第二層の秘密
俺達は今、デートスポットと名高い『ハートダンジョン』にやって来ていた。そして第二層にある年中海開きをしている特殊スポットで、ヤドカリ型のモンスターを討伐し、そこから出現したレアモンスター、『海の騎士』との激戦を制した。
それにより大幅なレベルアップを果たし、目の前には大量のドロップアイテム。
アヤネはそれを見て飛び跳ねるように喜び、アイラも勝利の余韻に浸っていた。
そこへ、遠くから見守ってくれていたアキとマキも駆け付け──。
「きゃっ!」
「痛っ!」
「あっ……」
2人は俺に飛びつこうとして、全ての攻撃から身を護ってくれる黄金の壁に、頭から激突した。尻もちをついた彼女達が、恨めし気にこちらを見上げている。
「ご、ごめん。2回分まだ残ってた……。あ、今ので1回減ったかな?」
「ぶー」
「ショウタさんは、私達を拒絶なさるんですね……」
「え!? いやいやいやいや、そんなことないよ! 2人の事は、滅茶苦茶大好きだからっ!」
「「あ、あぅ……」」
半分冗談で言ったんだろうけど、俺の慌てた返しに2人は赤面した。恥ずかしがる2人を見て、こっちもちょっと勢いつけ過ぎたかなと反省していると、背後から不穏な気配がした。
『ガゴッ!!』
ものすごい音が背後から聞こえ、ゆっくりと振り返ると、アヤネが杖を黄金の壁に打ち付けていた。それにより『金剛外装Ⅲ』は役目を果たし消えていったのだが……。
アヤネの笑顔に凄みを感じる。
「旦那様、わたくしは!?」
「あ、ああ……。大好きだよ」
凄みが消え、ぱぁっと明るい笑顔を咲かせた彼女は、いつものように愛くるしいアヤネになっていた。いつの間にか、彼女の外装も消えている。
戦闘中にできなかった事として、俺は丁寧に彼女を撫で回すことにした。
「えへへへ」
「ご主人様」
「アイラの事もちゃんと好きだよ」
「存じております」
「あ、さいですか」
アイラは彼女達と違って露骨に喜んだりはしなかった。けど、どことなく嬉しそうな気配は感じる。
「それよりも私としましては、今日1日、全ての戦いで前衛を務めました。ですから、何かご褒美が欲しいですね」
「あ、ああ……、そうだったね。ご苦労様。うーん、何が良いかな……」
「はい。ですので次の順番が回って来た際は、閨を楽しみにしていてくださいませ」
「「「「!?」」」」
アイラの発言に、全員が驚愕に包まれた。またしても不穏な空気が流れるが、彼女が何をするのかはそのタイミングになるまでは分からないし、今聞いたところで素知らぬ顔をされるのがオチだろう。変な事をしでかすとは思えないし、しようとすれば彼女達が止めるだろうし……。なら、今はソレよりも別のことを考えよう。
「……とりあえず、テントに戻ろっか。それからマキ、悪いけど中で『力溜め』について教えてくれる? ガチャから出たから使ってみたけど、詳細は知っておきたい」
「は、はいっ」
そうして皆でテントに戻り、俺は鎧を脱いでラフな格好になった。戦闘中ならまだしも、この気候でじっとしているなら、暑くて敵わないからな。
「ごほん。では『力溜め』の説明をします。このスキルはショウタさんが使ったように、全力で弓を引き絞ったり、剣を握りしめ振り下ろす構えなどを3秒以上維持する事で、次の攻撃の威力が増すスキルです」
「構えっていうのは、どんなポーズでもいいの?」
「はい、力を込めていられるのなら、ですが」
「ふむ……」
「戦いの最中に力を溜めるというのが、現実的に運用するのが難しい事もあり、価格は5000万という値で落ち着いています」
「使いにくいという割には、それなりの値段はするんだね」
「はい。一般の人には使いにくいですが、ショウタさんのように武技スキルを持っていた場合話は変わってくるからですね。あとは、入手手段が限られているというのもありますが」
「なるほど」
「そしてその威力ですが、溜め続ける事で徐々に上昇していき、最大で2倍にまで膨れ上がるそうです。それに要する時間は、研究所の検証によると、5秒だそうです」
「微妙に長いな……。ありがとう、参考にするよ」
「はいっ」
これは、弓で戦うとき限定だな。剣で戦うときは近接戦闘になるわけだし、目の前に相手がいる以上待ってはくれないだろう。
「ではご主人様。次に私が」
「ん」
「今回得られたスキルです」
アイラが俺の前にスキルを並べてくれる。
『デスクラブ』からは『剛力』『怪力』『鉄壁』『城壁』『統率』が4個ずつ。
『甲殻騎士』からは『身体強化Lv3』『剛力Ⅲ』『怪力Ⅲ』『鉄壁Ⅲ』『城壁Ⅲ』『体術Lv2』『槍術Lv3』『投擲Lv2』が1個ずつだ。
俺はそれらと全員のスキル状況を照らし合わせつつ、適度に配分していく。
「まずアヤネは『身体強化Lv3』を。それから『鉄壁』1個、『城壁』1個、最後に『統率』を3個使って」
「はいですわ!」
*****
名前:宝条院 綾音 年齢:18
身長:146㎝ 体重:35㎏ スリーサイズ:75/52/78
レベル:70
腕力:119(+45)
器用:234(+88)
頑丈:138(+12)(+52)
俊敏:232(+87)
魔力:816(+17)(+306)
知力:1045(+22)(+392)
運:10
装備:宝石のステッキ、ハイパープロテクター内蔵・新式オートクチュール
スキル:鑑定Lv3、鑑定妨害Lv3、金剛外装、身体強化Lv3、怪力Ⅱ、鉄壁、城壁、統率Ⅱ、炎魔法Lv3、風魔法Lv6、回復魔法Lv2、魔力回復Lv1、魔導の叡智(1/3)
*****
「アイラは『剛力』2個、『怪力』4個を圧縮してできた『怪力Ⅱ』、『鉄壁』3個、『城壁』2つを使え」
「はい、ご主人様」
*****
名前:犬柴 愛良 年齢:23
身長:170㎝ 体重:56㎏ スリーサイズ:90/60/89
レベル:174
腕力:1592(+14)(+531)
器用:1590(+12)(+530)
頑丈:1050(+350)
俊敏:2112(+14)(+704)
魔力:525(+175)
知力:530(+177)
運:6
装備:パラゾニウム、ライフスティール、カスタマイズハイパープロテクター(戦場のメイド仕様)
スキル:鑑定Lv4、鑑定妨害Lv4、身体強化Lv7、隠形、気配遮断Lv5、剛力Ⅱ、怪力Ⅱ(2/3)、金剛力、俊足Ⅱ、迅速、鉄壁Ⅱ、城壁Ⅱ、金剛壁、統率Ⅲ、予知、二刀流、剣術Lv4、暗殺術Lv3、投擲Lv8
*****
「最後に俺は、『Ⅲ』4種と『体術Lv2』、『投擲Lv2』をもらおうかな。『槍術Lv3』は、うーん……。マキ、いる?」
「いえ、遠慮します」
「ねえ、せっかく武器が出たんだしさ、ショウタ君が使いなよ」
そういってアキは、『甲殻騎士』が持っていた『激流の三叉槍』を指した。
名称:激流の三叉槍
武器レベル:32
説明:使用者の魔力を10消費して、武技スキル『激流槍』が使用可能。装備者の腕力にボーナス。
「武器レベル32か。装備するだけで武技スキルが備わってるってことは、これもアーティファクトってことで良いんだよな?」
こんな装備を宝箱からではなく直接ドロップするなんて、かなり強いモンスターだったんだよな。レベルだけで見れば『エンペラーゴブリン』と同じなんだけど、個体としての強さで言えば、『甲殻騎士』の方が圧倒的に上だ。個体としての強さが増すほど、身に纏う装備にも影響を与えているんだろうか……。
「はい。水の力を集めてレーザーのように放つなど、普通の武器では考えられませんし、武技スキルが備わっているアーティファクトは非常に価値が高いです」
「わかった。じゃあレーザーはまた後で試すとして……」
槍はアイラに収納してもらい、ついでに鎧も確認することにした。
名称:甲殻全身鎧
防具レベル:30
説明:着用することで全身が甲殻に覆われる寄生型の鎧。1度装着すると3日3晩脱ぐことは不可能だが、絶対的な防御力を有する。
「……なにこれ、呪いの装備では?」
「寄生型……? うえぇ、怖ぁ……」
「これもアーティファクトですね。欠点を除けば有用な装備であることは間違いありません。身に着けたいとは微塵も思いませんが」
俺もそう思う。
「アイラの攻撃すら弾く防御力ですものね。でもこれでは、お花を摘むこともできませんわ」
「というか、食事すら難しいんじゃないか?」
「どうやって生きていくんでしょう……?」
「とりあえず、これは有用ではあるものの『危険指定アイテム』に分類されるでしょう。食事や排泄がどうなるかは気になる所ですし、研究室送りが妥当かと」
「じゃ、それで」
いくらアイラの攻撃を防げる防御力だからって、こんな気持ち悪いの着ける奴なんているのか?
「さて、スキルの精算も終わったし、ガチャを回すとするかな」
「そういえば、今回で今のボックス分は引き切るんだっけ?」
「全部引くと光ると噂の。楽しみですわ!」
「あんまり、これ以上値上がりしすぎない事を祈るよ……」
今で単価4だから、最低でも回すのにレベルが41必要になるけど、単価がもしも8になったとすると、今後はちょっと回すペースが落ちそうなんだよね。前回の更新タイミングではレベルを41以上に上げるのはそんなに苦では無かったけど、今回はたまたまレベル1だったから爆上がりしただけであって、低レベル補正なしにレベル81を目指すのはかなり大変だ。
だってこの数日間、一緒に行動してきたアヤネでさえ、レベル70しかないんだから。いや、正確には『上級ダンジョン』の『エンペラーゴブリン』戦は入ってないけど。それにしてもだ。やっぱり、低レベル補正は偉大だな……。
「この要求量と成長具合から考えて、早い段階で単発ガチャが消えてしまったのは痛手ですね」
「そうだね姉さん。残っていればわざわざ貯め込まなくても、早い段階で消費できて楽だと思うのですが……」
アイラとマキが「10回ガチャ」のボタンを見つめながら愚痴を零す。
確かに、今となっては10回分貯めるまでもなく、高確率で『SR』が出て来てくれている。そう考えると今の「10回ガチャ」にメリットは少ないのかもしれない。
「けど、そうなったらそうなってたで、今と比べて何かしらのデメリットはありそうな気がするけどね」
例えば、単価が上がりやすいとか。もしくは在庫が毎回少ないとか。
どっちにしても怖いな。
「ま、気にしても仕方がないよ。とりあえず引くね」
『ジャララ、ジャララララ!』
出たのは、青1、赤6、紫2、緑1だった。
『R 俊敏上昇+12』『SR 腕力上昇+30』『SR 器用上昇+30』
『SR 頑丈上昇+30』『SR 俊敏上昇+30』×2
『SR スキル:投擲Lv1』『SSR スキル:跳躍Lv1』
『SSR スキル:魔力回復Lv1』『UR スキル:空間魔法Lv1』
*****
名前:天地 翔太 年齢:21
レベル:58
腕力:1257(+678)(+518)
器用:1199(+644)(+494)
頑丈:1206(+648)(+497)
俊敏:1253(+676)(+516)
魔力:1367(+745)(+563)
知力:1172(+630)(+483)
運:1716
スキル:レベルガチャ、真鑑定Lv2、鑑定偽装Lv1、自動マッピングⅡ、鷹の目(1/3)、金剛外装Ⅲ、身体超強化Lv2、剛力Ⅲ、怪力Ⅲ(1/3)、金剛力Ⅱ、俊足Ⅲ、迅速Ⅱ、鉄壁Ⅲ、城壁Ⅲ、金剛壁Ⅱ、統率、予知Ⅱ、二刀流(2/3)、体術Lv4、剣術Lv4、槍術Lv3、弓術Lv2、暗殺術Lv1、投擲LvMAX、跳躍Lv1、元素魔法Lv2、空間魔法Lv1、回復魔法Lv1、魔力回復Lv5、魔力譲渡、力溜め、破壊の叡智、王の威圧Ⅲ、スキル圧縮
武技スキル:紅蓮剣、紫電の矢
トロフィー:ホブゴブリン、黄金蟲
*****
アヤネが『統率Ⅱ』を覚えた事で、『統率』によるステータス上昇量が1・7倍にまで膨れ上がったか。ここまでくると、全員に『統率Ⅲ』を覚えさせたいけれど、それは流石に彼女達に嫌がられそうだな。特にマキは戦いの場に出るのが嫌みたいだし。この条件下で戦えるのは『ハートダンジョン』限定と考えるべきだろう。
それに、体感だが、今の俺ではこれらのステータスを十全に扱えている気がしないでいる。今までは、ガチャから出る増強アイテムで増えたステータスには、レアモンスターとの戦いで修練する事で身体を慣らしてこれたが、ここ最近は『統率』効果で俺のキャパを超えて来ている気がするんだよな。
ガチャは楽しいし、成長は気持ちいいけど、俺の身体がついてこなければあまり意味は無い。近い内にこのステータスを身体に馴染ませる時間が必要になりそうだ。
それはそれとして、また新しいスキルが出たな。『跳躍』と『空間魔法』か……。前者はその名の通りだけど、後者は何ができるんだろうか? 名前からは格好良い事だけしか分からないが、これもまた後で試してみよう。そうしてしばらく待つと、カプセルトイマシーンが光を放った。
「今度は何色かな」
皆の視線が集まる中、光が収まる。すると、いつものように筐体に変化が起きていた。今度は、赤から紫へと変化していた。
やはりこれは、『SR』から『SSR』になったということだろう。
「大人な色合いですわ」
「はは、そうかもね」
そして正面の張り紙だ。書かれている内容の一部が変化している。
『バージョンアップ! 出現する増強アイテムの効果が高まりました!』
『バージョンアップ! ガチャの消費レベルが4⇒6に上昇しました!』
『バージョンアップ! 「10回ガチャ」だけでボックスを消費した為、最大数が増加しました!』
『バージョンアップ! 所有者の運が規定値を超えたため、ガチャからRランクは廃止されました!』
『バージョンアップ! 規定回数バージョンアップを重ねたため、無料ガチャが実装されました!』
『10回ガチャはSSRランク以上が確定で3個以上出ます』
『ボックスの残り130/130』
「よし、セーフ!」
10回分の消費は60で済んだ。これは大きい! そして変化としてはいくつかあるが、まず『R』がガチャから出なくなったことか。ステータス増幅量が増えても、『R』は枠を1つか2つ潰すような状態だったからな。この変化はありがたい。
そして『SR』5個確定から『SSR』3個確定へ変化してくれたのも嬉しい。
んで、最後に『無料ガチャ』か。ボタンは、元々「1回ガチャ」があった場所に出現している。これは……1回しか使えないのだろうか?
とりあえず押してみるか。
「ぽちっとな」
出て来たのは、青色のカプセルが5個だった。
『R 腕力上昇+15』『R 器用上昇+15』『R 頑丈上昇+18』
『R 俊敏上昇+18』『R 知力上昇+15』
「わぁお」
無料というからには単発ガチャだと思っていたが、まさか5個も出て来るなんて。消費ガチャでの『R』が廃止になった代わりに、こっちに流れてきた感じなのかな。
そして『無料ガチャ』のボタンだが、色合いが暗くなり、押しても反応しなくなってしまった。
「使い切り……? いや、この場合条件付きか」
完全に使用不可になるのなら、最初にあった『1回ガチャ』のように、消えてなくなるはずだ。ならば、何らかの条件で復活すると思われた。
例えば1日経過するとか? そうなったらもう、実質不労所得のようなものだよな。
まあ、もしもその通りになったとしても、俺がダンジョンに入らないなんて、それこそありえないけど。1日に1回のペースで引けるのなら最高だけど、どうかなー。
ただ、今までもそうだったけど『R』からはスキルが出ない。現状ステータスは持て余してるから、このまま行くと扱えないステータスが増えるだけだな。このままステータスを腐らせる前に、なんとか対策を講じないと。
「この『無料ガチャ』が使える時は、自前のプランターから『黄金の種』の実を収穫するようなものね」
「その喩え良いね。実際そんな感じだと思うよ。ただまあ、際限なく使えるかは、再使用のタイミング次第だけどね」
『レベルガチャ』の筐体をしまうと、皆が自分の事のように喜んでくれる。
「それにしても、旦那様は、どこまで強くなるんでしょうか」
「この破格スキルを見る限り、際限なく強くなりそうですね」
「どこまで行けるか分からないけど、国内のダンジョンは全て制覇してみたいな」
「途方もない夢ですが……。ショウタさんなら可能だと信じています!」
「うん、全力で支援するね!」
「全力でついて行きますわ!」
「ああ、頼りにしてる」
さてと、ガチャは引き終わったけど、『投擲LvMAX』がどうなるか気になるんだよな。弓を手に入れてから……というか、それ以前からそもそも使用したことがほとんどないスキルなんだけど、進化できるかどうかは確かめておきたい。
「とりあえず圧縮を試してみるか」
【該当のスキルを圧縮成功】
【SRスキル『投擲LvMAX』を圧縮。URスキル『狩人の極意Lv1』に圧縮成功しました。以後、該当スキルは元のランクからは出現しません】
「『狩人の極意Lv1』……? マキ、データはある?」
「……ありません。秘匿スキルなのか、それともオリジナルのスキルなのか……」
「そっか。残念だけど、名前から察するしかないか……」
『投擲』の延長線上にあるものか、それとも別物へと変化したのか。
元のスキルをあんまり使っていなかった事もあって、何かしら投げたところで、どう変化したかなんて、読み取れなさそうなんだよな。取得したころに比べて、基礎的なステータスが馬鹿みたいに成長してるから余計にだ。
「元々がスキル名を宣言して発動するタイプじゃないから、パッシブスキルよね?」
「恐らく。『投擲』の上位互換という点も併せて考えると、ある程度の予測はつきますが……。ご主人様の『UR』スキルは大概が反則級ですからね。予想を超えてくるかもしれません」
「こういう時、『鑑定』は名ばかりで役に立たないですわねー。アイテムやダンジョンは名前しか分からず、他人の詳細を覗き見る以外に機能しませんもの」
『鑑定』か。確かに、名前負けしてるよな、このスキル。
「そうだね。『真鑑定』になった事でアイテムの詳細もある程度見れる様にはなったけど……。その内、魔法やスキルの詳細も見れるかな?」
「ショウタ君のスキルだもん。期待できるかも」
「楽しみですわ!」
「端末に載っているスキル詳細も、先人達が検証の末に発見した知識の積み重ね。ですが、それらは全て検証の過程で認識できたものに限られます。もし詳細な中身がわかれば、多くの人の助けになるかもしれません。……あ、でもショウタさんの安全が第一ですから!」
「うん、わかってる。自分の身を守れるよう、もっと強くならなきゃね」
でも、俺1人だけ強くなったところで限界はある。
一緒に戦ってくれるアヤネやアイラもそうだけど、支援してくれるアキやマキも、どうにか強くなって貰わなくちゃ。何かあってからじゃ遅いんだし。とりあえず、全員の『金剛外装』は急務だな。最低でも無印、可能なら『Ⅲ』を配りたい。
「それじゃ最後に、報酬にあったランダムボックスだけど……。アイラ、宝箱って確か金色だったよね?」
「はい、こちらに」
アイラがバッグから『金の宝箱』を取り出した。
「おおー。やっぱり宝箱を見るとワクワクするなぁ」
「ほんとショウタ君の『運』は凄いわ。こんなに毎日のように宝箱が拝めるなんて」
「それも『金の宝箱』ですからね!」
「上位の冒険者でも月に1度見つかればラッキーと言われるくらいなんですよ」
「旦那様、早く開けてくださいましっ」
「そうだね。中身はなんだろうなー」
宝箱の蓋をつかみ、パカリと開ける。
そこにあったのは1つのスキルオーブだった。
「……『泡魔法Lv1』?」
なんだこれ。ちらりとマキを見るが、彼女は首を横に振る。アイラも同じだ。
……ということは。
「またもや、完全に新種の魔法か。……アヤネ──」
「遠慮しますわっ!」
「まだ何も言ってないよ」
食い気味で返されてしまった。
けど、アヤネも俺が何を言いたいのかすぐに察したんだろう。
「この魔法は、旦那様が覚えてくださいまし」
「でも、魔法はアヤネの領分でしょ」
「そうですけど……。完全に新種の魔法への一番乗りは、やはり発見者である旦那様が受けるべき名誉なのですわ。わたくしが横から貰うなんて真似、できません」
そういうもんなのか? そう思って皆を見ると、頷き返されてしまった。
「そういうことなら仕方ないな。『空間魔法』を覚えたばかりなんだけど……」
とりあえず、有用かどうかを確かめるために後で検証するか。パッシブスキルとは違って、魔法は強く念じると、何ができるのかぼんやりと頭に浮かんでくるものだ。だから、実験はすぐにできるだろう。
「じゃ、俺は外で試して来るから、皆は服を着替えててくれる? そろそろ帰る支度をした方が良いし、ダンジョンにも時間の概念はある。真夏でも、日が暮れれば冷えるしね」
「着替えは見て行かれないのですか?」
立ち上がった俺を引き留めるように、アイラが隣に立ち腕を掴む。
「……何をさも当然のように言ってるのかな、このメイドは」
「だ、旦那様なら大歓迎ですわ!」
「大歓迎じゃない子もいるんだから、そんなこと言わないの」
アキとマキが何か言いたそうにしてるけど、それはまだ早いと思うので足早にテントを出ていく。そしてそのまま、波打ち際へとやって来た。
「さて、まずは……」
2つの魔法でできる事を改めて思い浮かべてみる。すると、魔法名と共に、簡単な効果が頭に浮かんだが……。どちらも使い道がよくわからなかった。
「『空間魔法』は空に透明の足場を作る能力? 効果はわかりやすいけど、たった2枚しか作れない上に、再使用に数秒かかるんじゃ、用途が無くないか……?」
その後、乗ったり殴ったりと色々してみたが、同時に呼び出せる枚数が2枚しかないのでは、使える場面が限定的過ぎた。その上、乗る分には申し分なくとも結構脆いので防御には使えそうにない。使い道が浮かばない以上、俺はもう1つの魔法について考える事にする。こっちは、せっかく『金の宝箱』から出たんだしな。
「バブルアーマー」
魔法名を呟くと、俺の身体を泡が包み込んだ。正確には、空気の膜のようなものに覆われた。『金剛外装』と似たような感じだな……。ここまでは頭に浮かんだ通りの結果になった訳だが、いったいこれは、何ができるんだ?
防御能力の向上? いや、わざわざ泡と銘打った魔法だ。そんな効果とは思えない。
「……あ、そうだ」
前方に広がる、青い海が視界に入った。俺は勢いよく海に身を投じた。
◇
新種魔法である『泡魔法』により発動した、バブルアーマーという魔法。
この魔法は、海の中でも呼吸ができるという優れモノだった。どうやら、俺の身体を包むように展開されている膜の内側では、必要分の空気が供給されるようで、いくら水中で呼吸をしても萎んだりすることは無さそうだった。俺の魔力を消費して、必要分の酸素なんかを生み出し続けているのかもしれないな。
この魔法の第2の効果として、水中であれば自在に浮き沈みを調整できるようだった。俺は今、自分の意思一つで海底に足を付けたり泳ぎ回れたりと、自由自在だった。まるで宇宙空間にいるような感じだな。
「これは便利な魔法だな。普通に喋ることもできる。……あとは、同じ魔法を覚えてる人と会話ができるかどうかだけど……。そこは、また宝箱からのドロップを狙うしかないよな」
童心に帰って水中散歩を楽しんでいると、マップに2つの変化があった。
1つは、突如として緑の点が出現したのだ。場所としては俺の現在の場所から10mほど前方。緑色の点は宝箱を意味するが、日の光が入らない程薄暗い海底に沈んでいるのだろうか? どんなに目を凝らしても、目的の物が視界に入る事はなかった。
そしてもう1つは、人間を表す4つの白点だ。位置と数から考えて、間違いなく俺の恋人達なのだが、何やら急にテントの周りをグルグルしたり、散り散りに……。
あっ!
俺が居ないから心配してるんじゃ──。
『ザポンッ!!』
そう思った矢先、背後に何者かが飛び込んできた。振り返ってみれば、水着姿のアイラがそこにいた。目が合ったので、とりあえず手を振っておく。
「……仕方のない人ですね」
そんな事を言っているような、呆れ顔をされてしまった。
彼女は水を蹴って浮かび上がっていく。恐らく、俺の無事を伝えるためだろう。
俺も早く浮上して、彼女達に無事を伝えるべきなのだが……。それよりも宝箱が気になる。怒られるのは覚悟して、もうちょっとだけ探索しよう。
皆には悪いけど、もうちょっとだけ俺の帰りを待っててもらおう。
◇
海から出てきた俺は、バブルアーマーを解除して彼女達に駆け寄った。
「ごめん、心配かけたね」
「全くよ! テントから出たらいなくなってたんだから!」
「心臓に悪いです……」
「ほ、ほんとごめん……」
若干涙目のマキを見て、心臓がキュッと締め付けられた。今回は、間違いなく俺が悪いよな。ちょっと楽しくなっちゃって、気が付いたら10分以上海の中を散歩してたみたいだし……。
「お詫びに、ちょっとデートしよっか」
そう言って、アキとマキ、2人の腰を抱き寄せる。
「え?」
「ショウタさん……?」
「わたくしも行きたいですわー!」
「うおっ」
アヤネが背後から抱き着いてくる。2人を両手に抱えた状態ならなんとかなるかなと思ってたけど、アヤネも交ざるとなると……。いや、彼女は小柄だから、ギリギリセーフかな?
一応、アヤネとは後でアイラと一緒に行くつもりだったんだけど……。ちらりとアイラを見るが、彼女は水着姿のままだ。
「私の事はご心配なく。水中でも戦えるくらいには呼吸が続きますので」
「どんな肺活量してんの?」
「ご主人様も、もうそれくらいはできるようになっていますよ。ステータスは、モンスターと戦うだけの名ばかりの物ではありませんから」
「あー……。じゃあ、アイラはそのままついてきて」
彼女が頷いたのを確認し、バブルアーマーを使用した。
薄い空気の膜が、俺達4人を包み込む。
「俺から離れないようにね。じゃ、海中デートにしゅっぱーつ!」
ダンジョンの海と聞いて、まず最初に考えた事は、魚介類はいるのかどうかだった。
その疑問は、先ほど散歩し始めた時に解消された。俺達が泳いだり、ビーチボールなどで遊んでいた浅瀬には他の生命活動は一切感じられなかったが、ひとたび深い場所に足を踏み入れると景色が一変したのだ。
周囲を色とりどりの魚が遊泳し、足元には鮮やかなサンゴ礁が広がっている。その光景に彼女達は目を輝かせた。
美しい光景は人の心を奪い、手に取れる近さにあると、つい手を伸ばしてしまうものだ。だから、俺の首元に添えられた小さな2つの手と、胸元に添えられた4つの愛らしい手。その内の2つが離れた事を知覚した俺は、すぐに呼びかけた。
「アヤネ、アキ、ストップ」
「ふぁっ」
「にゃ!?」
「この膜は、俺の周辺を包み込むようにして維持されている魔法なんだ。だから、不意に手を伸ばされると泡が割れる可能性がある。気持ちはわかるけどね」
「あわわ、ごめんなさいですわ!」
「ご、ごめん……」
「別に怒ってないよ。その代わり密着してくれると嬉しいな」
「「「はいっ」」」