以下は、歴史書や郷土史から拾い上げた記述の列挙となります。
依頼を受け情報をまとめたものの、真偽については判然としない点も多いので、ご注意ください。
──バルガス・ミズガル、享年五十。
ミズガル領において農業に従事し、王国の食を支え続けたことで知られる。
農具の開発等、自身の専門分野において様々な成果を挙げた。その中でも農作物を害獣から防ぐための柵は、今なお高く評価されている。
晩年は肺病に苦しみ、惜しまれながらこの世を去った。
──ビックス・ミズガル、享年六十七。
王国歴三百二十四年、前領主であるバルガス・ミズガルの死亡に伴い、ミズガル領を継承する。当時三十歳であったため、当主への就任としては遅い部類である。
多くの農産物を生産していたが、中でも特に、果実の育成には熱心であった。これについては、主な輸出先である隣領のクロゥレン家が、甘味を特に好んだためと言われている。
ミズガル領の名産品であるヴァーヴは彼の手によって、国内だけではなく他国でも愛される逸品へと磨き上げられた。蕩けるような甘さと、滴り落ちるような水分量を誇る果実は『緑の宝石』とも称されている。
彼が遺した『農業の基礎』は、出版から百年経った今でも語り継がれる名著である。
──シャロット・ミズガル、享年六十九。
ビックス・ミズガル伯爵の妻。元々はミズガル領に住む医者であり、薬学の発展に寄与した。
『天医』ミスラ・クロゥレンの愛弟子であり、ミスラは自身の子ではなく、シャロットを後継者として据えたほどの腕前であった。
王国歴三百二十八年、欠損した筋肉を復元するカンザロ剤を開発し、怪我の後遺症に悩まされる多くの人間を救った。この功績により、『医聖』の称号を賜ることとなる。
──メルジ・ミザボ、享年五十八。
ミズガル伯爵家守備隊の一員として勤務していたが、大型魔獣の襲撃によって負傷し、一線を退いた。
戦場を離れてからは御者としてミズガル家に貢献。亡くなる前日まで職務を全うしたとされる。
その長年に亘る功績を称え、死後に勲章を授与されている。
──バスチャー・デニー、享年七十四。
ミズガル領で飲食店を営む。彼の包丁技術は高く評価されていたが、本人は『包丁のお陰であって、自身の腕は凡庸』と言って憚らなかった。
とはいえ、最終的に調理の第七階位を取得しているため、非凡な腕を持っていたことは疑いが無い。
五十歳の時点で長男に店を譲り、以降は料理組合の役員として活躍した。
──アキム・ハーシェル、享年五十二。
かつては研磨師として評判の職人だったが、腕の負傷により引退。以降は後進の育成に励んだ。解り易く、かつ質の高い教育を施すことから、多くの人間が彼の工房を訪れたという。
彼が指導した職人は五百人を超え、その中には名人に至った者も少なくない。
シャロット・ミズガルがカンザロ剤を開発する契機となった人物と言われている。
──サーム・ハーシェル、享年四十五。
ハーシェル工房の二代目として、ミズガル領に研磨師の看板を掲げる。
先代と違って武具を扱わなかったのは、貴族に敬遠されていたからではないか、との噂がある。その反面、包丁といった日用品の手入れについては評価が高く、平民からの依頼は途切れることが無かった。
腕は確かだが子宝には恵まれなかったため、工房は後にアキム・ハーシェルの教え子が引き継いでいる。
──セレン・ハーシェル、享年三十四。
ミズガル領に移り住んだ時点で精神に異常を来していたようで、周囲の人間に当たり散らす、他者の私物を破壊するといった振る舞いがよく見られた。
精神疾患に対する研究事例として、よく名前を挙げられる人物。
今日において、易怒性の高まりや攻撃的な人格への変貌を『セレン病』と称するのは、彼女の症例によるものである。
──サイジェ・バルク、享年四十七。
食堂『辛山』の店主として、地元の住民から愛されていた。また一方で、行き場の無い子供たちを支援し続けたことでも知られている。
やがては慈善活動が本業となり、惜しまれつつも店を閉店。晩年はその功績が認められ、ミズガル領孤児院の院長に就任している。
徹底した栄養管理によって、孤児達の健康状態を改善に導いたとされる。
──ウェイン・レイドルク、享年二十五。
レイドルク領の次期後継者として若くから活躍していたが、領主である彼の父が関与していた不祥事により失脚。領地を没収され、司法官としての地位だけがかろうじて残された。
家柄の関係で非難される一方で、仕事は真面目にこなしていたらしく、王家からは高く評価されている。
判決に不満を持った男により殺害されたことから、彼の生涯は後に悲劇の演目となっている。
──ジェスト・レイドルク、享年八十四。
王国近衛兵隊長の七代目として就任し、中央の治安維持に励んだ。
かつて不祥事を起こしたレイドルク家を国家の中枢に起用する判断は、多くの議論を巻き起こした。しかしその全てを圧倒的な実力によって一蹴し、自らの地位を確立したことから、彼の生涯は英雄譚として作品化されている。
様々な称号を持っていたが、中でも『魔弓』を好んで設定していた。
──フィッツ・ハナック、享年六十五。
レイドルク領の組合で事務に従事していたが、侯爵家の人間が組合員を脅迫する場に遭遇したことにより、恐怖で業務を続けられなくなった。
この事件により、各地の組合は窓口に最低一人は警備員を配置するようになっている。
事件直後、彼女を心配した近所の靴職人と付き合うことになり、平和な家庭を築いたという。
──ガズル・チェイル、享年七十一。
旧レイドルク家で、主に刀剣類の鑑定士として仕えていた男。侯爵家が没落した後はその審美眼を生かして、鍛冶師に対する助言等を行っていた。
彼が賞賛した職人は誰しもが名人となったが、その所為で評価を操作するよう求められることが増えたため、比較的早い段階で現役を退いた。
著書に『人醜論』があり、その表題からも彼の苦悩が窺える。
──ギド・バーラ、享年五十三。
ザヌバ特区で番兵として勤務していたが、そこでの生活に限界を感じ、ミズガル伯爵領へと移り住んだ。ミズガル領の守備隊で五年修行した後は、クロゥレン領の武術隊へと移籍している。
手先が器用で、近所の子供たちのために玩具を作っていた、という記録が残されている。
強度が突出して高いという訳ではなかったが、体力があり足も速かったことから、伝令として重宝された。獣車よりも速く長く走った、という逸話がある。
──エレア・バーラ、享年六十。
ギド・バーラと共にミズガル伯爵領で守備隊に所属していたが、あまり強度が伸びなかったことを理由に退職。クロゥレン領に移籍し、文官として勤めるようになった。
事務処理能力に優れ、武官相手でも物怖じしない仕事ぶりによって周囲にも慕われる。
後にギド・バーラと結婚し、二子を儲けた。
──イダ・メリエラ、享年百三。
ザヌバ特区の長として、生涯を過ごす。魔術の達人として知られる一方、王国で最も長命だった女性としても有名である。
戦闘に充分な強度を持ちながら、特区に現れた大型魔獣への対処を避けたことから、彼女の能力を疑問視する者は多い。
後継者がいなかったため、彼女の死後にザヌバ特区内の居住区は放棄されることとなった。現在は周辺住民が森の管理だけを行っている。
──ネヴァ・シャナン、享年六十四。
元王国近衛兵隊員。任務中、両腕に重度の火傷を負ったことにより退職。以後は城下で子供達に護身術を教えた。
彼の護身術は逃走と防御を基本としており、当時としてはかなり斬新な発想であったことが解っている。ただ、非常に有用な技術を伝えていたにも拘らず、その消極性から、児童の支持は得られなかった。
──ユール・アノア、享年二十八。
元王国近衛兵隊員。任務中に重度の火傷を負い、両腕を切断することとなった。
退職時の報酬により悠々自適な生活をしていたが、度重なる散財によって一年を待たずに困窮。王家を脅迫し、金を奪い取ろうと目論んだことで粛清された。
当時は義肢が一般的なものではなく、再就職も難しかったであろうことから、彼に対しては同情的な意見も少なくない。
──ナーヴ・モリス、享年五十九。
王国近衛兵隊員であったが、隊員達との折り合いが悪く二十三歳で退職。以降はクロゥレン伯爵家の紹介により、カッツェ子爵領の守備隊に勤務する。
武官でありながら、兵としての強度よりも噺の巧さで知られる人物。
明るく場を盛り上げる天才で、異能『声真似』を使った一人芝居は至芸であると、当時の貴族から人気を博した。
──シャスカ・ミホール、享年八十三。
王国近衛兵の魔術師として活動していたが、大型魔獣との戦闘によって負傷し、右耳の聴力を失う。貴人の声が聞こえないという理由で辞職し、その後はミズガル伯爵領の守備隊に加入した。
身分としては兵士であるが、咄嗟の指示が聞こえないため、主に農作業に従事していたとされる。風術を使った剪定と播種は、匠の業と賞賛された。
ミズガル領の歴史において、最良の魔術師と言われている。
──ガルド・グレアス、享年六十一。
王国近衛兵隊から、クロゥレン伯爵(当時は子爵)家へと移籍。国内最強と名高い守備隊へ加入する。
当初は周囲の隔絶した強さに困惑していたが、やがては環境に慣れ、最終的にはジィト・クロゥレンの補佐役にまで上り詰めた。
元々斥候であったからか、観察力に優れ、敵の侵入をたびたび防いだと評価されている。
──ダライ・デグライン、享年九十。
デグライン王国の八代目となる国王。国政そのものには長く携わったが、王として活動した期間は歴代で最も短い。
二十七歳の時、首都圏に無数の魔獣が侵入するという事件が発生し、その対処に奔走した。騒動によって第二・第三王子が死亡し、継承者が彼一人となったことから、謀殺を目論んだのではと推察する歴史家もいる。
真偽はさておき、本人もその噂については知っていたようで、子が成人すると同時に王位を手放した。
以降は文官として魔獣駆除部門の長に就任。百年の平和を作り上げたとされる。
──ウィジャ・セネス、享年九十一。
中央の職人通りで薬師を営んでいた老婆。組合の認定が第六階位に留まっているのは、試験が億劫だったから、というのが本人の談である。
内科的治療に関する知識が豊富で、どんな名医でも彼女の前では小僧同然だったと言われている。
自身の体調管理を怠らず、最期は老衰により穏やかに逝った。
──ステア・セネス、享年五十四。
王国の警邏隊長を務めた人物。平民からの叩き上げで、貴族とぶつかることも少なくなかったと言われている。
実直かつ小まめな仕事ぶりで、地元住民からは非常に信頼されていた。
しかし職務中に酔っ払いの喧嘩を仲裁しようとして反撃にあい、右目を負傷。以後はウィジャ・セネスの遺した店で雑用を担当した。
──クイン・セネス、享年六十九。
中央で生まれ育ち、祖母の後を継いで街の薬師となる。
ミルカ・クロゥレンが唯一育てた弟子であり高い魔術強度を誇るが、本人は争いごとを嫌い、実戦の場に立つことはなかった。
子供から好かれる性格で、今日における『小児科』が生まれるきっかけとなった。
──ガーダン・ヴァーチェ、享年五十二。
ヴァーチェ伯爵家第五代目当主。計算力に優れ、かつては中央研究棟の財務を担当していたが、酒に溺れ領地での療養を命ぜられる。
その後は医者の協力もあり断酒に成功。しかし落ちた体力が戻らなかったことに加え、身内の自殺等もあり次第に活力を失っていった。
晩年は食事を拒み、栄養失調により衰弱死している。
──ヴィド・ヴァーチェ、享年五十四。
ヴァーチェ伯爵家第六代目当主。
石材の街と呼ばれた領地で植物の研究をしていたため、領民からは変わり者として扱われた。それでも周囲の評価にめげず、民の未来に繋がると信じ、彼は植物と向き合い続けた。
後に近隣の森で自生していた野草から保湿成分を抽出することに成功し、美容分野で名を残している。
──ラジィ・ヴァーチェ、享年二十。
ヴァーチェ伯爵家次男。元は王国警備隊に所属していたものの、内乱を目論んだことにより、解雇処分を受けている。
首都では犯罪者として断じられる一方、事情を知らない領民には人気があったらしく、帰還を歓迎されている。
領地に戻って以降は暫く大人しくしていたが、ある日発作的に自傷行為に走り、そのまま死亡した。
──ディズム・チャスカ、享年七十八。
ヴァーチェ伯爵家執事長を四十年に亘って務める。
ラジィ・ヴァーチェが死亡した時点で辞職するつもりでいたが、ガーダン・ヴァーチェの強い希望により、職務継続となった。
以後は主君の傍を離れることなく、その治世に奉仕を惜しまなかったとされている。
──ザナキア・ゴランド、享年八十一。
水運業に携わっていたが、国境沿いを流れる大河が穢れによって使用不能になったことから、廃業を余儀なくされた。
運送業に拘りがあったのか、以後は獣車を利用した陸運業へとやり方を変え、カイゼン工国の物流を支える。
後に運送協会を興し、安全管理という概念を業界に持ち込んだ。
──デニス・グーネイア、享年七十四。
元々は商会の売り子として働いていたが、ザナキア・ゴランドの誘いに応じて運送業へと転職した。
話上手として知られ、彼ならばどんな交渉でも成功させるとして同業に恐れられた。なお、本人は至って真面目な性格であり、他者を脅すような真似はしていないことを付記しておく。
晩年は前述の運送協会に勤務し、若手職員の範となった。
──ゴーマ・サントマ、享年四十四。
カイゼン工国において、最も多くの浮名を流したとされる男。生涯で関係を持った人間は百を超えるとすら言われる。
特定の誰かと結ばれることはなかったが、かといって相手を雑に扱うことはなく、その態度は女性陣から概ね好評を得ていた。
反面彼を良く思わない男性は当然おり、最期は他者の恋人に手を出した挙句、刺殺されている。
──マカーナ・ディアック、享年五十一。
ゴーマ・サントマの相棒として、世間を騒がせた男。彼も複数の異性と関係を持っており、こちらは問題が多かったことで知られている。
基本的に、男女間の恋愛に官憲が口出しすることは無いのだが、彼に関しては例外扱いされていた。
麻薬密売組織の構成員に手を出したことにより拷問を受け、顔面を薬剤で焼かれる。以降はその報復に人生を費やし、組織と共倒れになった。
──アイザン・デ・ストーマ、享年六十一。
デグライン王国とカイゼン工国の国境沿いに発生した穢れによって、故郷を追われた者の一人。
避難民として苦しい生活を強いられたが、それでも彼はめげることなく農業に従事し、家族を支え続けた。
三十歳の時に結婚し、それによって運気が巡ってきたのか、晩年は穏やかな生活を過ごしたとされる。
──アレンドラ・ズ・キセイン、享年六十三。
魔術師の世界第十位。水術に長け、河の流れを一人で堰き止めたという伝説を持つ。
ミルカ・クロゥレンの指揮の下、デグライン王国とカイゼン工国の国境沿いに発生した穢れを取り去ったことで知られている。
両目を失明していたため、人付き合いを避け辺境で自給自足の生活をしていたが、彼女に教えを乞う魔術師は後を絶たなかったという。
──ジャーク・ミ・キセイン、享年六十四。
カイゼン工国の元軍人であり、アレンドラ・ズ・キセインと共に国境沿いの浄化を行った。
奇抜な格好を好む所為で周囲から侮られていたが、武人としての強さは本物であり、誰のどんな挑戦にも打ち勝って見せたという。
後にアレンドラと結婚し、目の見えない彼女を公私に亘って支え続けた。同じ日に同じ部屋で死亡が確認されたため、死すら二人を別てないとして、多くの恋人達から賞賛を浴びた。
──サセット・シルガ、享年二十八。
『突貫』の称号を持つ剣士。クロゥレン伯爵家において守備隊は武術隊と魔術隊の二つに分かれており、彼女は武術隊員として活動していた。
精強で知られるクロゥレン家の守備隊の中でも一目置かれていたが、視野が狭いことを危険視されてもいた。
領地へ侵入してきた盗賊と対峙した際、独断専行により部隊を危機に陥れたことから、グラガス・マクラルによって粛清される。
──ミッツィ・ベックス、享年六十五。
クロゥレン伯爵家武術隊長として活躍していたが、サセット・シルガの粛清に伴い職を辞した。その後は未開地帯に引き籠り、魔獣を狩って生活していたことが解っている。
狩人等、自然の恵みを求める者達とは僅かながらも交流があり、『山の賢者』として親しまれた。
最期は単身で龍に挑み、相手を撤退まで追い込むも力尽きたとされている。
──グラガス・マクラル、享年七十一。
クロゥレン伯爵家魔術隊長であり、参謀としても知られる人物。元々はバスク・クロゥレンが商人時代に雇っていた護衛で、子爵家立ち上げの際にそのまま家臣になったという経緯がある。
武官としては珍しく温厚で、かつ理知的な性格であったため、気性の荒いミッツィ・ベックスとは反りが合わなかった。
そのためサセットを粛清したのは、派閥争いの結果ではないかと噂する者もいる。
──ヴェゼル・バルバロイ、享年八十四。
魔核加工職人の最高位である第十階位を持つ人物。彼の創作物は今なお評価が高く、好事家の間では億の値がつくことも珍しくない。
作業を目撃した者が『いつ完成したのか解らない』と驚くほど、加工が速かったという伝説がある。
突出した腕前を持つ職人でありながら、組合からは冷遇されていたらしく、作品と出会える機会は稀である。
──ミケラ・バルバロイ、享年五十八。
皮革加工の第七階位を持つ職人。連絡調整員として組合の補助をしていたが、父親であるヴェゼル・バルバロイが中央を離れたことに伴い、その活動を休止している。
彼女の鞣した革は非常に手触りが良く、また長持ちするため、抜剣を多用する武術師に好まれた。
『剣聖』ジィト・クロゥレンも彼女の作品を愛した一人である。
──バスク・クロゥレン、享年八十一。
クロゥレン領の初代当主。元々は商家出身の平民であったが、王国南部の開拓を王家から直々に依頼され、貴族となる。
異能『強運』『人運』『金運』を持ち、何をどうやっても成功する男として有名だった。中でも『人運』は非常に強い力を発揮し、彼の元には続々と優秀な人材が集まったことで知られている。
あまりに強度の高い人材が集まり過ぎた所為で、国から反乱を疑われたという逸話がある。
晩年は妻と共に世界中を旅して回り、教国マーディンで疫病によって死亡した。
──ミスラ・クロゥレン、享年七十七。
バスク・クロゥレンの妻。医者の家に生まれ、当人もその道で生計を立てていたが、バスクの求婚に応じ商家へ嫁いだ。
当時不治の病であった胃腸の出血、『ホワンナ病』の治療方法を確立したことにより、『天医』の称号を得る。王国五聖人の一人であり、陽術教育の重要性を訴え続けたことでも知られている。
教国マーディンで発生した疫病を治療すべく、夫の制止を振り切って現地へ向かったが、道半ばで倒れることとなった。
──ジィト・クロゥレン、享年九十五。
クロゥレン領の守備隊長兼領主代行として、その生涯を剣に捧げる。武術師の世界第六位であり、長剣の達人として今なお人気が高い。
当時、武術師の世界第三位であったファラ・クレアスと結婚し、領地の戦力を盤石なものとする。後述のミルカ・クロゥレンには子がいなかったため、次代は彼の子が領地を継承した。
王国歴三百九十三年、領地で異常発生した魔獣の群れに立ち向かうも、そのまま帰らぬ人となった。この防衛戦で彼が仕留めた魔獣は千を超えるという。
──ファラ・クロゥレン、享年七十。
元は王国近衛兵隊長であったが、二十代前半に職を辞し、クロゥレン家の従者となった。
領地運営の手伝いをする中でジィト・クロゥレンとの仲を深め、後に結婚へと至る。順位表に載る強者同士の結婚はそれまで前例が無く、世界最強の夫婦として恐れられた。
強度の高さで知られる人物だが、クロゥレン領では武官ではなく文官として活動していたため、腕を振るう機会はあまり無かったようである。
夫婦仲は良好で、最期まで夫を案じながら老衰で亡くなった。
──ミルカ・クロゥレン、享年六十八。
王国と工国の国境沿いに発生した穢れを数年間に亘って浄化し続けた功績により、伯爵へと昇爵する。王国史上初の女性伯爵として、その名が知られている。
生涯独身を貫き、その理由を『仕事の所為で婚期を逃したからだ』と言って憚らなかった。実際には彼女へ求婚する者は多く、地位や身分が高い者も散見されるため、単に選り好みが激しかったのではと推測されている。
甘味をこよなく愛し、ミズガル領の農業に協力を惜しまなかったことから、食文化の発展に寄与した人物としても評価されている。
──フェリス・クロゥレン、没年不明。
クロゥレン家の次男として様々な記載が残されているものの、ある書籍では魔核加工職人、ある資料では土木作業員と、職業に乖離が見られる。そのため、功績についてはどれが正しいものであるか、歴史家の中でも判断が分かれている。
複数人の経歴が混同されている、そもそも実在しない等様々な意見があるが、クロゥレン家の諜報部隊を示す隠語が『フェリス』なのではないか、という説が現在では有力とされている。
貴族家の人間でありながら、その死について詳細が解っていない。それどころか、出生から百年以上経った今も目撃情報がある、謎に包まれた人物である。
以上を以て、貴殿からの調査依頼への報告とさせていただきます。
報酬の残金となる三十万ベルは、組合窓口へお支払いください。またの依頼をお待ちしております。
クロゥレン家の次男坊 了