子供らしい切り替えの早さで、彼女はもうこちらを向くこともなく釣りに没頭していた。まあ、そこそこの仕事が出来ただろう。こういう時間も悪くない。

そう独り言ちて少女に背を向けた瞬間、一際強い風が吹いた。砂埃に思わず目を細める。

──ありがとうね。

「ん?」

知らない女の声。振り返れば誰もいない。

「……は?」

何だ今の? あの子は何処に行った? まさか落ちた?

慌てて桟橋に駆け寄り、少女を探す。周囲への影響も考えず全力で探知しても、何も引っかからない。陸にはいない。河にもいない。

先程まであった少女の気配が、何処にも無い。

「……何だそれ」

ちょっと待ってくれ、あの一瞬で探知を抜けられる筈がない。俺は反射的に、近くにいた男達の腕を取った。

「な、なあ、アンタ等、ここにいた女の子を知らないか?」

身振り手振りで説明するも、男達は後退りながら顔を見合わせる。

「……女の子? この辺で子供なんて見たか?」

「いや……? 俺はずっとここで作業してたけど、桟橋には誰もいなかったぞ?」

「釣り竿を持った子だ、見てないか?」

重ねて問いかけても、否定だけが返って来る。

どうやら全員、嘘は言っていないようだ。男達は俺の魔力に怯えているようなので、迷惑をかけないよう圧を引っ込める。頭を下げて詫びると、釈然としない顔付きで男達は作業に戻っていった。

俺だけが戸惑いを抱いたまま、河沿いをみっともなく右往左往している。

「ええ……?」

俺の知覚を上回る異能? 空間転移なんて実在するのか?

状況に置いていかれている。何が何だか解らない。

少女が立っていた周辺を改めて探すと、先程の釣り竿の欠片が粉末になって散らばっていることに気が付いた。魔力を通してよくよく確かめてみれば、極めて粒の小さな魔核が山を作っていると解る。蟲から針でようやく取り出すような、普通は捨て置かれる物。俺にとっては宝の山でも、魔核職人以外にはゴミでしかないだろう。

これを持っていけということか?

お礼をされるほどのことはしていないが……何となく、これが仕事に対する報酬だと感じる。首を傾げながら丁寧に粉を集め、空の革袋に詰め込んだ。

取り敢えず使い道はあるし、ありがたくいただくことにしよう。

「……宿、探すか」

思考を放棄して歩き出す。考えても解らないことに拘ったとて、結論が出る訳もない。

何だか気力を持っていかれてしまった。

馴染んだつもりだったが、やはりここは異世界だ。俺の常識など高が知れている。そんなことを実感した。