家令なる執事の正体
さてさて。
聖女修行という名目で、クライヴ兄様と共にバッシュ公爵領へとやってきたわけですが、今回のバッシュ公爵領滞在中、私の護衛騎士となったクリス副団長とティルに『騎士の忠誠』を捧げられた私です。
しかもその後、クライヴ兄様に頼まれて『騎士の忠誠ごっこ』を行なった結果、あえなく鼻腔内毛細血管が決壊してしまい、その事により、「
「ではエレノアお嬢様。また明日、こちらにお伺いいたします。今夜はごゆるりとお寛ぎくださいませ。食欲が戻られましたら、離れに常駐しておりますシェフにご用命くださいませ」
楽な部屋着に着替え、木と花の香り漂う豪華なサロンにて、クライヴ兄様に膝抱っこされながらグッタリしている私にそう告げると、イーサンは
本来であるなら、護衛騎士であるクリス副団長らは主寝室に近い部屋で待機、もしくは護衛として扉の前に立つのが一般的だ。
でもうちの召使達ってば全員騎士だし、王宮から派遣されている近衛騎士様方もいる。
何より、一番強いであろうクライヴ兄様が続き部屋に控えている……という事で、クリス副団長率いる騎士達は、外出する際の護衛として私の傍に
「えぇ~、そんなぁ! 俺、もっとエレノアお嬢様のお傍にいたいっす!!」
「はっはっは! 残念だったな! エレノアお嬢様のお傍には俺達がいる! 新参者が入り込む隙など皆無なのだよ!!」
「きぃっ! 今に見てるっすよ!? 絶対下剋上してやるっすからね!!」
……なんて、ティルはうちの召使達とすっかり意気投合していて、何やら楽しそうに言い合いをしていた。
うん。つくづく逸材だな、ティル。なんかクリス副団長が苦労してそうで気の毒だったけど、あの今までにない気安いノリ、大好きだ!
「それにしてもクライヴ様!! あのイーサンという家令、お嬢様に対して当たりがきつ過ぎですよ!! お嬢様に対する数々の無礼といい……。何とかならないのですか!?」
イーサン達の気配が完全に無くなってすぐ、ウィルがクワッと口火を切った。
ちなみに他の召使達や近衛騎士様達は、この建物の間取りや配置、仕掛け等の探索をしている為、この場には私とクライヴ兄様、ウィルとミアさんしかいない。
私を膝の上に乗せながら、フカフカのクッションに座っているクライヴ兄様に、ウィルがプンスカしながら紅茶を差し出す。
あ、私にはミアさんがミックスフルーツジュースを手渡してくれました。うん、美味しい!
「……いや。俺も最初は
「は? 誰の事ですか?」
「いやまぁ……。俺の気のせいかもしれんが……」
クライヴ兄様のお言葉に、ウィルと一緒に私も首を傾げる。
はて? クライヴ兄様。誰を思い出すんでしょうか?
というかクライヴ兄様! 最初
そこで私はふと気が付いた。あれっ? そういえばぴぃちゃんは? 着替えの際、パタパタ飛んで行ってから姿が見えないな?
「あぁ、ぴぃか? あいつ多分帰ったぞ」
「へ……? 帰った……?」
「ここに着いてからの事の次第を、主人に報告に行ったんだろ。お前をないがしろにされて、えらく憤慨している様子だったからな」
「えっ? ……ええっ!?」
そ……そういえばぴぃちゃん。なんか胸元で、やたらピーピー
でも主人って、マテオの所だよね? でもって、それ絶対にリアムやアシュル様達も聞くよね? ウィル達があれだけ怒っていたのだから、彼等も間違いなく怒る……はず。
私はゴクリ……と喉を鳴らした後、クライヴ兄様をおずおずと見上げた。
「ク、クライヴ兄様。殿下方が空間転移で乗り込んできちゃったら、どうしましょうか……?」
「その前に、宰相様や聖女様が止めてくれるだろう。……それに公爵様も……。案外、ご存じなのかもしれないな……」
「え? クライヴ兄様。何か言いましたか?」
「いや……。何でもねぇ」
クライヴ兄様の謎の言動に、私は再び首を傾げたのだった。
◇◇◇◇◇
エレノアが首を傾げていた丁度その頃。
イーサンはバッシュ公爵家本邸にある自身の執務室へと戻るなり、その場にガクリと崩れ落ちた。
「……くぅっ……!! な、なんとか耐えきりましたね……!!」
両手両膝を床につけ、暫しの間、痛みに耐えるように震えていたイーサンは、己のかけていた眼鏡をおもむろに胸ポケットへと仕舞う。そうして固く目を閉じ、クッキリと眉間に寄った皺を指でほぐした。
「はぁ……。それにしてもエレノアお嬢様……! 馬車から下りてきたお姿を拝した時は、あまりの愛らしさと尊さに心臓が止まるかと思いましたよ!! しかも、我々などに対してカーテシーをなさるだなんて……! なんという気高さ!! そして尊さか!! ああ……! あのような天使が我が主だなんて……! 天にも昇る心地とは、まさにこの事か!!?」
「……あの~……。主はアイザック様じゃないんですか? ってか、うっとり頬染めて、お嬢様の素晴らしさを語りまくるの止めてもらえません? 視覚的にきついんですけど」
部屋の暗がりから声がかかる。
そして闇から切り離されるように、黒いフードをかぶった男がその姿を現した。
一人身
「……お黙りなさい! ……そう。確かにアイザック様は、このバッシュ公爵領を統べる頂点たるお方。ですが、私の忠誠はエレノアお嬢様がお生まれになった時点で、あの方へと移行しているのです。……ッ! それにッ!!」
バンッ! と、イーサンが自分の執務机に手をつく。するとピシリ……と、どこかにヒビが入ったような音が聞こえた。
「アイザック様は十三年前、私からお嬢様を引き離し、王都へと逃亡されたのです……! エレノアお嬢様の心の父を自負する私に対し、何たる鬼畜な所業!! あの時の私の絶望が貴方に分かりますか!? いいえ、分かるはずがない!! ……私は生涯、あの時の恨みを忘れないでしょう……!!」
「……いや、それ完全に逆恨みですから。不敬ですから。そこらへん、分かってます?」
黒フードの男は呆れたような声で、イーサンに冷静にツッコミを入れる。だが、その言葉を完璧に無視したイーサンの熱いパトスは止まらない。
「はぁ……。それにしてもアイザック様の命により、心ならずもあのような態度を取らねばならなかった私に対し、慈悲深き女神のごとき寛容で優しいお言葉の数々。あの愛らしい態度……!! しかも自分に非礼を働いた騎士達を諫めた時の、あの凛としたお姿……! まさに由緒正しきバッシュ公爵家のご令嬢の名に相応しい……!! あああ……!! 今思い出すだけで、動悸息切れ
「…………ソウデスネー」
黒フードの男の口から、抑揚のない声が発せられる。
この上司、自分の前でエレノアお嬢様の事を語りだすと、いつでもこういう状態になるのである。もはやいちいちツッコミを入れる事も面倒臭い。
まあ……。実際にエレノアお嬢様を目にした今となっては、自分もこの上司の妄言が、実は真実であったと心の底から賛同するしかない状況だ。
……愛らしかった……。まさに上司達が、「この世の天使!」と呼ぶに相応しいお方だった。
あれならば、『バッシュ公爵家の懐刀』と言われるこの上司や、側近中の側近と謳われるジョゼフ様を筆頭に、お嬢様の傍にいる者達全てが、ことごとく傾倒してしまうはずである。
──そう。実はイーサン、エレノアを滅茶苦茶溺愛しているガチ勢の一人なのである。
エレノアを怯えさせていたあの態度は、ともすれば溢れてしまいそうなエレノアへの愛を
イーサンはエレノアが生まれる前から、バッシュ公爵家に絶対の忠誠を誓っている側近達の一人で、代々バッシュ公爵家に仕えている一族の長であるジョゼフの甥っ子でもあった。
アイザックと年が近い事もあり、幼馴染のように育った彼はやがて頭角を現し、家令として本邸を取り仕切るまでに成長した。
そしてエレノアが生まれた時は、「天使がこの世に降臨した!」と、我が事のように喜び、アイザックが、「やっぱり子育ては自然溢れる環境が一番だよね!」と、本邸で子育てする事を決めると泣いて喜び、主の育児を献身的にサポートしたのである。
だが、ある日の午後。
エレノアと触れ合って癒されようと仕事を抜け出したアイザックは、衝撃的な光景を覗き見てしまったのだった。
「お嬢様~♡ 今日から離乳食を召し上がりましょう。はい、パパが食べさせてあげますよ~♡」
「あー? きゃー!」
「ああ、美味しいですか? ふふ……。この調子でモリモリ食べて、一日でも早く私をパパと呼んでくださいねー♡♡」
「あーう!」
アイザックの身体が小刻みに震え出す。
「イ……イーサン……! 君って奴は……!!」
そう。エレノアへの溺愛がゆき過ぎるあまり、イーサンはアイザックの部下にあるまじき願望、『初パパ呼びをエレノアにさせたい』を抱いてしまったのである。
そしてそれを察したアイザックは、衝撃を受けると共に強い危機感を抱いた。
『アイザック様、ご安心ください。アイザック様がお忙しい時は、私がしっかりお嬢様のお世話をさせていただきますから!』
なんて力強く宣言され、「わぁ! 流石はイーサン。頼もしい!」なんて単純に喜んでいたけれど……。そういえば最近、微妙に仕事が増えてしまい、エレノアの育児に携わる時間が微妙に減った気がする。
……まさか……。あれは自分とエレノアを引き裂く為にわざと……!?
信じていた幼馴染のまさかの裏切り(?)に、アイザックは唇を噛み締め、拳を強く握り締めた。
「──ッ! ダメだ!! エレノアの初めて(のパパ呼び)は僕のものだ!!」
聞きようによっては、非常に誤解を生む言葉を叫んだ後、イーサンの執務机に『追わないでください』と書き置きを残したアイザックは、生後半年のエレノアと手と手を取り合い(というか抱っこして)、愛の逃避行(という名の王都邸逃亡)を決行したのであった。
余談だがその半年後。
本邸に、『エレノアに「とーたま」と呼ばれました♡』との手紙が届けられ、イーサンは血の涙を流したそうな。
イーサンの恨み節はまだまだ終わらない。
「私も王都邸にお供したかったというのに……! ジョゼフ伯父上の教育的指導(という名の鉄拳制裁)により、本邸から離れる事を許されず……! 本邸で陰ながら見守り続けた苦節十数年……!!」
「でもその間、アイザック様のお慈悲で、お嬢様のあらゆる情報を肖像画付きで送っていただいていたそうじゃないですか(多分、イーサン様の暴走封じの為でしょうけど)」
「それぐらいしていただけなければやってられません!! ……だいたい、エレノアお嬢様を洗脳した、あの許されざる忌々しい男……! 私がもしお傍にいれば、一時とはいえお嬢様をあんな野生の子猿になんてさせたりはしなかったのに……!! ああっ、お嬢様! なんとおいたわしい!!」
「…………(いや。もしイーサン様がご一緒だったら、やっぱお嬢様をめっちゃ甘やかして堕落させてそうですよね……)」
ジョゼフ様がイーサン様に対し、エレノアお嬢様との直接接触を禁止したのは、まさにそこだったんじゃ……。と、黒フードの男は思ったが、余計な地雷を回避すべく、その考えは心の中でのみ呟くに留めた。
そう。イーサンのエレノアへの溢れんばかりの父性(パパ愛)は、共に過ごせなかったこの十三年間で拗れに拗れまくっていた。
『万年番狂い』と称されるほどのヤンデレ気質な弟を持つクライヴは、イーサンに対し本能的に弟と同じヤバいモノを感じていた……という訳なのである。
もし、イーサンとオリヴァーが共に本邸に在ったとしたら、まさに『混ぜるな危険』状態であった事だろう。つくづくジョゼフの妨害はグッジョブであったと言わずにはおれない。
「……ところで、皆の反応はどうでしたか?」
「エレノアお嬢様が子猿だった時の事を覚えている者達や、あの娘に心酔していた連中はまだ多少懐疑的ですが、反応は上々です。それとあの母娘、性懲りもなく、なにかやろうとしていますね」
「ふむ、概ね予想通りですね。よろしい、では引き続き各所に配置した他の影達と共に、周囲の反応を逐一報告してください。同時にアイザック様へのご報告も忘れずに」
「は。では、失礼いたします。あ、それとイーサン様。演技とはいえ、あんまりツンツンしていると、エレノアお嬢様に嫌われちゃいますよ?」
その言葉を聞くや、イーサンの目が驚愕に見開かれた。
「──ッ! き……嫌われる……!? わ、私は嫌われているんですか!?」
「(自覚ないのか?)まあ、嫌われているかどうかは分かりませんが、既に恐れられてはいますよね。それと、あんまりああいった態度取って、婚約者様や護衛達を刺激しないでくださいよ!? いつバッサリ
「……そんな状況だったのですか?」
眉根を寄せ、首を傾げるイーサンを見て、黒フード男改め影は愕然とした。
あんなに分かりやすく敵意剥き出しにされていたのに!? スルーしていたんじゃなくて、単純に気が付かなかったのかよこの人!?
「まさかイーサン様、あの殺気に気が付かなかったんですか!?」
「……エレノアお嬢様の尊さに耐えるのに必死でしたからね……。ついでに、お嬢様のお言葉や仕草の一つ一つを胸に刻むのに忙しくて、あまり周囲を見ていませんでした」
影がガックリと肩を落とした。流石は我が上司。ガチ勢ぱない。
「……お嬢様以外は、ジャガイモかカボチャですか。私はさしずめピーマンてとこですかね。はぁ……。イーサン様、長年拗らせただけあって、ある意味最強ですね」
常にズケズケと失礼発言をぶちかます部下に対し、イーサンのこめかみにビキリと青筋が立った。
「ごちゃごちゃ言っていないで、さっさと行きなさい!」
「はっ。それでは失礼いたします」
スウッと暗がりに溶け込むように、影の姿が視界から消えた。
イーサンは重厚な執務机に見劣りしない、座り心地の良い椅子へと腰かけると、机の上に飾られていた小さな額縁を手に取り微笑む。
そこには赤子のエレノアを腕に抱く自分の姿が描かれていた。
「……それにしても……。久々に厄介なのが出てきましたね」
再び眼鏡を装着したイーサンの唇から、小さな呟きが零れる。その瞳には、見る者をゾッとさせるほどの冷たい色が浮かんでいた。
三年前に起こった、前代未聞のあの事件。
リンチャウ国の奴隷商人達と裏で手を組み、自国の女性を売り捌いていた貴族達の大粛清。
それにより、空席となった貴族枠を埋める要員として多くの家が爵位を賜った。
だがこのバッシュ公爵領において、爵位を賜り貴族となる事は始まりでしかない。
いかに領地と領民を守り、発展させていくか。その与えられた権力をどう使うか……。新興貴族は必ず、バッシュ公爵家の家長によってそれが試される。
爵位を賜ったばかりの男爵家にバッシュ公爵家本邸への出入りを許し、管理者としての権限を与える事も、その試し行為の一つであった。
──エルモア・ゾラ男爵。
彼は確かに優秀であった。そしてそれを支える賢妻と名高い妻も。
だが妻の方は、小賢しい欲望を抱いていたようだ。
「……娘の方も容姿だけではなく、そういった小賢しさを母親からしっかりと受け継いでいるようですね……」
たおやかな花の姿を纏いながら、バッシュ公爵家の内部へと入り込み、自分自身の価値を上げて有力貴族達へのテコ入れを行う。……ひょっとしたらその有力貴族の中には、エレノアお嬢様の婚約者様方も含まれているのかもしれない。
だがもし、そんな事を目論んでいるとしたら、愚かだとしか言いようがない。
お嬢様を溺愛しているあの方々が、
まあそれだけなら、母娘を監視対象とするだけで済む話だった。
なにより彼女らは、アルバの男が守るべき『女性』である。たとえ野心を抱いていたとしても、罪を犯している訳ではないのだから裁く事は出来ない。
だが愚かにも、あの娘はバッシュ公爵家直系の姫が受ける権利を
本邸に出入りしている間に、多くの召使や騎士達の心を
「やれやれ、私も舐められたものですね。……ひょっとして、お嬢様が以前の我儘な方だという話を信じたうえでの行動かもしれませんが……」
まあ、そもそもアイザック様の命で、敢えてそう勘違いするよう王都からの情報を規制し、エレノアお嬢様の情報を入手し辛くしていたので、誤解するのも仕方がないのかもしれない。
それでもきちんと調べれば、そのような事はないのだと分かるはず。つまり、その情報収集を怠った時点で、ゾラ家の評価は致命的なものとなったのである。
予想以上の要求に一瞬呆気にとられた後、少しだけ逡巡するフリをしてお嬢様のお部屋を使う事を認めてやったのは、相手の思っていた通りの行動を取り、徹底的に油断させる為だ。
そして、エルモア・ゾラ男爵がお嬢様の出迎えに参ずることが出来なかったのも、余計な邪魔が入らないよう、こちらが仕込みをしたからである。
「中々見どころがあると思っていたんですけどねぇ……。あの程度の女性に手玉に取られた時点でチェック・メイトですよ、エルモア・ゾラ。ああそれと、娘の教育にも失敗しているようですしね」
──フローレンス・ゾラ。あの娘を放置していれば、将来必ずエレノアお嬢様の害となる。
そう感じ、彼女がエレノアお嬢様の部屋を使う事を許可した後、王都邸にいるアイザック様へ直ちに連絡を取り、事の次第を報告した。
『……うん。そういう子は放置していると危険だね。かといって普通の方法で排除すれば、彼女を崇拝する男達を中心に、禍根が残るだろう。なにせ「被害者」を演じるのがとても上手い子みたいだしね。エレノアを「加害者」にされるのは困るからなぁ……。将来、オリヴァー達とバッシュ公爵領を守っていくのはあの子だ。悪い芽は残したくない。……さて、どうするか……』
そう言ったアイザック様は、ひとまず彼女らを泳がせる事を私に命じた。
丁度、シャニヴァ王国との水面下の攻防で手一杯だった事もあったのだろうが、逆にあの娘を利用し、将来不穏分子になりそうな者達をあぶり出そうとしたのであろう。
確かに女性は国の宝である。だが、その大前提に惑わされ、真に優先すべき事を見誤る
そうしてあの娘に傾倒する者が増えていく中、アイザック様は敢えてエレノアお嬢様をバッシュ公爵領へと送る事を決められたのだった。
「……流石はアイザック様。確かに正面切って排除できないのであれば、『本物』をぶつけてしまえばいい」
イーサンの口角が自然と上がる。
「精々、エレノアお嬢様との格の違いを知り、足掻いていただきましょう。その上で、己の
そこまで言って、ふとイーサンは言葉を切り、顎に手をかけ思案する。
「……ですが、それよりも重要な問題が発生してしまいました……。計画上、お嬢様に対する態度を変える事はまだ出来ませんし……困りましたね」
理由はどうあれ、折角最愛のお嬢様が本邸に戻ってきてくださったのだ。出来れば嫌われたくない。というか仲良くしたい。叶う事なら、とことん甘やかしたい!
「……取り敢えずエレノアお嬢様には、許される範囲内で優しく接するようにしてみましょう」
寧ろ、その狙った態度が相手を誤解させる原因なのだと的確にツッコむ部下がいない今、イーサンは一人そう決意すると、無意識に眼鏡のフレームを指で押し上げたのだった。