中規模ではあるが、オークションハウスとの繫がりもでき、更に金貨三千枚を手に入れた。十分過ぎる成果である。

 後は、実際にオークションに参加してみる必要があるだろう。出来たらもう少し何か出品して資金を準備しておきたいという部分もある。

 場所は移り、オークションハウスからほど近いカフェでのこと。色々と考えていた私は、雑談しながらお茶を飲む二人に自分の考えを述べる。

「王都のオークションにも行ってみます。やはり、月末までに一度オークションに参加しておいた方が良いと思いますので」

 そう告げると、ストラスとエライザの二人は何故か顔を見合わせた。

「次の開催日は、ちょうど来週ですよね?」

「どの街でも基本的にオークションは週末だ」

「じゃあ、私は大丈夫そうです」

「俺は……少し調整してみよう」

 二人がそんなやり取りを始めたので、思わず首を傾げる。

「いえ、もう一人で大丈夫だと思います。ちょっとドラゴンをもう一頭くらい狩ってこようと思っていますので……」

 あまり二人の時間を奪ってしまっても申し訳ない。そう思っての発言だったのだが、ストラスとエライザは真剣な顔で振り返った。

「一人で行くのは危険だ」

「王都が滅ぶかもしれません!」

「え? 私の心配ではないのですか?」

 二人の言葉のニュアンスに違和感を覚えて聞き返す。

「一人でちょっとドラゴンを狩ってから王都に行こうなんて考える奴の身に危険などない。どちらかというと危険なのは向かう先の方だ」

「何かの弾みで魔術具対決なんてことが起きたら王都が壊滅してしまいます!」

 と、二人はとんでもないことを言いだした。

「失礼ですよ。私はオークションに参加するだけなのですから」

 文句を言うと、ストラスは一度温かいお茶を口に含み、ゆっくり飲んでから頷いた。

「……念には念を入れた方が良い」

「そうですよ! 間違えて王城を壊しちゃったら流石にまずいですから!」

 ストラスの言葉に乗っかるようにしてエライザもそんなことを言う。二人とも悪気は無いのだろうが、あまりにも自分への信用の無さに凹んでしまいそうになる。小さく溜め息を吐きつつお茶を口に運んでいると、ストラスとエライザは二人で話を進めてしまった。

「では、週末の最後の講義が終わり次第出発し、ドラゴンを狩りつつ王都を目指す。翌日と翌々日のオークションに参加できるように交渉するとしよう」

「あ、それなら出品の方は私が担当しますよ! 慣れてますからね!」

 お人好しの二人は勝手に計画を決めていく。

「ドラゴンの状態が極めて良いことを伝える必要があるぞ。希少だと分かればオークションの目玉にしてもらえるかもしれない」

「分かってますよー! 目玉になったら宣伝してもらえますから! ドラゴンの素材丸々なんで間違いなく高値になります! うわぁ、楽しみですねー!」

「王都には確かドラゴンの剝製を集める貴族もいたはずだ。どうせなら無傷のドラゴンを当日オークションハウス前の広場に置かせてもらったら良い集客になるだろう」

「あ、良いですねー! それは支配人も喜びますよ!」

 二人がどこか楽しそうに会話する姿を見て、こちらも少し気持ちが明るくなる。

「……それでは、お言葉に甘えます。申し訳ありませんが、お手伝いをお願いいたします」

 そう言って頭を下げると、ストラスとエライザは微笑と共に頷いたのだった。



「予定通り、そちらに追い込みます!」

「分かったが、本当に強度は大丈夫なんだろうな!?

「問題ありません!」

 大きな声でやり取りをしながら、岩の巨人を操る。

 小山ならば頂上に手が届くほど大きな岩の巨人だ。普通なら作り出すことも出来ないほどの体積となるが、使える関節を最小限にして、その体重や密度を武器に扱う運用ならば消費する魔力も普通のゴーレムと比べて大人しくなる。

 流石に自身よりも何倍も大きな岩の巨人が迫ってきたら焦るだろう。地竜の一種である中型のフォレストドラゴンは何度か岩の巨人を攻撃した後、大きく距離をとって離れた。

 岩の巨人が一歩近づくごとに同じ距離を離れつつ、唸り声を上げている。

 一方、ストラスとエライザはドラゴンの逃げる先で待機していた。

「ほ、本当に大丈夫か!?

 珍しくストラスが若干焦っている。それに苦笑しつつ、岩の巨人を更に一歩進めさせた。ドラゴンもその分離れる。

「よ、予定位置です!」

 緊張した面持ちのエライザがそう叫び、位置を確認した私は合図を送った。岩の巨人が右手の拳を空に向かって振り上げたのだ。

 ドラゴンはその動作に気を取られて姿勢を低くして上空を睨んでいる。

「発動!」

 ストラスが応え、エライザが魔術を解除する。直後、ドラゴンが立っていた場所半径百メートルほどの地面が一気に力を失い、事前に掘られていた穴の中へとなだれ込む。

 砂が滝のようになり、ドラゴンは両足を取られて穴の中へと流されていった。

「……少々深過ぎたでしょうか。まぁ、念には念をと言いますが」

 空から状況を見ながらそう呟き、予定通り、岩の巨人を地面に向けて倒した。岩の巨人の身体で穴を塞ぐような形だ。

 地震に似た揺れと空気を伝う衝撃破、そして腹に響くような轟音の末、ドラゴンは地中に無傷で閉じ込められることとなる。

「お疲れ様でした」

 地上に降りてそう告げると、岩を椅子代わりにして座るストラスが溜め息混じりに呟く。

「……まさか、一時間程度でドラゴンを生け捕りにするとは」

「吃驚ですよね! でも、大成功です!」

 倒れた岩の巨人の側面に沿って走って来たエライザが私の代わりに返事をした。

「お二人とも、ありがとうございました。お二人の助言がなかったら生け捕りなんて思いつきもしませんでしたから」

「……出来るなら、程度だったんだがな」

「そうですよ! まさか、無傷でなんて!」

 乾いた笑い声をあげるストラスと、両手を挙げて大喜びのエライザ。

「しかし、ドラゴンをそのままオークションに出して、買い手がつくでしょうか?」

「このドラゴンはブレスは使えないんだろう? それなら、頑丈な檻さえ準備してやれば、間違いなく買い手はつく」

 ストラスの言葉に頷いてから、岩の巨人の下で暴れるドラゴンのことを考える。

「……でも、見世物みたいになるのも可哀想ですよね。それなら、いっそのこと食料として……」

 そう呟くと、ストラスとエライザが目を丸くしてこちらを見た。

「……まさかとは思うが、ドラゴンが食料として高く売れると思っていたのか?」

「ドラゴンの牙や爪、骨などは加工が出来たら鉄よりも遥かに頑丈ですし、皮も凄い素材なんですよ! お肉は、まぁ一部で寿命を延ばす秘薬のような扱いも受けていますが」

 二人からそんなことを言われて、腰に手を当てて鼻から息を吐く。

「それくらいは知っています。そんなに世間知らずではありませんよ。それに、ドラゴンの目や血は魔法陣を描く材料に最適ですからね。一年に一回はドラゴンを狩って材料を準備します。その際に、お肉が大量に余ってしまうので、よく近くの村にお裾分けしていたのです。むしろ、ドラゴンに関しては私の方が詳しいかもしれませんよ?」

 非常識扱いされることに不服を申し立てつつ、そう告げる。すると、二人は呆れたような顔でこちらを見た。

「……山に出た大猪の処理じゃないんだが」

「ドラゴンの肉をお裾分けって……」

 結局、二人からは非常識な人のような目で見られてしまった気がする。甚だ遺憾だが、色々と手伝ってもらっている状態で文句も言えない。

「とりあえず、ドラゴンの出品の仕方についてはオークションハウスで確認しましょう」

「うむ、それも一つの手だな」

 話し合いの末、最終的にはオークションのプロに相談しようということになった。

 まぁ、様々な品で溢れ返る王都ならば、生きたドラゴンもそこまで騒ぎにならないだろう。



 空を飛んで半日ほど。途中でドラゴンを捕まえても実質一日の移動時間で王都まで辿り着いた。

 朝日が山々のシルエットを白い線で縁取り、空を幻想的な紫色に染めていく。空の多くはまだまだ暗いままで、山の形に沿って光が空に帯を引いていた。

「黎明……良い景色ですね」

 そう呟いてから、地上を見下ろす。

 ウィンターバレーも随分と大きな都市だと思っていた。しかし、流石は大国の王都だけあって、地上に広がる景色は圧巻である。都市の広さで考えるとメイプルリーフの聖都がかなり広かった気がするが、繁栄という意味ではこちらの方が栄えているかもしれない。

 巨大な城壁が囲む中にはいくつも大きな塔や建物が並び、街の中心には巨大な城が聳え立っている。城を中心に真っすぐ八本の大通りが伸びており、城壁の先から街道へと続いていた。

「陛下と知り合いでも正式な手続きを通して王都へ入場した方が良い」

「あの城門前に降りましょう!」

 景色に目を奪われていると、ストラスとエライザにそう言われた。

「そうですね。それでは、あの街道に降ります」

 言われた通りに眼下にある城門前の街道へと降下する。地上を行く人々はこちらにまだ気が付いていないようだ。まぁ、これだけ大きな街ならば様々な品物が集まるだろうし、ドラゴンくらいなら大きな騒ぎにならないかもしれない。

 そう思って街道に降り立ったのだが、辺りからは絶叫が響き渡った。

「ど、ドド、ドラゴンだー!!

「生きたドラゴンが、なんで……!?

 一瞬で王都の前は阿鼻叫喚の地獄絵図と変わる。

「……檻には入れているのですが」

 そう呟くと、ストラスが溜め息を吐きつつ城門を指差す。

「どうせ街に入れば間違いなく大騒ぎだ。諦めるとしよう。あそこで受付だから、俺が受付してくる。少し待っていろ」

「分かりました」

 結局騒ぎになってしまった。そのことにがっかりしながら素直に返事をすると、ストラスはフッと息を漏らすように笑いながら城門の方へと向かった。何故笑われたのか。そんなことを考えつつ、ドラゴンの周りで周囲の人々に安心するように伝えて回るエライザを眺める。

「大丈夫ですよー! このドラゴンは安全ですからー! ほら、檻に入ってますよー!」

「噓つけー!」

「あんな檻で安心できるかー!」

 健気に安全であると主張するエライザに対して、街道を行き交う人々が口々に否定的な言葉を吐く。仕方ない。せめて、オークションハウスに向かうまではもう少し目立たないようにしよう。

 そう判断し、街道のすぐわきに置いたドラゴンの入った檻をもう少し街道から離して設置し直し、更に土の魔術を発動した。

土の壁サンドウオール

 四方を囲む土の壁が出現し、ドラゴンの姿を覆い隠す。上部に空気穴はあるので呼吸は問題ない。

「お、おお……!?

「あんな魔術を一瞬で……」

 騒ぎは多少収まったが、それでもまだ少し騒がしい。

「助かりましたー!」

 エライザが両手を振りながらそう言って走ってくる。

「いえ、こちらこそありがとうございます」

「この後中に入るのが心配ですね! 王都中で大騒ぎになるかも!?

 何故か楽しそうなエライザにそう言われて、少し心配になった。

「一旦ここに置いておいて、オークションの支配人の方に確認に来てもらいましょうか。そうすれば、騒ぎは最小限ですむかもしれません」

「そうですね。一度オークションハウスに行って聞いてみますか? 生きているドラゴンだと言えば街の外まで来てくれるかも!」

 二人でそんなやり取りをしていると、ストラスがこちらへ向かって歩いてきた。

「とりあえず、街の中に入るのは問題ない。だが、ドラゴンに関してはここに置いておく必要があるのと、誰かがそれを見張っていなくてはならないと言われた」

「じゃあ、ストラスさんで!」

 ストラスの言葉にエライザがすぐに決定を下す。

「いや、ここは土の魔術が得意なお前だろう、エライザ」

「嫌です! 王都観光したいです!」

「理由はそれか!?

 なんとも言えない言い争いが始まり、どうしたものかと頭を捻る。自分が残れば滞りなくオークションの手続きは終わるだろうが、個人的にもオークションの出品と参加の手続きは見ておきたい。

 仕方なく、エライザの方を見た。

「申し訳ありませんが、ストラスさんの言う通り土の魔術が得意なエライザさんに残ってもらっても良いですか?」

「えーっ!? そんなぁ……!

 心底悲しそうな様子のエライザに心苦しい気持ちになりつつ、フォローをする。

「その代わり、ドラゴンを預かってもらえたらお買い物にも付き合いますよ」

「本当ですか!? それなら待ちます! すぐに来てくださいね!」

 エライザはあっさりと納得すると、その場で土の魔術を発動した。

 いそいそと土でテーブルや椅子を作製し、旅行用に準備していた鞄から飲み物とパンを取り出す。その様子を見て、ストラスは苦笑した。

「……何時間でも待てそうだな」

「早く帰ってくださいね!?

 ストラスの小さな声に敏感に反応し、エライザが睨んでくる。そのやり取りに微笑み、城門を指差した。

「それでは、すぐに行って参ります」



「アオイ・コーノミナトです」

 城門前に立つ衛兵達に、ストラスの後に自己紹介をした。すると、衛兵たちは姿勢を正して私に向き直る。

「貴女が、フィディック学院の上級教員、アオイ殿ですか。お目にかかれて光栄です」

「え?」

 何故知っているのかと疑問に思う。すると、衛兵の一人は苦笑しながら道を譲った。

「フィディック学院の教員というだけで魔術師としての知名度は高いんですよ。特に、最年少の上級教員ともなれば宮廷魔術師長以上の知名度でしょう。さぁ、王都へご入場ください」

「出来たら、ドラゴンを早めに引き取っていただけると助かります」

 衛兵達からそんなことを言われて、恐縮しながら会釈をする。

「とりあえず、エライザが怒り出す前にオークションハウスへ向かうとしよう」

 ストラスはそう言って先に城門を潜った。後に続くと、城門を抜けてすぐに視界が開ける。

 城門のすぐ目の前に広場があり、行き交う人々や馬車で賑わっていた。端の方には出店が立ち並び、さながら縁日のような雰囲気だ。これが通常の景色ならば、これまで赴いた各国のどの都市よりも栄えているだろう。石畳の道路や趣のある住居、複雑な織り方の布などを販売する衣料品店など、街には長い歴史や文化を感じさせるものが多いが、それでも綺麗に整備されていてゴミなどもそれほど目立たない。これだけの規模だというのに良く統治されている。

「こっちだ」

 周りの景色に目を奪われていると、ストラスが声を掛けてきた。

「遠いなら飛んでいきましょうか?」

「いや、王都のオークションハウスはそれこそドラゴンみたいな大型の出品を考慮して城壁の近くに設置してある」

「そうなんですね」

「そもそも、これだけ人がいて気軽に飛んで移動していたら騒ぎになるかもしれないからな」

「分かりました」

 そんなやり取りをしながら歩いていると、僅か五分から十分程度でストラスが立ち止まった。

「ここだ」

 ストラスがそう言って目の前の建物を見上げてみせた。それに釣られて一際大きな建物を見上げる。赤茶けた色合いの石造りの建物だった。まるで体育館のように大きいが、この建物が全てオークションハウスなのだろうか。

「……ウィンターバレーとは規模が全然違いますね」

「見た目よりも大きいからな。中に入れば分かる」

 驚く私を横目にストラスは笑みを浮かべてそう言った。ストラスは慣れた様子でそのまま歩いていき、オークションハウスの中へと足を踏み入れる。建物の中に入ると、まるで高級ホテルのロビーのような受付があった。天井は高く、壁や天井の梁は少し凝った木の組み方をされている。受付カウンターの奥には高級そうな生地で仕立てられた赤い服の男女が五人並び、笑顔で立っていた。

「いらっしゃいませ」

 中心に立つ男がそう言うと、ストラスはまっすぐにそちらに歩いて行って口を開いた。

「オークションの参加、間に合うか? 出来たら出品もしたい」

 ストラスがそう告げると、男は微笑みを浮かべたまま頷く。

「もちろんでございます。それでは、参加者と出品物の詳細をご記入ください」

 恭しくそう告げると、隣に立つ若い女性が紙とインク瓶をカウンターに置き、羽根ペンを両手で持ってストラスに差し出した。一瞬こちらを見たが、良く分からないのでストラスを指差しておいたせいだろう。

 ストラスは無言で受け取るとササッと内容を記入して戻す。なんとなくだが、あまり字が上手くないように思えた。

 ストラスから用紙を受け取った男は記載内容に目を通していき、徐々に笑みを失う。

「……なんと、フィディック学院の教員と上級教員の……いえ、失礼しました。一つ質問をさせていただきますが、これは、ドラゴンの出品でよろしいですか? ドラゴンの一部、ではなく?」

「成体のドラゴン一体だ。生きていて、傷も無い」

「生きたドラゴンの出品は久しぶりですが、傷も無いものは私も初めてです。こちらに記載されているたった三名で……?」

「そうだ」

 質問に対してストラスが簡潔に答えていき、周りの男女も驚きを隠せなくなっていった。しかし、流石は王都オークションハウスの受付というべきか。冷静に全ての内容を確認し終えると、再び冷静な態度で微笑みを浮かべた。

「……承知いたしました。当施設にも大型魔獣用の檻があります。もしかしたら小さいかもしれませんので、まずはその檻に入る大きさか確認に参りましょう」

「頼む」

「申し遅れました。私、オークションハウスの出品担当をしております、クリークと申します。以後、お見知りおきを」

 クリークと名乗った男はそう言って一礼すると、柔和な笑みを浮かべたまま顔を上げた。

 クリークを連れてオークションハウスから街道まで移動する。街道の外れには大きな石の壁のような物が出来上がっており、その手前でエライザが優雅に寝こけている姿が目に入る。お茶を楽しんでいる内に眠気がきたのだろうか。テーブルに突っ伏すような形で寝てしまっていた。一方、街道の方は落ち着きを取り戻したのか、何人かは大きな岩の壁を見上げたりしていたが、大多数は王都への出入りだったり他の都市への移動を開始しているようだった。

「……あのような巨大な岩の塊があったとは記憶しておりませんが、もしや……」

「ドラゴンを檻に入れて街道に降りたら大騒ぎになってしまったので、とりあえず岩の壁で覆って目隠ししつつ、安心してもらおうと思いました」

 疑問に答える。クリークはそれに納得したのか、なんとも複雑な表情で笑った。

「ははは……いや、やはり超一流の魔術師の方々は常識では測れませんね。改めて、そう思いました」

 そう言ってから、クリークは岩の壁に近づいていく。すぐそばまで来るとドラゴンの息遣いや身じろぎするような気配が伝わってくる。

「……ここでドラゴンを見ることは出来ますか? サイズなど確認できたらと思いまして」

「はい、大丈夫ですよ」

 返事をしてから、岩の壁を崩して地中へと戻した。突如として視界が戻ったドラゴンは一瞬パニックになったのか、岩の壁を解除すると同時に威嚇するような雄叫びを上げてきた。檻越しとはいえ目の前での出来事だ。クリークが失神するのではないかと思ったが、意外にもクリークは冷静にドラゴンを見上げて頷いたりしている。ちなみに、近くで寝ていたエライザは椅子ごとひっくり返ってしまった。

「……なるほど、大型のドラゴンですね。これは、オークションハウスの檻では少々窮屈かもしれません。しかし、この大きな檻をそのままオークションハウスに入れるというのも難しいところですね。オークションハウスの保管室へは搬入することが出来ると思いますが……」

 悩むクリークを見て、ストラスが口を開いた。

「それならオークションハウスの会場内で檻を作っても良いだろう」

「……そういったこともお出来になるのですね。では、一旦会場へ運んでみましょうか。ただ、このままだと望まずとも今回のオークションの宣伝となってしまいそうですね」

 クリークはそう答えて、含みのある笑みを浮かべる。どうやら騒ぎになっても宣伝できる方が良いと思っていそうだ。

「オークションに運ぶんですか?」

 少しテンションの低いエライザが聞いてきた。

「はい……あ、先ほどは驚かせてしまってすみませんでした」

「いえ、大丈夫です。後頭部を強めに打ったけど、大丈夫です」

 涙目のエライザはそう言って強がると、クリークに顔を向ける。

「オークション会場に檻を作ったらいくらになりますか?」

「え?」

 エライザの突然の質問に思わず声が出てしまう。しかし、クリークは当然のように頷き、ドラゴンが入った檻を見上げた。

「そうですね……もし、今後もドラゴンを出品してくださるなら、会場の一部を間仕切りする形で大型の檻に改造してしまえば、とても便利になるかと思います。それだけの工事、通常であれば金貨百枚はかかるでしょう。金貨百枚、いかがでしょう?」

「やった! 金貨百枚で作ります!」

 あっという間に檻をお金に換えたエライザが輝くような笑顔でこちらに振り返る。それに苦笑して、感謝の言葉を述べたのだった。



 クリークに多少の騒ぎは気にしなくて良いと言われて、なんとドラゴンを飛ばして移動することとなった。むしろ、最も騒ぎになりそうな運搬方法だが、クリークは良い宣伝になるからと強行するつもりのようだ。

「衛兵には説明をしておきました。責任は私が取るのでお気になさらず運搬をお願いいたします」

 クリークにそう言われて、仕方ないとドラゴンを檻ごと空へ飛ばす。ドラゴンの姿が現れてからずっと騒がしかった街道が更に大きな声に包まれた。

「では、我々も一緒に飛んで移動します」

 それだけ伝えて、クリークも一緒に飛行する。衛兵には伝えたということだったので、そのまま城壁を上から飛び越えていく形だ。

 案の定、城壁を越えて王都の上空に差し掛かった途端、物凄い騒ぎとなった。地上からは悲鳴や絶叫が響き渡る。

「……これは、下手をしたら大問題ではありませんか?」

「いえ、私はきちんとドラゴンをオークションハウスまで運ぶと伝えております。ご安心ください」

「空から、とは言ってなかったり……」

「方法については聞かれなかったので、失念しておりました」

「……あんたも中々のタマだな」

「いえいえ、重度の小心者ですよ」

 飄々とした態度のクリークはそんな風に質問や自身への評価を受け流し、恐らく初めてであろう筈の飛行魔術を楽しんだ。そうこうしている内にオークションハウスの上空に辿り着き、クリークの指示のもと城壁側の道路へと降り立つ。

 檻のサイズがギリギリだったが、何とかオークションハウスの壁を壊さずに降り立つことが出来た。周囲にはそれなりに人がいたが、城門付近の広場よりも遥かに少ない。

「こちらから搬入しましょう。ただ、檻のままでは恐らく中に入れないかと思いますが……」

 クリークはそう言ってこちらを見た。

「それでは、一度ドラゴンに寝てもらいましょう。一時的ですが、中に運ぶ間くらいは持つと思います」

 応えつつ、魔術を使う。調整が難しく苦手な魔術だが、仕方ない。

睡眠失考ヒプノシス

 ドラゴンの周囲の酸素を減らし、微弱な電気の魔術で体を麻痺させていく。脳の思考力を低下させると同時に体の力を強制的に抜くように仕向けて睡眠を誘発させる手法だ。科学的な考え方だが、意外にもエルフの魔術から着眼点を得たオーウェンの開発した魔術だ。

 魔術の効果を受けて、ドラゴンは次第に低い体勢になり、体を丸めて眠り始めた。

「……お見事です」

 控えめにクリークが感嘆の声を上げる。

「そんな魔術も使えるのか……」

「私はもう驚きませんよ?」

 ストラスとエライザも若干驚いていたようだが、そこまでの反応ではない。

 そうこうしている内にクリークがオークションハウスのスタッフに声を掛けて両開きの扉を開けていた。巨人が入れそうな大きな扉だったが、確かにドラゴンの檻はそのままでは入れなさそうである。

「檻を開けて中に入れますが、良いですか?」

「可能なら口を閉じさせるなど拘束もしてもらえると助かります」

「分かりました」

 檻から出すと聞いて少し警戒心を覗かせたクリークだったが、すぐに石の魔術で口や爪などを隠すと安心した。

「中に入ります。我々が先導しますので、お気をつけてお進みください」

「はい」

 そうして、滞りなくオークションハウスの会場へドラゴンを運ぶことが出来た。なんと、会場は歌劇の舞台のように豪華絢爛であり、広さは明らかにそれ以上のものだった。見事な装飾の施された壁面や天井、そしてそれに負けないような派手な赤い布が椅子やカーテンに使われている。地面は石造りのようだが、綺麗に磨き上げられている。まるで宮殿の中のような景色だ。

 今立っているのはどうやらスタッフ側の場所のようで、もし参加する時はあの椅子のどれかに座るのだろう。

 周囲を軽く見回すと、商品を置くための豪華な台座やテーブルがあった。それ以外は床と同じく綺麗に磨かれた石の地面だ。広さはかなりのもので、剣道の試合場三つ分より更に広いと思われる。

 これならば、一番端の一部を檻にしてしまっても大丈夫だろう。

「もう少ししたら起きてしまうかもしれません。一番奥に置いて、檻を設置しますね」

 そう言ってドラゴンを奥まで移動させ、会場の形に合わせて改めて檻を作製した。奥が少し鋭角になっている為、檻の形は三角だ。檻が動かないように地面に刺さった状態で檻を作りあげることにする。ドラゴンは無事、眠った状態のままで新しい檻に入れられることとなった。

 その様子を確認してから、クリークは満足そうに頷く。

「これは、今度のオークションが楽しみですね。ドラゴンを生きたまま一体ですから、高値になることは間違いありません」

 クリークの言葉を聞き、思わず気になっていたことを尋ねた。

「その、ドラゴンは落札されたらどのような扱いを受けるのでしょう?」

 その疑問にクリークは眠ったままのドラゴンを眺めて唸る。

「お客様次第ではありますが、生きたまま運ばれてきたドラゴンの希少価値を考えると、殺してしまうようなことは無いでしょう。もし、運ぶ算段が付けば魔獣対策になるので領地のすぐ外で飼う領主もおられるかもしれません。そういったことを実際にされた方もいると聞いておりますので」

「……ドラゴンを飼う、ですか。かなりの量の食事が必要かと思いますが」

「一日牛一頭というところでしょうか。ドラゴンを競り落とすことが出来るような領主であれば、まったく問題はないでしょう。それよりも問題なのはドラゴンを生きたまま運ぶことです」

 クリークがそう言って苦笑する姿を見て、頭の中でスケジュールを確認する。

「そうですね……ウィンターバレーと同程度の距離まででしたら、私がお運びいたします。恐らく一日掛からず着くでしょうから」

「ウィンターバレーまで一日ですか! それは素晴らしい! 大富豪とは時間を金で買うものです。一日で離れた領地まで戻れると知れば、少し落札価格も上がるかもしれません。それについても口上で言わせてもらいたいですね」

「はい、お願いします」

 そこまで話したところで、ストラスが頷きつつ前に出てきた。

「とりあえず、出品手続きはこれで終わりで良いな? 後は、実際に参加して必要な物を競り落とすだけだ」

「はい、ありがとうございます」

 ストラスに一礼しながら感謝の言葉を述べる。すると、エライザが胸を張って人差し指を立てた。

「オークションの先輩からのアドバイスですが、友人か誰かに参加してもらって代理で最初の入札価格を指定すると、それ以上の価格になるから安心ですよ! 後、入札争いになったらそこでもちょっとだけ上値で入札すると競争が過熱してもっと大金になったり……!」

 自信満々にオークションの裏技らしき知識を披露するエライザ。だが、すぐにクリークが苦笑混じりに否定する。

「それらの行為はオークションのルールから逸脱しておりますので、あまり口にしない方がよろしいかと……」

「え!? ダメだったんですか!?

「我が国で開催されているオークションでは、全てルール違反に該当するかと思われます」

 エライザの裏技はルール違反だったらしい。それを横で聞いていたストラスも呆れたような顔でエライザを見る。

「そもそも、間違えて自分で自分の出品した物を競り落としたらどうするつもりだ? 落札者は一割から二割程度、オークションハウスへ手数料を払わないといけないんだから、間違いなく損をするぞ」

 そんなストラスの指摘に、エライザは再び胸を張った。

「そんなミスはしません! これくらいは上がるだろうな、という予測はしっかりしてから少しでも高値になるように入札を……あ、でもルール違反なんだった……!」

 衝撃の事実に、エライザは自らの頭を両手で挟むようにして摑み、天を仰いだ。

「……とりあえず、真っ当にオークションへ参加します」