「まぁまぁまぁまぁ!!」
「貴女があのアオイちゃん!? わー、生アオイちゃんはトぶわー!」
二人はテンション爆上がりでカウンターに両手を突き、上半身を乗り出す。
「と、飛ぶ??」
あまりにもテンションが高過ぎて挨拶をするタイミングを逸してしまった。戸惑っていると、エライザが嬉しそうに二人の方へ歩いて行って口を開く。
「こんにちは! アオイさんが出品をしたいんですが、良いですか!?」
「まぁ、出品!?」
「すごーい! 断るわけないじゃなーい!」
二人のテンションにエライザは素でついていけている。素直に凄いことだと感心していると、ストラスは若干面倒臭そうに口を開いた。
「あまり大声を出さないでくれ。アオイが驚いているぞ」
ストラスがそう告げると、一瞬で三人は動きを止めて静かになった。そして、カウンター越しに三人で顔を近づけて何か話し出す。
「え? ストラスちゃんって……」
「あんなこと言わない子よね……?」
「そうなんですよ! 流石ですね、お二人とも!」
支配人と副支配人の声は良く聞こえなかったが、エライザだけは通常の声量で会話している。
ストラスは三人の態度に何故か苛立ったような雰囲気で声のトーンを落とした。
「……本題に入って良いか?」
ストラスがそう口にすると、支配人と副支配人は噴き出すように笑いだす。
「冗談よー!」
「ストラスちゃんったら!」
二人がそんな感じで笑いながら手を振ると、ストラスはムスッとした表情のまま溜め息を
「それで、あのアオイちゃんがどんなものを出品するの?」
「初めてだから、特別に宣伝してあげるわよ?」
そう言われて気が付いたが、髭の男も何故か女性的な話し方だった。しかし、違和感はない。堂々とした雰囲気のせいか、気にならないのだろう。
「ありがとうございます。ご挨拶が遅れました。アオイ・コーノミナトと申します。よろしくお願いいたします」
遅くなってしまったが、一応自己紹介と挨拶をしておく。それに二人は嬉しそうに笑った。
「あら、丁寧」
「超真面目ね、貴女」
「いえ、そんなことは……」
初対面だし、当然だろう。そう思って答えたのだが、二人はご機嫌な様子で頷いた。
「真面目は良いことよ」
「さぁ、真面目なアオイちゃんがどんな物をオークションに出品してくれるのかしら?」
改めて、出品する物について聞かれる。
「黒色のドラゴンです。種類は飛竜。翼は一対で、体長は二十五メートルです」
そう答えると、二人は口の端を上げて含みのある笑みを浮かべた。
「……へぇ、流石はあのアオイちゃんねぇ」
「まさか、初の出品がドラゴンなんて……刺激的だわぁ」
先ほどまでのお調子者っぽいテンションから、急に凄みのある落ち着いた空気で返事をされた。その落差に驚いていると、エライザが胸を張って口を開く。
「ただのドラゴンじゃありませんよ! 一目では傷が何処か分からないくらい綺麗な状態です! 実際は首が両断されていますが、綺麗に氷漬けでくっ付いています!」
と、エライザが力説する。それに二人も目を細めた。
「ドラゴンの首を両断って、まずお目にかかれないわね」
「アオイちゃんが初めて出品した綺麗な状態のドラゴンでしょう? これは、結構高値になりそうじゃない?」
「そうねぇ……まぁ、金貨二千枚くらいが落としどころかしら?」
二人のやり取りを真剣な顔で聞いていたエライザが金額を聞いて跳び上がる。
「金貨二千枚!? ほ、本当ですか!?」
エライザが一番に驚きの声を上げた。
「普通は凄腕の魔術師が十数人で半日とかかけて戦う相手よ? ドラゴンもボロボロの状態になっていることが大半だわ」
「氷漬けになっているのも良い点ね。お肉が食べられる状態でしょ? それは高く売れるわ。一部のお金持ちはドラゴンの肉を高値で買うもの」
驚くエライザに、二人はそんな解説をした。やはり状態が良いと高値になるようだ。内心喜んでいると、ストラスが人差し指を立てた。
「後は、同様の状態のグリフォンも出品したい」
「グリフォン?」
「あら、グリフォンも? ドラゴンほどじゃないけれど、グリフォンも深い森に棲んでいるから珍しいわよ」
ストラスの言葉に二人が興味深そうに頷く。どうやら関心を持ってもらえたらしい。
「グリフォンは全長十五メートルほどでした」
「え? そんなに大きいの?」
「希少よ、希少」
二人は目を瞬かせて驚いた。エライザは横から期待を込めた目で口を開く。
「グリフォンはいくらになりますか!?」
その質問に、二人は揃って腕を組んだ。
「……金貨、五百?」
「そうね……そんなに大きなグリフォンだと、見た目が良いなら剝製にして飾る上級貴族が買う可能性も高いわ」
二人は真剣な顔で価格を見積もり、やがて顔を上げた。
「もし良かったら、金貨三千枚で私達に売らない?」
「え?」
二人の提案に、思わず生返事をする。エライザは手放しで喜び、私の手を取った。
「きゃー! 凄いですよ、アオイさん! 凄い額です!」
テンション最高潮のエライザに笑顔で頷き、答えようとしたところ、ストラスが先に口を開いた。
「……つまり、もっと高くなる可能性があるということか? なら、普通にオークションに出品した方がこっちの得になるんじゃないか?」
そう尋ねると、支配人が顎を引いて唸る。
「……それは中央のオークションハウスに出品する場合ね。残念だけど、私達のオークションの規模じゃ二体合わせても金貨二千枚いけば良いくらいよ」
支配人がそう言い、引き継ぐように副支配人が話を続けた。
「つまり、手間と時間をこっちが肩代わりするってことね。実際、時期によっては中央でも金貨三千枚を下回る可能性もあるし、そこら辺の判断はお任せするわ」
と、簡単に説明される。確かに、多くの人が参加するオークションの方が、金額は上がりそうである。
その説明に納得したのか、ストラスはこちらに目を向けた。
「どうする?」
尋ねられて、頷く。
「売ります。月末にあるという王都のオークションに参加するなら、早い方が良いですから」
そう答えると、二人が目を細めて私の顔を見つめてきた。
「王都のオークション?」
「なんで、王都に?」
急に雰囲気の変わった二人に少し驚きながらも、素直に答える。
「今度、王都のオークションで貴重な魔術具が出品されるかもしれないと聞きまして……しかし、運の悪いことに、ロイルさんという魔術具の収集家の方が来るようで」
だからお金がいるのだと言おうとしたが、それよりも早く二人が食いついてきた。
「ロイル!」
「ロイル・ウェット・サルート!?」
二人は同時に反応する。
「やはり知っているのか」
ストラスがそう呟くと、二人揃ってギロリとストラスを睨んだ。
「知っているも何も、あの野郎!」
「ああ、知っているわよ! あの野郎!」
先ほどまでの明るく陽気な雰囲気が一変し、憤怒を滲ませる二人。突然のことに、エライザが「ひぃ!」と悲鳴を上げて私の後ろに隠れてしまった。
ストラスも目を白黒させていると、ヒートアップした二人が何も言わずとも話し出す。
「ロイルは、魔術具の収集なんて良い奴じゃないわよ!」
「もし手に入らなかったら癇癪を起してそこかしこで問題を起こす最低な野郎なんだから!」
「問題って?」
二人の言葉にエライザが挙手して質問する。
「え? オークションで競り負けたら競り落とした相手の商売の邪魔したりするのよ? 最近じゃ小さな国を買えるくらいの金持ちになっちゃったからね。下手な貴族が相手でも引かないのよ」
「鬱陶しいわよねぇ。なんであんな性格最悪な奴が大富豪なのよ」
先ほどまでのトーンよりは下がったが、二人はまだまだお怒りのようだった。ストラスはそんな二人を冷めた目で眺めつつ、私を見た。
「……とりあえず、金貨三千枚でドラゴンとグリフォンを売るとして、残りはどうする? もう少し準備しておくか?」
「そうですね……何か売る物があれば良いですが……」
二人で悩んでいると、エライザが再び挙手して口を開く。
「はい! アオイさんの作った魔術具を売れば良いと思います!」
と、意外にも良いアイディアが出てきた。
「……たまには良い案を出すじゃないか」
「たまには!?」
ストラスも似たようなことを口にして、エライザが愕然とした表情で言葉の一部を復唱する。その様子に、失礼なことを思ってしまったかと心の内で謝罪した。
「アオイちゃん、魔術具が作れるの?」
そこへ、副支配人がさらに身を乗り出して質問してくる。
「えぇ、嗜む程度ですが……」
「何が嗜む程度だ」
謙遜して答えると、ストラスからすぐに突っ込まれた。
「……なるほどね。アオイちゃんの噂を聞いた時に、すぐにロイルと一緒で魔術具を集めてるのかも、なんて思ってたのよ」
「そうそう。魔術具の力でロイルも大金持ちになったからね」
「魔術具の力で?」
二人の会話が気になり、質問する。それに二人は揃って肩を竦めて苦笑した。
「あのフィディック学院で上級教員になっているんだから、ロイルと全く一緒なんて思ってないわよ?」
「ロイルの場合は国宝級の魔術具を幾つも所持していて、その力でドラゴンも何体も仕留めてオークションに出したこともあるのよ。そういったことが宣伝になって、ロイルの商会は高価な魔術具や魔術書、古代の武具みたいなのが飛ぶように売れたの」
そう言って、二人は笑い声をあげた。
なるほど。そうやってロイルは大富豪になったのか。納得しつつ、自分なりの分析を述べる。
「聞いた限り、ロイルさんは相当の魔術具を集めていらっしゃるようですね。確かに、私の魔術の基礎となる部分は魔術具の使用が多く、魔術の研究においても魔術具を用いています。共通する部分はありますね」
その回答に、エライザが深く頷いた。
「アオイさんは魔法陣研究の第一人者ですから、アオイさんが作った魔術具なら絶対高値で売れますよ!」
エライザは胸を張って太鼓判を押してくれた。
「そんなに凄い魔術具が作れるなら、下手したらドラゴンを狩るよりも安定した収入になるわね!」
「ちょっとうちのオークションに出品してみない!?」
二人は金になると踏んだのか、一気にテンションを上げてそんなことを言ってきた。その勢いに押されつつも、オークションの出品に関しては躊躇した。
「魔術具をオークションに出すのは遠慮しようかと……」
「えー!?」
「なんでよー!? 絶対高く売れるわよ!? あ、もしかして自分の作品を他人にあげたくないタイプなの!?」
オークションへの出品を拒否すると、二人はカウンターを跳び越えて迫って来た。驚いて思わず魔術で石の檻を出現させそうになったが、何とか堪える。
二人が鼻息荒く顔を寄せてくるので、少し距離を開けつつ答えた。
「いえ、自作の魔術具は戦闘に使うような物が多くて、相手を選ばずに市場に出すような形は危険かと……」
「えー? もう十分魔術具は市場に出回っているわよ!」
「どんな魔術具だって言うのよ!」
追及されたので、高く売れそうな魔術具を思い出しながら答える。
「そうですね……特級魔術具による攻撃を受けても防御出来るように作った各属性の特級相当の魔術具や、これまでに見たオリジナル魔術を再現した魔術具が特に危険かもしれません。エルフの最上級魔術を再現したものもありますし、山を砕いてしまうようなものもあります」
指折り自作の魔術具について簡単に紹介していくと、徐々に支配人と副支配人の顔色が変わっていった。
最後まで言い切る頃には、顔面蒼白である。
「……それはいけねぇよ、アオイちゃん」
「とんでもないわね、アオイちゃん……」
二人がどこか疲弊したように呟くと、ストラスが遠い目をして私の肩に片手を乗せた。
「……それらの魔術具は、早急に封印してくれ。やばい奴に渡ったら一国が滅ぶ可能性すらある」