デートとは

月日が経つのは早いもので、あっという間に一週間が過ぎ。クロードさまとお出かけする日がやってきた。


今日を楽しみにしていた私は、少し……いや、かなり早めに、一張羅のワンピースに着替え終えて、鏡をじっと見ていた。

せめて髪くらいは結んだほうが良いかしら、このままが良いかしら……と悩んでいた、その時。

「んん……ソフィアちゃん?」

ベッドで眠っていたナンシーさんが、眠そうな目をこすりながらそう言った。

実は私とナンシーさんは同室で、ノエルさんは隣のお部屋なのだ。大きな音を立てないよう、そっと動いていたつもりだったのだけれど。

「起こしてしまってすみません」

私がそう謝ると、ナンシーさんが目をこすりながら「いいのよう」とあくびをした。

「朝から珍しいわね。どこかにお出かけ?」

布団の中でもぞもぞとしながら、眠そうな顔で私を見る。

「あ、そうなんです。今日は、クロードさまとお出かけをする約束をしていまして……」

浮かれ顔を隠せずにちょっと照れながら私がそう言うと、ナンシーさんが一瞬目を丸くして、がばりと起き上がる。

「ソフィアちゃん? まさかとは思うけれど、その格好で?」

「は、はい」

初めて聞くような低い声。妙に凄みのある表情に、私は戸惑いながら頷いた。

そんな間の抜けた声を出した私を、ナンシーさんが頭の上からつま先までじいっと見る。

その目は微かなほころびも見逃さないという気迫に満ちていて、私は目利きの八百屋さんを前にした、ちょっと不揃いな野菜のような気持ちになった。

「ちょっとそこに座ってちょうだい」

職人のような風格を漂わせたナンシーさんが親指で鏡台の前を指し示し、厳かにそう告げた。


「もう、ソフィアちゃんったら。デートの約束をしていたのなら、先に言ってちょうだい」

頬を膨らませながら、ナンシーさんがそう言った。

「せめて昨日のうちに言ってくれたら、私特製の美容ドリンクや新作美肌パック、小顔マッサージに脚痩せストレッチに、ありとあらゆる手間をかけてあげられたのに」

ぷりぷりとお怒りのナンシーさんの横にはノエルさんが、自室から持ってきた大量の服を手に立っている。

私の持っている服があんまりにもひどいということで、嘆いたナンシーさんが隣のノエルさんに「服を貸して!」と言いに行ったのだった。

ちなみに何がとは言わないけれど、豊かなものを持っているナンシーさんと違って、私とノエルさんは些か慎ましく、控えめだ。

「まったく、折角のクロード様とのデートだっていうのに、いつものワンピースでお出かけする気だったなんて正気なの? もっての外よ。初めてのデートをするときはね、いつもと違う自分を演出しなければだめだって、法律で決まってるんだから」

「そんな法律はありません。しかし私も今日の外出は、確かに逢引だと思います」

二人の会話に思わず目を剥いた私は、大慌てで両手と首を大きく振った。

「ち、違います! 今日は一緒に屋台に行くだけで、デッ、デートでは、断じて……!」

「ソフィアちゃん」

焦る私に、ナンシーさんがまるでだめな生き物を見るかのような目を向けながら、ゆっくりと首を振った。

「あのね、男と女が揃って出かけたなら。……それは、デートなの」

「えっ……!?

「これは本当よ。親兄弟でもない限り、男女揃ってのお出かけは全てがデートと言っていいわ。既婚者だろうが身分違いだろうが同性同士だろうが、それはすべてデートなの」

「そ、そうなんですか……?」

強く断言するナンシーさんの表情は真剣で、とても嘘を言っているようには見えない。

恋愛初心者仲間であるノエルさんに目を向けると、彼女は困ったように肩をすくめて、半信半疑といった表情を浮かべている。

もしかして、本当なのだろうか。そんな馬鹿なとは思いつつも、私はおそるおそる質問をした。

「で、では私が先日薬師長と薬草の仕入れに出かけたのも……!?

「それはノーカウントにしておきたいわね。ただの薬草の仕入れですもの」

「あ、じゃあスヴェンと一緒に調薬器具の修理に出かけたのはデートではない……」

「それは微妙なところじゃないかしら。デートのデーの字くらいまではあると思うわ」

「そうなんですか!?

奥が深すぎて、デートの定義がわからない。

これは難しいと言われている風邪薬の開発よりも難問なのではと私がひっそり頭を抱えていると、ナンシーさんが「とにかく」と両手をたたいた。

「クロード様と一緒に出かけるのなら、相応ふさわしい格好をしていかないと。いつものそのワンピースでは絶対だめよ。屋台に行くっていうことは、広場中心?」

「あ、はい! まずは串焼き、綿菓子、それからりんご飴を挟んで次はスパイシーなソースで炒めたという麺を食べて、それから……」

「まあ、結構食べるのね。まるで本気の食べ歩きだわ……」

「そ、そうです! 食べ歩きのために連れてってくださると……!」

私がそう言うと、ナンシーさんは「ヘタレ属性が強めなのねえ……」と意味深に呟きながら、「それじゃあ」とにっこりとウィンクした。

「動きやすくて、食べ歩きがしやすくて、なおかつとても可愛い格好にしなくちゃね」