アマツキ皇国の統治制度は、帝国と比べると少し変わっている。

 領主は教育を受けた貴族から選ばれ、世襲制ではないのだ。さらに任期が定められており、1つの領地に長くとどまることもない。

 それだと領地のこともよく理解していない者が、次の領主になるのでないか。そう思っていたのだが、皇国はこれで上手く回っていた。

 まず領主業務が定期的に引き継がれるため、誰が領主となってもすぐに仕事ができるように引き継ぎ資料が作られているのだ。もちろん領主に任ぜられる者は、一定以上の教育を修めている者に限られるが。

 そして領主が代わっても、文仕官全員が入れ替わるわけでもない。そのため新任領主の業務を現場レベルでサポートできる者も多い。

 あとは領地の1つ1つが、それほど広大ではないというのも大きいだろう。また任期制のため地元商人や村長との癒着が生まれにくいという効果もあった。これに関しては良し悪しあるとは思うが。

(まぁこれで問題なく統治できるのは、やっぱりアマツキ皇国だからだろうけど)

 自国から出たがらない者が多い皇国人は、基本的に祖国愛が強い。もちろん帝国人にもあるだろうが、長く荒廃している現状を考えると、愛国心はやはり皇国人に旗が上がると思う。

 要するに必要以上に権力を求める者や、自分1人だけが儲けたい者というのが少ないのだ。民から貴族に至るまで、皇族のために尽くそうという空気を強く感じる。

 皇国人全員がそうではないし、中には酷い犯罪者もいる。だが全体的な気風としては、好ましいものがあった。

(どちらが良い悪いという話ではないが……。俺はやはり皇国の方がいいな)

 帝国は帝国で長い歴史があるし、その広大な国土を治めるために領地や貴族制度が整えられてきた。国それぞれ事情が異なるように、統治方法も独自性があるのだ。最たる例は遊牧民かも知れない。

「オウマ領に来て2日か……。今のところ、盗賊団の動きはないよな?」

「そうね……」

 俺とマサオミ、それにキヨカは幾人かの皇国軍兵士たちと一緒に、オウマ領へとやって来た。そして領主やこの地にいる武人たちと連携を取り、今は国境近くの砦に配置されてる。

 オウマ領から帝国領へは、街道……と呼べるレベルではないが、簡単な道ができていた。

 砦からは道が続いている様子がよく見えている。その道の周囲には草木が伸びており、視界はよくなかった。

「そう言えば他の領地でも出たのよね。大量の賊が」

「らしいな」

「これまでも皇国には賊が入り込んできていたけど、こんなに動きを見せるなんて……やっぱり帝国で何かあったのよ」

 まぁそうだろうな。そもそも三つ巴の内乱なんてしているんだ。しかも西部はまともな統治者もおらず荒れに荒れ、各地に賊を送り込んでいる……なんて言われているくらいだし。

 とにかく皇帝陣営でも領主連合でも、どちらでもいいからさっさと帝国を再統一してもらわないと。これじゃいつまで経っても平穏な日々はやってこない。

(まぁどちらもいい加減統一したいからこそ、しばらく大きな戦いはせずに戦力を整えてきたんだろうけど……)

 しかし西に厄介者たちがいるため、雌雄を決する決戦に移ることもできない。両陣営の疲弊は、ならず者たちからすれば絶好の機会に繋がるのだ。

「どうしたよ、ヴィル。難しそうな顔してよ」

「え? ……そんな顔してたか?」

「してたしてた」

「私たちも長い付き合いじゃない。ヴィルが何か小難しいことを考えていたのなんて、お見通しよ」

 なんだそりゃ。そんなに難しいことは考えてなかったけどな……。

 だが確かに俺たちの付き合いは長い。同い年で共に15歳で武人になった仲だし、互いに何度も稽古をしてきた。

 キヨカのことは愛しているし、マサオミはかけがえのない友人だ。皇国人で最も濃い付き合いをしてきた2人と言えるだろう。

「んでよぉ、なに考えてたんだ? あ、マヨ様のことだろ!」

「なんでそこでマヨ様が出てくるんだ?」

「だって歴代の皇族の姫で一番美しいって評判じゃねぇか! いいなぁ、マヨ様に会えてよぉ。なぁなぁ、どんな声だったんだよ!? 実際のところ、その美しさはどんなもんだったんだ!?

「はぁ……。ヴィルをあんたと同じにしないで」

 マヨ様……そんな評判だったのか……。たしかに類まれな美少女だとは思ったけど。

 髪色は黒く、見入ってしまいそうな艶があった。小柄ながら出るところは出ている体型だったと思う。あんまりジロジロと見ることはできなかったけど……。

 あの美貌でしかも民たちのことを考えている皇族がいる、一武人にすぎない俺にも気を遣っていただけたし。俺も皇族のために国に尽くそうと素直に思える。

 なるほど、皇族の求心力こそがこの国を豊かにさせているのかも知れない。

 なんとなくマヨ様のことを思い出していると、キヨカが半眼になっていた。

「……ヴィル? もしかしてマサオミの言う通り、マヨ様のことを思い出してない……?」

「え!? い、いや……というかキヨカ。マヨ様と会ったことがあるのか……?」

「話したことはないけれど、近くで見たことはあるわ」

 あぁ……キヨカの家は武家の中でも名家だし、仕事か何かで皇族の姿を見る機会があったのだろう。

「マヨ様、たしかに美人だもんね。どうせ男の人ってああいうお姫様って雰囲気が好きなんでしょ?」