街のテラス席があるカフェで、ストラスとエライザと一緒に軽食を楽しんでいた時のこと。
空は晴天で大きな雲が一つ二つと浮いているだけで、気持ちの良い風の吹く素晴らしいコンディションである。建物の二階部分から通りの方にせり出したテラス席は、なんとテーブル一つと椅子が四脚だけの豪華な空間だ。塀は胸の高さほどの柵で出来ている為、視界は広くて清々しい気持ちになる。
今はちょうどメインディッシュとなる魚料理がテーブルに並んだところで、私はまだ前菜のサラダを口にしていた。
魚は白身魚のようで、熱した植物性の油をかけたのかとても香ばしい匂いがして食欲をそそる。魚の表面には塩以外にもスパイスがまぶされており、更に下にも香草が敷かれているようだった。
複雑な香りながら、思わず手が伸びそうになる……そう思った矢先、エライザがフォークを魚に突き刺した。
「美味しそうですー!」
興奮した様子で瞬く間に魚を切り分けていくエライザ。サラダを食べている途中だったが、一口サイズに切り分けられた魚が小皿に盛られていた。
あまりの早業に驚いている間にも、皆にも配ったので義理は果たしたとばかりに、エライザはもう自分用に切り分けた魚を口に運んでいる。
「美味しいです!」
嬉しそうに魚を口に入れて感想を述べるエライザ。熱した油で表面の皮や鱗がパリパリになっていたせいか、エライザがバリバリと音を立てて豪快に魚を食べている。食欲旺盛過ぎる様子を横目に、ストラスが呆れたような顔で口を開いた。
「……二十を超えたら恥じらいを持て」
そう言ってから、ストラスはフォークとナイフで更に小さく切り分けて口に運んだ。ストラスは貴族の家の出らしくテーブルマナーはしっかりしている。
「む、美味いな」
と、魚を食べたストラスが目を僅かに開いて美味しいと口にした。珍しい反応に、思わず自分の視線も魚の方へ向く。
「それでは、私も」
気になった為、前菜を食べ終わる前に切り分けられた魚をフォークで一刺しにした。口に運ぶと、予想通り表面はパリパリになっていて楽しい食感だった。そして、中は柔らかくジューシーで身が解けるような感覚である。決め手はもちろん味付けだが、上品な魚の味を損なわない甘味と塩気だ。
「これは美味しいですね」
パリパリした外側の食感が癖になる料理だ。これは中々良い料理を知ることが出来た。
「これは美味しいですよね。お魚料理の革命ですよ! お魚の甘味と上品な味を焼くだけでなく、皮を油でパリパリにして食感まで良くするなんて! 嗚呼、なんて素晴らしいお魚料理!」
感動のあまり料理評論家のようになるエライザ。その様子を冷めた目で眺めて、ストラスが小さく頷く。
「まぁ、味が良いのは確かだな。他の料理も中々手が込んでいる」
ストラスのその感想に首肯しつつ、切り分けられた魚を見た。中々大きな魚だが、成長してもっと大きなサイズになるのだろうか。
「この魚は一般的に獲れる魚ですか? もっと大きなものもいるのでしょうか?」
そう尋ねると、ストラスが不思議そうに答えた。
「……まぁ、川の深い場所にいる魚だが、一般的に獲れる種類だな。深いところに行けば行くほど大きく、最大で牛ほどの大きさのものもいるようだ」
ストラスの回答を聞き、成程と頷く。
「それなら、ドラコの良い食料になりそうですね。今度教えてあげましょう」
誰にともなくそう呟くと、ストラスとエライザが顔を見合わせてから振り返った。
「ドラコ?」
「誰だ?」
二人の疑問に、私は頷いて答える。
「ああ、そういえば言っていなかったですね。ちょうど、今はお散歩中だと思いますが……」
そう言ってから飛翔の魔術を使い、空中に浮かんで街の周囲を見渡す。街道から少し離れた森にいる筈なので、その上空に向かって火の魔術を放つ。
合図である。
すると、森から街道の方へ大きな影が姿を見せた。街道の方で驚きの声が聞こえた為、すぐに地上でこちらを見上げているエライザとストラスを空中へと浮かせる。
「な、なんですか!?」
「いきなり、空に……」
混乱する二人がすぐ近くまで来たのを確認して、森の方を指差した。
「あれがドラコです」
「は?」
紹介すると、森から出てこちらを見上げる可愛いドラゴンの姿があった。ロイルから買い戻したフォレストドラゴンである。買い戻したものの、野生に戻れるか心配になった為、近くの森で時々食料を与えながら様子を見ていたのである。気が付けば合図の魔術を行使すればドラコは顔を見せるようになっており、近くに行っても逃げないくらい懐いた。
呼んだら来るようになると流石に情が湧いてくる為、何となくどうせなら美味しいものを食べさせてあげようかなどと考えるようになったのだ。
「ど、ドラコって……」
「あのドラゴン、もしかして……」
二人が変な顔でそう口にするので、質問かと思い回答する。
「ロイルさんから買い戻したドラゴンですよ。とても良い子で、今はあの森の奥にある湖の傍で生活しています」
「飼ってるのか!?」
「飼ってるんですか!?」
二人が同時に大きな声で聞き返してきたので、首を左右に振った。
「いえ、ちゃんと野生に戻れるか心配なので、暫くの間だけですよ。寂しいですが、やはり自然な状態に戻してあげないといけませんからね」
そう告げると、二人は呆れたような顔でドラコに視線を向けた。
ドラコはこちらの会話など聞こえていないだろうに、尻尾を振って食料の供給を待っていたのだった。