「これで良いですか?」

 そう言って、学院の中にある広場でクラウンに尋ねる。すると、クラウンは即席の台の上に並べられた魔術具の数々を見て目を輝かせて頷いた。

「素晴らしい! 最高です!」

 おもちゃの山を前にした子供のように喜ぶクラウン。その姿に笑っていると、見学に来たストラスやエライザ、ラングスが腕を組んで唸る。

「それにしても、量が多いな」

「凄い数です!」

「……これを全て、アオイが作ったのか?」

 三人の言葉を聞き、台の上に並んだ魔術具を確認する。指輪のタイプが二十。腕輪のタイプが五。ネックレスタイプが五。イヤリングタイプが二つ。後はどうしても大きくなってしまった拳大ほどの球形の物が四つと、円柱状の物が二つ。

「とりあえず、普段使うような物はこれくらいでしょうか? 後は、普段は使いませんが癒しの魔術の特級相当と、少々扱いが難しいオリジナル魔術を使える物が十個くらいありますが」

「……どの国の魔術師もアオイに勝てないわけだ」

「エルフの国の元老院全員でかかっても負けそうだな」

 呆れたような声でそんな感想を言われた。

 一方、エライザはクラウンと同じくハイテンションで魔術具を見て回っている。

「どれにも魔法陣が使われているんですよね!? どこにあるのか全然分かりません!」

「削れて消えないように、全て中に書き込まれていますから」

「中!? この指輪とか、いったいどこに……!?

 興奮するエライザに一つずつ説明していると、横からクラウンが顔を出して小刻みに頷いていた。

「なるほど……! では、まずはこの魔術具から使ってみよう!」

 クラウンは説明途中の指輪タイプの魔術具を手にして、魔力を注ぎ込み始めた。

「あ、それは飛翔の魔術ですね。飛翔と唱えてください」

「飛翔!」

 なんの躊躇いもなく魔術名を叫び、クラウンはロケットのように空に飛んでいった。

「……やはり馬鹿だったか」

「使い手の少ない飛翔の魔術をあんなに簡単に……」

 ストラスとラングスが空に打ち上げられていくクラウンを見て、そう呟く。エライザは空に飛んでいったクラウンを尻目に、土の魔術の魔術具を選んでいた。

「あの、ゴーレムを作り出す魔術具を!」

「これですね。以前はもっと簡素な物だったのですが、エルフの精霊魔術を研究している時に改良して、少々大きくなってしまいました」

 そう答えてから、球形の魔術具をエライザに渡す。

「お、おお……っ!

 エライザは金属製の球体を両手に持ち、感嘆の声を上げながら掲げた。

「それに少し多めに魔力を注ぎながら、岩巨人召喚と唱えてください」

「むむむむ……岩巨人召喚!」

 エライザも躊躇いは無かった。全力で魔力を流し込み、魔術名を口にする。

 直後、魔術具から光が走り、地面に大きな魔法陣を描いた。

「ま、魔法陣が……!」

 狂喜乱舞するエライザの前で、魔法陣は光り輝きながら地面の中の岩を集めて形にしていく。徐々に盛り上がっていく地面は、やがて高さ四メートルほどの岩の巨人へと姿を変えた。

「お、おお……っ! 凄いです!」

 エライザが岩の巨人を見て感想を述べる。

「このゴーレムはある程度命令を聞いて自主的に動きます。魔力消費は大きいかもしれませんが、常に行動を指示しなくて良くなったので、とても良い改良が出来たと思っています」

「え!? そ、それって物凄いことですよ!? よ、ようし! それじゃあ、ゴーレムさん! 試しにストラスさんを追いかけてみてください!」

「なに!? 何故俺を……!?

 突然のエライザのご乱心に、ストラスが目を剝いて驚く。しかし、岩の巨人は即座に命令を守ろうと両手を広げてストラスの方へ向き直った。

「くそ、覚えていろ……っ!

 ストラスは危険を察知し、慌てて走り出す。岩の巨人はその巨体に似つかわしくない俊敏さでストラスを追いかけ始めた。

「おお、凄い! あんなにジグザグに動いて……!」

 感動するエライザに苦笑しつつ、他の機能についても説明する。

「ゴーレムには多少の魔力が残っています。中級くらいまでの魔術であればゴーレムが魔術を使いますよ」

「そ、そんなことが……っ!? 凄過ぎます! ゴーレムさん、ストラスさんを捕まえて!」

 嬉しそうに新たな命令を発すると、ゴーレムはその場に立ち止まって魔術を行使した。直後、逃げ回るストラスを岩の檻が囲って動きを封じる。驚いて檻を構成する岩の柱を両手で持って固まるストラス。それを見てエライザは楽しそうに笑っていた。本当に仲が良い二人だ。

 そんなことを思っていると、空を飛んでいたクラウンが戻ってきた。

「そ、そのゴーレムも魔術具ですかー!?

 よろよろと空を降りて来るクラウンに質問されて、頷く。

「こちらはゴーレムを生み出す魔術具です」

 そう言ってエライザの持つ魔術具を指差すと、エライザが嬉しそうに報告した。

「凄いんですよ! 勝手に動くし、魔術まで使ってくれるゴーレムです! ゴーレム界の革命ですよ!」

「な、なんと……っ!? わ、私もその魔術具を……!」

 何とか地面に着陸し、体が斜めになりながらそんなことを言うクラウン。どう見ても限界だ。

「無尽蔵に魔力を放出してしまったようですね。今日はこれ以上しない方が良いでしょう。また次回、他の魔術具も試してみましょう」

 そう言って魔術具の試験会を打ち切りにすると、クラウンは首を猛烈な勢いで左右に振った。

「い、いやいやいや! そ、そんなわけには……」

 必死に食い下がろうとしたクラウンだったが、頭を振ったお陰で眩暈を起こしてその場に倒れ込んでしまう。完全にドクターストップだ。

「ふむ。疲労困憊だな。アオイの言う通り、取りやめとしよう」

 ラングスは苦笑しながら台の上に置かれた魔術具を集め始める。エライザはそれに残念そうに眉を八の字にした。

「はぁ……もっと見たかったですね。ねぇ、ストラスさん?」

 そう言って振り返り、エライザは自分がまだストラスを岩の檻に閉じ込めたままだったことを思い出す。

「……早く出せ」

 ストラスが低い声でそう告げると、エライザは顔を引き攣らせて後退った。

「……ご、ゴーレムさん! 一時間後! 一時間後に開放してください! 私はそれまでに遠くへ逃げ切ってみせます!」

 ゴーレムに新たな命令を出すと、エライザは脱兎のごとく逃げ出した。それを見て、岩の檻に嚙り付くようにしてストラスが顔を突き出す。

「エライザ! 絶対に逃がさんぞ! 覚えていろ!」

「ひぇえええええっ!」