人間に白い耳と長毛のふさふさしっぽがついた感じ。髪の毛は体毛と同じ色だ。耳も猫のものだった。元々着ていた洋服も元に戻っている。これ、どういう仕組みなのかしら?

 難しいことは置いておいても、なんと自分もふさふさもふもふというおまけ付き転生だった!

「そうだ、チセ~!」

 鏡の前で感動していると、ソファでまったりしているスラちゃんに声をかけられた。

「どうしたの? スラちゃん」

 私が答えると、ぽよんぽよんと飛び跳ねながら、スラちゃんがやってきた。

「名前をもらったじゃない? だから、僕のスキルが継承されているよ。確認しておいてね」

 そう言いたい事だけ言うと、スラちゃんは再びソファに帰っていく。

「もう、確認ってどうするのよ~」

 スラちゃんに呼びかけるも、返事はなかった。

「こういうのって、大体ステータスって言うと、画面が出たりしてね……」

 そんな言葉の途中で、まさかの画面が宙に表示された。


 ──え? 本気?


 私は、目を瞬かせる。


【チセ】

 種族:猫獣人  レベル:なんかすっごい!  魔力:なんかやっばい!

 知力:すっげー!  力:猫並み? 必殺技は猫パンチ!

 体力:ほどほど。スライムには倒されそうにない。

 性別:女  年齢:十二歳

 固有スキル:内包図書館、テイム、精霊召喚

 継承スキル:鑑定(NEW)


 鑑定が増えたあとなので、ステータスが見えるのは鑑定由来なのか、異世界転生特典なのか、わからない。でもこのステータス表示、レベル以降のゆるゆるかつ不親切な評価はなんなの……。

 それと、『必殺技は猫パンチ』って私に喧嘩を売っているのかしら? そもそも猫に猫パンチなどというものはない(猫同士の喧嘩でべしっと叩くことはあるらしいけれど)。あれは、非力な人が発するパンチを揶揄するものだったはずだ。

 ついつい、ため息が漏れてしまう。

 スラちゃんに命名した時、頭の中の謎の声が「テイムしたことで継承した」って言っていたから、テイムしたスラちゃん由来のゆるーい鑑定なのかしら?

 とりあえずステータス画面は消した。

 まあ、なんか色々『すっげー』らしいので、なんとか生きていけそうな気がしてきたしね。

 うん。この世界で初めての晩餐をとろう。

 アトリエの中を探索したり、ステータスに驚かされたりで、私はすっかりお腹がペコペコだった。

「ええっと、硬めのパンと、じゃがいも、ベーコン、玉ねぎ、バター、小麦粉……」

 パンは硬いから薄くスライスして、シチューに浸して食べましょうか。

 私は、シチューと薄切りにしたパンという、簡単な夕食を作ることにした。

 窓から外を見ると、すでに薄暗くなってきている。

「早く火が通るように、具は薄めに切ろうかな」

 厨房に立ち、調理道具を探してまな板とナイフ、お鍋を探し出す。

 牛乳は……と。

 なんだか、いかにも小さな冷蔵庫って感じの箱があった。

 パカ、と扉を開けると、上段に氷、下に食材が入っていて、その食材の中に牛乳もあった。


 ──て、あれ?


 二段に分けられた庫内の上段で、お人形サイズの水色の女の子が氷をベッドにしてお昼寝していた。背中には羽が生えている。まるで絵本かおとぎ話の妖精か精霊のようだ。

「あなたはだあれ?」

 眠っているのを起こすのは申し訳ないけれど、その女の子に声をかける。

「ふあーぁ」

 彼女は、体を起こすと大きく伸びをした。

「……あなたが今度の主人あるじ様ね。私は氷の精霊。この氷が溶けないように一緒にいたのよ」

 うーん。ということは、このアトリエの住人ということかしら? そして、「主人あるじ様」と言っているということは、私がこのアトリエの主でいいってことなのかな?

「私はここの番人よ。あなたの生活が快適であるように、ここで頑張ってお昼寝しているわ!」

 そう彼女は答えるものの、お昼寝って頑張るものなんだっけ?

 あっと、それはあとに置いといて。

「ねえ。私と生活を一緒にしてくれるなら、名前をつけたいわ。いいかしら?」

 私が提案すると、彼女は水色の綺麗な瞳をパチクリさせる。

「いいけど……だったら、素敵な名前がいいわ!」

 当惑気味の表情が、一気にキラキラと期待に満ちたものに変わる。

 ──これは、責任重大だわ!

「そうねえ。アイス……違うなあ。スノウ……スノウホワイト、シラユキ!」

 私が、氷からの連想ゲームで、白雪姫にまで至った時。

「シラユキ! それ、聞いたことない名前。素敵だわ!」

 氷の精霊改めシラユキが、冷蔵庫から出てきて、宙に浮いてドレスを翻しながらくるりと回る。彼女のドレスも氷製なのか、光に当たって星をちりばめたようにキラキラと光る。

 そしてまた、私とシラユキがキラキラと光った。

『テイムしたことにより、【氷魔法】を継承しました』

 あ、また頭の中で何か言っている。

 私、神さまに頭の中に何か入れられたのかしら? ちょっとそれは怖いわ。

 でもまず、シラユキにご挨拶よね。

「じゃあ、シラユキね。これからよろしく、シラユキ」

「冷蔵庫はまかせてね! それと、何かあったら名前を呼べば駆けつけるから!」

 そう、言いたいことだけ告げると、彼女はまた氷の上で眠ってしまった。

 冷蔵庫に氷。そして氷の管理者。至れり尽くせりだなあ。

 そう思いながら、バターと牛乳を取り出す。そして、彼女の眠る冷蔵庫を閉じたのだった。

 まな板の上で、食材を切っていく。

 じゃがいもは、悩んだけれど、皮を剝いていちょう切りに。ベーコンは薄めの短冊切り。玉ねぎは筋を断つ方向に薄切りにした。

 あれ? この世界って、火ってどうするんだろう?

 頭の中で検索してみたけれど、調べ方が悪いのか、基本的すぎるためか出てこなかった。なんだろう。火を使う方法は色々出てきたけれど、その前の火を点ける方法はうまく探し出せなかったのだ。

「ねえ、スラちゃん」

「なぁに~?」

 ソファから眠そうな声がした。

「この世界、火ってどう起こすの?」

 私が目の前に立っているコンロらしいものの下はかまどになっていた。この世界では火をどうやって起こすのだろう。薪とか、火起こしが必要になるのだろうか?

 あんまりに恵まれ過ぎた環境だったので、肝心の火について考えるのを失念していた。

「チセ、キミ召喚士なんだろう? だったら精霊を呼べばいいじゃないか」

「なあんだ、つまらない」とでも言うようにスラちゃんは再び寝ようとする。

「え? 召喚士? 精霊?」

 うーん。スラちゃん、不親切。

 あの鑑定は、スラちゃんの性格を反映しているんじゃないかしら!

 私は少し頰をぷうっとさせる。

 でもそれじゃあ、目の前の問題は解決しない。

「精霊で火と言ったら、サラマンダー?」

「ファンタジーのお約束よね」そう思って私がなんとなく呟くと、目の前にぽうっと明るい火が灯る。

「えっ!」

 私の目の前に現れたのは、赤い小さなトカゲさんだった。

「呼んだ?」

「えっと、サラマンダー?」

 コクコクと頷くトカゲ改めサラマンダーは、目を細めてご機嫌みたい。

「サラマンダーってあなたの名前?」

 ちょっと気になってサラマンダーに尋ねてみる。

 サラマンダーは首を横に振る。

 ということは種族名ってことかなあ。

 だったら、スラちゃんのように名前が欲しい。

 うーん。スラちゃんの時もだけれど、やっぱり愛称レベルでも名前で呼びたいな。

「サラマンダー。ファイアー、ボーボー、サラちゃん?」

 我ながらセンスを疑うような名前しか出てこなかった。

 そこに、首を振って答えるだけだったサラマンダーが、最後に提案した名前のあとに急に喋り出した!

「サラ! サラがいい!」

 その中でまともなものを、サラマンダーは気に入ったようだ。

「じゃあ、サラちゃん。私はチセよ。よろしくね!」

 そう告げると、また、私とサラちゃんがキラキラと光った。

 そして、謎の声も聞こえた。

『テイムしたことにより、【火魔法】を継承しました』

 これ、スラちゃんやシラユキの時もあったよね。

 あれちょっと、頭の声さん。私、魔法使えるようになったの?

 それに対する答えは、待っても返ってはこなかった。

 まあ、とりあえず、調理途中の料理が先よね。

「ねえ、サラちゃん。竈に入ってゴーッて火を起こすのって頼めるかな?」

 新品とはいえ、暗くて狭い竈に入ってもらえるものだろうか? と少し不安になりながら、尋ねてみる。

「お安い御用さ! 火加減は言葉で指示してね!」

 なんと、気にしないで入ってくれるらしい!

 サラちゃんは、竈の中に入って発火してくれた。

 その火は調理するには十分な火力だった。

「ありがとう! それくらいの火加減でちょうどいいわ!」

 そういうわけで、調理を再開する。

 切った食材をお鍋に入れて、溶かしておいたバターで炒める。そこに小麦粉をふるって満遍なく散らす。もう一度軽く炒めて小麦粉を馴染ませたら、牛乳を少しずつ入れて、最後にお水を足す。

 本当はここでブイヨンとか、お出汁が欲しいところなんだけれどなあ。まあ、そこはおいおい考えよう。さてと。とろみがついたら、簡単シチューはだいたい出来上がりだ。

 最後にお塩と胡椒で味の調節をしてっと……。

 完成!

「サラちゃん、ありがとう。もう火はいいわ」

 私がお礼を言うと、サラちゃんはご機嫌な顔で竈から出てきた。

「じゃあ、また何か用事があったら呼んでよ!」

 そう言って消えていこうとするサラちゃんを、私は慌てて呼び止める。

「あ、待って!」

「ん? なぁに?」

「あのね、一緒にお夕飯食べる? パンとシチューなんだけれど」

 その言葉に、うーんと首を傾げるサラちゃん。

 彼はふわりと宙に浮いて、鍋の中身とパンを見比べる。

「僕は、今日はいいかなあ?」

 首を傾げて消えてしまった。

 あらら、残念。ふられてしまった。

 お手伝いだけしてもらうっていうのもなんだから、サラちゃんの好きなものも探さないとね。私は気を取り直して、今度はソファでうとうとしているスラちゃんに声をかける。

「ねえ、スラちゃん」

「なぁに~」

 なんていうか、返事のぞんざいな感じが面倒くさいという思いを伝えてくる。

「お夕飯を一緒にどうかなって思って。パンとシチューなんだけれど、どうかな?」

 その返事にめげずに私が尋ねると、スラちゃんの目がキラリと輝いた。ソファから飛び降りて、ぽよぽよと飛び跳ねながら私の元へやってきて、頭の上に乗ってくる。

「ほわ~。なんかいい匂いがするよ!」

「シチューって言うのよ。どうかしら?」

 頭に乗っているスラちゃんを見上げようとしたら、なんかよだれっぽいものが見えたので、慌てて手で持ち替えて顔によだれ落下を阻止する。

「ちょっと、よだれを頭の上で垂らさないでよね!」

「だって、あんまり美味しそうな匂いだから、つい……」

 そして、欲しいなーって顔で、私を上目遣いで見上げてくるスラちゃん。目が無駄にキラキラしていて、あざといくらいに可愛い。

「じゃあ、二人で食べよう。ちょっと待っててね」

 スラちゃんをテーブルの上に載せて、私は食器棚の方へ向かう。

「スラちゃんは、苦手な食べ物とかある?」

 食器を探しながら、聞いてみる。

 だって、たとえば前の世界の犬とか猫のように、玉ねぎとかで病気に! なんてなったら大変でしょう?

「僕は雑食。なんでも消化出来るから、任せて!」

 どん、と胸を叩く代わりなのか、ぷるんと揺れる。

 じゃあ、木の器に、スプーン、パン皿を二つずつね。まあ、スラちゃんがスプーンを使えるのかは謎だけれど。木の器にシチューをよそって、パン皿の上にパンを載せる。

 スラちゃんの前に一式、そしてその向かいに私の分を一式並べる。

 そして、私は椅子に腰を下ろした。

 するとそれを見計らってなのか、スラちゃんの口は通常よりも大きく広がってかぱりと開く。

「ええええっ!」

 そして、木の器ごとシチューを丸吞みしてしまったのだ!

「ダメダメ、スラちゃん! 入れ物は食器なの!」

 私は大慌てで両手を振って、違う違うとジェスチャーする。

 すると、スラちゃんは私の説明を理解したのか、ペッと木の器だけ吐き出してくれた。

 ペッ、か……。

 器もなんだか、ぬらぬらてらてらしている気がする……。

 私はそっとその器を布巾越しに持ち、流し台の水を張ったタライの中に入れる。

「それにしても、食器とやらは食べちゃダメとなると、どうやって食べたらいいのか全くわからないよ」

 ぷう、と口を尖らせるスラちゃん。そして、その口でパンを一切れ摘んで、吞み込んだ。

「手が使えるなら、こうやって食べるんだけど……」

 私は、「いただきます」と言って両手を合わせてから、スプーンを手に取ってそれでシチューを掬って口に運ぶ。

 ん? と視線を感じて目線を上げると、お向かいにいるスラちゃんがじっと私の食事の仕方を見ていた。観察しているのだろうか?

「なるほど……」

 なんかスラちゃんが呟いた。そう思うと、うにょんとスラちゃんの右手のようなもの(ただし材質は体と同じくゼリー状)が伸びて、自分のそばにあるスプーンを、ぐーで握る。

「スラちゃん、そうよ! 上手!」

 私は一旦スプーンを食器に引っ掛けておいてから、ぱちぱちと拍手をしたのだが……。

 その瞬間、彼の手がぎゅーんと私の方に伸びてきて、私のシチューを掬って持っていったのだ!

「スラちゃん! 食器に盛られた他の人の分を勝手に食べちゃいけません!」

 すでにもぐもぐしているスラちゃんを、めっ! と軽く睨んで叱る。

 そんな私を見て、スラちゃんはごっくんしてから、しゅんとする。

「だって、チセのシチュー美味しかったんだもん。もっと欲しくなっちゃったんだ」

 いじいじとテーブルの上で視線をうろうろさせるスラちゃんは可愛かった。

 しょうがないなあ、と私はため息まじりに笑顔になって、スラちゃんに伝えた。

「そういう時は、『おかわり』って言うのよ!」

 私は腰を上げて、調理台に移動する。

 そして、食器棚の中から余っている木の器を一つ取り出した。

 明日の朝にと思っていたけれど、気に入ってくれたんだから、明日の分はまた作ればいいよね!

 そう思いながらおかわりをよそう。

「はい、どうぞ」

 ことん、とスラちゃんの前に置いてあげた。

「わぁい! チセ、ありがとう!」

 スラちゃんは、まだ味気ないはずのシチューでも、美味しいと言って食べてくれる。

 そんなスラちゃんと向かい合って食べる未完成のシチューは、私にも意外なほど美味しく感じられたのだった。


 次の日の朝。

 私は、森の小鳥たちのさえずりの声と、窓から差し込む朝日に、優しく「起きなさい」と言われるようにして目を覚ました。

 スラちゃんは、すでに我が家とでもいう様子。ずいぶんと気に入ったようで、夜もソファで眠った。そして、まだ起きる様子はなさそうである。

「……起こしちゃかわいそうよね」

 スラちゃんを起こすのはあとにしよう。私は窓辺へ移動する。

「それにしても、お腹が空いたわね」

 部屋の窓から差し込むお日様に私は目を細める。もうだいぶ上空へ昇ってきてしまっている。

 どうりでお腹も空くはず。

 神さまはとても気配り屋さんらしい。当面小屋の中で食べていけるくらいの食料も、この小屋には存在していた。小麦粉、蜂蜜、塩、卵、ベーコンなどの保存の利く肉類などなど。だから、最初からお金を稼いで食料を揃えないと、というほどではなかった。

 だったら、まずはのんびりしたいわ。この森はとても心地がいいしね。

 とはいっても、お水は新鮮な方がいい。

「今日はまず、お水を探しに行こう!」

 私はまだ起きたばかりで薄い夜着のまま。

 クローゼットの中から洋服を取り出して着替えた。そして、鏡台で髪を梳いてから、高い位置でふわふわの銀の髪をツインテールに結った。

 スラちゃんはまだ寝ているから、置いていく。けれど、私が不在のうちに目を覚ましてびっくりさせないように、書き置きをしておいた。

 よし!

 あ、そうだ。薬草があったらついでに摘んでおきたいから、ショルダーバッグを肩から下げて。

 私は、アトリエの玄関扉を開けて外へ出ると、水汲み用の木桶を持った。そして、スラちゃんを起こさないよう、そうっと玄関の扉を閉める。

 すると、待ってました! とばかりに小鳥たちが森の中から飛んできて、私の周りを飛び回る。

 彼らは私のお友達になってくれるかしら?

「可愛い小鳥たちね。私はチセ。あなたたちは、ピーちゃん、チュンちゃん、ピッピちゃんでどう? お友達になってくれない?」

 首を傾けて、彼ら三羽にお願いをしてみる。

 すると、私と小鳥たちがやはりキラキラと発光した。

「「「お友達になる! ボクたち、友達のチセのお手伝いしたい!」」」

 お願いは成功したみたい!

『テイムしたことにより、【警戒】【探索】【俊敏】を取得しました』

 相変わらず頭の中の声はバグ状態みたいだけれど。

 まあそこを置いておいても、森の中で生活をし始めて、どんどんお友達が増えてきて嬉しい。私のもふもふスローライフの夢がどんどん広がっている気がする!

 そんな私を、小鳥たちが羽ばたきながらじっと見つめていた。

 あっとそうだ。「お手伝いしたい」と申し出てくれていたのよね。

「お手伝い……。じゃあ、一人は、綺麗な泉がある場所を教えてくれないかしら? 残りの子は、美味しそうな食べごろのベリーがあったら摘んできてくれない?」

 ベリーは、たくさん採れすぎたらジャムにするのが定番だ。けれど量が少ないなら生もいいし、少しバターソテーしたものをパンに載せても美味しい。

「わかったよ!」

「ベリーだね!」

「私のアトリエの玄関脇にカゴがあるから、そこに入れておいてね!」

「「了解したよ!」」

 そう言って二羽の小鳥たちは飛んでいってしまった。

 私のアトリエの入り口には、小さな棚とその上に載せたカゴがある。小鳥たちにはそこに森の恵みを分けてもらうことにした。

 卵はまだストックがあったし、保存食のベーコンもある。

 それにパンを添えて、デザートは小鳥さん次第かしらね。

 いや、小鳥さんがベリーを持ってきてくれるなら、パンケーキを焼いた上に、バターとベリーを載せる。

 うーん、香ばしくて美味しそう!

 一羽の小鳥は、私を泉へと誘う。

 私は、まだ空の木桶を持って、美味しそうな朝食……。もうブランチかしら? の予感にスキップしながら泉に向かうのだった。

 そうして無事、小鳥さんの道案内で泉にたどり着いたのだった。

 そうだ。念のため、水の質を鑑定しておこうかしら。


【泉の水】

 詳細:湧き水が元で出来た泉の水。とっても綺麗。沸かせば飲用可能。

 夏には水浴びしたいね!


 ──なんか、鑑定結果にスラちゃんの私情が入っている気がする(汗)。


 水汲みをする泉が清浄だからか、周囲には薬の材料になる薬草がたくさん茂っている。

「これは、癒し草。……こっちは、苦味取りの実ね。そしてこっちが中和の葉。あ、ハーブもある」

 そうして、野原にしゃがんで茂みをかき分けて、薬草の葉や、香りの良いハーブを丁寧に摘んでいく。

 ギリギリ午前中の薬草たちは、瑞々しく、イキイキと元気がいい。

 私はこの時間の薬草摘みも大好きになる予感がした。

 そして、その中でもまだ若く柔らかい葉を摘んで回った。それを乾いた布巾で大事に包んで仕舞い込む。あとで日陰か夜に、風に当てて乾燥させるから、布巾は濡らさずにおいた。

「畑を持てたらいいんだけれど……」

 そうすればもっと鮮度は上がるし、採取の手間も減る。まあ、そんな、先の話はちょっと置いておこう。

 今は私に出来ることをコツコツとやるべきよね。

「うん、今日のお仕事分は十分に採れたわね」

 泉のそばに放り出してあった木桶を取りに行って、丁寧に水を汲む。

 ちなみにこれは私の飲食用。これだけ綺麗な水ならば、沸騰してから使えば十分だろう。

「よいしょっと」

 それなりに重さのある中身の入った木桶の取っ手を両手で持って、私は自宅に向かって帰るのだった。


 アトリエに帰ると、私は木桶を厨房の床に置き、ショルダーバッグをテーブルの上に載せて、バッグの蓋を開けて、中にしまってある薬草を取り出す。

 薬草は、早めに日の当たらないよく風の当たる場所で乾かしたい。だから、ザルに重ならないように並べて、外に干しておいた。

「まずは、今日の飲み水を確保かな」

 そう呟いて、私は厨房に行き竈の上に鍋を置く。

 そして、さっき汲んできた水をなみなみと注ぐ。

 そして竈の前に立つ。

「サラちゃん、出番よ~!」

 そう呼びかける。

 ふわりと竈の前に火の塊が浮遊し、その真ん中に、赤いトカゲのようなサラちゃん、火の精霊サラマンダーが現れる。

「チセ、お呼び?」

「うん、竈に火を点けてくれるかな? お鍋でたっぷり湯ざましを作りたいの」

 そう言って、前にもお願いした、れんが作りで真ん中に薪を燃やすための空洞が開いた竈を指さした。

「ああ。毎朝の僕のお仕事になりそうだね。了解だよ」

「じゃあ、他の用意をしているから、よろしくね」

「了解!」

 サラちゃんが竈の中に入っていき、その体が発火した。しばらくすると、ごうごうと火が燃える音がする。ぐらぐら鍋の中で水が沸く。

 しばらくしてから、サラちゃんにもう大丈夫だと伝えた。

 これが冷めれば、私の飲み水、湯ざましの完成ね。

 そうそう。ファンタジーな物語だと、火、水、風、土の四属性の精霊さんがいたりするのが定番よね。そして実際にシラユキ(氷だけど)とサラちゃんは存在していた。

 だったら、水の精霊さんに頼んで水汲みやめたらって思う?

 あれは、私の運動とお散歩を兼ねているの。それに、あとあとのことを考えたら薬草採取も必要だし、お花を見て回るのもとても楽しい! 私はこのファンタジーな世界を思いっきり体験したいのよ!

 と、話がずれちゃったわね……。

 そうして色々厨房で作業をしていると、ようやくスラちゃんの声がした。書き置きのメモは要らなかったみたいね。

「おはよう、チセ」

 ぽよんぽよんと飛び跳ねながら、寝ていたソファから厨房にいる私の元にやってくる。

おそよう、スラちゃん」

 私は、遅い目覚めの挨拶に、少しからかい気味に返事をする。

 ぽよん、と私の頭の上に乗ったスラちゃんが、ぷるぷると揺れる。

「おそよう、ってなぁに?」

 ああ、こんな言葉、多分こっちにはないよね。

「うーんとね。おはようって挨拶なんだけど、『ちょっとお寝坊さんですね』って意味を込めた挨拶かな?」

 確か、そんな感じに使っていたわよね?

 すると、頭の上でスラちゃんがぷるんと震えた。

「僕、そんなにお寝坊じゃないやい」

 ちょっと拗ねちゃったみたい。

 ご機嫌を取らないとね。

「ねえ、スラちゃん。パンケーキって食べたことある?」

「ぱんけーき?」

 スラちゃんは知らないのか、その名前を復唱するだけで、特にそれ以上の返事はない。

「ふんわりシュワッと口で溶けちゃうような、小麦粉とか卵で出来た食べ物よ」

 あ、なんか頭の上から何かがこぼれてきそうな……。

「スラちゃん! よだれ、よだれ!」

 慌てて指摘をすると、頭の上で、じゅるり、と音がした。

 あ、危ない……(汗)。

「そのよだれは、美味しそうだって思ったってことね?」

「うん!」

 だったら決まりね!

 そうすると、食材は卵と小麦粉、それに砂糖……。私は食料保管庫に移動して、それらを取り出す。

 本当はふくらし粉、ベーキングパウダーが欲しいところだけれど、この世界にはまだ一般的じゃない様子。

 だから、私の作るものは、メレンゲで膨らみを与えるパンケーキだ。

 私は取っ手に手をかけて、冷蔵扉を開けると、二段に分けられた庫内の上段に、氷の精霊さんが氷のベッドの上でお昼寝していた。

「シラユキ。いつも、食材を守ってくれて、ありがとう。お礼をしたいんだけれど、好きなものはあるかしら?」

「お礼には及ばないわ、チセ。でも私たち精霊はジャムとか蜂蜜とかが大好きよ!」

「そうなのね。じゃあ、ジャムが出来たらお裾分けするわ。待っててね」

「はぁい」

 そのあと私は冷蔵庫からバターと牛乳を取り出して調理台に載せる。

 すると、窓をコンコンと突く音がした。

 小鳥さんだ!

 私はアトリエの扉を開けて外に出る。

「カゴいっぱいになったから、僕たちは帰るよ!」

 そう私に告げると、小鳥さんたちはパタパタと一斉に飛んでいってしまった。小さなカゴには様々なベリーがこんもりと山になっていた。

 カゴから溢れてしまいそうな程!

 美味しそう!

「いっぱい、ありがとう!」

「君のためなら当然さ!」

 私は飛び去っていく小鳥たちに手を振って、彼らの姿が見えなくなるまで見送る。それからカゴを大事に抱えてアトリエの中に戻ろうとした。

 その時。

「……ん?」

 くいくいっとスカートの端を背後から引っ張られた。