悪女
(──なんだ、空気が変わった……?)
依頼人に頼まれて攫った少女、ソフィア・オルコットの髪を掴んでいた男──カーターは、一瞬言葉を失った。
この少女には、恨みはない。むしろ彼も可愛がっている少女と見た目の年齢が近いこともあり、あくどい女だと知ってはいるが、普通の娘のように怯える姿に多少心が痛んだほどだ。
しかし周りの者に示しをつけるため、わざと恐怖心を煽ってはいたのだが。
「聞こえなかったの?」
青みがかった紫の瞳に、冷たい蔑みの色が宿っている。
「薄汚い手を離せと、この私が言っているのよ」
バシ、と髪を掴んでいた手を強く払われた。