修道者は世を恨む

ざあざあと雨が降っていた。

じっとりとする暗がりの中、雨ではなく砂利に打たれたような石造りの壁に触れながら思う。

生まれながらにして、人は不平等だ、と。

指先もボロボロだった。ささくれだった皮膚ひふは硬くなり、爪は欠け、一種の凶器と化している。うかつに肌はかけない。

体の震えと共に、ふつふつと怨嗟えんさが積もる。

自分が何をしたというのか。

どうして牢獄のような部屋で生きないといけないのか。

一つだけある窓は、自分の顔ほどの大きさしかなく、日中でもここは薄暗い。

夜ともなれば、やみが全てをおおい尽くした。

雨戸を閉めていれば尚更だ。

木のベッドに藁を敷き詰め、布を被せただけの布団の上で膝を抱く。

一人部屋と言えば聞こえはいいが、調度品はないに等しい。

少しでも生活感を出そうと、申し訳程度に置かれた小さな机と椅子。引き出しのない机の上には、教義が載った本があるだけだ。道具はなく、手紙の一つも書けない。

最悪なのが、部屋の片隅にあるおまるだった。

忌々しい存在に、親のかたきを見るかのように睨み付ける。

建物内にトイレはあるものの、夜間は部屋から出ることを禁じられていた。必要に迫られたときはこれを使えというのだ。排泄はいせつ物は部屋の小さな窓から捨てる。掃除用の水を昼間に汲んできているが、においは言うまでもない。

(最悪、本当に、最悪っ)

この牢獄の中では、窓が唯一の救いだった。

薄暗くとも朝には光を届け、ときには潮風を届けてくれる。無機質な部屋の中で、窓だけが変化を教えてくれた。

排泄物を窓から捨てられるのは、建物が崖の上にあるからだった。部屋が崖に面しているため、窓から何を捨てようが誰の迷惑にもならないのだ。

椅子に乗り、背を高くして窓から外を見下ろせば海が見えた。ここからは風の音しか聞こえないが、遠く見える波間に心が落ち着くときもあった。

小さく船が見えることもある。孤島ゆえ、外部との連絡は定期船頼りだった。

昼に見た光景を脳裏のうりに描いて自分をなぐさめる。

(そうだ、今日は海鳥の鳴き声も聞こえたわ)

目を閉じ、脳内で再現する。

アオ、アオッと仲間へ呼びかけながら、彼らが自由に空を飛ぶ姿を。

雲一つない青空。

それを届けてくれるのも窓だった。

ここへ移り住んでからの心の支え。それを汚す行為は、自分の中で許せなかった。

だから一度もおまるを使ったことはない。

今も腹痛を抱え、早く朝が来ることを祈っている。

冷や汗が全身から噴出し、体を冷やす。

不幸中の幸いは、痛みに波があることだろうか。峠を越えれば、束の間の平穏が得られた。

建物のトイレは崖に向かって壁からり出すように設けられており、部屋と同じ並びにある。部屋から出られさえすれば、すぐに使えた。

(鍵までかけるなんて、常軌を逸してる)

いくら夜は危ないといっても、建物の中である。明かりも節約されていると聞くのに、部屋を出て何ができるというのか。

考えれば考えるほど、牢獄のようだった。

新たな脂汗が額に浮かぶ。

波の感覚が狭まっているように感じられた。限界は近い。

(ああ、どうして)

目に涙が浮かぶ。

つらい。

誰か助けてと闇雲に手を伸ばしたくなる。誰も助けてはくれないのに。

生まれが悪いだけで、全てがままならない。

自分が何をしたというのか、はじめの疑問に戻る。

ただこの世に生を享けただけで、どうしてこれほどの重荷を背負わなければならないのか。片や、ちょうよ花よと何の苦労も知らない人間もいるというのに。

うらめしい。

憎悪が募っていく。

先輩シスターには、それが悪いところだと言われるけれど、どうやってこの不条理を受け止めたらいいのかわからない。

お腹が痛い。

苦しい。

楽になりたい。

こんな簡単な願いすら、叶わない。

──どうしてこんなにも、救いがないの。