まるで人間のように構えている。だが獣らしさも残っているのか、かなり前傾姿勢だ。レアの特性も持っていることを考えると……。

そう思っていると、奴は急接近し、強襲を仕掛けてきた。その速さはレアとは比べ物にならないもので、やっぱり俺は自身の『運』の良さを実感していた。

何故なら、もしもあの頃の俺が出くわしたとしたら、確実にやられていたからな。あの時の練度では、このスピードに対処する事はできなかっただろう。

「おらっ!」

『キキッ!』

だけど、今は違う。その初速はアイラに比べればずっと遅いし、武器の振るわれる速度は『甲殻騎士』と比べるまでもない。こいつに後れをとる要素はなかった。何より、狙いが人間の急所と分かりやすい点も対処しやすい。……まあ、この速度について行けない場合は、正確な急所狙いは恐怖でしかないのだが。

後は、一応動画を撮っているわけなので、いつものように即殺する訳にはいかないのが困りものだった。うーん、今後もレアモンスターの動画は撮っていくとしても、俺やアイラでも手こずる相手が出てきた場合は、動画の映りや長さを気にする余裕はないかもな。俺達が苦戦する相手というだけで、危険っぷりは伝えられると思うけど。

「ふんっ!」

『キキキ!』

一般的なチームが『二刀流』の相手をする場合、盾役の人間が防ぎながら、仲間がカバーする形が望ましいんだろうけど、うちのチームの場合盾役は俺かアイラだからな。『二刀流』同士、相性が良いようでなんの問題もなく攻撃を捌く事ができた。

何度か応酬を繰り返し、コイツの動きにも慣れてきた。

「そろそろ狩る」

「はいですわ! ビッグファイアーボール!」

アヤネが魔法を行使し、驚いた『キリングラビット』の隙を突く形で、気配を消したアイラが足の腱を切る。相手の毛皮はそれなりに丈夫かもしれないが、全身を鎧に包んだモンスターや『甲殻騎士』などに比べれば柔らかいものだ。

魔法を避けられず、火だるまになった相手に、俺はすかさず剣を振るう。

その剣筋は見事に首筋をなぞり、『キリングラビット』の首を飛ばす。切断面からは大量の煙が噴き出し、即座に四散した。


【レベルアップ】

【レベルが43から49に上昇しました】


「まあ、こんなもんか」

それにしても1度レベルアップの沼にハマると、ガチャが遠のくな。今まではタイミング良く低レベルの時に強敵を倒せてたから、ここまで詰まる事は無かったんだが、61まであと12か。一体、あと何体こいつらを倒せば良いんだ?

「ご主人様、お疲れさまでした」

「良い映像が撮れたと思いますわ!」

「そっか。それじゃ、残りのレアモンスター戦は巻きで行こうか」

そうして俺達は、全部で4カ所あるレアモンスター専用のフィールドを順番に廻った。今の『運』だと、『キリングラビット』の出現に関しては8割がた条件を満たしているらしく、4戦中出なかったのは1回だけだった。その結果、残る2回の『キリングラビット』戦で、レベルは54まで上昇。

また、今回の戦いで得たスキルにより、俺は『暗殺術Lv1』と『迅速Ⅱ』を3つ使って『暗殺術』はLv6に。『迅速』はⅢにまで成長。

アイラは『俊足Ⅱ』『迅速』『二刀流』を3つ使って、それぞれ1段階上の『俊足Ⅲ』『迅速Ⅱ』『二刀流Ⅱ』を取得した。

アイラの『二刀流』が俺と同じく『Ⅱ』になったことで、彼女はしばらく感触を確かめていたが、満足したのか武器を仕舞った。

……ん? そういえばアイラ、いつもどこから武器を取り出してるんだ?

今もどこに行ったのか見えなかったんだが……。

「ご主人様、このスキルは凄いですね。世界が変わります」

「ああ、それはよかった。アヤネも何か欲しいスキルがあったら言ってくれよな? こっちに来てから何も取得してないし」

「もう、旦那様? スキルなんてそう何度も連続して覚えるようなものではありませんわ。普通はもっと貴重で、運よくゲットしたものを数週間や数ヶ月かけて、ゆっくりと身体に馴染ませていくものですの。それにわたくし、昨日や一昨日にもいっぱい貰いましたもの」

「あー、世間的にはそうだったかもね」

『レベルガチャ』を取得して、スキルを覚え始めて今日で、13日目か。

こんな短期間で山ほどスキルを獲得したら、感覚もズレてくるというか、麻痺してくるもんだよな。

「まあ他所は他所。うちはうちだ。細かい事は気にせず、欲しい物があったら言ってくれ。スキルを売る事で得られる物なんかより、皆の方が大事なんだから」

「はぅ、旦那様……!」

「おほん」

顔を赤らめるアヤネとは正反対に、アイラは咳払いをして何事もなかったかのように振舞う。

「ご主人様、そろそろ狩りを再開しましょう。強化体まであと100匹ですし、休むのはそれからでも──」

「最近、照れ隠しで真顔を貫こうとするアイラも、可愛く見えてきたんだよなー」

「なっ!?

「まあ、旦那様。わたくしと同じ楽しみを見つけられたのですわね。交ぜてくださいまし」

「もちろん」

「お嬢様まで!」