
籠を下げ、森の中を歩き回る。季節は巡り、暖かい気節が訪れた。寒くて厳しい時期が終わって、地面からは植物が芽吹き、順に花が綻ぶ。そこかしこからいい匂いがして、胸の中がルンと跳ねた。
「あったー! ラムソン!」
目当てのものに出会い、私は一人で声を高くした。
手提げの籠をいっぱいにすると、私は満足して家へと戻った。庭から見えるガラス戸の向こう、リビングでは先生が
あれから、先生には
読んでいるところを後ろから少し
玄関から家の中へ入り控えめに「戻りました」と言うと、中から「おかえり」と声が返ってきた。集中していると、返事がないこともある。今はどうやら違うらしい。
「大量でした」
籠をテーブルに置けば先生がソファから立ち上がる。こんもりとした葉っぱの山を目にして先生が瞬いた。
「君は大抵の場合、大量だな」
「……」
それは、必死で探しているからであって。行くからには空の籠を持って帰ることなどできない。ざっくり言うと、がめついのである。少し恥ずかしくなって「ええと」と口を
(それだ。それです)
現金な私はその一言で自信を取り戻し、明るく笑う。
「そういえば、チャーリーに似合いそうなお花も摘んできました」
「チャーリー」
「ほら、いただいたウサギさんです」
「……」
先生は途端に難しい顔になり、とても小さい声で「そうだったな」と発した。
改めて言うと、チャーリーとは例のウサギのぬいぐるみのことである。いつまでも「小生さんお手製のウサギ」では愛着が湧かないと思い、先日命名した。
かのウサギさんのぬいぐるみ、もといチャーリーは今やただのぬいぐるみであり、もう
森の中に
「あ、ドライフラワーにした方がいいでしょうか……」
「……君の好きなように」
先生はあまりチャーリーに興味がない。小生さんお手製というのがどうもいけないらしい。名前を付けたと報告したときには「名前まで付けたの」という顔をしていた。
ちなみに完全にただのぬいぐるみにされてしまった件について、チャーリーで
先生はラムソンを鼻先に近付けて匂いを嗅ぐ。
「春らしさがある」
「そうですね」
またひとつ、一緒に季節を迎えられた。心地のよい、柔らかな気持ちになった。
穏やかな昼下がり。フレッシュチーズにハチミツやジャムを付けるといいことがあった。牛乳とレモンからチーズが作れると聞き、早速試したみたものの。味見段階でこれはとんでもないものを作ってしまったと思った。
「どうしよう……」
深刻に
とろりとしたハチミツの甘さ、酸味の利いたブラックベリーのジャム。そして口の中で溶けるようなチーズ。先生の反応は
「……」
(ですよねえ)
表情を見れば分かる。これはかなり得点が高い。
「
先生は頷いた。
そう、これは本日招待されているお茶会へ持っていくもの。失敗したら別のものにするつもりだったけれど、上々の出来になった。持っていくのが惜しいくらいに。
誘ってくれたのはバーレイさん。冬の間エレーナさんが頑張って彼を励まし続けた
そんな彼らは近頃、私やジュノさん、コルテスさん以外の街の人もお茶会に呼び始めた。バーレイさんの作るスイーツは瞬く間に評判になり、お金を出すから作ってほしいという人まで出てきたそう。
彼らが街に
バーレイさんは口では「気にしないから頼んでくれていい」と言っているようだが、街でリリアさんと会うとたまに涙目になるらしいので、リリアさんの方が気にして「とても頼めない」とのこと。時間を置いてみる、と残念そうに笑う彼女は、少し寂しそうだった。
さて今回、私は久し振りのご招待なので、「行きたい」と先生にはっきり意思表示をした。先生からは「どうぞ」と落ち着いた返事。決して自分も行くとは言わなかった。
その代わり、「私は君と日々
「こんにちはー」
「ん」
約束の時間になってお宅を訪ねるとムスッとしているバーレイさんが出てきた。ムスッとしているのは彼の挨拶である。リリアさんには涙目でも、私にはこのような態度が取れるくらいには回復したと見た。
「ルシルさん、いらっしゃい」
「こんにちは」
エレーナさんにひそひそと「バーレイさん元気になりましたか」と聞けば、苦笑いが返ってきた。
「毎日励ますのが大変でした。ずっと前向きなことを言い続けるのは私の性には合わないわね」
「はは……」
「あの子も失礼なことに、『ばあちゃんがそんなこと言うなんて』って何度も言うのよ」
バーレイさんからすれば、エレーナさんは今まで人付き合いを否定してきた側の人。言うことがガラリと変われば驚くだろう。
「私も必死なのよ。あの子がコートデューで人々と生きていくことを望んだときから、今までの生き方を変えなくてはならなくなって。若くないから慣れるのに時間がかかります」
笑いながらそう言うが、必死に見えないのが
「何二人でこそこそやってんの」
お茶のセットを持つバーレイさんに
「げ。何これ。うま」
「バーレイ。もっときちんと話しなさい」
エレーナさんの苦言はどこ吹く風。バーレイさんは私の持ってきたチーズや添え物をまた口に含むと「何だこれ」と悔しそうに
「全部ルシルが作ったの?」
「はい」
「チッ」と
「夜に光るお花ってご存じです?」
「ええ、知っているわ」
「ああ、アレ」
試しに質問してみたら二人からは「当然知っている」という反応。流石、各地を回っていただけのことはある。
「それが? どうなさったの?」
私は照れを隠すために膝に視線を落とした。実は。
「あのその、今度見に連れていっていただくので……お二人はご存じかなあと」
「あら!」とエレーナさんが声を弾ませる。
「あの辺は天然の宝石の採れる山が近くにありますからね」
(違う)
目的が違う。発想が完全にトレジャーハンターだ。私は頭を横に振り、「いいえ」と伝える。するとエレーナさんだけでなく、バーレイさんもキョトンとした。バーレイさんも同じことを連想していたらしい。
「お花そのものを見に行くのです」
「嫌だわ、私ったら。
私や先生でなくても「宝探しですか?」とはなりにくい。言及しようかどうか迷ったが、今は控えておいた。
「でも、そう。いいわね。お二人で旅行ってことね」
「……はい」
こそばゆくて頬を
「いついらっしゃるの?」
「来週です」
「そう。確かに見頃ね。よく知っていらっしゃるわ」
「えへへ」とにやにやしていると、横からバーレイさんが深刻そうに「大丈夫か」と訊いてくる。
「へ」
何が、と言う前に彼から発せられたのは。
「あそこ、野宿だぞ。しかも夜はすげー冷える」
「……あら」
それは初耳だった。私の表情からスッと笑みが消える。
「フィリスさんのことですから大丈夫でしょうよ」
エレーナさんがフォローを入れてくれたが、先生からは少しもそんなこと聞いていない。私は今まで、かなり気楽に構えていた。「花が光るなんて、凄く素敵、見てみたい」と、そんな感じだったのである。
過酷な現場なのかどうか、確認を取りたい気持ちが収まらない。家に帰った私は、すかさず先生に話の詳細を聞くことにした。
「言うなれば野宿」
「……!」
あっさりと返ってきた「野宿」の一言に目を
「
「空気が澄んでよく見える」
(メリットだった)
先生は紅茶を飲みながら、そしてチーズの残りにフルーツの砂糖漬けを突っ込みながら淡々と言った。私の居ぬ間に新たな食べ方を編み出している。
大丈夫だろうかと震える私を見て、先生は「
「さして案じることはない。言う必要もなかった」
(出た)
先生が「大丈夫」と判断したことはあまり外部には公開されない。大丈夫だとしても情報の共有はときには必要なのだ。私は神妙に「持っていくものは」と尋ねた。
「寝袋。毛布。鍋。皿」
小旅行ではなさそうな匂いがしてきた。どちらかと言うと冒険の気配すらする。そもそも旅行だって
「ルシル」
「はい」
呼ばれていつの間にか
「君に不便をかけるつもりは毛頭ない。君は
「…………ぐ」
旅行のためにお菓子をたくさん用意していることがバレている。しかも、不便をかけないつもり、だなんて。それは私がいつも思っていることだ。
「で、でも私寝袋なんて持って」
「ある」
(ある)
「寝袋も、毛布も、外で使用する鍋も食器も既に整えてある」
あんぐりする私を
「そんなこともできず、どうして君を連れていく約束ができよう」
呆れさえも
(失礼しました……)
「……私は、楽しみにしていればよろしいのですね」
「そう」
いつもの肯定のお返事。安心して笑うしかない。私は頬を緩め、先生の食べているものに手を伸ばした。
チュンチュンと早起きの鳥たちが挨拶を交わす。爽やかで涼しい空気が辺りを包んでいる。
いよいよ出発の朝。朝といっても空はまだ薄暗い。私と先生はそんな時間に家を出ようとしていた。ずしっと重い鞄を持って玄関に集合する。想定通り、荷物は結構な量になった。
「戸締まりはしました。コルテスさんにも出かけると伝えてあります。寝袋はこっち。お菓子はこっち」
出発前の指差し確認。びし、びし、と荷物を指していると、不意に先生が「今日は指に着けたのか」と発した。
「…………」
私はピタリと動きを止め、小さく「はい」と答えた。
先生の視線は私の左手の薬指に注がれていた。実はいつも指に着けていないため、少々気恥ずかしい。勿論普段から着けたいのは山々なのだが、水仕事、土仕事をするときに傷が付く、
しかし今日はお出かけなのでそんな必要はない。指輪は指輪たるべく、指へと収まった。なるべく自然を装い、着けていることを意識しないようにしていたのに、もう気が付かれてしまった。
「……たまに指にあるとドキドキします」
「じき慣れる」
先生は慣れたのだろうか。私の差し上げたその、お
「同じものが増えていく」
「はい」
確認するように先生が言う。私は自信満々に頷いた。
ゴトンゴトンと汽車が揺れる。黒い煙が空に筋を作っている。車両には私たちだけ。
コートデューから出発して汽車内で一泊した。先生と私の実家に帰ったときに一度経験している分、勝手が分かっており、車中泊は大変快適に過ごすことができた。食堂車で
乗り換えはこれで二回目。先程乗り継いだ駅は閑散としていた。大きな荷物を搬入していると、駅員さんが駆けてきて手伝ってくれた。のどかなところだった。今汽車が通っているのは地名さえも知らない土地。
ここにはもう、私が知っているのは先生しか居ない。
先生は窓枠に肘をかけ、頬杖を突いている。何を思うのか、流れていく外の景色をジッと見つめる。少し開いた窓から風が入り込み、先生の髪がそよぐ。
温かい風に乗って届くのは草や花の香り。汽車は平らな草原を走っており、一面は新緑に覆われていた。遠くに黄色い花畑が点々と見える。差し込む光は柔らかく、ぼうっと車内の窓辺が光っている。
光を受けてちらちらと輝くのは先生の薬指。時折光の加減で、白く溶けてしまう金の輪。私は心を奪われたように、その一点を見つめていた。
私の視線に気が付いたのか、先生の目がこちらを向く。私は不思議と急に嬉しくなって、口を両手で覆い「いいえ」と笑った。先生はフッと鼻先で笑みを零すと、頬杖を突いたまま流し目をこちらに
「着いた」
「おお……」
原っぱにぽつんとある駅で、私たちは汽車を降りた。ここに駅があることすら奇跡、と思うような場所だった。もはや駅員も居なかった。
(よいしょ、よいしょ)
私たちはひたすら草原を歩いた。成程これはどう見ても野宿だと納得せざるを得ない大自然の中。道という道もないようなところを、先生について突き進んだ。辺りを低い山や丘が囲む、開けたところに到着すると、先生は「ここだ」と一言発した。方角と場所を知らなければ、絶対に
日は少し陰ったところで、草原の鮮やかな緑がキラキラと輝いている。さわさわと風にくすぐられる草の音が爽やかだ。私はしゃがみ、花はないかと探した。
「夜にならねば花弁は開かない」と後ろから声がかかる。振り返れば、先生が早速野営の準備をしていた。せめて花の
「そちらを持って」
「はい」
「火を起こす」
「はい」
シートを敷き、寝袋を用意し。火の準備や食事の支度は、見る見る内に整った。空の下で小さな鍋を火にかけ、スープを作った。パンをナイフで切り分け、上にチーズやサラミを載せて食べた。先生は慣れたもので、食後の紅茶までしっかり用意されていた。私に何ら不都合はない。与えられるものを受け取っていたら食事が終わっていた。
私の生まれ育ったところも大変な田舎だが、こういう経験は
今居るところには屋根は勿論、四方に壁もない。時折風が吹けば炎が揺れ、辺りの物が飛ばないかを気にした。
背中に何もない、というのが少し
夕暮れはもう直ぐ終わりで、
「ルシル」
先生が私を呼ぶ。「はい」と顔を上げれば、先生の向こうに光る群れを見た。私は思わず立ち上がる。待っていた、そのときが来たのだ。
「わあ……」
不思議で幻想的な光景だった。柔らかで白い光が、ぼんやりと地面に続いている。花は既に光り始めていた。
「夜が来る。よりよく見えよう」
肩に厚手のブランケットが掛けられた。先生は先を歩き、光の中に迎えられていく。ついていってよいものか、あまりに神秘的で
「気を取られては転ぶ」
「……」
先生に手を引かれながら、私も光の中へと入っていく。違う世界に来てしまったのではないかと錯覚しそうになる。
空は次第に暗くなり、星が瞬き始める。空の輝きと、地上の輝き。地面から続く闇、山の先は空と混ざり、境はなくなってしまう。
夜空を、宇宙を歩いているような。
(ぐるぐるする)
言葉にできず、ただ首を横に振った。群生する花の真ん中で、先生は立ち止まる。
「今しか咲かない。気に入っただろうか」
今度は縦に何度も首をブンブン振った。先生は「そうか」と低い声で応えた。
「好きなだけ眺めるといい。朝はしばらく来ないのだから」
私は小さく頷き、先生に頭を寄せ、花を見つめた。「寒くはないか」と案じる声が胸を
「……」
花が、星が、
夜明けはまだ先。いつまででも起きていられそうだと思った。

空が白み始めた。花はもう光らない。星も姿をくらました。時折ささやかな風が草原の表面を
「すう……」
ルシルが寝袋で丸くなる。流石に耐えがたい程空気が冷たくなり、昨夜はやむなく寝袋に収まった。毛布やブランケット、湯を
君はどこに居ても君だが、一日として同じ君は居ない。
光る花を前にルシルは鮮やかな心の響きを奏で、瞳には光彩が次々と現れた。その姿が強烈にフィリスの視線を奪っていたことは、ルシルは露程も知らない。フィリスは自嘲した。フィリスがルシルに彼女のまだ見ぬ世界を見せたいと思うのは、自分がまだ見ぬルシルを見たいからなのかもしれない。
彼女だけではない。
ルシルを通して見た世界はフィリスにとって、まるで新たな場所に光が当たったかのように見えた。かつて目にしたことのある光景でも、何故か新鮮に映った。彩られていく。抵抗できぬ程の強い力で。
知らぬ街でも、海でも、君の望むところへ。君は、世界は。
「くふん」
ルシルが変なくしゃみをした。初めて聞く妙なものだった。
「ふっ」
フィリスはルシルの体に自身のブランケットをかけた。すると、
「おはようございます」
「……おはよう」
昨夜の光景がまだ瞳に残っているかのような、ほのかな光を見た。

「えっ。他にも光る花があるんですか」
爽やかな風が雲を運ぶ朝。流石に空気はまだ冷たく、寝袋から
「北と東に。光るものを好むのであればキノコの方が多い」
「キノコ」
意外と世の中には光るものが多いらしい。私は「ううん」と唸った。
「虫にもいる。深海にもそのような魚が住んでいる」
どんどん対象が広がってきた。この調子だとまだまだ出てきそうである。とてもありがたいけれど、見るものは全て光らなくても構わない。今回だって、先生の
(……だって、あまりそういうこと、触れる機会がなかったから)
先生の好きな景色。興味のあるもの。先生が今まで見てきたこと。直に知りたい。あなたがそれらをどう感じ、何を思うのか。
光るものの候補を探す先生に、「あの」と声をかけた。
「先生のお好きなところに行きたいです」
「……?」
何故そんなに不思議そうなのだろう。表情こそ、さして変化はないが、纏う雰囲気で「どうして」と聞こえる。それが分からない私は、まだ先生を深く理解できていないということなのだろう。或いは、「どうして」と思う先生が、私を。
「ふふ」
段々とおかしくなってきて、私は笑ってしまった。先生は
「知りたいのです。先生のことを」
「…………」
(……え? 何故に?)
珍しく先生が固まってしまった。あまりおかしなことを言っているつもりはない。同じ
「ええと。つまりですね。今回も私がこちらに来たかったのは」
「……、いい」
「え」
「理解した。結構」
「いや……」
いや。突然ここで目を
(ど──どうしてここで恥ずかしがっているのですか)
せっかく追加で語ろうかと思ったのに、すげなく断られてしまったのはまだ良しとしよう。しかし先の会話のどこにここまで感情を殺す要素があっただろうか。
「先生」
「…………」
(応答すら)
「……」
(えい)
痺れを切らした私は、意を決して大胆にも、頑なな先生の懐へと飛び込んだ。膝を山にして座り、そこへ肘を置いて口元を隠す先生の腕の下へガバッと入った。
「…………」
そのまま左耳を先生の胸部へと寄せる。トク、トクと脈打つ音が聞こえた。
(よし。脈に乱れは……なし!)
内心「くう」と悔しがる。今なら、少しくらいはドキドキしているかと期待したのだが。正常なリズムである。
それならば。目は合わせてくれずとも、どんなお顔かしらと抱き着いたまま顔を上げれば、先生の目とバチッと合った。が、直ぐにまた逸らされた。ここまでくれば若干心配になる。
「……妙なことを言ってしまったでしょうか」
意味が曲がりに曲がって「何て破廉恥な」などと思われていても困る。
「いや」
答えは打って響くように返ってきた。先生を見上げたまましばらく待つと、先生はやがて観念したかのように俯き、私を見る。そして。
──どさ。そのまま後ろへ倒れた。
「わ」
先生を捕獲していた私も一緒についていく。柔らかい草が私たちを受け止めた。今度は私が先生を見下ろす番だった。
「先生?」
もう一度呼ぶ。すると先生はやっと私を
「君を鏡として己を見た」
先生の指が私の額にかかる髪を
「知らんと欲すれば、変わり移ろう。そうして、染め上げられる果てはあるのだろうか」
紫色の瞳に吸い込まれそうになる。それでいて私の内側へと入り込み、全てを見透かされるかと恐ろしささえ抱かせる、強い色。
あなたを知って、私が変わって。私を知って、あなたが変わって。その繰り返しに果てはなく、どちらかが片方だけ、ということもきっとない。
(どうぞ)
私は差し出すように先生に目を近付ける。その視線がいくら鋭くても、幾度交わっても。私も、きっとあなたも。お互いの
自然の一部となった私たちもろとも、朝日は一帯を照らし、風は辺りを撫でる。ゆっくりと離した唇が外気に触れた。私たちの隙間を
つま先が触れ、鼻先が触れ、胸を合わせても、近付きたい気持ちは止まらない。甘く、苦しい切なさに心を繋がれていればいい。
それでいいのだ。飽きずあなたを想うのだ。足りることは到底ない。あなたが見せる美しさは止めどなく世界を変えていく。きらきらと、鮮やかに私を