最初の視察─バッシュ公爵領直轄集積市場─

カッポカッポと聞こえてくる軽快な足音と、ガラガラと鳴る車輪の音。そして……。

「エレノアお嬢様ー!」

「こっち向いてください!」

「是非是非、笑顔のお恵みを!」

「はわわわ! 控えめに言って天使!」

沿道に列をなし、群がる老若男女…いや、老若男男の熱気に満ちた、高かったり野太かったりする大歓声(?)の嵐。

そして、引き攣り笑いを浮かべながら、前世で言うところの皇室よろしく手を振る私……。

今現在、私達はバッシュ公爵家本邸のお膝元。いわゆる首都の大通りを、スレイプニル二頭引きの馬車でのんびり闊歩しているのだ。

何故にのんびりか。……それはこうして領民サービスする為である。気分はもう、市中引き回しされる罪人だ。

「お前、昨日は止めろって言っても手ぇ振ってただろうが! 良かったなー願いが叶ったぞ? ほれほれ、笑顔!」

ううう……。クライヴ兄様。自発的行為と強制は違うんですよ! しかも私、今迄ほとんど引き籠っていたのに、いきなりこんな大多数との交流なんて、ハードル高いです!

「お前、こんなんでビビッていたら後が辛いぞ? これから行く場所には領民だけじゃなくて、他領の連中や国外の奴らもいるからな」

「ええっ!? 修行の為の隠密行動というお話はどうなったんですか!?

「どうやら公爵様は、非公式にお前をバッシュ公爵領の領民にお披露目する予定だったらしい。だったら寧ろ、ドーンと目立って、思い切りお前を売り込もうって腹なんだろうな」

「わ、私に何を売り込めと!? ……はっ! ひ、ひょっとして、私印の雑草入り牧草ですか!?

「…………」

クライヴ兄様は途端、残念な子を見るような慈愛に満ちた眼差しを私に向けながら、頭を撫でてきた。

……うん、完全に馬鹿にされている。

私は兄様の手をぺちっと払い除け、頬を膨らませた。

本日最初に訪れる予定の視察場所はここ、バッシュ公爵領の首都の外れにある、農産物や畜産物の巨大集積市場である。

そこには、国内随一を誇る穀物地帯であるバッシュ公爵領で収穫された、あらゆる農作物や畜産物が運び込まれているのだ。

そして、バッシュ公爵家の当主に認められ、市場を管理する『世話役』となった商人達が適正価格でそれらを買い取り、他の商人達に卸したり、各々の独自ルートを使って国内外に売り捌いている……というわけなのである。

分かり易く言うと、築地……いや、中央卸売市場もとい、豊洲市場かな? ああいった感じ。

そして商人達だけではなく、採れたて新鮮な農作物や畜産物を求め、個人バイヤー(のような人達)や料理人、果ては自領、他領の一般人までもが連日大勢足を運んでいるところもそっくり同じだ。

「そこに行けば、ゾラ男爵様に会えますかね?」

「さあな。イーサンの話によれば、本邸に駆け付けられないぐらい大切な用事があるみてぇだしな」

そう。実は私達はまだ、今現在の本邸管理者であるゾラ男爵と会えていないのだ。

本来、主家の姫がやってくるならなにを置いても駆け付け、出迎えなければ不敬にあたるそうなのだが、どうやら彼はアイザック父様が直々に命じた仕事を手掛けているらしい。うん、それなら仕方がないよね。お仕事放って駆け付けるの、ダメ絶対!

実はフローレンス様のお父様のゾラ男爵は、卸売市場を取り仕切る商人達の統括をしている方らしい。そして、生産者が単に商人へと品物を売るだけだった集積市場を大改革した人でもあるのだそうだ。

生産者の中には個人で店を構え、自分の商品を直接販売したいという人達が一定数存在した。

ゾラ男爵はそんな生産者達を後押しする為、渋る大商人達を説得し、場所代や出店者の選定の基準、そして管理事項などを纏め、アイザック父様へとその案を進呈し、認めさせたとの事だった。

結果、それが更なる商品の品質向上と安定供給に繋がり、バッシュ公爵領産の農産物の名声を大いに高める結果となったのだそうだ。

そしてその功績が認められ、ゾラ男爵は爵位を賜ることになったという……。つまりは、自由競争による市場の活性化を成し遂げたというわけだ。フローレンス様のお父様って、凄い人だったんだなぁ!

「……娘の教育には失敗しているがな」

「え? 兄様、なにか言いましたか?」

「なんでもねぇ。ほれ、お前の大好きなモフモフが手ぇ振ってんぞ」

「えっ!?

見れば確かに、ウサミミとネコミミとイヌミミの親子がいた。しかも兄様の言うとおり、こちらに向かって朗らかに手を振っているではないか!

それにお応えすべく、満面の笑顔で思いっ切り手を振り返したら、何故か獣人さん達だけでなく、周囲の人達までもがバタバタその場に崩れ落ちた。ど、どうした!? 無事ですか皆さん!!

思わず車窓から身を乗り出しかけた私は、クライヴ兄様に首根っこを掴まれ、車内へと引きずり戻されたのだった。

◇◇◇◇◇

煉瓦造りの巨大な建物の前に到着した私は、護衛騎士達が馬車の周囲を取り囲む中、クライヴ兄様にエスコートされながら、ゆっくりとタラップを降り立った。

すると、馬車が到着した時の熱狂っぷりが嘘のように、その場がシーンと静寂に包まれる。……うん、分かります。クライヴ兄様にやられましたね皆さん。

流石はクライヴ兄様。化け物級と称される美貌の威力、お見事です!

「ようこそおいでくださいました、エレノアお嬢様。バッシュ公爵領直轄集積市場の副統括を拝命しております、ガブリエル・ライトと申します。後ろに控えている者達は、共にこの市場を管理している世話役の者達です」

黒山の人だかりよりも前に整列していた、見るからにお偉いさんって感じの人達。その中心に立っていた、スラリと長身な白髪のダンディーなイケオジが進み出て、深々と頭を垂れた。

「初めましてライト様。エレノア・バッシュです。この度はお忙しい中、私共の為に貴重なお時間を割いていただき、心から感謝いたします」

それに対し、私もスカートの両端を摘まみ、頭ではなく膝を軽く折って挨拶をする。なんかライトさんや他の方々が息を飲んだ気がしたが、やはり挨拶は基本だと思うのです。

高位貴族のご令嬢らしくないかもしれないが、カーテシーをした訳ではないし、これぐらいは許してほしい。

と、そこにウィルやフローレンス様達を乗せた馬車が到着した。

確か後方をピッタリくっついてきたはずなのに、随分遅れたな。……ひょっとして、馬達がスレイプニルにビビッて距離を取っていたのかな? ……あれ? なんかフローレンス様がゲッソリしている感じだけど、どうしたのかな? って、ウィルもなんだかゲッソリしている??

「──ッ!!

フローレンス様の姿を見た瞬間、ライトさん以下、お偉いさん達が揃って息を飲み、固まった。

中には「信じられん……」といった言葉を呟く人もいる。──が、見学人や集まった領民達は「美人キター!」とばかりに騒めいている。中にはフローレンス様を直に知っている人達も多いせいか「フローレンス様だ!」「ああ……。やっぱり美しい!」との声もあちらこちらから上がっている。フローレンス様もとびきりの笑顔を向け、その声に応えている。

……え~と……。

そのままフローレンス様は、話しかけてきた人達と談笑を始めてしまった。案内役をすると言っていたのに、副統括さん達へ挨拶しなくていいのかな?

「あ……あの、お嬢様……」

ライトさんが、フローレンス様をチラチラ見ながら、私の方へと声をかける。他の人達も同様で、中には「何を考えているんだ!?」「正気か!?」などといった言葉も聞こえてくる。

「こ、この市場の統括が主家の姫を出迎えないばかりか、その娘までもがあのような……。なんとお詫びしてよいのか……!」

ふり絞るような声で、ライトさんが私に謝罪してくる。

その表情は顔面蒼白で、額に汗まで浮かんでいる。ああ、同じ色の服を着ている事を謝ってくれているんだね。うん。確かに高位貴族……ましてや領主の娘に対して無礼極まりない事だろう。

だけど……。

「ライト様、気になさらないでください。間違いは誰にでもある事ですし、皆様方が心を砕いて私達を迎えてくださっている事は十分伝わっております。それにゾラ男爵様の不在も、元を正せば我がバッシュ公爵領の為、粉骨砕身働いてくださっているからではありませんか。寧ろゾラ男爵様にお会いしたら、感謝の気持ちをお伝えしたいと思っております」

そう。それがひいては明日の糧となり、バッシュ公爵領の為になるのだから、こんな小娘を迎えるより仕事の方が絶対大事です! 何度も言いますが、仕事サボるのダメ絶対!

「──ッ!! ……お、お嬢様……!!

主家の姫らしく、精一杯キリッと伝えると、ライトさん以下、世話役の方々が、まるで雷に打たれたような表情を浮かべ……そして、ほぼ全員の顔が紅潮した。

「なんという……。寛大なお言葉……! このライト、今ほどこのバッシュ公爵領に生まれた事を誇らしく思った事は御座いません!!

そう言うなり、ライトさんは胸に手をあて、まるで騎士のごとくにその場に片膝を突いて頭を垂れた。見れば後方の方々も全員、ライトさんにならっている。

そしてなんか後方で、「お嬢様のドヤ顔、とうと可愛い!」と小さく聞こえてきたが……ひょっとしてティル? ……あ、なんか鈍い音と呻き声が聞こえた。うん、ティルですね。

そんな彼らの姿を見て、この場に集まった人達が騒めきだす。ちょっ、やめて! これってなんの羞恥プレイ!?

すると、向こう側で集まった人達と談笑していたフローレンス様がこちらに気が付き、慌てて駆け寄ってくる。

「エレノアお嬢様!! 申し訳ありません! 父が出迎えなかった事をお怒りでいらっしゃるのですね!? ですが父は公爵様から直々にお仕事を命じられ、手が離せなくて……! どうか、お怒りを解いてくださいませ!!

今朝と同様、フローレンス様は祈るように胸元で手を組み、潤んだ眼差しを向け懇願する。

「は、はぁ?」

何を言われているのか分からず、思わず小首を傾げた私だったが、ライトさんが即座に立ち上がると、冷たい表情でフローレンス様を睨み付けた。

「フローレンス嬢。君は何を言っているのだね? エレノアお嬢様はお怒りになどなられてはいない。それどころか、君のお父上がこの場に駆け付けられないのは、バッシュ公爵領の為に誠心誠意働いてくれているからだと仰っていたのだ。そしてその事に深く感謝し、お礼を言いたいとまで仰ってくださったのだよ」

「……え……?」

「お父上の事より、君自身の無知と厚顔をお嬢様にお詫びしたらいかがかね? さ、お嬢様。どうぞこちらへ。市場の中をご案内いたします」

「は、はい! 宜しくお願いいたします」

冷たい態度と声音を一変させ、ライトさんがにこやかに微笑みながら、私とクライヴ兄様を市場の中へと誘導する。

そして私達は、呆然と立ち尽くしているフローレンス様を残し、市場の中へと足を踏み入れたのだった。

◇◇◇◇◇

ライトさん達に案内されるがまま、巨大な集積市場の中を練り歩く。

皆忙しいだろうし、人で溢れている。そんな中を大勢でゾロゾロ歩くのも悪いので、護衛はクリスとティルのみとし、後の人達は外で待機して貰う事にしました。

その中にフローレンス様も含まれていたのだが、ライトさん曰く、「彼女は一緒にいても役に立ちませんから」だそうです。すごく容赦ないけど、女性に対して良いんでしょうか? はっ! ひ、ひょっとしてライトさん……。隠れ第三勢力……だったりして?

「うわぁ……! 凄い!!

中はやはり、以前修学旅行で訪れた中央卸売市場と似ていて、野菜や果物、肉やチーズ、果てはそれらを使った瓶詰やソーセージなどの加工品を扱う店まであって、まさに前世の卸売市場。見ているだけで楽しいし目移りしてしまう。

しかも皆笑顔で、「こちらをどうぞ」「採れたて新鮮なフルーツです。是非お召し上がりを!」なんて言って、次々と商品を渡してくれようとするから、もうてんやわんやである。

「有難う御座います。では頂いたものは全て、バッシュ公爵家本邸に届けていただけますか? 後で本邸の皆と美味しく頂きますから」

と、商品を差し出してくれた人達一人一人にお礼を言うと、皆何故か頬を染めながら嬉しそうに頷いてくれた。

「チッ……。どいつもこいつも、鼻の下伸ばしやがって……」

何やらクライヴ兄様が小声で呟いていたけど、良く聞こえなかった。そして気のせいか、背後から黒いオーラが揺らめいている気がする……。

「こらこら皆、高貴な方は試食なんてなさらないよ。申し訳ありませんお嬢様。皆お嬢様がいらっしゃったのが嬉しくて、ついやらかしてしまうのですよ」

「いえ、どれも美味しそうで、思わず食べてしまいそうになります」

「ははは! お嬢様、お上手ですな!」

……いや、冗談じゃなくて本気ですがな。

そりゃあ、リンゴやトマトを丸かじりするわけにはいかないけど、一口大に切られたサラミやソーセージ、搾りたて牛乳やフレッシュヨーグルトなんかは、うっかり手に取って口に入れそうになります。

でもその度、ウィルを押しのけ付いてきた美容班のシャノンが、さり気なく良い感じに妨害してくれるので、結局一つも口に入れられていないのだ。

……いや。さっき必死にお願いして、マンゴーの小さな欠片を食べさせてもらったっけか。シャノン、思い切り渋面だったけど……。

『でもでも! マンゴー大好物なんだもん! 本当ならガッツリ食べたかったのを、欠片で我慢したんだよ!? それぐらい許してよ!』

あああ……。これがウィルだったら笑顔で、「はい、お嬢様! 一番大きいのを食べましょうね?」なんて言って食べさせてくれるのになぁ……。

──それにしても……。

私はとあるものを探し、キョロキョロと周囲を見回す。

するとそれに気が付いたライトさんが、不思議そうに私に話しかけてきた。

「お嬢様。どうされましたか?」

「あ……いえ。お食事処がないなぁと思って……」

「食事処……ですか?」

「はい。ひょっとして、この建物の外にあるのですか?」

前世で修学旅行に行った中央卸売市場では、色々な商品を売っている傍ら、その商品を使ったお店を併設している所が多かった。

それは観光客の為というより、寧ろ市場で働く人達や運送業、もしくは仲買の人達が一息つく為のもので、場外市場では逆に、観光客用に商品のアピールも兼ねた様々な食べ物屋さんが並んでいたのだ。

その中のお寿司屋さんで食べた海鮮丼、真面目に最高だったっけ……。

おっと! うっかり回想に意識が持っていかれてしまったが、とにかくそういうお店を見るのも、今回の視察の楽しみの一つであったのだ。

「いえ、この建物の中も外も、そういったお店はありませんね」

「えっ……!」

けれども、ライトさんの返答は私の期待を裏切る無情なものだった。なんと! どこにも食べ物屋さんが無いとな!? それじゃあ皆、どこで食事を取っているんだろうか。

「大抵は、軽く摘まめるものを持参してきますね。それを持ってこなかった者は、首都や近隣の市街に戻る迄我慢するか、小売りで買ったリンゴや加工品を齧るかしています」

そ、そんな貧しい食事情が!? 折角こんなに新鮮で美味しそうな食材が溢れているってのに!

「勿体ない……」

ポツリと呟いた私の言葉を、ライトさんはしっかり拾った。

「お嬢様? 何が勿体ないのでしょうか?」

「あ、いえ。折角こんなに豊富で新鮮な食材が沢山あるのですから、それを使った料理を提供したら、商人さん達や観光客の人達への商品のアピールに繋がるのではないかと思って……」

途端、ライトさんや周囲の人達が固唾を呑んだ。

「……お嬢様。他にお気付きになった点など御座いますか?」

おっ!? 興味を持ってくれましたか? そうだよね、やっぱり食に不自由していたんだよね、分かります。

「えっと、この市場は首都の町から離れていますし、朝早くこちらに来た人達は休憩がてら、絶対何か食べたいと思うはずなのです。そんな時に色々な料理を出すお店があったら嬉しいし、観光客の人達だって、お弁当やら飲み物を持参しなくて済みます。それにここの料理目当てで訪れる人達も沢山出てくるはずです」

そう。それで美味しかったら、自分でも材料を買って家で同じものを作ろうと思うかもしれないし、バイヤーの人達も新たな商品へのヒントが生まれ、今迄取引の無かったお店の商品を仕入れようって思うかもしれない。

「……ですがお嬢様。ここはあくまで、商品の売買を行う施設です。一般人にも開放しておりますが、料理目当ての素人で溢れかえってしまったら、商人達と店主とのやり取りに差し障るのでは?」

うん、それは確かにそうだよね。一分一秒でも惜しい仕事人の邪魔になるのは本末転倒。……だからこそ、前世の卸売市場には「あの」スポットがあったのだ。

「そうしましたら、こちらでは先程のように試食スペースだけ作って、本格的なお店は場外に、そういう食事を提供するエリアを設営すればいいのではないでしょうか? そうですね……。たとえば『場外市場』とでも命名して」

場外市場……。懐かしいなぁ。あそこでも色々食べまくったっけ! 特に串に刺したフワフワジューシーな卵焼きが絶品だった!

「それに、ぶつけて破損してしまったり、売れ残ってしまった商品を料理用として使えば、廃棄も出さずに済むし、お金にもなります。小売りの方々も、味は同じでも不格好で売り物にならない野菜や果物なんかを、最初からそれ用に持ってきて使うというのもありなのではないでしょうか?」

そうすれば、元々廃棄するものを使っているから店側も商品を安く提供出来るし、お客は美味しいものが安く食べられてどちらも幸せ! まさに一挙両得ではないだろうか。

「……エレノアお嬢様……!」

おっと、いけない! 思い付くまま欲望のまま、ぺらぺら喋ってしまった。……って、んん? ライトさん、なんか顔が赤い。しかも興奮しているのか、目がめっちゃギラギラしている。

「……感服いたしました。働く者達への気遣い。そして廃棄されるものにまで心を砕き、なおかつそれを新たなる金の卵へと変えようとする、その大胆かつ斬新な発想。流石はアイザック様とマリア様のご息女。お見事で御座います!」

ライトさん。まさに感無量といった様子で、声も弾みまくっている。……というかこれ、私のアイデアじゃないんだけれども……。

「……して、今の構想は後程、詳しく形にして進める……という事で宜しいでしょうか?」

「あ……は、はい?」

形にして進める……? え? つまり、私の丸パクリ案を早速展開するっていう事でいいのかな? しかも「宜しいでしょうか?」と言いながら、圧が凄い。お伺いの形をとっているけど、これって絶対やる気満々だよね?

「勿論、お嬢様の肝いりという事で、この計画は周知徹底させていただきます! ……ふっふっふ……。滾ってまいりました! この集積市場が更なる発展を遂げる事は間違いないでしょう!! いやあ……。お恥ずかしながら、このガブリエル・ライト。年甲斐もなく胸の高まりが止まりません。なあ、皆もそうだろう!?

見れば、他の世話役の人達の目もキラキラしていますよ。……というより、ギラギラ? イケオジ軍団の野生溢れる笑顔……これはこれで眼福なり。

……ん? あれ? よく見れば、いつの間にか色々なお店の店主さん達も、めっちゃ興味津々といった感じでこちらを見ている……?

「お嬢様! その案、最高です!!

「そうかー! そうすりゃ折角作ったってのに、今迄捨ててたモンも有効活用出来るってわけだ!」

「店番は年寄連中や子供でも出来るし、新たな雇用も生まれるぞ!」

「お嬢様、最高!」

う、うん。まあ、どうやら私の望みどおり、場外市場が出来るようだ。

それは嬉しいんだけれども、前世での知識を披露しただけだから、そんな尊敬の眼差しを向けられると居心地が悪いです。


その後は行く先々で「この店の品物を使ったら、どのような商品を出せばいいか?」という質問の嵐だった。

そのたび、「野菜の煮込み料理は?」「果物を使った季節のフレッシュジュースなんてどうですか? ミックスにしてもいけますよ?」「チーズをワインで溶かして、お肉やソーセージを絡めた料理なんてどうでしょう?」「色々な小麦を使って食感の違うパンを焼いて、野菜やお肉を挟んで売ればいいのでは?」……等々、色々案を出していった。

そのたび、「素晴らしい! 何という発想力か!」と感動されましたが、これを機会に前世の色々な料理やお菓子を食べたいだけです。ただ単純に食いしん坊なだけです。はい。

「お嬢様! 大変に有意義な時間を過ごさせていただきました! これからのご視察もどうぞ、そのご慧眼をいかんなく発揮なさってくださいませ! このたび、お嬢様から授けられました構想については私共が責任を持って草案にし、イーサン様にお届けいたします」

「よ、宜しくお願いします」

「エレノアお嬢様ー! また来てくださいねー!!

「今度いらっしゃった時には、美味しいシチューを召し上がってください!」

「うちのフレッシュジュースもお忘れなく!」

「エレノアお嬢様、ばんざーい!!

何故か湧き上がってしまった歓声と万歳の大合唱を背に、私達は中央集積市場を後にした。……なぜか首都の凱旋パレードもどきより、いたたまれない気持ちになるのは気のせいだろうか。

「クライヴ兄様。だ、大丈夫なんでしょうかね? あれ」

あんな、素人が欲望のままに話した案を形にするって……本当にいいのかな?

「大丈夫もなにも、俺もお前の発想には驚いたぞ。よくもああ、合理的で理にかなった案が次々出てくるもんだ。……ひょっとして、『転生者』としての知識なのか?」

「は、はい」

「ふぅん……そうか。『転生者』が各国で保護対象になるわけだ」

いや、でもクライヴ兄様。『転生者』って言っても私の場合、ごくごく平凡な一般人だったから、経済構想だの兵器作成だの、そういったチートな知識はないんです。あるのは食欲と沼だけですから、保護対象なんてガラではないですよ。

「尤も、お前の場合は食い意地はってるのが、結果的に功を奏しているってだけだがな。そういう点で言えば、お前とバッシュ公爵領って滅茶苦茶相性いいかもな」

「……クライヴ兄様。褒めているんですか? 貶しているんですか?」

……仰る通りですが、改めて言われるとムカつくな。兄様ってほんと、前世のお母さん並みに容赦がない!

ええ、ええ! 次の視察も気合入れて、食い意地パワーで頑張るぞ!