朝から魔術学院で講義の準備をしようと学院の廊下を歩いていると、生徒達の何人かがこちらに気が付いて走ってきた。

「おはようございます」

 朝の挨拶をすると、生徒達は元気よく挨拶を返し、すぐに質問をしてくる。

「おはようございます! アオイ先生がペットを飼い始めたって聞いたんですけど……」

 そんな質問に、思わず目を丸くする。

「ええ、その通りです。でも、飼い始めたのはほんの二、三日前からですよ?」

 噂が広まる速度は速いと聞くけれど、まさかペットの話題がこれほどの速さで広まるとは思わなかった。

 驚いていると、生徒達の一人が少し心配そうに口を開く。

「アオイ先生のペットって、寮で飼っているんですか? 確か、寮は学生も教員もペット禁止だったような……」

 と、生徒は不安そうに呟いた。もしかしたら、私が寮長に怒られるかもしれないと心配してくれているのかもしれない。そう思い、優しく微笑んで頷く。

「もちろん知っていますよ。なので、ペットは外で飼っています」

「外?」

「学院の敷地内ですか?」

 答えると、生徒達は揃って首を傾げた。寮の中でなくても、敷地内では駄目なのではないかと思っているのだろう。まぁ、グレンならばお願いすればもしかしたら敷地内でペットを飼うことも出来るかもしれないが、あまり無理を言いたいわけでもない。

「町の外ですよ。そうですね……少しだけなら時間があるので、見に行ってみますか?」

 そう尋ねると、生徒達は二つの反応に分かれた。

「良いんですか!? 見たいです!」

「……町の外?」

 ペットを見られると思って喜ぶ子たちと、町の外で飼っている点に引っかかっている子たちだ。もしかしたら小動物を想像して心配しているのかもしれない。

 と、その時、たまたま近くを通りがかったロックスがこちらに気が付き、歩いてきた。

「なんの話だ?」

 ロックスが現れると生徒達の大半が緊張した様子を見せたが、それが普通なのか当の本人は気にした様子もない。以前と違い、最近はロックスも大人しくなったのだ。どうせなら、後輩たちにもそれに気が付いてもらった方が良いかもしれない。

 そう思い、ロックスも誘ってみることにした。

「今から私の飼っているペットを見に行こうという話になっています。ロックス君も来ますか?」

 そう尋ねると、ロックスは何故か視線を逸らして遠くを見た。

「む、そうだな。行ってやらんでもない」

 ロックスはなんとも曖昧な返事をしてきた。もしかしたら予定があったのかもしれない。

「忙しいなら、また今度でも……」

「いや、行く! 少々興味がある!」

「そ、そうですか? なら良いのですが」

 気を利かせたつもりだったが、ロックスは何故か食い気味に同行すると主張した。まぁ、本人が行きたいというのだから問題ないのだろう。

「それでは、皆で町の外へ行きましょう」

 そう言って先導しようとすると、ロックスは眉根を寄せて小さく呟く。

「……町の外?」

 団体様になって町の外まで向かい、衛兵に挨拶をしながら街道へと出る。まるで遠足のようで少し楽しい。今後は町の外へ出る野外授業も良いかもしれない。

 そんなことを思いながら街道を進んでいると、生徒の一人が口を開いた。

「あ、あの……どこまで行くんでしょうか?」

 困惑した声だ。周りを一度見てから立ち止まり、振り返る。

「そうですね。少し早いですが、この辺りでも良いでしょう」

「はい?」

 首を傾げる生徒に微笑みつつ、もう一度周囲を確認する。街道にはちらほらと人の姿はあるが、町からはそれなりに離れたので大騒ぎにはならないだろう。

 そう思い、街道から離れた森の方へ向き直った。そして、森の上空に向かって火の魔術を放つ。火の魔術は空中で花火のように音を立てて弾けた。

「うおっ!?

「先生!?

 驚くロックス達に片手を振ってから森の方を見るようにジェスチャーを送る。全員が森の方を見たその時、森の中心ほどからフワリと大きな影が現れた。

 ドラゴンである。翼を広げて優雅に空を舞うその姿は神話に出てきそうな神々しさを感じさせる。その見事な飛びっぷりに、ロックス達も目を丸くして固まっていた。

「フォレストドラゴンのドラコです」

 自信満々にそう紹介すると、皆が油の切れたロボットのようにギギギとこちらに顔を向けた。

「……ドラゴン?」

「……ペット、ですか?」

「はい。基本的には森の中で好きに生活していますが、会いに行くとお腹を見せてゴロゴロ喉を鳴らして甘えるんですよ。可愛いですよね」

 皆の質問に答えると、何故か全員から信じられないものを見るような目で見られてしまった。

 何故だろうか。ドラコは可愛くて強くて恰好良いのに……。