
その日の夜は、中庭に食事の席が設けられた。
なんでも春の終わりから夏にかけて咲き誇る花木があるらしく、照明に照らされなんとも幻想的な世界を作り出すとのこと。是非その美しい景観の中での食事を楽しんで欲しいそうだ。
アルーバ神国は夏でも避暑地のように過ごしやすいが、陽が落ちる頃には肌寒くなるのでドレスの上にショールを掛けて中庭へ向かう。目的の場所は中庭の奥にありガラス張りのサンルームのような造りだった。けれど不思議と外からは中の様子が見えないようになっている。
「なんだかワクワクしますね」
私をエスコートしてくれているルトの表情は、言葉の通り本当に楽しそうで私まで楽しくなる。なんだかプレゼントを開ける前のような、そんな気持ちを感じながら足を進めているうちに入口が見えてくる。そこでは既にクレート王太子と王女が待っていて、笑みを浮かべていた。
「皆様お揃いですね。では早速、我が国の自慢である美しい〈
王太子本人が扉を一気に開けたそのすぐ先には、一面の淡いピンクの世界が広がっていた。
天井にはガラスがなく、ライトアップされた淡いピンクの隙間から星たちが輝く夜空が見え、なんとも言えないコントラストを生み出している。
「これは……」
「綺麗……」
誰ともなく感嘆の声が漏れる中、私は金縛りにあったかのように身体が動かせなくなってしまった。だって、目の前に広がっているそれは前世でよく見た世界だったから。
前世で何度も訪れていた大きな公園。父の会社から少し歩いた先にあり、ビル群に囲まれた中の憩いの場所のような存在だったように思う。周辺で働いている人々は勿論、それ以外の人々も多く訪れる場所で、いつも
その公園にはたくさんの桜の木が植えられていて、春になると一斉に咲き乱れ、それはそれは美しい風景を作り出す。夜にはライトアップもされ、昼間とはまた違った美しさで人々を楽しませていた。
そんな中での家族揃ってしていたお花見は、毎年の恒例行事の中のひとつだったのだ。もう思い出すことの方が少なくなっていた前世の記憶に懐かしさと切なさが込み上げてくる。
「アリー、どうしました?」
優しい囁きと共に、ルトの指先が私の頬に触れた。そこで初めて気が付く。私は泣いているのだと。
「……あまりにも美しくて」
なんとかそれだけ言ったけれど、次から次へと涙は溢れてきて止まってくれない。アルーバ神国に来て所々で日本を感じていたクライマックスが、これぞ日本といっても過言ではない桜だったからかもしれない。
『桜ってこんなに綺麗だったんだ』
そう思うだけで涙が止まらない。
そんな私の肩をルトが抱き寄せた。ぷにちゃんも慰めてくれているのか私の頬にスリスリしてくれ、ルトの肩に乗っていたクストーデは私の腕の中に収まると、魔力を流してくれた。ルトの温もりとぷにちゃんの柔らかさ、そして体内を流れる優しい魔力に満たされたお陰で
それでも視界一杯の桜の世界から目を離すことが出来ないでいると、クレート王太子が私たちの側に来て微笑んだ。
「聖女様に感動していただけて喜ばしい限りです」
「泣いてしまうなんて、お恥ずかしいです」
冷静を取り戻した今、恥ずかしさで顔を覆ってしまいたくなる。そんな私に王太子は首を横に振った。
「いえ、聖女様の心に響いたのであれば、桜花たちも誇らしいと思うでしょう」
一緒に側に来た王女も嬉しそうに笑う。
「桜花は、私が一番好きな花なのです。だからアリーにこの風景を見せることが出来て嬉しいです」
王女の笑顔に私もつられて笑みを浮かべる。私はきっと、今日のこの光景を忘れることはないだろう。
晩餐の席は桜に囲まれるように設けられていた。食事の後のデザートにあんみつが出た時には嬉しすぎて再び泣いてしまいそうになってしまったのは内緒の話だ。
翌日は王都を王女に案内してもらうことに。王都の景色の中には日本っぽい場所は特に見られなかったけれど、売られている食べ物にはいくつか日本を感じるものがあり、ラウリスやオレステ、ぷにちゃんやクストーデと一緒に食べまくった。
「俺はタイヤキってやつが一番だな。食べ応えもあるしな」
オレステが言うとラウリスが首を横に振る。
「団子だろ。あの甘いタレがなんともいえないほど美味い」
『なにを言うか、これが一番だ』
「ぷうに」
クストーデとぷにちゃんは栗
「ちょっと、それ二本目じゃない?」
私の突っ込みもそっちのけで美味しそうにモグモグしているクストーデとぷにちゃんを見て皆で笑いながら歩いていると、急に目の前に日本っぽい建造物が現れた。まるで神社の本殿のような造りをしている。
ここは? と問いかけようとする前に、正解が王女の口から告げられた。
「ここが
以前、自分こそが本物の聖女だと乗り込んできたのが既に懐かしく感じる。あの時の巫女姿といい澄香は神社が好きなのだろうか? 建物を見上げながらそんなことを考えていると扉が開いた。
そこにはガンドルフィンに来た時同様に巫女服を着た澄香がいた。治療が終わった人を見送るところだったらしい。
「え? 嘘……」
瞳を見開いてこちらを凝視しながら呟く澄香の目の前まで近付いた私は、
「その格好、好きなのね」
巫女姿の澄香に軽口を叩くのと、彼女が飛び込んで来たのは同時だった。腕の中にいたクストーデが押しつぶされてしまい『ギュッ』と苦しそうに鳴いた。
「やだ、いつ来たの? 久しぶりじゃない」
首に回された澄香の腕の力がなかなかに強い。堪えきれずに私も「うっ」と苦し気に
「ごめんごめん。嬉しくて力が入っちゃったわ」
苦しさから解放されクストーデと共にホッと息を吐き出している間に、ラウリスたちが澄香と挨拶を交わす。
澄香によればそろそろ今日の診療は終わりとのことだったので、診療所の中に入れてもらい少し話をすることにした。
「この仕事って、どうやら天職みたいなのよね」
お茶を出しながら澄香が言う。この診療所は一般の人だろうが貴族だろうが関係なく毎日たくさんの患者が来るそうだ。やはり治癒魔法を使う人が少ないからだろう。魔力が豊富な澄香にとっては確かに天職かもしれない。
「澄香様はどなたに対しても分け隔てなく接しておられて、皆から慕われているんですよ。本当にこの国には欠かせない存在です」
王女の言葉に照れたらしい澄香が、誤魔化すようにラウリスたちを見回した。
「そ、そんなことより、アリーは友人たちと来たの? エンベルト殿下は?」
「ああ、ルトもいるわよ。ルトは仕事があるから今日は一緒に行動していないだけ」
照れ隠ししている澄香を微笑ましく思いながら、そう答えた時だった。
「巫女様! 大変だ! 子供たちが馬車に!」
引き戸が壊れてしまうのではという勢いで開かれ、ひとりの男性が叫びながら入って来た。男性の尋常ではない雰囲気に、澄香だけでなく私たちにも緊張が走る。
「どうしたの!? 落ち着いて話して!」
澄香が彼の手をギュッと強く握ると、焦りは消えないながらも男性は順序立てて話し出した。どうやら荷馬車の荷物が崩れてしまい、たまたま近くで遊んでいた子供たちが下敷きになってしまったらしい。
「場所は!? 何処なの!?」
座っていたイスを倒しながら、澄香が男性と一緒に診療所を飛び出す。私たちも二人の後を追った。
現場は診療所からさほど離れてはいないところだった。
馬車の荷台から落ちたであろう大量の木箱や
子供たちの泣き叫ぶ声と母親たちの助けを呼ぶ声。早く荷物をどかせろと叫ぶ声が入り混じり、騒然としている。
「
男性が負けじと大声で叫ぶと、周りを取り巻いてした人々がサッと道を開けた。
「巫女様! うちの子が!!」
「痛いよぉ、巫女様」
「巫女様、まだ下敷きになっている子供が!」
ここにいる全ての視線が澄香に集まる中、彼女は皆に聞こえるように言った。
「大丈夫、大丈夫よ。私が皆を治してあげるから。だから落ち着いて」
澄香は助け出された子供たちを見回して、怪我の酷い子供から順に治療していく。
焦っているせいか人々の動きがバラバラで荷物をどかすのに手間取っている。なかなか進まない作業を見たラウリスが状況を見極めながら指示を出し始めた。オレステとロザーリオが率先して行動し出すと、周りも同調し始め次々と荷物がどかされ片付けられていった。
王女やチアたちも動揺している人たちに寄り添ったり励ましたりしている。
「澄香、私も手伝うわ」
私が手伝うのは勿論こちらだ。治療を手伝おうとひとりの子供の側にしゃがみ込む。しかし、母親は不安そうな表情で子供を自分の方へ抱き寄せて治療を拒む素振りを見せた。それはそうだ。治癒魔法を使う人間が少ないこの国で、見ず知らずの私が一体なにをするつもりだと不安になるのは当たり前のこと。そんな空気を読み取った王女が、母親の側に寄り添った。
「大丈夫です、彼女に任せてください。彼女は聖女様なのですから」
王女の言葉に呆気に取られたような顔で私を凝視している母親に微笑んで見せ、そのまま子供へ魔力を注いだ。金色の魔力は子供を羽衣のように包み込み、暫くすると消えた。見たことのない魔力の色だったからか驚いた表情で私と子供を見比べていた母親だったが、子供の身体にあった傷が綺麗に消えたのを見て涙を浮かべながら私に頭を下げた。
「ありがとう、ありがとうございます」
「いいえ、怪我が癒えて良かったです」
微笑みを絶やさずそう告げ、すぐに次の子供の治療に当たる。
二人で治療したお陰で皆綺麗に治った。最後の一人を除いては。
「これは……」
一番大きな木箱の下敷きになっていた子供。なにが入っていたのか重そうなその木箱をオレステや他の大人が数人がかりでなんとかどかしたはいいけれど、子供はピクリとも動かない。
「いや―――!!」
母親であろう女性の悲痛な叫びが心に突き刺さる。ここにいる誰もが身動き出来ずに子供の不幸に口を
『アリー、
クストーデの念話が周りに届く程大きく響いた。人々は何処から聞こえたのかとキョロキョロしているが、クストーデはそんなことはお構いなしに続ける。
『早く! 魔力を注げ!!』
「わかった!」
横たわっている子供の横に駆け寄りながら魔力をグッと溜め子供に注ぐ。先程の羽衣のような魔力ではなく、砂金のようになった魔力はその子の胸の辺りに落ちて浸透するように身体に吸収され、全身に行き渡ると大きく光を放った。ここにいる全ての視線が子供に降り注がれている。
暫くすると子供の
「ママ?」
絶望の涙を流し続けていた母親の目が大きく見開かれた次の瞬間、歓喜の涙に変わり子供を強く抱きしめる。同時に周りからは大きな歓声が上がった。
「巫女様、聖女様、ばんざーい」
「聖女様のお力で子供が息を吹き返したぞー!」
皆が何度も万歳と高らかに叫びながら手を上げている中、緊張が解け満面の笑みを浮かべた私と澄香は自然とハイタッチをした。
その日の夜も〈桜花〉に囲まれながら夕食をすることに。
澄香も招待したことにより、当然のように救出活動の話になる。
「聖女様、澄香様、本当にありがとうございました。それに皆様も。エンベルト殿下を筆頭にガンドルフィン王国は次世代も頼もしい限りですね」
クレート王太子の謝辞にラウリスたちも照れつつ嬉しそうだ。ルトも弟たちの武勇伝にうんうんと
「それにしても、瀕死であった子供まで救ってしまえるなんて流石は聖女様ですね。本当に素晴らしいです。神獣様共々、この感謝をどうお返ししたらいいのか」
「そんなこと……」
気にしないでくださいと言おうとした私を差し置いて、クストーデが切り分けたお肉を頬張りながら王太子を見てニヤリとした。
『
まったくこのドラゴンは、と心の中で突っ込んでいる私の目の前のテーブルの上では、フォークを上手に使ってお肉を食べているぷにちゃんが、羊羹という言葉に反応してつぶらな瞳をキラキラさせている。本当にこの子たちはどこまで食欲旺盛なのかと溜息が零れてしまう。
クストーデは私を聖女にした神様に苦言を呈したいと言っていたけれど、私だって神様に苦情を入れたい気分だ。お宅の
「ふふ、食事の手が止まっているのはそこの意地汚いドラゴンのせいですか?」
私の頬をつつきながら楽しそうに笑うルトだけど、完全に口端が上がっている。ここでイエスと言ってしまうと、またクストーデとの言い合い合戦が始まってしまうと思った私は首を横に振った。
「あ、ううん違うの、えーっと。〈桜花〉が本当に綺麗だなって」
こんな嘘で騙されるようなルトではない。でもここで援軍が入った。
「アリーもそう思う? 本当に綺麗だよね」
澄香だ。桜を見上げながら彼女は語り出した。
「実はね、私がいた世界にも呼び方は違うけど同じ木があったんだ。あっちでは〈桜〉って言うんだけど、私の母親の実家が神社でさ。あ、神社ってのはまあ、神様を
その言葉で澄香の巫女姿や診療所の様相に納得がいった。きっと澄香は母親の実家である神社が好きだったのだろう。桜を眺めながら小さく笑んでいる澄香は楽しそうで、でも少し悲しそうで……。なんともいえない彼女の表情を見て、キュウっと胸が苦しくなる。
きっと今、澄香と私の感じている気持ちは同じに違いない。郷愁。もう帰ることのない懐かしい世界に想いを馳せているのだ。これはどんなにこの世界に馴染んでも消えることはない想い。
思いがけずそんな気持ちを抱くことになった私は、澄香と一緒に花びらが舞う〈桜花〉を眺めていた。
複雑な視線を向けているルトのことに気付かないままに。
食事が終わり、各々が部屋に戻った頃。入浴を済ませ夜着姿でぷにちゃんと遊んでいると部屋にノック音が響いた。
「アリー、よかったら眠る前に〈桜花〉をもう一度見に行きませんか?」
声の主はルトだ。勿論行くと返事をし、夜着の上に羽織を羽織る。クストーデは既に眠っていたので、ぷにちゃんだけを連れて部屋を出た。
「美しい羽織ですね」
「フフ、でしょ。お姉様が昨日くれたの。夜は冷えるからって」
実はアルーバに来た日に前以て仕立ててくれていたのか、プレゼントしてくれたのだ。私の瞳と同じ色味の鮮やかな紫の生地に、薄いピンクや濃いピンクの桜の花が川のように散りばめられている着物で軽やかなのにとても暖かい。一目で気に入ったそれを褒めてもらって嬉しく感じながら中庭へ向かった。
そこには夕食時のようにテーブルやイスはなく、白いアンティーク調のベンチが幾つか置かれているだけだった。ライトアップの光も、
ベンチの一つに腰をかけ、そうするのが当然のように二人で〈桜花〉を見上げた。
「本当に美しい花ですね」
「うん、そうだね」
暫く無言で見上げる。ぷにちゃんは眠ってしまったのか、微かに寝息が聞こえる。
「日本、でしたか……前世での暮らしが恋しくなってしまいましたか?」
桜を見続けながら不意にルトが言った。その声は穏やかで優しい。
「え?」
思ってもみなかった言葉を投げかけられ、素で驚いた私はルトを見つめた。見つめ返してくるルトのエメラルドの瞳は、優しいけれど切なげに揺れていた。
「前世にもあったのでしょう? これと同じ木が。初めてこの木を見た時のアリーの様子でもしやと思っていたのですが、巫女の話で確信しました。あなた方の世界ではとても大切なものだったようですね」
「うん……そうだね」
ルトの指摘に驚きつつもポツポツと前世での桜のことを話して聞かせる。
「桜は国の象徴のひとつだった。お金の模様にもなっていたくらい。あっちの桜の花の寿命はとても短くてね。満開から数日で一気に散り出してしまうの。そういえばすぐに散ってしまう桜を〈
もうこちらの世界の方が長く過ごしているけれど、前世の記憶は不思議と残っている。思い出すことが少なくなっただけで、決して消えることはないのかもしれない。〈桜花〉を眺めながら私は続けた。
「それにね、散りゆくその姿にもなんともいえない風情もあったのよ。〈
懐かしく思いながら語っていると、不意に涙が零れてしまう。
「おかしいな、もう思い出しても懐かしいって思うだけだったのに」
別に悲しくなんてないのに。ただ懐かしいと思っただけなのに。こんなことで泣いてしまっている自分が恥ずかしくて顔を背けようとした私をルトが抱きしめた。
「泣いていいのですよ。ここには私しかいないのですから」
ルトの腕の中は心地よい。一定のリズムを刻む胸の鼓動を感じていると、どうして自分が泣いたのかわかった。
所々に日本を感じるこの国に来た時から、遠い昔になったはずの記憶が身近になっていたのだ。懐かしいと思うだけだった想いがほんの少しだけ帰りたいという想いになっていたのだと。自覚した途端に涙が止まらなくなってしまう。自分でもわかっていなかった私の気持ちに、きっとルトは気付いたのだろう。だからここへ連れて来たのかもしれない。ルトの優しさに包まれながら、私は
どのくらい時間が経ったのか。子供のように泣き疲れてしまった私を、ルトはお姫様抱っこで部屋まで連れ帰ってくれた。ぷにちゃんは部屋に着くや否や、ベッドの枕元で眠っているクストーデの隣に行って眠ってしまう。
ルトは二匹のすぐ横に私を横たわらせた。
「ありがとう、ルト」
素直にお礼を言う私の顔を見て、ルトが小さく笑った。
「泣き
確かに目が重い。朝になったらパンパンに腫れているかもしれない。それでも気分はスッキリしている。そう思っていると急に視界を
その正体はルトの手。冷気を纏わせたルトの手が私の目元を覆ってくれている。程よく冷たくて気持ちがいい。
「冷やしていて差し上げますから、眠ってしまっていいですよ」
優しく話してくれるルトの声が気のせいか少し落ち込んでいるように聞こえる。見えないはずのルトの顔もなんだか悲しげな表情になっている気がして、私はこのまま眠ってしまう訳にはいかないと思った。ちゃんと今の気持ちを言葉にしなければならない、そう思った。
冷やし続けてくれているルトの腕に指先でそっと触れ、静かに話し出す。
「あのね、この国に来てからというもの、前世の世界に似た部分をいくつも目にしたの。だからちょっと感傷的になってしまったんだと思う。でもね、決してこの世界が嫌だとかそんなことは思ってないからね。私はもうちゃんとこの世界の人間だし、ルトのいない世界になんて戻りたいとは思っていないよ」
見えなくても私の話に動揺したのがわかった。だって私の目元に置かれているルトの手が微かに震えたから。もしかしたら私が帰りたいと考えている。そう思っていたのかもしれない。
「私はこの世界が好き。皆大好きなの。この世界で皆と仲良く暮らして、大好きなルトのお嫁さんになって……いつかは可愛い赤ちゃんを産んで……フフ、ちょっと気が早いかな?」
目が見えていないせいか、告白めいた言葉もスラスラ言えてしまう。それでも言い終わると少し恥ずかしくなって誤魔化すように笑った。
その時、ずっと感じていた目元の冷たさが消えた。けれどルトの手は私の目元を覆ったまま、外れる気配がない。
「ルト?」
不思議に思い呼びかけると、慌てたように咳き込んだルトの手が再び冷たくなる。
「どうかした?」
視界が遮られている私は周りの状況がわからない。もしかしてなにかあったのかと問いかけると、ルトから大きな溜息が零れたのが聞こえた。やっぱりなにかあった? 少し不安になる私に予想外の優しい声が降ってきた。
「アリーはいつもそうです。こちらがなんの準備もしていない時に盛大な告白をしてくれるんです。本当に……この先、私は何度あなたに惚れ直すことになるのでしょうか……」
吐息混じりで最後は呟くように言葉を