病気と兄妹

朝食を終えてすぐに、ルーナさんの部屋へと向かった。

「ルーナ」

そう名前を呼びながら、コンコン、と、リアムさんがルーナさんの部屋の扉をノックする。

するとすぐに「どうぞ!」という声が聞こえて、リアムさんがゆっくりと、慎重に扉を開いた。

「お邪魔します……」

そう言いながら静かにお部屋の中に入ると、ベッドの中で起き上がっていた可愛らしい女の子──ルーナさんが、ぱっと顔を輝かせた。

「ヴァイオレットさま!」

「おはようございます、ルーナさん。今日の気分はいかがですか?」

そう言いながら、心の中で少しだけ安堵する。リアムさんの言う通り、薬はきちんと効き、また今も効果が残っているようだ。

「昨日、お薬が効き始めた時よりは少し痛いけれど……いつもより、痛くないの!」

「良かったです! 今日も、痛み止めをお出ししますね」

幸いなことに、昨日出したお薬は効き目が優しく、習慣性──中毒性がないものだ。それがしっかり効いてくれたことに安堵しながら、私はルーナさんに笑顔を向ける。

「それから、私はルーナさんの病気に効くような……そんなお薬を作れるよう、頑張りたいと思っています。そのために、診察させていただいてもいいですか?」

「はい」

私の言葉に、ちょっとだけ緊張したような怖いような、そんな表情を見せながらルーナさんが頷いた。

「よろしくお願いします。……痛みが消えるだけでも、嬉しかったから。治らなくても、痛くないなら頑張れる」

「……それなら余計に。痛み止めが効いて、本当によかったです」

微笑みは保ったまま、私は頷いた。

あえて期待はしないようにしよう、そう考えていることがありありと伝わる言葉と表情に、胸が痛む。

──できる限り、全力で頑張ろう。

小さく息を吐いて気持ちを切り替えつつ、私は「まずはお顔から失礼しますね」と、全体的な診察を始めた。



「この病気になったのは、二年くらい前のことなの」

診察を終えたあと。

この病気について教えてほしいと言った私に、少しだけ不安そうに頷きながら、ルーナさんが説明を始めた。

それは何の前触れもない、突然のこと。

ある日の朝。経験したことのない痛みに目を覚ましたルーナさんは、まるで枯れ果てた木のような状態になっている自分の手を見たそうだ。

その部分は、触れてもほとんど感覚がないようで。

ただギリギリと締め付けられたり、力が抜けていくような、そういう痛みだけがあるそうだ。

最初は右手だけだったその部分は徐々に広がり、二年を経た今では右腕はおろか、肩や胸にまで広がっている。

肌と言うよりは木の枝に近い感触に、見たことも聞いたこともない病。

どんなお医者さまに診てもらっても原因はわからず、最終的には気味が悪いと言われ。今ではどこのお医者さまにも診てもらえなくなっていたのだという。

「だけどお兄ちゃんは、私のために色々なお薬屋さんに行ってくれて……」

リアムさんはあらゆる薬屋に行って効きそうなお薬を買い、その中から病状の進行を食い止めるお薬を見つけ出して、それを購入し続けていたそうだ。

「そのお薬を飲んでいると、少しだけ手が動くし……それから、痛みが和らぐんだけど……」

ルーナさんが言い淀む。

それはリアムさんにとってはとても高価な薬のようで、そのお薬を買うために、リアムさんは朝から夜遅くまで働き続けているらしい。

しかしそれではいつか、リアムさんの方が体を壊してしまう。

きっとルーナさんも、それを危惧しているのだろう。

実際、リアムさんが自分の体を傷つけてまでお金を手に入れたことを思いながら、私は「わかりました」と頷いた。

「まず、そのお薬はまだ残っていますか?」

「あります」

私の言葉にリアムさんが即座に立ち上がり、ベッド脇のサイドテーブルから茶色の瓶を取り出した。

薬の名前や、製作者名は書かれていない。おそらくラベルが貼ってあったのだろう箇所は剥がれていて私が首を傾げると、リアムさんが困ったように眉を下げた。

「僕たちが行ける薬屋は、貧民街の連中が行くようなところなので。……あの、正規に仕入れているものではないということで……薬屋の店主に聞けば、ある程度はわかると思いますが」

そう言うリアムさんの言葉に、そんなこともあるのかと驚きつつ、私は瓶の中から薬を取り出した。中に入っていたのは緑色の丸薬だ。

「──申し訳ないのですがこのお薬を、三つほどいただいてもいいでしょうか?」

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

慎重に取り出した三粒を、持っていたハンカチに乗せる。顔を寄せて香りを嗅ぐと、まだ若い春の薬草の香りが、少しだけ漂った。

「──ファンネル、ウォームッド、コリラン……香りでわかるのは、これくらいでしょうか」

それ以外にも、色々なものが含まれていそうだ。しかし悪いものは一切入っていないようで、ホッとする。

その薬をハンカチで丁寧に包んで懐にしまい、「ありがとうございます」とお礼を言う。

「まずはルーナさんの悩みの一つを解消できるよう、頑張ってみようと思います」

私の言葉に、ルーナさんが目を丸くした。