
話し合いをした六日後の午前中。私は体術のみで獣人たちと七人連続戦っても余裕になっていた。
「ゾルガが来た!」
大きな角を生やした獣人が慌てて訓練場に飛び込んで来た。とうとうこの時が来たのだ。
防衛隊の皆と一緒にメインハウスの外にある大きな広場へ向かうと、
珊瑚は赤い模様なのに対して、瑠璃は青い模様が顔に入っているのがわかる。珊瑚を保護した時より明らかに元気がない。すぐに助けてあげたい気持ちをグッと堪え、他の獣人たち同様に無言でその場に立つ。
その場にはハグワール氏たちも勿論いた。ゾルガ側の騎士姿の男二人が三つの木箱を下に二つ、上に一つになるように積み上げる。
なにをするのかと思っていると、派手な服装の小太りの男がその上に乗り、手に持っていた書状を広げた。
【偉大なるゾルガ王国の国王から
読み終えた小太り男は満足そうにゆっくりと書状を丸め、箱から降りると、その書状をハグワール氏へ手渡した。そして再び箱の上に乗ると大きな声で話し出した。
「戦力になりそうな獣人は全て偉大なるゾルガ王国へ連れて行く。そこの猿と同等、もしくはそれ以下の弱い獣人はいらん。老人子供もいらん」
そこの猿と言われたのはホウツ氏だ。彼は無表情のまま後ろの方へ下がった。
「あと耳の生えた女の獣人たち、前へ出ろ。いいか、獣の姿になったりするなよ。耳を出せる女は皆、その姿で出て来い」
小太り男の言葉に
『ああ、気持ち悪い、ぶっ飛ばしちゃいたい』
心の中で軽く叫びつつも澄ました顔で立ち続けていると、何人かの女性が選ばれ騎士たちに馬車へと連れて行かれる。
あれ? これって呼ばれない可能性もあるのでは? 呼ばれなかった場合を想定してないけど? 一向に呼ばれる気配がなく背中に変な汗が流れる。一応本物の耳なんだけどな、獣人じゃないってバレてる? それとも見目がいいに入らないってこと? 呼ばれない時はどうするべき? などとぐるぐる考えていると「最後に」と小太り男がなにかを言った。
ああ、ヤバい、選ばれなかった。こうなったらもう無理矢理乗り込んじゃおう。そう結論付けたところでなんだか視線を感じる。
周りを見ると皆が私を見ている。ん? どうしたの? 状況が飲み込めずキョロキョロしていると、小太り男の声が響いた。
「おい! そこの金髪、おまえだ!」
「私?」
「そうだ、おまえだ。早く来い!」
ああ、よかったぁ。呼ばれたよぉ。安堵したせいで顔がにやける。私を連れて行こうとした騎士が、気味悪そうに私から目線を外したけどそんなのはどうでもいい。呼ばれなかったなんてことになっていたらクストーデになんて言われるかわかったもんじゃなかったもの。
足取り軽く騎士と歩き出すと背後でククっと小さく笑う声が聞こえる。振り返るとハグワール氏が拳で口元を隠しながら、もう一方の手を一瞬だけ上げた。
だから私も前を向いたまま右手をひらっと軽く振り馬車へと向かった。
半日以上
「しぃ」
人差し指を口に当てながらもう一方の手に魔力を溜める。なるべく光らないように気を付けながら聖魔法を馬車一帯に流した。
これでレディたちのお尻は守られたと小さくガッツポーズを決めていると、到着したのか馬車が停まる。御者がなにか
馬車を覆っている布をそっと捲り外を見てみるが、本当に王都なのかと疑いたくなるくらい寂れている。それでもいくつかある屋台で売られているのは魚ばかりで、たまに
ベスティエとの物々交換もこんな状況であるはずもないし、他の国とは交流さえしていない。魚ばかり食べているのだとしたら体調を崩す人も多いのではないだろうか。
目を逸らしたくなる現状の王都を抜けると、いきなり別世界になる。
豪華
『よし、これが終わったらこの城、壊しちゃおう』
それはもうドッカーンと壊してしまおうっと。私は新たな誓いを立てたのだった。
馬車から降ろされると、連れて来られたのは謁見室。どこもかしこも華美な装飾が施されていて下品なことこの上ない。
「陛下、獣人たちを連れてまいりました」
あの小太り男が恭しく頭を下げた先にいたのは、これまた華美な装飾の玉座に座った小太り男。ん? あれ? ドッペルゲンガー? 似てない?
私を連れて来た小太り男と陛下と呼ばれた小太り男のこの二人。よく見れば顔は少し違うけれど、体型はもう双子と言っても過言ではない。
陛下と呼ばれた方の小太りの頭にはこれまた華美な……はぁ、もう同じ説明面倒臭い。重そうな王冠を載せている。そのまま押しつぶされてしまえばいいのに。
そして小太りの周りにはベリーダンサーのような衣装を身に纏ったドヴァーの人たち。けれど何故か皆手錠をかけられ、口には猿ぐつわを噛まされているのだ。一緒に連れて来られたドヴァーの人たちが、彼女たちの酷い姿を見て助けようと立ち上がりかけた……が、王の傍に設置されている台座には瑠璃が入ったケージがあり、それを指差した王ではない小太り男が言った。
「こいつが木っ端微塵になるぞ」
悔しそうに動きを止めるドヴァーの人たち。そんな彼女たちを見ながら小太り男と王がヒャハハと下品に笑う。
「どうしてそのような酷い仕打ちをなさるのです!?」
我慢出来ず一人のドヴァーの人が聞いた。白い翼を持った美しい人だ。
「どうして? おまえたち女の獣人は意にそぐわないことを強要すると、すぐに死のうとするだろ? せっかく私のコレクションに加えた女たちをそんな簡単に死なせたくはないからな」
それだけ言った王はすぐ右横にいる長い耳の女性にワインを注がせた。
「まあ心配するな。あと少しで外せるようになる」
外せるようになる? どういうことだろうか? 死なせずとも思い通りにさせることが出来る方法があるということ?
一瞬〈魅了〉の言葉が頭に浮かんだけれど、それはないと否定する。
仮にあんな小太りに魅了の力があったら、今すぐにでも神様にクレームを入れてしまう自信がある。
「それは何故ですか?」
気を取り直し、後ろの方にいるのをいいことに質問の言葉を投げかけてみると、王はまたヒャハハと笑いながら楽しそうに答えた。
「それはだな、もうすぐおまえたちの行動を制御出来るようになるからだ」
おバカな王様、情報をありがとう。行動を制御出来るとなると魔道具だろうか。そうだとしたら魔力を持たない獣人にとっては、どんな粗悪品であろうと抗うことは出来ない。
もしかすると男性の獣人たちも魔道具をつけられてしまうかも。
「まあ、それまではおまえたちには、しばらく檻の中で生活してもらうことになるがな」
ゾルガ王が小太り男に指示を出すと、玉座の背後に下げられている
「ここに入れておけばいつでも眺められる。制御出来るようになれば出して可愛がってやるからそれまでは大人しくしているんだな」
ヒャハハと下品な笑いを聞きながら次々と檻に入れられていくドヴァーの女性たち。爆弾はついていないようだしこれならすぐに壊せそう。そう思いながら後に続く。
けれど、何故か檻の手前で呼び止められてしまう。
「ああ、おまえはこっちだ」
小太り男が今度は玉座の横の緞帳を開く。するとそこには金色の鳥籠があった。騎士に連れられあれよあれよという間に鳥籠に押し込められ、ガチャリと施錠する無情な音が響いた。
「え? なんで?」
自分の処遇に驚いて素が出てしまっている私に、小太り男が籠の向こうからニヤリと笑って言った。
「おまえ、聖女なんだろ? 金色の長い髪に紫色の瞳といったら一人しかいなかったからな。すぐにわかったぜ。この檻は魔力に反応して電流が流れる仕組みだ。しかも相当な電流量だ。下手なことをすれば丸焦げだぞ」
言い終わるとガハハと笑って去っていく。そして今度は王である小太り男が近付いてきた。
「ガンドルフィンに現れた聖女とはおまえのことか?」
「……」
なんとなくイエスとは言いたくなくて黙ってみるけれど、関係なく話は続く。
「噂通り美しいな。これはあの忌々しい王太子が婚約者にするわけだ。あの小僧の婚約者を手に入れられたのは幸運だったな。これはやはり、偉大なゾルガ王国の王である私が世界を手に入れる運命だということだろう。ふっ、無事世界を手に入れた
なんか勝手に野望を語ってる。本当におバカさんだわ。調子に乗っている王はさらに続けた。
「それよりその耳はなんだ? 聖女は獣人だったのか?」
そう言いながら中に手を突っ込んでくる。でも小太りだから腕の半分程のところで、柵につっかえていた。それでもギリギリ届いたその手は、勢いのままに私の頭の上の耳を引っ張った。
「なんだ、作りものではないか。つまらん。だがこれをつければ聖女も獣人のような見た目になるのか、そうか。これはいずれまた使う時がくるかもしれないから、私が預かっておくとしよう」
すっぽりと取れた耳を見ながら王は嬉しそうにしている。
『付け耳に替えておいてよかったぁ』
心の底から安堵した私。実はこんなこともあろうかと幌馬車の中で自分の耳を引っ込めて、あらかじめ用意していた付け耳に変えていたんだよね。あんなに嬉しそうに持って、王様自分で付けてみちゃったりして。想像したら身体が震えた。怖いったらないわ。
「陛下、夜食の準備が整ったそうです」
入り口付近で扉の外側にいる人物となにやらやり取りをしていた先程の小太り男が、食事の時間だと王に告げた。夜食って……ベスティエからここまで半日は経っているとなると、今は夜の十時を軽く回っているはず。それなのにこれから食事? しかも夜食と言うってことは既に夕食は終わっているということ。
そりゃあんな体型にもなるはずだ。
「お、そうか」
夜食と聞いて、嬉しそうに立ち上がった王にこちらから話しかけてみる。
「王様、偉大なゾルガ王国が世界を手に入れる為になにをするのですか?」
ぶりっ子のように声のトーンを上げ上目遣いで王を見てみた。そんな私の腕は鳥肌が立ちまくりだ。けれどここで聞いておかなければと目をパチパチして王を見つめる。
振り返り私を見た王は、偉大と言われたからかはたまたぶりっ子な私に気をよくしたのか、どちらかはわからないけれどそれはもう得意げに一言だけ言って部屋を去って行った。
「戦争だ」
瑠璃を入れたケージを持った小太り男も、こちらをニヤニヤとした顔で見てから王の後に去って行った。
本当におバカな王様だ。
「さて、どうしよっかな?」
誰も居なくなった部屋で独り言のように呟く。ゾルガの人間がいなくなった謁見室は、玉座を照らす仄かな灯りがあるだけで暗い。怯えてしまっているのか、檻に入れられたドヴァーの人たちの声は全く聞こえない。立ち上がって鳥籠をぐるっと見回してみる。本当に魔力に反応して電流が流れるのかしら? 試してみたいけれど、流石に本当に電流が流れたら
「これならどうかな?」
少し下がってから柵を蹴ってみた。パンツ姿にしておいてよかったと思いながらもう一度、今度は息を吐き出し思いっきり蹴ってみる。けれど鈍い音がしただけで壊れることはなかった。流石に自力での脱出は無理らしい。
「うーん。あとどのくらいかなぁ」
服の中から首に下げていた懐中時計を取り出して時間を確認すると、もう夜の十一時を回っている。取り敢えず今夜はもう寝よう。疲れもあったのか横になった途端に眠気がやって来て、鳥籠の中で私はぐっすり眠ったのだった。
「お嬢様」
どれくらい眠ったのか、メリーの声に目が覚める。
「ん、あれ? メリー?」
「はい、お待たせいたしました。準備が整いました」
実はメリーには、私たちと一緒にゾルガ王国に入ってもらっていたのだ。黒い衣装を身に纏い、背後に仄かな灯りを背負ったメリーはゾクゾクするくらい綺麗だった。
「メリー、ガエターノ様と結婚してからますます綺麗になってない?」
唐突に自分の夫の名を聞いたせいか、一瞬だけメリーが固まった。
「お嬢様、まだ寝ぼけてらっしゃるのですか?」
それでもすぐに冷静になったメリーは、何処から取り出したのか細い針金を手にしている。そして
「やっぱりメリーは凄いわね」
なんでも出来ちゃう私のメリーはやっぱり最高だわと思っていると、暗がりから黒い物体が出てきた。
『その姿は是非エンベルトに見せてやらねばな』
頭の上にぷにちゃんを乗せたクストーデだ。鳥籠に入っている私を、それはそれは面白そうに眺めている。
「いきなり暗がりから出て来ないでよ。怖いでしょ」
文句を言いながら鳥籠から出ると、ぷにちゃんが私の肩に飛び乗りプルプルしながら頬に
「ふふ、寂しかった? 私も寂しかったわ」
指先でぷにちゃんを撫でながら、状況の確認をする。一気に始めなければいけない。失敗は許されないのだ。
「瑠璃の居場所は?」
まずは一番最初にやるべきことは、囚われている聖獣の救出。ゾルガの王が連れて行った後、何処へ隠したのかを私が囚われている間に、クストーデに頼んで探してもらっていたのだ。
『ああ、騎士団の物置のようなところにいる。数人で見張っている状態だ。厄介なのは粗末だが結界が張ってある。あれは破ると知らせがいくようになっているようだな』
なるほど。王はバカでも仕えている人間はバカな訳ではないと。
「じゃあ、始まったらまずは瑠璃の救出ね」
その前に今はやるべきことがある。私は玉座の裏に行きそっと緞帳を捲った。ずっと起きていたのか、それとも私たちの話し声で目が覚めたのかわからないが、中にいた獣人たちは皆起きていた。思ったよりも落ち着いているようだ。
「皆さん、絶対に助けるので少しだけ待っていてください。それと、逃げる為にもまずは体力をつけなくちゃいけませんよ」
空間魔法で前以て用意していたサンドウィッチやフルーツを柵の隙間から渡していく。
「奴らが戻って来る前に食べてしまってください。食欲ないかもしれないけれど、すぐに動けるように無理にでも食べてくださいね」
笑顔を向けながら言うと、皆頷いて食べ出してくれた。
「よし、じゃあもう少し待つわね」
私は再び鳥籠に入る。今度はクストーデとぷにちゃんも一緒に鳥籠の中へ入ってもらう。私たちが入ったことを確認したメリーは、南京錠を施錠して暗闇の中に消えていった。
「さてと」
懐中時計を引っ張り出して見てみると五時を少し過ぎたところだった。あと少しで夜明けだ。
「ふふふ、楽しみだねぇ。全力でぶっ飛ばそうね」
二匹に向かって声をかける。万が一を考えて二匹には認識阻害の魔法をかけた。本格的に動くまではまだ少し時間がある。私は膝を抱えたまま少しだけと目を閉じた。
「ぷに! ぷにぷに!」
あれ? なんだか呼ばれている気がする。でも私、大食い大会に参加しているから忙しいんだよね。早く食べないとクストーデに取られちゃう。
「ぷうに―――!」
ぷにちゃんの魂の叫びが耳元で響いて目を覚ます。
「あれ? いつの間にか寝ちゃったわ」
ぷにちゃんが身体を膨らませて怒っている。それ、可愛過ぎだよ。身体を起こしたすぐ横ではクストーデがまだ眠っていた。
『アリー、それは我のだ。お主のはこっちの固いパンだ』
ん? もしかして同じ夢見てる? 夢で共演していることに笑いつつクストーデを起こすと『食事の時間か?』とまだ寝ぼけている。いやいや、今夢の中で散々食べてたよね。人の腕の中で、覚醒出来ずにぐでんとしているクストーデを揺らして目を覚まさせていると、突然ドーン! というもの凄い音が鳴り響いた。
『ん? 始まったか?』
目を
「ちょ、あなたたち認識阻害消えてるって」
幸いにもここにはまだ誰も来ていないようだけれど、いつ小太りたちが来るかわからない。
けれど返ってきた
『もう始まってるのだからいい』
言われてみればそうか。だったらもう大人しくしている必要もないよね。
「じゃ、そろそろ動き出そう」
そう言った時だった。ドゴーンッ!! と再び大きな音がしたと思ったら謁見室の扉が木っ端微塵に吹き飛んだ。
「アリー!!」
粉塵が舞う中、白い魔馬に乗って颯爽と現れたのは言わずと知れた人物だ。後ろには赤い魔馬に乗ったお兄様もいる。
「ルト、お兄様」
もうなにこの二人。ヒーローじゃん、王子様じゃん。ってルトは本当に王子様なんだけど。
柵に手をかけ二人を呼ぶと、ルトもお兄様もこちらを見た。
「アリー、無事です……」
魔馬から降りて私の方へ駆け寄るルトの言葉が途中で消える。そして何故か震えながらこちらを指差した。
「それ、は?」
「それ?」
ってどれ? 周辺をキョロキョロしてみるけれど、特に変なところはない。強いて言うなら何故かクストーデが大爆笑しているくらい。あれ? お兄様も笑ってる?
ガタガタと震えながら固まっているルトに、爆笑しているクストーデとお兄様。理解出来ないこの状況にポカンとするしかない私は、説明を求めてルトに声をかけた。
「ルト、どうしたの?」
我に返ったのかハッとするルト。
そして次に私を見たルトの顔は鬼の形相をして歪んだ笑みを作っていた。
「アリー、ゾルガの王ですか?」
「な、なにが?」
ルトの形相が怖くて咄嗟に後退りして逃げようとしたけれど、鳥籠の中ではもうこれ以上どうすることも出来ない。気が付けばルトは籠の真ん前に立っていた。
「これですよ」
「これってどれ?」
それだのこれだのと、さっきから抽象的な言い方じゃなくちゃんと言って欲しい。口を尖らせながら軽く睨んでみても、恐ろしい笑みが深くなるばかり。
「もうなに? それとかこれとか。どれよ?」
理不尽に感じてきてイラつく気持ちのまま口を開くと、ルトが鳥籠の柵をガッと掴んで言った。
「これですよ。このト・リ・カ・ゴです」
途端にルトの魔力が膨らんだのがわかった。
「やばっ」
慌ててぷにちゃんとクストーデを腕の中に隠す。その直後、ガッシャーン!! という大きな音と共に鳥籠が見事に破壊された。それどころか玉座も粉々に砕け散り玉座の裏にあった檻の前方もパラパラと音を立てながら、元がなんだったかもわからないくらいになっている。幸いにもドヴァーの獣人たちにケガはないようだけれど、彼女たちはなにが起こったか理解出来ないと言う表情で立ち尽くしていた。
『魔道具を壊しておいてよかったな』
私の腕の中から顔を出したクストーデが惨状を見ながら言った。
「本当に……鳥籠への執着の恐ろしさを甘くみてたわ」
クストーデの言葉に賛同しつつ、あの時の選択が正しかったことに安堵する。実はクストーデとぷにちゃんに一緒に鳥籠に入ってもらったのは他でもない、魔道具を壊すためだったのだ。クストーデに匂いで魔道具の
「焼きドラゴンにならなくてよかったわね」
『互いにな』
なんて冗談まで言っちゃってる私の目の前では、未だ理性がぶっ飛んだままのルトがいる。
「私のアリーをよくも」
謁見室を壊しただけではルトの怒りはおさまる様子がない。肩を震わせ尚も魔力を膨らませている。このままではこの城を壊すのはルトになりそうだ。
けれどそんな姿に、不謹慎だと思いながらもちょっとだけときめいてしまう。だって私が監禁されているのを見て、こんなにも怒ってくれているのだ。
「ルト」
私への愛情を実感しながら抱きつこうとした私は手前で動きを止めた。ルトがまだなにかを呟いていることに気付いたから。
「よりによって鳥籠などと。アリーを鳥籠に閉じ込めるのは私でなければならなかったのに……あの愚王」
その瞬間、私とクストーデ、そしてぷにちゃんの顔がチベットスナギツネになったのはいうまでもない。私が閉じ込められたことより、閉じ込めていた物が気に入らないって……執着にも程がある。
「はぁ、もう瑠璃のところに行こう」
『だな』
「ぷに」
ルトを放ってお兄様に瑠璃の救出に行くことを伝えようと側に行くと、お兄様のマントの中から珊瑚が顔を出した。
「珊瑚? 一緒に来たの?」
瑠璃を助け出すまでは危険だからと、ガンドルフィンで
「どうしても瑠璃を助けたいと言うから、殿下と私の傍から離れないという約束で連れて来たんだよ」
確かにお兄様の元にいるのが一番安全だろう。魔馬の上でプルプルと身を震わせ毛並みを整えた珊瑚は、私の胸に飛び込んで来た。
『僕なら近くまで行けば、瑠璃の居場所がはっきりわかります。だから僕も行きます!』
兄弟想いのとてもいい子だ。けれどちょっと重い。クストーデと珊瑚で何キロになるんだろう? 右腕にクストーデ、左腕に珊瑚を抱きながら身体強化した方がいいかもと思っていると、扉が破壊されポッカリと空いた入口から真っ黒の魔馬が飛び込んで来た。銀色の
「え? どうして?」
私を見つめるエメラルドの瞳。間違いない、学校で世話をしている魔馬だ。会えたことが嬉しいのか、私の頬に全力で擦り寄ってくる。
いるはずのない魔馬がいることに戸惑っているとお兄様が答えを教えてくれた。
「私たちがゾルガに向かおうとすると、どういう訳か学校を脱走して城まで来てしまったんだ。もしかしたらアリーを心配していたのかもしれないね。それにしても、騎手は何処に行ったんだろう?」
騎手? この子に乗って来た人がいるということなのかなと首を
「ああ、やっぱりアリーだったかぁ。突然、跳ね出して凄いスピードで走り出すから飛ばされちゃったよ」
腰を押さえながら笑っているセヴェリンに慌てて聖魔法をかける。
「ありがとう、よかったぁ。腰が痛いまま戦うところだった」
相変わらず暢気な空気を
「フフ、セヴェリンも来たんだね」
「うん、父上もいるよ。二人でワクワクしながら来たんだ。新しい魔道具を試せるチャンスだってね」
魔術師団の実力者二人が来たわけだ、これは心強い。
「魔道具ってどんな?」
「フフ、知りたい? これだよ。このボールなんだけどね」
期待を込めて聞いた私に、セヴェリンは楽しそうにポケットから小さなスーパーボールのような物を出す。
「相手に投げるだけで一瞬にしてぐるぐる巻きに出来ちゃうんだ。しかもどんなに抵抗しても魔法を使っても、絶対に解けることがないんだよ」
「へ、へえ」
そういうのも作ってるんだ。もしかして今日の為に作ったのかな? もっとこう、広範囲になにかをするような道具を想像していたからか、ちょっと気が抜けてしまう。
けれどそんな私に気付くことなく、セヴェリンはその魔道具を二つ私に渡してきた。
「アリーにもあげるね。相手に向かって投げるだけだよ。相手のどこでもいいから当ててね。あっという間にぐるぐるだから」
「ありがとう、セヴェリン。せっかくだから試してみるね」
戸惑いつつもボールを受け取りパンツのポケットに入れると、ぶつぶつ言っていたはずのルトが突然大きな声で叫んだ。
「ゾルガの愚王はどこです!? 八つ裂きにしなくては。いえ、八つ裂きだけで済ませはしませんよ!」
そう言っているルトの周りに真っ赤なオーラが見える。