有名税
【レベルアップ】
【レベルが54から55に上昇しました】
1匹目の『黄金蟲』では『黄金鳳蝶』は出ず、レベルすら上がらなかった。そして2匹目でレベルが上がり、本命の『黄金鳳蝶』が出現。
こいつの相手はもう慣れたもので、さっくりと討伐した。
【レベルアップ】
【レベルが55から63に上昇しました】
アヤネには『金剛外装Ⅲ』と『魔導の叡智Ⅱ』を取得させ、ガチャを回す。
『ジャララ、ジャララララ!』
出たのは、赤3、紫6、緑1。「無料ガチャ」では青色のカプセルが4個だった。
『SR 腕力上昇+35』『SR 知力上昇+45』『SR スキル:嗅覚強化』
『SSR 俊敏上昇+100』『SSR 魔力上昇+90』
『SSR 頑丈上昇+75、俊敏上昇+75』
『SSR スキル:自動マッピングⅡ』『SSR スキル:魔力回復Lv1』
『SSR スキル:魔力譲渡』『UR スキル:狩人の極意Lv1』
『R 腕力上昇+18』『R 器用上昇+15』『R 俊敏上昇+18』×2
*****
名前:天地 翔太 年齢:21
レベル:3
腕力:1521(+1004)(+507)
器用:1458(+962)(+486)
頑丈:1491(+984)(+497)
俊敏:1599(+1056)(+533)
魔力:1529(+1011)(+510)
知力:1521(+1006)(+507)
運:2086
*****
『運』がついに2000を突破した。そして『自動マッピング』は元々『SR』のスキルだったはずだけど、『Ⅱ』になったことでガチャ内でのレアリティが上がったのかな? 何気に、『Ⅱ』になったガチャ産のスキルが出たのは初めてかもしれない。
『自動マッピングⅡ』になったことで宝箱が見えるようになったけど、『Ⅲ』に上がったら今度は何が見えるようになるんだろうか? 今から楽しみだな。
「よし、それじゃこのまま第二層に行こうか」
「はい」
「はいですわ!」
◇
「おー、盛況だな」
現在の時刻、朝の10時半ごろ。2日ぶりに訪れた第二層は人で賑わっていた。あちこちに水着の男女がいるのだが……。何やら、違和感を覚えた。
「なあ、アイラ。これって本当に、全部カップル……なのか?」
「いいえ。ここに遊びに来る者の中で、確かに3割はカップルですが、残りはただ遊びに来ただけの者や、ナンパ目的の者で占められます」
「そ、そうなんだ……」
「リゾートバカンスが楽しめるような場所は、この付近にはありませんからね」
確かに、海水浴場と呼べる場所は、ちょっと遠出しないと無かったよなぁ。
「わたくし、ナンパとはどういうものか、よくわかりませんわ」
「……まあアイラがいる限り、その手のイベントには遭遇しないだろうね」
「残念ですわ。ちょっと興味がありましたのに」
アヤネの容姿だけを見てナンパする奴がいたら、それはそれで危ない奴の可能性があるんだが……。まあ、ここは言わぬが花か。
「それじゃ、気を取り直してヤドカリ狩りをしようか。場所は、前回と同じ東側で」
「承知しました」
「はいですわー!」
さて、強化体を拝むとしますか。
前回と同じく見張りの人に通してもらい、俺達は東側の砂浜でシザークラブを狩り始めた。
あの時は弓で楽をしてたけど、今回は前に出て剣で戦う。シザークラブの殻は見た目通り硬いのだろうが、武器レベルの高い『ミスリルソード』と俺の膂力をもってすれば、簡単に両断することができた。
『鋼鉄』系の武器だと弾かれただろうなぁ……。高い買い物をしただけの事はある。
そうして不慣れな足場にもたつきながらも、高いステータスと適応したスキルのおかげもあり、短時間で100匹撃破を完了。そのまま『デスクラブ』とも戦い、剣で制する事に成功した。
【レベルアップ】
【レベルが10から45に上昇しました】
シザークラブ狩りでレベルが3から10に上がった為、低レベル補正も多少抑えめになっただろうけど、しっかり45まで上がってくれた。しかし、待望の騎士は現れることはなかった。どうやら、2000ですら確定には足りないらしい。
「湧かないか……」
「本当にシビアですのね。今まで発見報告が無かったのも頷けますわ」
「私達では、ご主人様のようにレアモンスター出現の煙は見えません。資格がない者がいくら狩ろうと、レアモンスターは姿を現さない。……ご主人様の仮説通りであれば、特化した者でなければ姿を拝む事はかなわないのでしょう。この領域を体験できるのはご主人様あってこそですよ、お嬢様」
「ええ。わたくし達は、本当に貴重な体験をさせて貰ってるのですわね」
「そんな畏まらなくても良いのに」
「あ、えへへ。旦那様~」
アヤネを撫でつつマップを確認する。
やっぱり、前回も今回も『デスクラブ』は100匹目を討伐した場所にそのまま出現していた。となれば砂浜ごとに出現すると見て良いのかな。
「よし、このまま南側に進もう。なあアヤネ、折角だし、道中の雑魚を魔法で吹き飛ばしてもらっても良いかな?」
「お任せくださいですわ! ウィンドストーム!」
風の暴力が、直線上にいたシザークラブを巻き込み煙に変えていく。
この魔法は、中心に近ければ近いほど威力が高く、外側にいくほど威力が弱まるらしい。その為、魔法の外周にいた何匹かは倒しきれず、その連中が呼び水となって連鎖反応を引き起こし、倒した数以上のシザークラブがこちらへと向かってきていた。
「はわわ、大変ですわ!」
「アヤネ、落ち着いて。連中はノロマだから、魔法を撃つチャンスはまだまだある。そうだな……左と右、合計2回ほどぶっ放そうか。危なそうなら俺達で援護する」
「は、はいですわ! ウィンドストーム!!」
そうして、落ち着きを取り戻したアヤネがシザークラブを盛大に吹き飛ばすさまを、俺達は特等席で眺めるのだった。ドロップはほとんどないけど、これはこれで楽しそうだな。まあ真似したくても『元素魔法』のせいで、通常版の魔法を取得しても反映されないから、俺が広範囲魔法を使うのはまだまだ先になりそうだが……。
◇
「南側も、景色は一緒なんだな」
「そのようですね。このモンスターの密集度合いは、かなり危険ですが」
アイラはアヤネを背負いながらそう告げた。魔法を盛大に撃ちまくり、魔力を消費したアヤネは、文字通り疲れ果てていた。まあいつも、ちょこちょこと魔法を打つくらいで、あんな風に連発する事なんて滅多にないもんな。
「さっきみたいに魔法を使ったら、もっと危険な事になりそうですわ……!」
「でも、なんだかんだ言って、さっきは捌き切ったじゃないか」
「それは……旦那様が後ろで見守ってくれていたからですわ」
「そんな謙遜するなって。アヤネも成長してる。もっと胸張ったって良いんだぞ」
「本当ですの?」
「ああ。アイラもそう思うだろ?」
「はい。お嬢様は立派に成長しております。あの人達を追い抜ける日も必ず来ます」
「……! が、頑張りますわ!」
あの人達?
2人の会話に少し気になる所はあったけど、それは後でいいか。
「それじゃ、狩りを始めようか」
「はい」
「旦那様、ファイトですわ!」
◇
その後、シザークラブを100匹倒し、そのまま『デスクラブ』を討伐。またしても『甲殻騎士』は現れず、レベルも上がらなかった。
だがここで、更なる問題が生じた。
今度は西側に行きたいわけなのだが、南側のモンスターの群れは本当に異常だった。
20匹前後の群れがいくつもあるのは東側と同じだったが、その数が尋常ではない。あっちは最大でも集団は6か7程度だったというのに、こっちは30以上はある。その為、あちこちで集団の輪が重なり合うほどに大混雑をしていた。
こんな中をアヤネに吹き飛ばしてもらうのは大変だし、かといって俺が手を出して、モンスターがひしめき合う中央部分で『デスクラブ』どころか『甲殻騎士』まで出現したら地獄絵図になるだろう。
ここは大人しく来た道を戻って、北側から西に入った方が良さそうだ。
「仕方がない。ここは一旦引こう。足が遅いとはいえ、この数に囲まれると厄介だ」
「簡単に倒せる旦那様が手を出せないというのは、なんとももどかしいですわ」
「レアモンスターが邪魔になるなんて、考えもしなかったよ」
「あうう。……旦那様、わたくしがレベル6の風魔法を使っても、どうにもならないんですの?」
アヤネはここまでの成長と、前回の『黄金の実』パワーもあり、『知力』が1000を超えていた。その為、アキやマキがいなくとも『知力』900制限の魔法は軽く使用することができるようになっていた。
「サイクロンは、確かに強力な魔法だ。けど、あれは一定の範囲内で風の暴力を発生させ続ける魔法なんだ。だから、今回のように全域に敵がいる場合だと、これまた何発も撃たないといけなくなるんだよね。まだサイクロンを『真鑑定』で覗いていないから消費がどの程度か分からないけど、レベル5のウィンドストームの連発であんなに疲れてたんだ。流石にきついでしょ」
「そうですね。この後強化体との戦闘も控えています。『金剛外装』分の魔力は残しておいた方が無難でしょう」
「あぅ……」
落ち込むアヤネを撫でて宥める。
「ちなみにレベル7魔法はまだ使えそうに無いかな?」
「はい……。使えそうにないですわ」
「そっか。ま、それはゆっくりで良いよ。東の砂浜の北側で、食事でもしてゆっくりしよう」
「はいですわ」
俺達は来た道を戻り、東側の安全地帯で食事をして一休みをした。
その後、お昼時ということもあり、大繁盛している海の家を横目に、北側の砂浜を横断する。そうして同じように西側へと繋がる洞窟前で見張りをしている協会員に挨拶がてら雑談をすることにした。
「お疲れ様です。Aランク冒険者のアマチです」
「お疲れ様です。支部長から話は聞いております」
「あの……可能ならで良いんですけど、今からやるので、誰も通さないでいただけると助かります」
一応ここのダンジョンの協会員には、俺がやってる内容……。レアモンスター狩りについて情報共有がされているはずだ。なので多少無茶かなとも思いつつ、保険は掛けておくことにした。しかし、協会員は少し気まずそうにしている。
「あー……。それは少し、厳しいですね」
「やっぱり、Aランクの権利濫用になりますかね?」
「いえ、アマチさんは当協会の恩人であり、なるべく便宜を図る様にと支部長からお達しも来ています。我々も協力したいところなのですが……」
「何か、問題が?」
「はい。今日はタイミング悪く、先客がいまして……」
「先客!?」
こんな所で狩りをする変わり者がいたのか?
そのまま西側海岸に進入すると、確かに奥の方に人影が見えた。マップにも、2つの白い点が映っている。
「旦那様、どうしましょう?」
「うーん。今までは他人の目に映らないよう過ごしてきたけど、回避不可能となると悩ましいところだな」
「……とりあえず、反応を見てから決めましょう。少なくとも、ご主人様と同格やそれ以上であれば、協会の者も把握していたでしょうから、格下であることは間違いないでしょう」
「あ、もしかして強権発動の事を言ってる?」
高位の冒険者の狩りを、下位の冒険者が邪魔をしてはいけないという暗黙のルール。それを使えば確かに、退いてくれるかもしれないけど……。恨まれそうだしあんまり使いたくはないなぁ。
「他のダンジョンであればよく見られる光景ではありますが、ご主人様は権力の使い方に慣れていませんし、私も嫌な気分を味わわせたい訳ではありません。あくまでも、最終手段ですから」
「ご安心なさってください。わたくし、そういうことなら旦那様よりは慣れておりますわ!」
アヤネはまあ、生粋のお嬢様だし、使う場面もそれなりにありそうだけど……。
「アヤネに汚れ仕事をさせたくはないし……」
「旦那様、わたくしは大丈夫ですわ。だから、いざとなったら任せて下さいまし」
自信に満ち溢れた表情でアヤネが見上げてきた。彼女が珍しくそう言ってくるのだから、本当に慣れているんだろう。任せてみるのもアリかもしれない。
心情としては嫌だけど。
「……わかった。もしもの時は、頼むな?」
「はいですわ!」
そのまま近づいて行くと、向こうも俺たちに気付いたらしい。距離も近いし、この男2人は同じチームなんだろうか。
そう思っていると、アイラが声をかけるより先に、相手の方が先に反応を示した。
「こんな所にメイド……? あ、アンタはもしかして、レアモンハンターさん!?」
「えっ!?」
その呼び名を知っている!?
その通名は、まだ掲示板だけのアングラなネーミングだとは思うし、一般化はしていないと思う。という事は、今目の前にいる冒険者は掲示板の常連という事だろうか。
「レアモンハンター? なんだそりゃ」
「最近ここやお隣の525の掲示板で話題の人だよ。メイドさんとお嬢様っぽい子を連れてるから間違いない」
「へー」
どうやら常連は1人だけらしく、もう片方はあまり興味がないらしい。まあそれでも、俺の事を知ってるなら話が早いかな?
「ご主人様をご存じであれば話は早いですね。これよりここで狩りをする予定ですので、申し訳ありませんが場所を変えていただければと」
「はぁ……? いくら有名だからってそんな横暴は」
「おい、待て待て! この人達はAランクなんだよ!」
「なんだって!? Aランクがこんなところに来るのか!?」
「こんなところ……」
まあ、ランクと狩場が釣り合っていないのは俺も思うけど……。
でもランクはあくまでも、協会への貢献度であって強さじゃないからな。弱いままでは到達できないにしても、強さの保証にはなりえないんだよな。
「あ、あの……レアモンハンターさん。あなたが居らっしゃるって事は、やっぱりここにも?」
「え? あー……」
「上位者への詮索は、規約違反ですよ」
「あ。す、すみません」
アイラが咎めてくれたが……そうか。
俺がレアモンスターを狩りまくっている事は、一部の界隈にはほぼバレてるんだよな。あんなに沢山のスキルオーブを出品してるんだし。『初心者ダンジョン』での活躍もあるけど、『上級ダンジョン』の第一層での件でも、掲示板がお祭り騒ぎになっていたことは記憶に新しい。
そうなると、俺の事をよく知ってる人が、彼女達全員を連れて遊びに来た風でもなく、本気装備でモンスターのいる場所へとやってきた姿を見たらどう思うか……。
単純な話だ。
そこでレアモンスターを探している。もしくは、レアモンスターを見つけて狩っているのでは? そんな考えに至るんじゃないだろうか。下手すると、今までレアモンスターがいないと思われた場所でも、俺がいることで、実はいるのではという期待が高まり、憶測が走る可能性すらある訳だ。
これは盲点だったな。
『黄金蟲』に関しては、人目を避けた場所での狩りになるから、いましばらくは問題にならないにしろ、人目の付く場所で狩りをすれば、自然とこんな弊害が出てくるのか。今まで縁が無いと思っていたけど、これが有名税ってやつかな?
まあでも、ここがバレるのは時間の問題だというのなら、はぐらかさずにハッキリ伝えておこう。
「一応ここの事は調査中だけど、ちゃんとしたものが見つかったら、ここの支部長に連絡して、報告は上げる予定だよ。ただ、一般人が近くにいるエリアなこともあって、センシティブな話題だから、あんまり騒がないで貰えるとありがたいかな」
「あ……そうですね。気をつけます! あの、頑張ってください!!」
嬉しそうに返事をした彼は、チームメイトを連れて北側海岸へと移動していった。
「ご主人様、宜しかったのですか?」
「第一層と違って、ここは完全に区分けされてるからね。公開したところで問題はないでしょ。それに、肉を売るにしても、モンスターの情報が非公開だとね……。色々と突っ込まれそうだ」
「どんなモンスターのお肉か分からないと、食べるのも勇気がいりますものね!」
アヤネは頭のカメラを指して言った。
……実物映像を見たら、余計に食欲失せるかもしれないけどな。
「ですが、公開してしまってはこの階層に少なからず人が来ることになるでしょう。そうしたら、例の騎士と戦う場面を見られかねません」
「いや、レアⅡもいっそのこと公開しちゃおうかなって」
「そんなことをしてしまえば、ご主人様に異常な『運』があることも知れ渡ってしまいます」
「それは、今更じゃない?」
あと、公開するにしてもタイミングとしては、次のオークションの前日とかになるだろう。なら、今日の内に『デスクラブ』のトロフィーを取ってしまえば、ここで戦う必要もそんなに無い訳だ。騎士のスキルは確かに魅力的だが、きっとここ以外にもよさげなレアモンスターは居るはずだしな。
無理にここにこだわる必要はないだろう。
「もし、今後騎士関係で欲しいスキルがあったとしよう。東や西の砂浜に人がいたとしても、その頃には俺達ももっと強くなってるはずだろ? なら、人が寄り付かない南側の砂浜で狩りをすればいい。あそこなら、誰からも邪魔は入らないだろ?」
「確かに……。普通の冒険者なら、東や西の集団でさえ身動きが取れなくなるでしょうね。モンスターの再出現時間も短いですし、あの群れを無理やり通過してまで、人が来ることは滅多にないかと」
アイラも納得してくれたらしい。あとでこれを、アキとマキにも説明しておくか。
「わたくしは、旦那様が行くならどこにでもついて行きますわ」
そしてどうやら、アヤネは説得の必要すら要らなそうだった。
◇
3体目の『デスクラブ』を討伐し、レベルが46へと上昇すると、数日ぶりに『甲殻騎士』と対面した。前回はアイラに前衛を頼んだけど、今日の俺はずっと剣だけで戦ってきたのだ。
それにより砂浜でもそれなりに動けるようになったので、そのまま俺が前衛、アイラが遊撃、アヤネが後衛というフォーメーションで戦いを始めた。
戦いは、お世辞にも優勢とは言えなかった。まず相手が想定を上回る力と技を持っていた。事実、俺は何度も攻撃を受けてしまったし、3回は外装を掛けなおす羽目になった。ここまで被弾してしまったのは足場の問題もあるが、何より相手の槍捌きを舐めていたからだ。
遠くから見ている分には凄さがイマイチ伝わらなかったが、いざ打ち合ってみると、その完成度の高い動きには翻弄されっぱなしだった。我武者羅に武器を振り回すそこらのモンスターとは違い、武芸を極めた熟練した槍捌きは、目では追えても身体がついていかなかった。
いくらステータスが上がったとしても、俺の技量そのものが未熟なままでは、修練を積んだ戦士に太刀打ちできないことがよく分かった。ただの怪物であれば、本能のままに攻撃してくれるから、技量も何もないんだが……。俺もどこか、道場か何かで習うべきなんだろうか? ステータスの調整も踏まえて、色々と考えておこう。
「くそっ、ほんと硬いな!!」
更には、こちらの攻撃も、決定打に欠けた。あの時はとんでも威力の『紫電の矢』で決着をつけたが、それが無ければ数で攻めるしか無い故に、長期戦を強いられたのも苦戦した理由の1つだ。こいつの装甲は今まで出会ったどのモンスターとは比べ物にならないものだった。
「弓以外でも火力が欲しいな……切実に」
そうして戦う事、数十分。
激闘の末、魔法や剣戟により騎士の寄生鎧も、ボロボロになっていた。
「そこだ!」
彼女達の援護によって出来た隙を突く形で、俺の剣が奴の胸元に深々と突き刺さる。
『ギチッ……』
騎士の身体から軋む音が響き、鎧の隙間から煙が噴出。そしてその鎧も煙へと変貌し、一気に霧散した。
【レベルアップ】
【レベルが46から85に上昇しました】
「ふぅ……。疲れた」
「お疲れ様です、ご主人様」
「かっこよかったですわ!」
「2人とも、俺のワガママに付き合ってくれてありがとね」
本当なら、『紫電の矢』を使えばもっと早くに、楽に討伐できただろう。
けど、アイラにばかり任せていてはダメだと思って、前回のリベンジも兼ねて剣で戦ったわけだけど……。いかんせん、あいつの鎧の硬さは、直に戦って初めて実感できた。『ミスリルソード』が欠ける事はないだろうが、強度としては同じくらいかも。
全身をアレに包まれた騎士を倒すには、剣だけでは不十分だった。
そこでアヤネの発案により『炎魔法』と『紅蓮剣』で一気に熱して、『水魔法』で急速に冷やす事で、一部分を脆くさせる方法を試した。『寄生鎧』という事はアレも生物の一種と思われる。そうしてこの作戦は、結果的に上手くいったが、彼女の機転がなければもっと苦労していただろう。
「これも、旦那様にとって必要な事ですわ。ですからわたくし達も、鍛錬に付き合いますわ」
「その通りです。もしもご主人様が弓の方が楽だからと後ろに下がるような軟弱者なら、無理やりにでも前に出させていたところです。その様な性根では、この先必ず苦労しますからね」
「アイラはスパルタだなぁ。そうならないよう気をつけるよ」
「ふふ。ご主人様は夢の為なら、どこまでもストイックになられるお方。私もあまり心配していません」
そう言われると照れる。期待を裏切らないようにしないとな。
「えっとじゃあ、ドロップだけど」
「はい、こちらに」
俺が照れてる間に、アイラは既に集めていてくれた。相変わらず仕事の速い。
「恐縮です」
何も言ってないんだが。
「ではドロップ内容ですが、前回と同じ様です」
「……同じって事は、槍とか鎧も?」
「はい。同様の物が出ました。宝箱も健在です」
「宝箱も同じだったりしてな」
そう言って、アイラがもつ『金の宝箱』をパカリと開ける。
中に入っていたのは……。
「やっぱ『泡魔法』じゃん」
しかも2個。
「あっ」
「どうしたアヤネ」
「旦那様、この宝箱を『真鑑定』したらどう見えますの?」
「あ、忘れてた」
そういえば全く見て無かったな。一応、中身を取り出さなければ宝箱は消えないんだったよな。ならまだセーフか。
「アヤネ、助かった」
「えへへ」
「『真鑑定』」
名前:金の宝箱
品格:《最高》エピック
種別:モンスタードロップ
説明:甲殻騎士のアイテムリストから抽選。
「この説明を見るに、モンスターごとに抽選用のアイテムテーブルがあるってことなのか?」
「協会はその可能性が高いと見ていましたが、ご主人様の能力でそれが確定したわけですね」
「流石ですわ、旦那様!」
「俺の『真鑑定』スキルが上がれば、そのアイテムテーブルも、いつかその内見れてしまうかもな」
「それは……。もしわかる事があれば、革命ですね」
今の状態でも、もし仮に誰かが宝箱を部屋とかに飾っていたとしたら、それが何処産の物なのかわかっちゃうわけか。それはちょっと面白い。
それに、他にも使い道は多そうだ。夢が広がるな。
「それはさておき、『泡魔法』だけど。アヤネ、使ってくれるね?」
「はいですわ!」
アヤネは恭しく『泡魔法』を受け取ると、取得してすぐにバブルアーマーを展開した。なんだかんだ言って、自分でも使ってみたかったんだろう。
「それじゃ、アイラも使って」
「畏まりました。奥方様の分も取りますか?」
「まあ、それは出来ればね。水中デートは正直言うとまたやりたいし……」
別に理由がなくちゃ抱きしめられない訳じゃないけど、狭い場所で引っ付きあうのは、それはそれで趣があるというか……。
「ふふ、左様でございますか」
「ガーンですわ!」
アイラが微笑むと、アヤネはなぜかショックを受けていた。
「うう、わたくし、魔法を覚えてしまいましたわ……」
「ん?」
「わたくし、もう旦那様と一緒にデートが出来ないんですのね……」
「いやいや、遊びに行くときは前回みたいに一緒にいてくれていいよ。戦いのときに離れてくれてればいいからさ」
「ほっ……。なら良かったですわ」
早とちりだったと安心したアヤネは、俺に撫でられた後改めてバブルアーマーの使い心地を確かめ始めた。
「それじゃ、アイラ。『甲殻騎士』が落としたスキルだけど、『身体強化Lv3』『投擲Lv2』の2つは覚えてくれ。他は全部貰う」
「承知しました。……あ、今ので2つともLvMAXになりました」
「お、いいねー」
アイラはレベルが高いから、強くなるには色々とスキルを覚えてもらうのが一番手っ取り早いんだよな。……それじゃ、今の内にガチャを回すかな。
『ジャララ、ジャララララ!』
出たのは、赤3、紫5、緑2。「無料ガチャ」では青色のカプセルが5個だった。
『SR 腕力上昇+40』『SR 器用上昇+45』『SR スキル:味覚強化』
『SSR 腕力上昇+90』『SSR 俊敏上昇+100』
『SSR 腕力上昇+75、器用上昇+75』
『SSR 魔力上昇+75、知力上昇+75』
『SSR スキル:剣術Lv1』『UR 器用上昇+200』
『UR 頑丈上昇+200』『R 腕力上昇+18』『R 器用上昇+15』
『R 俊敏上昇+18』『R 魔力上昇+18』『R 知力上昇+18』
*****
名前:天地 翔太 年齢:21
レベル:25
腕力:1884(+1227)(+628)
器用:1989(+1297)(+663)
頑丈:1820(+1184)(+607)
俊敏:1805(+1174)(+602)
魔力:1697(+1104)(+566)
知力:1689(+1099)(+563)
運:2250
*****
『味覚強化』まで来たか……。次は触覚か? 『レベルガチャ』よ、教えてくれ。これを強化する意味は果たしてあるのか……?
ガチャを終え、シザークラブとの戦いを再開したところでアヤネが疑問を口にした。
「そういえば旦那様、『魔力回復LvMAX』になったのですわよね?」
「ああ、2個前のガチャでね」
シザークラブ2匹を連続で切り捨てつつ答える。
ステータスがまたしても大幅に上がった影響か、シザークラブの貝殻程度なら、刃の向きにさえ気をつければ、割と簡単に両断する事が可能となっていた。今ではもう、雑談に興じつつ獲物を狩るのも容易い。そのまま次の獲物へと剣を振るう。
「圧縮は試されましたの?」
「……あっ」
『ガインッ!』
やり残しを指摘された俺の剣筋がブレ、思いっきり弾かれた。貝殻はひびが入った程度で、シザークラブは健在だった。
『ギギギッ!』
「おっと!」
シザークラブの鋏が俺に向かってくるが、そのスピードは遅い。
気を取り直してもう1度攻撃する。芯を捉えた剣は、見事に敵の武器ごと両断した。
「あ、旦那様。ごめんなさいですわ」
「いや、いいよ。どっちも俺のミスだ」
「そうですね。ご主人様はステータスや技量こそ達人級の域に到達しつつありますが、心のありかたはそのままですからね」
「未熟でごめん……」
「そこは今後鍛えて行けば良いのです。圧縮は落ち着いてからするとして、今はこの戦いを終わらせましょう」
アイラの言葉に従い、俺は100匹討伐を成し遂げる。すると、いつものように煙が集まった。
*****
名前:デスクラブ レベル:60
腕力:525 器用:150 頑丈:750
俊敏:120 魔力:900 知力:150 運:なし
装備:なし スキル:剛力Ⅲ、怪力Ⅲ、鉄壁Ⅲ、城壁Ⅲ、統率Ⅲ、限界突破
ドロップ:デスクラブの大殻、デスクラブの大鋏、デスクラブの肉、デスクラブのトロフィー、大魔石
*****
「やっぱ、デカいな」
『ホブゴブリン』と同様、『デスクラブ』の強化体も巨大化するようだった。元の大きさとしては2mほどだが、こちらは高さも横幅も3mはある。それに比例してか、鋏の凶悪さも5割増し。その姿はまさに怪物……モンスターだ。
けど、なんだろうな……。
鋏の攻撃力と甲殻の硬さにばかり目が行くが、それでもやっぱり、あまり脅威は感じなかった。今では、俺のステータスはこいつの2倍以上あるし……。
「アイラ、アヤネ。とりあえず、いつもみたいにやるぞ」
「はいですわ!」
「お任せ下さい」
戦ってみた感想としては、確かに通常の『デスクラブ』よりも手強かった。
基礎ステータスの向上に加えて、各種スキルがⅢになったことでブースト力も向上。その巨体から繰り出される攻撃もさることながら、スキルが発動している最中の硬度は、『甲殻騎士』に迫るものがあった。
けど、所詮は知性の感じられない水生生物だ。純然たる戦士と比べ、その動きはあまりに本能的過ぎる。攻撃は直線的で、こちらの簡単なフェイントにも引っ掛かるし、駆け引きなんてものもない。数回鋏とぶつかり合えば、『予知Ⅱ』の補正がなくとも自然と動きが読めてしまった。
図体やステータスを見ると強敵だが、蓋を開けてみればただのノロマなデカいサンドバッグだ。軌道を読んで攻撃を躱し、関節の繋ぎ目を断ち切り鋏を落とす。
攻撃手段を失わせたところに、『力溜め』を使って一気に脳天へと突き刺した。
『ギチッ……』
『デスクラブ』は泡を吹き出しながら、同時に煙を吐き出す。そして一瞬で全身が煙に包まれ霧散した。
【デスクラブのトロフィーを獲得しました】
【レベルアップ】
【レベルが25から88に上昇しました】
「ありゃ、意外とレベルが上がらなかったな」
「そうですね、レベルは『甲殻騎士』よりも上でしたが、魔石はただの『大』サイズでしたし……。恐らくモンスターとしての格は『甲殻騎士』の方が上なのでしょう」
あー……確かに。
「今までのレアⅡ……。『エンペラーゴブリン』に、『黄金鳳蝶』。そして『甲殻騎士』。どいつもこいつもその辺のレアモンスターと比べると、一癖ある連中ばかりで、厄介な相手だったな」
「強化体など、所詮は最初のレアモンスターを強化しただけの、焼き増しに過ぎませんからね」
「世知辛いな」
「それで旦那様、どうされますの? トロフィーも取れましたし、宝箱を開けに行きますの?」
「いや……。それは一旦後にして、気になってる事があるんだよね。だからそっちを優先しようと思う。けど、その前にスキルの確認とガチャだな」
一旦モンスターの湧かない地点まで後退した俺達は、シートを敷いて座り込む。
「ではスキルですが、相変わらず基本的な物は全部出ました。ですが、限界突破だけは出ませんでした」
「やっぱり、モンスターの専用スキルなのかもな」
「どうなのでしょう? 確かに『鑑定』で映るスキルの全てが、ドロップを確認出来ている訳ではありませんわ。けど、まだ試行回数が圧倒的に足りないと思いますの。旦那様が倒した強化体は、まだ4体だけですわよね?」
「ああ。『ジェネラルゴブリン』1回に、『黄金蟲』2回。そしてさっきの『デスクラブ』だ」
「では、たったの4回で出ないと判断するのは早計だと思いますわ。旦那様の『運』はまだまだ成長するんですもの!」
「アヤネ……」
確かに、そうだよな。
スライムを何万匹と狩り続けた俺が、たった4匹程度で諦めてちゃだめだよな。
「……そうだな。これからも、いつかドロップすることを夢見ておくよ」
「はいですわ!」
「じゃ、スキルだけど増強4種はもらうから、アヤネは『統率Ⅲ』を覚えてくれ」
「はいですわ。これで旦那様は、1・6倍。わたくしとアイラは1・4倍ですわね!」
2人がようやく『統率Ⅲ』を得たが、俺の『統率』は未だに無印のままだ。彼女達には苦労を掛けるけど、次ゲットしたら全員で1・6倍を満喫したいところだ。
「それじゃ、ガチャ回すねー」
『ジャララ、ジャララララ!』
出たのは、赤3、紫5、緑2。「無料ガチャ」では青色のカプセルが4個だった。
『SR 魔力上昇+45』『SR 知力上昇+45』
『SR 魔力上昇+25、知力上昇+25』
『SSR 腕力上昇+90』『SSR 器用上昇+100』
『SSR 頑丈上昇+75、俊敏上昇+75』
『SSR 魔力上昇+75、知力上昇+75』『SSR スキル:暗殺術Lv1』
『UR 知力上昇+200』『UR スキル:水流操作Lv1』
『R 俊敏上昇+18』『R 魔力上昇+18』『R 知力上昇+18』×2
*****
名前:天地 翔太 年齢:21
レベル:28
腕力:2157(+1317)(+809)
器用:2285(+1397)(+857)
頑丈:2064(+1259)(+774)
俊敏:2077(+1267)(+779)
魔力:2074(+1267)(+778)
知力:2415(+1480)(+906)
運:2376
*****
『運』も含めて全部のステータスが2000を超えたか。
ここ数日の成長速度が速すぎて、段々ヤバイ事になってるな。
「『統率Ⅲ』2個の効果もあるけど、最近成長しすぎて全ステータスが2000を超えたよ」
「すごい。すごいですわ!」
「ふふ、あっという間に抜かれてしまいましたね」
「あうぅ、このままでは旦那様のお役に立てなくなってしまいますわ……」
「私もお役御免でしょうか」
2人が示し合わせたように落ち込んでみせた。
いや、アヤネは本気だろうけど、アイラは違うよね? 分かってて言ってるよね?
「何言ってんのさ。俺がどれだけ強くなっても、アイラの事は頼りにしてるし、アヤネがいないなんて考えられない。悪いけど、2人の事は手放さないから。脱退なんて幻想は諦めて」
結局俺個人がどれだけ強くなったところで、1人で出来る事には限界があるのだ。
魔法やスキル、戦い方だって、自分1人で思いつくことは自分の世界で思い描けることだけだ。それに、彼女達が置いてけぼりになる事はない。俺のお下がりにはなるだろうけど、今後もスキルはバランスよく配分していくし、『黄金の種』だってある。
それに、まだ活動範囲の問題で見れていないダンジョンや未知のスキル、それにアイテムが世界には眠ってるはずだ。だから、実のところ彼女達の実力が足りなくなるといった心配はあまりしていなかったりする。
「はい、旦那様っ!」
「誠心誠意お仕えいたします」
「うん。それじゃ、改めて獲得したスキルを見直すか。まずは触覚が来るかと思ってたんだけど、五感シリーズは味覚で止まっちゃったのかな?」
視力、聴覚、嗅覚、味覚と来たら、次はそうなると思ってたんだけど……。読みが外れたか?
「旦那様、実は感覚強化のスキルは、現状その4つしか発見されていないのですわ」
「え、そうなの?」
「四感では語呂が悪いので、これらのスキルで五感スキルと称されていますが」
「ですので旦那様、『魔力回復』と合わせて圧縮できないか試してみませんこと?」
「おお、そうだった。また忘れてたよ……。ありがとうアヤネ」
ガチャを回し過ぎたせいか、色々とスキルを覚えすぎて頭の整理が追いつかないんだよな。こういう時、恋人達が代わりに整理してくれるのほんと助かる。
【スキル圧縮を使用しますか?】
「使用する」
【該当のスキルを圧縮成功】
【SRスキル『視力強化』『聴覚強化』『嗅覚強化』『味覚強化』を圧縮。URスキル『知覚強化』に圧縮成功しました。以後、該当スキルは元のランクからは出現しません】
【該当のスキルを圧縮成功】
【SSRスキル『魔力回復LvMAX』を圧縮。URスキル『魔力超回復Lv1』に圧縮成功しました。以後、該当スキルは元のランクからは出現しません】
「わぁお」
俺は覚えたスキルを2人に説明した。
やっぱり、どちらのスキルも未発見スキルだった。2人は喜んでくれたけど……。
最近になって思う事だけど、いくらなんでも未発見スキルが多すぎるんじゃないか? 10年経って得られた情報が、いくらなんでも少なすぎる気がするんだよな。それだけ『レベルガチャ』が異質と言われたらまあそうなんだけど、それほど難易度の高くないダンジョンでドロップするスキルが未発見っていうのも、なにやらもにょる。意図的に情報が閉ざされているような気さえする。
そう思った事を口にすると、アイラが微笑んだ。
「流石ですね、ご主人様。『直感』ですか?」
「いや、どちらかというと所感なんだけど……。そう言うってことは、やっぱり?」
「はい。この端末に乗っている情報のほとんどは、全て国内限定の物になります。それも自主的に報告があった物に限られますね。国外情報は差し障りのない一部しか端末情報に入っていませんし、協会で調査中のスキルや秘匿情報も非掲載です」
「協会の事情はわかるけど、なんでそんなことに……」
「ご主人様、人間はどこまでいっても欲深い生き物なのです。10年前、世界中にダンジョンが出現し、その後氾濫して総人口の1割が失われました。その時、モンスターは世界共通の敵として認識された訳です。ですが、そんな悲惨な出来事も過去の話。今ではほとんどがそれを乗り越え復興し、各国は力を取り戻しつつあります」
「うん」
「いつまでも手を取り合って協力し合うのが理想ではありますが……。我欲に囚われた国もまたある訳です」
「……だから、見つけた情報を秘匿する国が多い、と?」
「そうなりますね」
個々人やチームで隠し事をする程度だと思ってたけど、国が一丸となって隠蔽しているところもあるのか。なんというか……。
「もう対人間を想定してるのか。何処の国かは知らないが、アホなんじゃないか?」
あんまり妄想ばかりして足元を疎かにすると、盛大にこけちまうぞ。
「世界とはそんなものです。いずれダンジョン騒動が平定した後の事を考えているのでしょうが。独占した知識と力で何をするつもりやら」
「10年という節目でダンジョンの増加が止まる保証など、何処にもありはしませんのに……。悲しいことですわね」
「……もしかしてアヤネのお母さんって、そういう折衝とかのお仕事してる?」
情報通って話だったし、国外のダンジョン関係各位との協定とか、そういう裏のお仕事をしててもおかしくはないよな。
「お母様は色々とやってますわ。旦那様が考えている事も含めて、色々と」
「……そりゃ、『運』を重視する訳だよな」
思っていたよりもすごい人みたいだし、会った時に失望されないように頑張るとするか。恋人達の為になるのなら、そのお仕事とやらを手伝うのも吝かではないし。
「さて、圧縮で得たスキルは、魔法みたいに具現化は出来ないから『真鑑定』で視る事は不可能だし、そこはおいおい検証するとして……。あ、圧縮で思い出したが、アイラのスキル『LvMAX』が2つあるし、進化できるか試して良いか?」
「勿論です」
「んじゃ早速……圧縮」
アイラに手を伸ばしてスキルを行使するが、反応はしなかった。
念のため直接触れながら行使しても無反応。やはりこのスキル、自分かオーブを対象にしない限り効果は発揮されないらしい。
「駄目か」
「残念ですわ」
「致し方ありません」
「んじゃ、残るは『水流操作』か……。丁度、やってみたかったことでもあるし、このまま海に入ろう。2人とも、自分の『泡魔法』でついてきてくれ」
「はいですわ!」
「お供します」
◇
「それで旦那様、試したい事というのは?」
アヤネの声が、泡を通して伝わってくる。
「まず1つ、こっちの西側海岸にも宝箱があるかどうかの確認。それから、海の中にちらほら見えているモンスターの確認と、可能であればレアモンスターの討伐だな」
「そういえば、海の南側にもモンスターがいるのでしたわね。シザークラブとの戦いでは、1度も姿を見かけませんでしたわ」
「だいぶ深い所にいるみたいだからなー。アイラ、水中戦闘の経験あるんだったよな。どう? 『泡魔法』の使い心地」
「かなり良いですね。魔力を消費し続けるというのは欠点ではありますが、消費速度はご主人様によって解明されましたし、この分なら1時間潜りっぱなしでも問題はないかと」
技巧系スキルだと直視出来ないから詳細は見れないが、魔法系スキルの場合は『真鑑定』が通る為、その能力の詳細がわかる。だから、新発見の検証がされていないスキルでも、簡単に効果がわかるのだ。『泡魔法』のバブルアーマーは、魔力を10秒につき1消費するだけの、コスパの良い魔法だった。俺とアヤネは『魔力回復』のおかげでそれを上回る回復量だし、今後の事を考えて、次はアイラにも覚えさせなきゃな。
「お、あれか?」
俺達の周囲を、優雅に泳ぐ魚達。その中に、明らかに異彩を放つモンスターの姿があった。『知覚強化』のお陰か、だいぶ遠くにいる時点でも目視することが出来たその身体は、やはり周囲の小魚と比べて、とても大きい。その後姿はシーラカンスみたいだな。マップで見ても、やはりあれがモンスターなのは間違いない。
「ビンゴ。さて、どんな面かな」
まだ試せていないが、もしかしたら視野が広がったことで『自動マッピング』の有効距離も伸びているかもしれない。
俺の声に気付いたのが、そいつはこちらへとゆっくり振り向いた。
『オッ?』
*****
名前:人面魚 レベル:15
腕力:120 器用:100 頑丈:70
俊敏:100 魔力:0 知力:10 運:なし
装備:なし スキル:なし
ドロップ:人面魚の血石、小魔石
*****
『オッオッ!』
シーラカンスの胴体に、おっさんの頭がくっついていた。
鳴き声も独特だし、なるほど。これは確かにモンスター……。
「いや、普通にキモイな!?」
『オッオッ!』
俺のキモイ発言に怒り心頭といった様子で、人面魚がまっすぐこちらに向かって泳いできた。その速度はお世辞にも早いとは言えないが、ここは水中であり、相手は魚だ。本来なら対処に苦労したはずだろう。だけど今、俺達は『泡魔法』の力を使う事で、地上と同じとは言えないが、ある程度動けるようになっていた。更には、先ほどガチャで取得した『水流操作』のスキル。これが大活躍だった。
このスキルは、自分の周囲にある水であれば、意のままに操る事を可能とするらしく、直接攻撃には使えないが、水中を移動したり、武器を振り回す際には地上と同じくらいには、抵抗をなくすことが出来たのだ。
その結果、人面魚は一太刀であっさりと撃破出来た。
「うん、いい感じだ」
「あの顔……。なんだか、夢に見そうですわ……」
いなくなった人面魚がいた空間を、アヤネが何とも言えない表情で見つめていた。
「ほんとそれだよな」
『オッ!』
『オッオッ!!』
「しかも耳に残るしな……」
仲間がやられたのを察知したのか、周辺の人面魚が集まってきた。どうやら感知範囲は、シザークラブより上なのかもしれない。
「入れ食いなのは、呼ぶ必要が無くて楽なんだが、なっ!」
突っ込んできた人面魚を斬り捨てる。『水流操作』は使ってみた結果、俺の身体を中心とした一定の範囲でしか有効に働かないらしく、弓を放っても勢いが良いのは最初だけ。思っていた以上に飛ぶ事はなかった。ただ、他の遠距離手段としての魔法は、『水流操作』なしでも発動することを確認した。
『炎魔法』は言うまでもない結果となったが、『風魔法』はしっかりと発動するらしく、水中でもアヤネは活躍出来そうだった。魔法が水中でも通用するのなら、『紫電の矢』も同じ領分だと思うし、使える気がするんだが……。
あれ、一応雷撃を束ねたようなスキルだよな? か、感電したりしないだろうか?
「武技スキルは術者には影響を及ぼさないかと。それに、私達もバブルアーマーが間にございますので、直接感電するとは思えませんが……」
「でも、もしもがあるからなぁ。使う時は、細心の注意を払いたい」
「承知しました」
「何の話ですのー?」
「何のって……。あれ? 俺、そもそも口に出していたか?」
「アイラが突然話し始めたのですわ。わたくしにも教えて下さいまし」
どうやら、またアイラが表情を読んだ上で話を振ってきたらしい。あまりに自然すぎて違和感なかったぞ。
「むぅ。わたくしも早く旦那様のお心が読めるようになりたいですわ」
「筒抜けすぎるのも恥ずかしいんだけど……」
「精進あるのみです、お嬢様。それで先ほどの話ですが──」
そうして俺は、2人が見守る中人面魚を狩り続けた。感知範囲はシザークラブより広いとはいえ、敵は南側の海に大きく散らばっている。密集度が低い上にこちらも足が遅い。その為どうしても時間がかかり、100匹倒すのに1時間ほど掛かってしまった。そして、100匹目の人面魚から、待望の煙が溢れ出し、その場で膨張した。
『ギョ?』
中から現れたのは、人間のような手足の生えた、二足歩行する人面魚だった。
*****
名前:人面魚人 レベル:35
腕力:360 器用:250 頑丈:100
俊敏:200 魔力:0 知力:30 運:なし
装備:魚人の槍 スキル:怪力、身体強化Lv1、槍術Lv2、水泳Lv1、水魔法Lv2
ドロップ:魚人の鱗、魚人の種、中魔石
*****
モンスターの種類が変わっても、顔はおっさんのままだった。
いや、人相は多少違うかもしれないが、おっさんはおっさんだった。
「やっぱキモい!!」
『ギョギョギョー!!』
こいつも人面魚と同じように、キモいという言葉に反応しているのか、怒り狂ったように槍を振り回してきた。本来ならこのステータスに加えて水中というアドバンテージがある以上、苦戦は必至だっただろうが……。今の俺では大して苦戦する相手でも無かった。2人に攻撃を入れさせたあとは、片方の剣で槍を弾き飛ばし、もう片方で突き刺す。たったこれだけで、『人面魚人』は煙となって消えた。
【レベルアップ】
【レベルが28から40に上昇しました】
「私と出会った頃であれば苦戦を強いられていたでしょうが……。今のご主人様の敵ではありませんでしたね」
「旦那様はとっても強くなられましたわ!」
「ありがとう。そうだな、これくらいならもう相手にならないな」
そんな風に時間を測りながら、人面魚系列のキモさっぷりを話題にしていると、煙は集まることなく霧散してしまった。どうやら、元となったレアモンスターのレベルが高い分、こっちもレアⅡの出現率は低いらしい。水中でも変わらない回収速度で戻ってきたアイラは、こっちの考えを読んだのか、微笑みながら聞いてきた。
「出てほしかったですか?」
「そりゃね。でも、少なくとも次に出てくるのは『甲殻騎士』と同等かそれ以上の奴だったはずだ。そんな相手と水中で戦う羽目になるのは、正直言ってまだ怖い。アイラにも負担をかけてしまうだろうし……。まあこれも、『運』が良かったのかもな」
「流石旦那様ですわ!」
ドヤ顔を決めるアヤネが駆け寄って来ると、2人のバブルアーマーが混ざり合い一塊となる。どうやらバブルアーマーを使える者同士は、いつでも分離したり、結合したり出来るらしい。今回は俺とアヤネ、2人分のバブルアーマーとなった事で、俺達を覆う膜は一回りか二回りほど大きくなっていた。
「えへへ、旦那様~」
アヤネはいつものように背中に回り込み、負ぶさって来る。最初は遠慮がちだったが、何度も抱擁を受け止めたり、夜を共にした事で、今では戦闘をしていない時は頻繁に甘えてくるようになった。定位置に辿り着いた彼女は、絶対に離れまいと全力でしがみ付いてくる。どうにも彼女は、温もりに飢えているようで、ダンジョン内や家ではこうやって、くっついてくるんだよな。俺も抱き着かれるのは嫌じゃないし、むしろ嬉しいからアヤネの好きにさせてるけど、彼女には兄や姉がいるって話だったよな? その人達には、あんまり甘えられなかったんだろうか?
「うぅ。やっぱり鎧越しだとひんやりしていて、抱き着き甲斐がありませんわ……」
「はは、そうだね。んー、今日はもう戦いをするつもりはないし、鎧は脱ごうかな。2人とも、水中でも着脱できるか試したいから手伝って」
「はいですわ!」
「お任せください」
そうして引っ付きあって、バブルアーマーを一塊にした状態で、鎧を脱ぎ捨てる。ちょっと狭いけど、3人分のバブルアーマーが混ざった事で、小さく円が作れる程度には空間が広がっていた。これ、人数やレベルが上がったらどうなるんだ?
「では旦那様、このあとは東の海岸に戻られますか?」
「いや、その前に北側一帯に『人面魚人』の箱がないか探しておきたい。人面魚が遊泳しているこの付近には無さそうだったから、東と同じく北側にあると思うんだよな。その確認を終えたら、そこからまた北経由で東の宝箱を開錠しようと思う」
「承知しました」
「では、これからお散歩ですわね!」
アヤネの希望により彼女を中心として手を繋ぎ合い、俺達は海底の探索を開始した。効率面で考えると良くはないのだろうが、彼女が楽しそうだったので良しとしよう。
そんな中、30分ほどウロウロしてようやくマップに緑のアイコンが表示され、東側と同じような岩陰を発見。そのまま3人で中に突入すると、『人面魚人』のレリーフが刻まれた、宝箱が鎮座してあった。
こちらにもやはり、鍵穴の無い錠前によって封がされていた。
「レリーフになるとキモさよりもシュールさが勝つな……。『真鑑定』っと」
「一応、カメラを回して映像に残しておきますわね」
「ご主人様、これも同じく視えますか?」
「ああ」
名前:810-2-2
説明:810ダンジョン第二層配置の??? 対応する虚像を捧げよ。
「第一層には予備番号のようなものはありませんでしたわ。階層ごとにその数が増していくのでしょうか?」
「いや、出現するモンスターの種類次第だと思う。今のところ俺が知っている4つのダンジョンは、ほとんどの場合第一層には1種類しかいないけど、『初心者ダンジョン』の第二層には4種類いるしな。あと『初心者ダンジョン』だけど、あそこの第一層もちょっと問題があるんだよな。アヤネも見たかもしれないけど、あそこには、極稀にキラーラビットがいるんだよ。あれが本当に悩みの種なんだよな……」
「ご主人様が懸念されているのは、あそこの第一層で、キラーラビットのレアモンスター枠が設定されているかどうか、ということですね」
「ああ。更に最悪を想定した場合、湧きポイントが複数ある可能性が控えていることだ。もし複数の箇所で湧くようなことがあれば、半日程度じゃ絶対に調べ切れない」
最悪、丸1日貸し切りにでもしないといけなくなる。何故ならキラーラビットの出現比率は、ゴブリンと比べると体感1対10しかないのだ。
「大変な事になりそうですわね。でも、旦那様ならきっとなんとかなりますわ!」
「どこまでもお付き合いいたします」
「ありがとう、2人とも」
「さ、こっちの宝箱の存在は確認したし、このまま東側の宝箱を回収しに行こう」
◇
北側に戻った俺達は、協会員に驚かれた。
なぜなら、俺が鎧を脱いでいたからだ。……まあ、レアモンスターと戦いに行ったはずの奴が私服で戻ってきたらビビるよな。軽い会釈をしてそのまま東側を目指す。今の時刻は14時頃。人が少し減ってきたこともあってか、水着も着ずにうろつく俺達は目立つのか、周囲から視線を集めてしまった。まあこれは仕方がない。安全に東西を移動するには北側を通るしかないのだから、この視線は諦めるとしよう。
そう思っているとアヤネがワクワクした表情でこちらを見上げてきた。
「旦那様、こんなに注目されているという事は、わたくし、ナンパされてしまうのでしょうか?」
「……嬉しそうな所申し訳ないけど、この注目はそういう類のものとは違うかな」
「残念ですわ……」
しゅんとなってしまったアヤネを撫でている内に、境界線に到達。そのまま東側へと入り、一直線に宝箱のある場所へと向かう。前回と同じ岩陰を通り、空気のある海底洞窟へと侵入すると、『デスクラブ』のレリーフ入りの宝箱が出迎えてくれた。
「それじゃ……」
宝箱に触れると、錠前は俺の持つトロフィーに反応したのか光り輝き、煙となって消える。封の無くなった宝箱をゆっくりと開けると、中にあった何かが俺に向かって飛び込んでくる。来ることが分かっていたため、今回はじっくりとその軌道を眺めていたが、俺の胸に当たるとスッと消えていった。
この感じは、スキルオーブで何らかのスキルを得た時と同じような感覚を覚えるな。
あと、いつの間にか宝箱が消えていた。
「旦那様、いかがですか?」
「ああ」
*****
トロフィー:ホブゴブリン
管理者の鍵:810(1)、810(2(1/2))
*****
「2(1/2)か。やっぱり、もう1個はさっきの『人面魚人』の分で終わりらしいな」
「数が分かるのはありがたいですね。となると、出現エリアは3つあるのに、対応レアモンスターは2種類という訳ですか」
「南側は全部見たわけではないけど、他に種類はいなさそうというのは助かるな。南側の海の中で、人面魚に追われながら宝箱を探すのは避けたかったし」
「旦那様、今日はもうこれでお終いですの?」
「ああ、明日からはまたしばらく『初心者ダンジョン』方面に戻る訳だし、早めに準備しないとな」
「ではダッシュで帰りましょう。先輩達も旦那様に早く会いたいはずですもの」
そう言って再びアヤネが負ぶさって来る。後ろから甘えてくる彼女を微笑ましく思いつつ、俺達は小走りでダンジョンから脱出した。
◇
「ステータスのお陰か、スキル無しでも随分と速く移動できるようになったな」
「そうですね。私達は2000の大台を突破しておりますので、小走りでも時速30㎞は余裕で出せるかと。ただ、本気で走るとお嬢様に負担がかかりますので……」
「だな」
「旦那様の背中は世界一安全ですわ!」
「はは、ありがとう」
そんな風に話しながら協会へと入り、いつもの様に奥の会議室へ案内された。
しばらく待っているとアキとマキがやって来て、無事を確認するようにお互いに抱き合う。俺が普段から抱き枕にしているからか、彼女達もこういった行為に抵抗は無くなってきているように感じる。まあ、2人とも恥じらいは捨てきれてないみたいだけど、それはそれとして可愛いから良いか。そうやってイチャついていると、一緒にやって来た支部長のヨウコさんが、呆れた顔をしていた。
「あなた達って、ほんとに仲良いわね。この協会で仕事をしていると、嫌でもカップルのイチャつきは目につくけど、その中でもあなた達の仲の良さはトップクラスね」
「にひひ、先輩羨ましい?」
「それなりにね。で、私に用があるらしいけどどうしたの? 君達が帰るって話はこの子達から聞いてるけど」
「ああ、それなんですが……。第二層のレアモンスターの情報公開についてです」
他の冒険者に見られた以上、秘密にするのも限界がある。いるのではと勘繰られた以上、つつかれて面倒な事になる前に公開してしまおうという算段だった。
「第二層のレアモンスター……。報告にあったカニのモンスターだったかしら?」
「ヤドカリです」
「そうそう。ヤドカリね、ヤドカリ。……シザークラブは確かにヤドカリだけど、あの巨大な『デスクラブ』はヤドカリと言って良いのかしら?」
「もー、先輩。あんな馬鹿でかい殻を宿にしてるんだから、ヤドカリでしょ?」
「……まあヤドカリでいっか。それで、どうして急に報告しようなんて思ったの?」
「それはですね──」
そうして俺は、『レアモンハンター』の名前を狩場で呼ばれたことを報告した。
「ああ、掲示板の。君が来てからというもの、静かだったうちのダンジョンのスレッドも、賑やかになったわ」
「お騒がせしてすみません」
「良いのよ。今のところ大きなトラブルはないし、モラルもしっかりしてる。あそこに遊びに来るのは、基本四層以降で生計を立ててる冒険者よ。一応第四層以降はガチ目のダンジョンだから、ほとんどBランクやCランクで、信頼に足る人達なの」
「そうなんですね」
「ええ。でもそっか、そんな二つ名を持っているアマチ君が潜ってたら、何かいるんじゃないかと勘繰られるのも当然よね。……良いわ。『黄金蟲』の情報をと言われたら悩むところだったけど、『デスクラブ』に関してはこちらとしても問題ないわよ」
「ありがとうございます。それで、折角なので一緒に動画データも載せてもらいたいんですけど、いいですか?」
「それって、前に言ってた話よね? こっちとしてはありがたいけど、大丈夫なの? アマチ君は一部の掲示板では有名だけだけど、そんなものを公開したらもっと広範囲に知られちゃうわよ」
「良いんです。それが他の冒険者の助けになって事故が減るのなら」
協会職員の……。特に、マキの心の負担は軽くしてあげたい。
「アマチ君……。ありがとう、この恩は忘れないわ。一応ミキさんにも相談したいから、明日アマチ君の方からも伝えて貰えるかしら」
「任せてください。ついでに『甲殻騎士』の情報と動画もお願いしていいですか?」
「え、あれも!?」
「一般の冒険者じゃ、滅多に出会えないと思いますけど……運が悪いと出会ってしまいかねませんからね。その情報を知ってるのと知らないのとでは、生存率に違いが出て来るでしょうし。……幸い、第二層にはセーフエリアがありますから、そこまで逃げ込むことが出来れば何とかなるって目算もあります」
「そうね……。先日、アキちゃん達からセーフエリア確定という情報が届いた時、私達も実験をしてみたの。閉園後に、東西それぞれの砂浜で、シザークラブを数匹から数十匹呼び寄せて、北側エリアに逃げ込んだらどうなるかを。奴らは足が遅いから、遠くにいる場合と、超近距離まで近寄ってきた場合の2パターンでね」
おお。面白い試みだな。
「結果は、どんな状況でも、全てのモンスターが私達を見失って、元の場所へと戻っていったわ」
「へー」
「レアモンスターも同じ挙動をしてくれるか分からないけど、一応リュウ支部長が管理している『上級ダンジョン』では、以前に似たような事例があったと記録に残っているわ。私達協会の認識としては、ダンジョンってどこでも同じルールが適用されているものなの。だから、その点は問題ないと思うわ」
「では、よろしくお願いします」
そういうと、困ったような顔でヨウコさんが彼女達を順番に見た。
「……ここまで言っておいてなんだけど、あなた達も、それでいいの?」
「ショウタ君なら問題ないですよー」
「彼のやりたいようにさせてください」
「旦那様なら、どんな問題も解決してくださいますわ!」
「もしトラブルが来ても、私達で支えれば良いだけです」
「……ほんと、羨ましいくらい固い絆で結ばれてるわね」
「俺には勿体ないくらい、できた彼女達ですよ」
いや、本当に。こんな理解ある素敵な女の子達と出会えるなんて、本当に運が良かった。
◇
その後、ヨウコさんに『デスクラブ』から得た身の一部をお裾分けして、動画に関しては後日うちの専属達が編集して送信するという形で落ち着いた。次のオークションは2日後だし、仕事の合間に編集するらしいので、まあ十分間に合うだろう。
そうして俺達は、ダンジョン協会第810支部を後にしたその足で、別荘地下に置いてあった移動用の新車に乗り込み、アイラの運転で我が家へと帰ってきた。ちなみに植木鉢類は、今朝の時点で全てアイラの袋に収納してもらっている。
数日ぶりの我が家で羽を伸ばしていると、アヤネが駆け寄ってきた。
「旦那様、旦那様。ポストに、旦那様宛の封書が届いてましたわ!」
「ん? 封書?」
しかも、俺宛てに……??
面倒な契約やらその他書類は、全部アキやマキが代理で済ませてくれたはずだから、俺に直接届く物なんて本当に限られていると思うんだけど……。
うーん、全然思い浮かばないぞ。
「はい、お母様からですわ。恐らく例の件の招待だと思うのですが……」
「それって……歓迎会のこと?」
「中身を見てないので、恐らくとしか……」
「じゃ、読もうかな。アイラ、危ない物は入ってないんだよね?」
「はい。確認済みです」
手紙の封を切り、中身を取り出すと高級そうな招待状と一緒に、手紙が添えられていた。最初は丁寧な挨拶から始まり、小難しい言葉が並べられていたので頭が痛くなってきたが、我慢しながら読み続けると、重要な事が書いてある部分を見つけた。
「えーっと、日程は1週間後。オークションの翌日に、当屋敷でアマチ様の歓迎会を行います、と。ふむ、彼女は全員連れて来てOKと。なるほどね」
手紙から顔を上げると、いつの間にやら皆が集まっていた。彼女達にも手紙を見せるが、怪しい点はどこにも見当たらないらしい。
「サクヤさんのお家に招待……。ショウタ君、どうする?」
「アキは、行きたいって顔してるね」
「だ、だってー! 憧れの人だもん。でも、ショウタ君の判断に任せるからね」
「サクヤさんは私達……いえ、ほとんどの受付嬢が憧れるほど、美しく立派な人です。ですが、実の娘であるアヤネちゃんが怖がるくらい、厳しい人であることも存じています。お会いしたい気持ちもありますが、ショウタさんの判断を信じます」
招待の内容としては、俺が来ることは確定って感じではあるけど、協会は支部長クラスの人に呼ばれたら、基本呼び出しに応じなくてはならないらしい。けど、アキやマキの言い方からして、Aランクはそれすら断る事が出来るのか?
まあ、俺はそもそも予定なんて物を立ててから行動してるわけではないんだよね。だから、暇かと言われれば常に暇だ。彼女達の心配もありがたいけど、この呼び出しに危ない予感はしないし、行きたいと思う。それに、このサクヤさんはただのお偉いさんじゃない。アヤネのお母さんなんだ。言うなれば、俺の未来のお義母さんの1人な訳だ。ああでも、面と向かって言うのは恥ずかしいな。特に、アキとマキのお母さんであるミキ支部長には特に。
「旦那様……」
「アヤネ、お母さんに会うのは怖いか?」
「ちょっとだけですが、怖いですわ。でも、わたくし、旦那様と一緒にダンジョンに入って、成長しましたの! だから、大丈夫ですわ!」
「おう、成長したアヤネを見せてやろうな!」
アヤネの頭を優しく撫でると、彼女は嬉しそうに返事をした。
「はい、見せてやりますわ!!」
食事のあと、『黄金の種』合計47個、『黄金の種(大)』16個をそれぞれ、丁寧に植木鉢に植えていき、いつもの様に『水魔法』で栄養を与える。数が数なのと、『黄金の種(大)』は大きく成長する事から、天井の高いリビングに置くことにした。
あとついでに、『人面魚人』から得た謎の『魚人の種』も、一緒に植えておくことにした。危険な香りはしないが、何が出て来るやらわからない為これだけは自室に置いておくことにした。黄金シリーズより更にレアなのか、1個しかドロップしなかったけど……。何が出るんだろうか?
ちなみに与える水だが、一応海で取れたわけなので、丁度良い塩分濃度になるよう塩も加えておくことにした。なんとなく、そうした方が良い気がしたのだ。
そして夜。いつも以上にそわそわとしたアヤネと一緒に横になる。
多分、昨日自分から身体で払うと言った手前、後に引けなくなってるんだろうな。それに、アキとマキとは既にそういう関係なのもあるかも。
そんな彼女を愛おしく思いつつ、お喋りで気を逸らしてみる。するとアヤネも単純なもので、会話が盛り上がると、普段皆が居るところでは聞けない色んなことを語ってくれた。その内彼女はウトウトし始め、そのまま寝落ちしてしまった。
幸せそうに眠る彼女を、俺は抱き枕にして夜を過ごすのだった。
◇
翌朝。目を覚ました俺が部屋を見渡すと、目の前には愛らしい寝顔のアヤネ。そして『魚人の種』だが、昨日から変化はなかった。まだ時間がかかるのかもな。
優しくさすって彼女を起こすと、可愛らしい欠伸をしてしばらくぼーっとした後、何かを思い出したかのように布団に顔を埋めた。
「さ、先に眠ってしまいましたわー!!」
よほどショックだったのだろう。呼びかけようとも一向に起き上がる気配がない。
そんなアヤネも可愛かったので、とりあえず撫でておくことにした。
「うぅ~!」
けれど珍しく、しばらくそうしていてもアヤネは意気消沈したまま動かなかった。いつもならすぐに尻尾を振って甘えて来るのに。困った俺はマキに相談してみると、全てを察して任せてほしいというので、お願いすることにした。女の子の悩みは、同じ女の子に振るのが一番だ。まあ、こうなった原因は俺にあるんだが。
そうしてしばらくすれば、アヤネは元通り回復して飛びついてくるのだった。