ロビーに行くと、もう全員が揃っていた。ストラスとエライザ、コートは一つのテーブルを挟んで座っており、グレンは一人掛けのソファーに座ってグラスを片手に何か飲んでいた。そして、支配人と副支配人の二人はロビーに向かう私とシェンリーを見て、腕を組んで立っている。

「遅いわよ!」

「まだ始まんないけど、先に行って打ち合わせしたいのよ!」

 支配人達がぷりぷりと怒っている。

「すみません。とても良い部屋でゆっくりし過ぎてしまいました」

「そうでしょう!?

「私達も大好きなのよー!」

 部屋を褒めると支配人達はコロッと表情を変えた。朝からテンションの高い二人に苦笑しながら相槌を打つ。すると、ストラスが立ち上がって口を開いた。

「ロックスは一度王城に寄ってくると言っていた。先にオークションハウスに行くとしよう」

「え? ロックス君?」

 ストラスに言われて初めてロックスが不在であることに気が付く。

「……なんと、哀れな……」

 グレンが何か小さく呟いていたが、よく聞き取れなかった。

「まぁ、良い。とりあえず、オークションハウスに行くとしよう」

 ストラスが促し、他の面々も椅子から腰を上げる。支配人達は既に宿の出入り口へ移動していた。

「ほら! 早く!」

「私達が案内してあげるわ!」

「……先に行け、先に」

 二人のテンションについていけないストラスが疲れたようにそう呟くのを聞きながら、皆でオークションハウスへと移動する。

 月末の大きなオークションだからだろうか。オークションハウス周辺は既に多くの人で賑わっていた。王都の人口は良く分からないが、何かのイベントかと疑うほどの人数である。

「こんなの並んでらんないわ!」

「私らは裏口から入るわよ!」

「裏口?」

 支配人達はあまりの人数に辟易した様子でそう言った。聞き返すと、手招きをしながら先にさっさと歩き出す。オークションハウスの正面から右回りに回るようにして裏側に移動し始めた。

「ああ、搬入口の方から入るのか」

「違うわよ!」

「搬入されてたまるかってのよ!」

「何で怒ってるんだ!」

 何がキッカケになったのか、支配人達が怒り出し、ストラスも怒り返す。もう定例の流れとなってきた為、皆の反応も薄い。

「ほほう。仲良しじゃのう」

「そうですよね! 私もそう思ってました!」

「ストラス先生が感情をあんなに出すのは珍しいですね」

 グレン、エライザ、コートがそんな感想を口にする。それに苦笑しつつ、支配人達を見て口を開く。

「裏口はもっと奥ですか?」

「その通りよ!」

「黙って付いてらっしゃい!」

 質問に答えてから、二人は再び奥へと歩き出す。

 ドラゴンを搬入した出入り口を通り過ぎて、建物の裏側へと移動する。すると、奥には入り口とは全く違う、小さな金属の扉があった。黒くて物々しい重厚な雰囲気の扉だ。明らかに警戒心を抱かせるような扉を見て訝しく思っていると、支配人はその扉をノックして口を開いた。

「メーカーズ!」

「私よー! ワイドとタキーよ!」

 支配人達は扉をノックしながらそんなことを言った。ここで初めて支配人達の名前らしきものを聞いた気がする。

「ワイドさん?」

「私よ!」

 名を呼ぶと、髭の中年男性が両手を挙げて振り返った。

「タキーさん?」

「私よー!」

 名を呼ぶと、両手を広げて中年女性が振り返った。面白い二人である。

「お前ら、そんな名前だったのか」

 ストラスがそう呟くと、ワイド達は示し合わせたようにその場で転倒した。

「あんたもかい!」

「今更知ったってかい!?

 二人が素晴らしいリアクションでストラスに突っ込む。どれくらいの付き合いがあるか知らないが、確かにもう相当長そうではあった。まぁ、これも三人の掛け合い漫才のようなものだろうか。

 そうこうしていると、重厚な扉は内側から開かれた。

「うるさいな……なんで此処にいるんだ、お前ら」

 低い声で文句を言いながら、大きな男が現れる。髪の毛が無い。いや、スキンヘッドというべきだろうか。眉毛も薄いせいでかなり怖い雰囲気である。見るからに筋肉質な体つきのスキンヘッドの男が険しい顔で地面を転がるワイド達を睨んでいる。ヤクザかマフィアにしか見えない風貌だ。

「メーカーズ! 今日は私らもオークションに参加するわ!」

「よろしくね!」

「あぁ?」

 メーカーズと呼ばれた男は二人の言葉に低い声を出した。

「……お前らがわざわざ二人で来るってことは、何かやばいやつが出品されるのか?」

 メーカーズは不審そうにそう呟いた。それにワイド達は立ち上がって鼻を鳴らすと、揃って胸を反らせる。

「知らないの?」

「今回のオークションにはロイル・ウェット・サルートが参加するのよ!」

 二人がそう告げると、メーカーズが目を鋭く細めた。

「何を言っている。ロイルはこの前のオークションに参加していたぞ。街を出たと聞くし、今日のオークションには間に合わないだろう」

「それが、このアオイちゃんがロイルを送ってあげたみたいなのよ!」

「凄いんだからね!? 空を飛んでビューンよ!?

「……冗談かと思ったら、本当に空を飛んで移動したのか? それじゃあ、今日の目玉の魔術具を競り落としに来るってことか」

 メーカーズはそう言って、こちらに顔を向けた。

「それで、あんたがアオイ・コーノミナト。フィディック学院の上級教員ということだな」

 メーカーズに観察されるように見つめられて若干の不安を覚える。

「……はい。私がアオイですが」

 そう答えると、メーカーズは先ほどとは打って変わって穏やかな微笑を浮かべた。

「おぉ! 貴女が噂の! 今後は是非とも我がオークションハウスをご利用ください。そこの騒がしい二人のオークションよりもずっと良い品が揃います」

「あ、ありがとうございます」

 答えると、そういえばとメーカーズは笑みを深めた。

「あぁ、そういえば今月一番の高額となった生きたドラゴンもアオイ様でしたね。いやいや、素晴らしい商品の出品、誠にありがとうございました」

「あ、いえ、こちらも助かりました」

 そう答えると、メーカーズは不思議そうに首を傾げる。

「なにか、金銭面でお困りですか?」

「あ、今日出品される魔術具を購入したいと思っていたのですが、かなり高額になるかもしれないと聞いて……」

 私の言葉を聞き、メーカーズは成程と頷いた。

「……あぁ、そういうことですね。アオイ様は、ロイル様と真っ向から競り合いをしてでも魔術具を手に入れたい、と」

 そう口にしてから、メーカーズはワイド達を横目で見た。

「確かに……それなら、私に先に話をしておいたのは正解でしょう。オークションで競り落とした方が無事に帰られるよう、全力でお手伝いいたします」

 あっという間に状況を理解したメーカーズ。かなり頭の良い人のようだ。しかし、それほど危険だと認識しているなら出入り禁止にしてもらいたいところだが、やはりロイルから入る利益は無視できないほどなのだろう。

 そんなことを考えていると、メーカーズはこちらの考えを察するように目を細めて苦笑した。

「……ここ一年くらいでしょうか。ロイル様は以前よりも少々過激になられました。どうやら、かなりの能力を有した魔術具を手に入れたようで、その力を恐れて貴族であっても迂闊にロイル様と争うようなことはしなくなりました。争うぐらいならば、ロイル様と友好的に接して自分達も利益を得ようという方が多いかと思います。ただ、我々オークションハウスとしてはお客様は公平に扱うべきと思っておりますので、アオイ様が無事に落札された際には最大限の配慮をさせていただきます」

 と、メーカーズはロイルの変化と自身の立場での考えについて述べる。

「いえ、別に何か不満があるわけではありませんよ。それに、ロイルさんが魔術具を使ってくれるなら是非見てみたいと思っていますから」

 そう答えると、周りの面々がギョッとした顔になった。

「あ、アオイ君……王都で魔術具戦争みたいなことはめるんじゃよ? わしとの約束じゃよ?」

「アオイ先生、流石に王都内での戦いは凄い損害に……」

「フィディック学院が取り潰しになるようなことはするなよ?」

 皆から争いを止めるようにと口々に言われた。まだ争うとは決まっていないのだが、皆随分と心配性である。

「大丈夫ですよ。私も攻撃されない限りは反撃しませんから」

 そう答えると、皆ががっくりと頭を垂れた。対して、ワイド達は首を傾げる。

「先に手を出されたら流石に反撃するのも仕方なくない!?

「本当よー! ぶっ飛ばしちゃいなさいよ!」

 ワイドとタキーが鼻息荒くそう言ったが、グレンが片手をあげて一言呟いた。

「……そんな感じで各国の宮廷魔術師長をぶっ飛ばしてきたんじゃが……」

 グレンがそう口にすると、皆の目がこちらに向く。

「……街は、あまり壊していません」

 弁解しようと返事をしたのだが、揃って皆無言だった。

 その時、扉の向こうにいるメーカーズが後方を振り返った。

「……なに? 今か?」

 誰かと話している様子でメーカーズが一言二言喋っている。それにワイド達が眉根を寄せた。

「ちょっとメーカーズ! アオイちゃんは超上客よ!?

「ちっちゃな用事なら放っておきなさいな!」

 二人が抗議すると、メーカーズはそれを完全に無視してこちらへ振り返った。

「……アオイ様。オークションハウスに陛下が訪ねて来られたようです」

「え? ミドルトンさんが?」

 メーカーズの言葉に聞き返すと、ワイドとタキーがすごい勢いでこちらに向かってきた。

「へ、陛下よ!? 聞いてた!?

「み、み、ミドルトンさんって、あんた……!?

 顔面蒼白の二人。

 そういえば、ロックスの親といえど国王である。私は生徒の親として接している為あまり意識していないが、オークションハウスの支配人という立場からするとまた違うのだろう。

 そう考えると、オークションの収益のどれくらいが王国の取り分なのか気になってくる。

「とりあえず、アオイ様。改めて正面入り口まで行っていただきたい。陛下は応接室でお待ちですので」

 メーカーズにそう言われて、色々と思考を中断した。

「あ、分かりました。すぐにお伺いします」

 そう答えると、ワイドがメーカーズを見る。

「あんたも来なさいよ?」

「当たり前だ、馬鹿者」

「馬鹿って何よ!?