クラウディアを驚かせるために、存在感を消していたとしても。

さすがのレステーアも教会の仕来しきたりにはかなわなかったのか、と考えていると、こちらの思考を読んだのか苦笑が浮かべられる。大方間違いではないらしい。

ただ胸を平らにならすべく布は巻かれていた。

(そこはレステーアも譲らなかったのね)

バーリ王国の希望もあり、大聖堂で一緒に礼拝をおこなうとのこと。

「ラウル様は王城へ登城されています」

「来られているなんて知らなかったわ」

「サプライズのため、こっそり来ましたから」

学園のときといい、国民性だろうか。お祭り好きなのは確かだった。

(色々打ち合わせることもあるでしょうしね)

聖女祭のこともだが、何より難民についてはバーリ王国も頭を悩ませているだろう。

数字重視の国王は受け入れを拒否しそうだが、それではまた波乱が起きかねない。

(今頃シルも、ラウル様の登場に驚いているのかしら)

現場を想像すると笑みが漏れた。

「再会が叶ったところで、禊について、ご説明させていただきます」

カルロ司祭に促され、レステーアと並んで会衆席へ腰掛ける。

聖女の補佐役を担うため、身を清める必要があることなど、禁止事項のおさらいがあった。

「礼拝は二日間にわたっておこないます。今夜はお二人とも、大聖堂の客室に宿泊していただきます。施設の説明は折を見て触れてさせていただきます」

まずは、本堂から、と祭壇の前へ移動する。

早速、礼拝がはじまった。

「祈る内容に決まりはありません。きまぐれな神への語らいでも大丈夫です。私がお声がけするまで、お続けください」

手を組み、目を閉じる。

最初に浮かんだのは、戦争で住処を追われた難民たちへの平穏だった。

次いで、一刻も早く戦争が終結することを。

祈り、願う。

静寂が響く。無色透明な波長が白い壁へ当たり、本堂にこだました。

やがて中央の吹き抜けへ至り、尖塔を上って天へ。

瞼を下ろしていても降り注ぐ光を感じられた。

司祭の声が聞こえるまで、一心に思いを届ける。

「そこまで。さぁ、立ち上がって息を吐き、吸ってください」

指示に従い、深呼吸をする。

いつの間にか体に力が入っていた。肩が楽になる。

「以後、立ち寄る先で同じことを繰り返します」

司祭が前を歩き、クラウディアたちは後ろに続く。

本堂から次の建物へは、内部の列柱廊を使った。

人の何倍も大きな柱の間を歩いていく。対比すると、自分の矮小わいしょうさが際立った。

「することは簡単でしょう?」

レステーアと二人、はい、と答える。

「何もいりません。祈りは、心一つあればできます。そこには身分も環境も関係ありません」

生まれ、自分の意思で行動できるようになってから、死に至るまで。

いつだって、どこででも人は祈れる。

「力の有無も、財産の有無も関係ありません」

正真正銘「自分」さえあればいい。

「逆を言えば、何もできない人が、唯一できることです。人の人たる証明でもあります」

獣は祈らない。

人間だけが、思いを羽ばたかせられるのだ。

「もし自分は何もできないと悔やむことがあれば、思いだしてください。何もできない人間はいないことを。祈ることだけはできることを」

無力感に苛まれる必要はありません。祈りも立派な行動の一つですから、と司祭は笑う。

「祈りは、きまぐれな神からの贈り物だという司祭もいます」

「カルロ司祭のご意見は違うんですか?」

同じなら他人の言葉を借りる必要はない。

レステーアの質問に、司祭は頬を掻く。

「私は大雑把な性格でしてね。信徒にとって、祈りが前へ進む勇気になるなら、きまぐれな神からの贈り物でも、呪いでも構いません」

両極端な言葉が出てきて、レステーアと目を見合わせる。

でも真理だった。

司祭が続ける。

「所以があることで、更に気持ちが入ることもありますから」

人によっては有り難みが増す。

だから時折、自分にとってはどちらでも良くても、言葉を借りるのだという。

「司祭様のお人柄ですわね。先ほどから、ずっとわたくしたちが勇気付けられております」

補佐役の指南というより、個人的に教えを聞いている気分だった。

司祭は顔を綻ばせる。

「ならば良かった。誰かの導き手になる者ほど、自分を労れねばなりませんから」

切羽詰まった人間に、人助けはできない。

余裕があってはじめて、人は周りに気を配れる。

「お二人は自分の考えをしっかり持っておられる。だから補佐役にも選ばれたんでしょう。その点は、私も心配しておりません」

けれど人は疲れるものだ。

最初は余裕があっても、悩める人の相手をしていると、どんどん心が消費されていく。

だから余裕がなくなる前に、自分を労り、休むことが大事なんです、と司祭は続けた。

「これは私の経験則です」

「とてもためになりますわ」

「現実味のあるお言葉ですね」

なるほど、とレステーアも深く頷く。

話している間に、次の礼拝地点に到着する。

クラウディアとレステーアは礼拝を続けながら、有意義な時間を過ごした。