「フフ、可愛い」

 そう呟いたのは無意識だった。なんの他意もない。けれど、ルトにはどうもよくない方向に刺さってしまったようで、照れていたはずの表情が一瞬のうちに悪戯めいたものに変わった。マズイと思った時には再び目元を覆われてしまい、視界が塞がれる。ベッドで横になっている私の脇辺りのマットが、重みが加わったように沈み、微かにきしむ木の音がやけに耳に響いた。

「大人の男に対して可愛いとは。随分と余裕があるようですね」

 挑発的な声色が耳元をくすぐった次の瞬間、おでこに柔らかな感触を感じた。次は頬、その次は顎、鼻先。次々とキスの雨が降ってくる。視界が覆われているので何処にキスされるのかわからない。そのせいなのか心臓の鼓動がいつも以上に激しい。まるで心臓の中に鳥が何羽もいて一斉に羽をばたつかせているようだ。いつ終わるとも知れないキスの雨に身を固まらせていると、唐突にそれは止んだ。

『終わったの?』

 安堵した私の首筋に小さな刺激が走った。甘噛みされたらしい。予想もしていなかった場所の刺激に勝手に身体が跳ねた。私の反応に気を良くしたのか、ルトは微かに声を出して笑った。

「フフ、アリーの方が可愛いです」

「もう。いい加減には――」

 放してと続けるつもりだったのに、続かなくなる。触れただけのキスが深くなるのはすぐだった。

 息も絶え絶えになった頃、やっとルトが離れた。荒くなった息を整えつつ視界が開けたことに安堵しているといつもの通り、ぷにちゃんがルトの顔面に貼り付けているのが見えた。しかもルトの肩の上には、大きな欠伸あくびをしながらクストーデがぶら下がっている。

『お主は毎度毎度、よくもまあ懲りないものだな』

「あなた方も毎度毎度、本当にいいところで邪魔をしてくれますね」

 呆れた声色でバカにするクストーデに、ぷにちゃんをベリリと剥がしながらルトが文句を返している。そんないつものやり取りに、声を出して笑ってしまう。

『やっぱりこの世界にいる私は幸せよ』

 聞こえる訳はないけれど、ルトに向かってそっと心の中で呟いた。