
師匠はしばらく皇都にいるとのことだった。次の日からはまた武人としての日常が始まる。
そして数日が過ぎた時だった。その日、理心館には朝から俺に客が来ていた。
「ヴィルだな?」
「はい」
誰だこの男……初めて見る武人だ。というか、この人、若いけどかなりの使い手だな。
「ふん……初対面でいきなり探るような目を向けてくるとはな」
「いや、これは……失礼しました」
そんなに探るような感じが出ていたかな……?
しかしその実力を計ろうと考えたのは事実だ。俺にその気がなくとも、この人は探られている気配を敏感に感じ取ったのだろう。
「よい、平民上がり相手にいちいち無礼を指摘するつもりはない。俺は近衛、ヒロトだ」
「…………!」
近衛……! 皇族の身辺警護を行い、武人の中でも一部の実力者のみが就ける役職だ……!
近衛になるのは皇国武人の
そんな人が……俺になんの用だ……?
「俺も忙しい身だ、早速用件に入るぞ。2日後、御所の一室で会合が行われる。そこにお前も来るのだ」
「はい……?」
話が突然すぎて何も見えない。御所と言えば皇族の住居だ。武人と言えど簡単に入れる場所ではない。
そこで行われる会合など、皇族と誰かとの会合しかない。ますますもって、俺がそこに行く理由が分からない。
「俺が……御所に……? いったいなぜ……」
「アマツキ皇国には今、外からの客人が来ている。草原の民と言えば分かるか?」
「…………!?」
分かるもなにも、皇国に来る前に関わったことがある。
「客人の1人はムガ族族長の息子、カーラーン殿だ」
「え!? か、カーラーンさん!?」
「……どうやら本当に知り合いらしいな」
現在の帝国は西部がならず者たち、北部が領主連合、そして南部は皇帝を始めとした中央貴族たちが支配しているというのは、この間師匠に聞いた通りだ。
では東部はどうなっているのかと言えば、大草原が広がっている。といっても東部全域ではない。本当に東の端っこくらいだが。
そしてその草原には8つの遊牧民族が住んでおり、俺は皇国に来る前、師匠と共にムガ族という遊牧民族の世話になっていた。
「昨日カーラーン殿とキリムネ様がお会いになられてな。そこでお前の名が出たのだ。なんでも昔、世話になったそうではないか」
「え……ええ……」
「せっかく皇国まで来たのだ、久しぶりにお前に会えるように取り計らおう……と、キリムネ様がおっしゃられてな。2日後、御所にて皇族との会合があるのだが、そこでお前とカーラーン殿を会わせることになった」
そういうことか……なんとなく見えてきた。要するに俺を、本題が始まる前の和やかな空気作りに使いたいのだろう。
自国の武人が数年ぶりに恩人と会うのだ、和やかな雰囲気は作りやすい。
とりあえず呼ばれた理由は分かった。そして俺に拒否権はないし、拒否する理由もない。
「分かりました。お心遣い、感謝いたします。……しかしカーラーンさんはどうして皇国に?」
草原は一応帝国領となっているが、様々な理由から領主は置かれていない。まず単純に、帝都から距離が遠過ぎるのだ。
そして本当に草と木しかない辺境なので、そもそも人が集まって町を作ろうと思うほどの魅力が少ない。
仮に町ができたとしても、帝都から遠すぎて商人も行き来しにくい。街道の整備だけでどれくらいの時間とコストがかかるかも分からない。
また遊牧民たちはどこかのんびりしており、定期的に移動する上に草原であればどこでも暮らしていけるので統治管理もしにくい。
それでいて持ち前のマイペースさから「自分たちの生活の負担にならないなら、まぁ帝国所属ということでいいよ」と考えており、特に反抗的というわけでもないのだ。
その一方で馬を育てるには適した地であり、実際彼らは馬の扱いもうまければ、育てるのもうまい。むしろ家族の一員として接している。
遊牧民たちは毎年馬を何頭か帝国に送る代わりに、何かあれば帝国が彼らを守る……そんな実にふんわりとした間柄だった。
だからこそ気になる。皇帝に対する忠誠心など皆無に等しいとはいえ、一応は帝国の所属なのだ。そんな彼らが何をしに皇国へ来ているというのか。
「それは俺の知るところではない。気になるなら本人に聞けばよい。知り合いなのだろう?」
「……分かりました」
まぁいいか。カーラーンさんに会えるのは素直に嬉しいし。気を遣ってくれた師匠と、御所での再会という場を与えてくださった皇族に感謝だな。
そして2日後。俺は御所に来ていた。
御所は帝国の皇宮や貴族の館とは印象が全然違う。とても広大な敷地に木造りの平屋が続いており、廊下も建物の中だけではなく屋外にも続いていた。
こうして中に入るのは初めてだし、なんなら皇族を直接目にするのも初めてだ。いや、例大祭の時に遠目にチラッと見えた時はあったかな。なんにせよ、めったにない機会ということもあり、自分でも少し緊張しているのが分かる。
既に皇族とカーラーンさんの話し合いは始まっているらしい。俺は両者が挨拶を終えるタイミングで部屋へ呼ばれた。
「失礼します」
通された部屋は広くはあったが、全体的に飾り気は少なく質素な作りだった。中心にはどこか神秘的な魅力を感じさせる女性が椅子に座っており、その側には3人の武人が控えている。1人はヒロトさんだ。
そしてその向かい側には、よく日に焼けた肌が特徴的な大柄な男性が座っていた。男性は俺の姿を見ると、両目を大きく見開く。
「武人ヴィルをお連れいたしました」
「ありがとう。下がっていいですよ」
女性の言葉を合図に、ここまで案内してくれた人は部屋の外へと出る。その女性は俺に視線を向けた。
「まぁ……本当に目が青いのですね。キリムネ様最後のお弟子さんだとは聞いておりましたが……」
……間違いなくこの方が、カーラーンさんと会合するという皇族だろう。俺はその場で片膝をついた。
「初めてお目にかかります。キリムネよりお聞きでしょうが、ヴィルと申します」
いや……驚いた。皇国人は美人が多いが、この方はまた別格だ……!
艶やかな長い黒髪に大きなグレーの瞳はとてもよく映えている。
肌は白く、指先まで美しさと気品を強く感じる。年下だろうし小柄ではあるが……自然と頭を下げるような、そんな不思議な魅力を備えている女性だった。
俺も元は帝国の皇族とはいえ、皇位継承権は最下位に近かった。そのため貴族たちの上に立つ皇族というよりは、皇族に従う臣下としての教育を施されてきたのだ。
それもあってか目の前の美しき姫に対し、特に違和感を覚えることなく頭を下げることができた。
「ふふ……客人の前です、頭を上げてもよろしいですよ。カーラーン様、驚きになられました?」
「ええ……。いや、本当に驚きました。ヴィル、久しぶりだ。大きくなったな」
「カーラーン様……」
本当はさん付けで呼びたいところだったのだが、皇族の姫が様付けで呼んでいるのだ。この場で俺が馴れ馴れしい態度は取れない。
「急に呼びつけておいて、挨拶がまだでしたね。私はツキミカド・マヨ。気軽にマヨ、と呼んでくださいね」
「……マヨ様」
ヒロトさんが注意するようにマヨ様の名を呼ぶ。まぁいくら本人がいいと言っていても、気軽に……とはいかないよな。
カーラーンさんは本当に嬉しそうな表情で俺を見ていた。
「あれからもう8年以上は経つか……? キリムネ殿から元気でやっていると聞いていたのだが、本当に立派になったな」
「そんな……あの時、カーラーン様たちに助けていただいたおかげです」
草原の遊牧民たちは、基本的に温厚な人が多い。ある程度の集団をまとめるために8つの部族があるものの、部族間で対立しているという話も聞かなかった。
「はは。こうしてヴィルと会えたこと、妹……リーナが聞いたら、俺だけずるいと怒られてしまいそうだ」
「そんな……」
「あの時は2人ともまだ小さく、俺は妹だけでなく弟もできた気分だったよ」
リーナか。懐かしい。とても元気な子で、髪も短かったから最初は男の子だと思っていたんだよな。途中で実は女の子だと知って、驚いた記憶がある。
あの時はかなり幼い子だったけど、今はすごく成長しているんだろうな。
「ローバン族長はお元気ですか?」
「ああ。元気すぎて困っているくらいだ。ヴィルの話をすれば、それを肴に酒を飲む姿が目に浮かぶよ」
「ははは……」
皇国に来るまでの旅で、一番思い出に残っているのは草原での日々だ。
遊牧民たちと話し、動物たちに触れ、そして広大な大地で澄み切った夜空を見て、世界とはこれほど大きいのかと感じたのを覚えている。
(本当に……懐かしいな……)
カーラーンさんと話しながら思い出話に花を咲かせる。師匠に連れられ帝都から出た俺は、始まったばかりの内乱で慌ただしい帝国内をひっそりと回っていた。
まだ成長しきっていない身体での長旅は大きな負担となっていたが、数ヶ月かけて草原へと到着する。師匠は遊牧民にも知り合いがおり、そこでしばらく暮らすこととなった。
「あの時は帝国内において、唯一戦禍の届かない土地でしたね」
「草原には貴族が存在していないからな」
師匠も草原であれば、追手はこないと判断していた。そもそも内乱で誰もが緊張感を持っている中、遠く離れた草原にわざわざ派兵する者はいなかったのだ。
草原で旅の疲れを癒し、その間に歳の近い友人もできた。カーラーンさんの妹であるリーナもその1人だ。
草原の民たちは誰もが優れた弓の使い手で、リーナもとてもうまかった。俺も弓や狩りを教えてもらったし、動物のさばき方も習った。最初は自分で動物をさばくという行為にまったく慣れなかったのだが、あまり年齢の変わらないリーナがなんてことないような顔で血抜きや解体しているのを見て、対抗心からがんばって身に付けたのは懐かしい思い出だ。
草原では心身共にとても充実した時間を過ごせていた。だがずっと草原で暮らしていたわけではない。
長旅による疲れが取れ、俺にある程度の体力がついたタイミングで師匠は皇国行きの旅を再開した。実は帝国の東端にある草原から南に下ると、地図にはない道を通って皇国へ移動することができるのだ。
もっとも道なき道を行くこともあり、案内がなければ簡単には移動できない。それに案内があったとしても、険しい山道を越える必要があるため、体力も求められる。師匠はいつまでも帝国内に俺がいることは危険だと判断し、草原で俺が体力をつけるまで待っていたのだ。
そうして俺は草原の民に別れを告げて皇国へと旅立った。
『ヴィル、約束! 約束だよ! 絶対にまた草原に来てね!』
リーナはずっと泣いていたけど、最後は笑顔で再会を約束した。きっと今も弓を片手に、草原を駆けているのだろう。
(そういえば……草原の民はみんな身体をしっかりと鍛えていたな……。カーラーンさんもかなりの筋肉質だし……)
それに身体を鍛えた大人しか扱えないような、かなりの張力を持つ弓もあった。ああいう土地だし、日頃から鍛えるのが当たり前になっているのかも知れないけど。ほぼ全員が馬を見事に乗りこなし、弓を扱えることを思うと、遊牧民たちはかなりのポテンシャルを持っているのかも知れない。
(今思うと、あの弓もどこで作られていたんだ……? 少なくともカーラーンさんたちムガ族が一から弓を作っているところは見たことがなかった……)
カーラーンさんと話を続けつつ、そのあたりの疑問を解消すべく質問しようとしたが、ここでヒロトさんが小さく咳払いをした。時間がきたのだろう。
「……まだまだ話したいところですが、カーラーン様もマヨ様との話があるでしょうし。私はこれで下がらせてもらいます」
できればカーラーンさんが皇国を出る前に、もう一度話せたらいいけどな……。と、考えていたらマヨ様が「あら」と口を開いた。
「お2人とも、久しぶりの再会なのでしょう? ヴィル、下がらずとも結構ですよ。あなたは武人なのだし、このまま部屋の警護をしてもらいましょう」
「え……こ、このまま……警護を……?」
「マヨ様。この場の守りは我ら近衛の仕事。それにカーラーン様との話を、ヴィルに聞かせずともよいかと」
ヒロトさんがマヨ様に苦言を呈す。
これに関しては俺もヒロトさんの意見に賛成だ。いくら武人とはいえ、わざわざ俺に聞かせる話でもないだろう。
「あら。近衛は私の警護でしょう? 私はこの部屋の警護にヴィルを置くと言ったのです」
「マヨ様……」
「いいではありませんか。久しぶりの再会でカーラーン様に喜んでいただこうと考えたのは、こちらの都合なのです。用事が済んだら部屋から追い出すなど……ヴィルを弟のようにかわいがっていたというカーラーン様からしても、あまり良い気はしないでしょう?」
チラリとカーラーンさんに視線を移す。カーラーンさんは特に動じた様子もなく、柔和な笑みを浮かべていた。
「皇国にも都合はあるでしょうし、特にそれで機嫌を損ねるということはないですよ。しかしこれから話す内容は、帝国の現状にも繋がることですから。元々帝国生まれのヴィルの意見も、もしかしたら参考になるかも知れませんね」
カーラーンさんは穏やかにそう話すが、これは俺をこの部屋に置くための方便だろう。このまま俺が部屋から出て行って、微妙な雰囲気になるのを防ぐ狙いがあると思う。
なんせ今、近衛の言葉に対してマヨ様が意見をぶつけてる状況だし。
こうしてカーラーンさんの言葉が決め手になり、俺は引き続き部屋に残ることになった。こうなってしまった以上、俺から言うことは何もない。ただの武人にすぎない俺には選択肢もないのだ。
そう考え、俺もマヨ様の後ろに控える。そしてマヨ様とカーラーンさんの話し合いが始まった。
「さて……まずは改めてになりますが、こうして面会のお時間をいただきありがとうございます」
「いえ、お気になさらず。アマツキ皇国は草原の民たちと、これまで友好的な関係を築いてきましたからね」
2人の話によると、遊牧民たちは帝国だけではなく、皇国にも馬を出していたらしい。
ただし、こちらは献上ではなく取引であり、遊牧民たちは皇国から生活用品やここでしか得られない食材や工具の類を手に入れていた。
まさか皇国とそんな取引をしていたとは……。だが思い返してみれば、確かに遊牧民たちが使っている道具の中には、明らかにあの地では作れない加工品もあった。
それに草原から皇国へ行ける道を俺と師匠に教えてくれたのも彼ら遊牧民だ。規模こそ小さいものの、両者の関係自体はたしかにあったのだろう。
「カーラーン様がこうして来られた理由。馬についてですね?」
「はい。……もしや帝国から何か通達がありましたか?」
「ええ。少し前になりますが、使者がやってきました。今後、あなたたちから馬を貰わないようにと」
やはり牧草地という環境が良いのだろう。草原で育った馬はとても質がいいらしい。
遊牧民たちは皇国に対し、1年に1頭くらいの馬を出しており、それらは皇族の預かりになっているそうだ。
だがこれに対し帝国は「その馬は本来、帝国に献上されるべきもの。許可なく奪い取ることは容認できない」と、難くせをつけてきたのだとか。
「どう返事をしたものか困っていたのですよ。……兄が、ですけど」
「皇国には各部族で育てた馬の中でも、最も立派な馬を出しておりましたからね。どこからかその話を聞いた帝国貴族の中に、気に食わないと感じた者がいたのでしょう」
皇国に出された馬は、基本的に大事にされるらしい。時には聖域を守る聖馬として扱われることもあるそうだ。
遊牧民たちも立派に育った馬には良い場所で暮らしてほしいし、皇国は遊牧民たちで分けられるくらいの物資をくれるので、なるべく良い馬を……と考える。
一方で帝国はと言えば、献上した馬は基本的に有力貴族に下げ渡されており、賊の盗難にあって死んだという話もあるとのことだった。
「実は草原にも、遠いところをわざわざ使者が来まして。今後献上する馬を倍にするように、と言ってきたのです」
「まぁ……」
カーラーンさんの話によると、使者は広い草原を駆け巡ってなんとか遊牧民たちを見つけ、帝国の要望を伝えてきたらしい。
遊牧民たちも最初は「遠いところをようこそ」という気持ちで迎えていたのだが、その高圧的な物言いや態度からだんだん
「実はここ数年、帝国は南部も北部も本格的な衝突は起こっていないのです。互いにまずは自領の復興を優先したのでしょうね」
元々が財政難だったしなぁ……。それに西部からは賊が出張略奪に来るわけだし。
だが武力衝突が小規模なものになったおかげで、軍備は整いつつあるらしい。そして財政面にも多少は余裕ができたところで、草原にも口を出してくるようになった。
「我らは国とか領土という概念は薄いのですが……帝国の願いを断ればどうなるかは承知しています。今の皇帝陛下は、苛烈な決断をされる方とも聞いておりますので」
「……………」
驚いたな……。遊牧民は基本的に草原から出ないと思っていたんだが。想像していたよりも、帝国の内情をよく理解している。
何か情報を得る手段を持っているのかも知れない。それともこの数年で、難民が草原にまで来るようになったのだろうか。
「とはいえ、いきなり倍は不可能です。そこはこれから折り合いをつけていくところですが……」
「皇国にはこれまで通りのような、馬を使った取引が難しくなる、ということですね」
なるほど……。元々金銭で売っていたわけではなく、物々交換だったのか。
これまで仕入れられていた生活用品や工具が手に入りにくくなると、いずれ遊牧民たちの生活スタイルにも影響が出てくるだろう。
「刃物類や工具類、こうした物はいつまでも使い続けられるわけではありません。しかも今の我らになくてはならないものですし、他にも同様の道具類がいくつもあります。取引ができなくなると数年先、苦労する者たちが出てくるでしょう」
そこでカーラーンさんは遊牧民の代表として、何か別の物で物々交換を続けさせてくれないか……と、交渉しに皇国まで来たわけだ。内乱の影響がこんな形で見られるとは……。
「なるほど……カーラーン様方の事情はよく分かりました。もう少し帝国が落ち着いていれば、こんな事態にならなかったのでしょうが……。ここだけの話、兄は帝国に対し良い印象を持っていないのですよ」
「マヨ様の兄君……ですか?」
「ええ。今回の件にしても、いつから我が国に注文をつけられるくらいにえらくなったのだ……と、大層お怒りでして」
その気持ちは理解できる。遊牧民はともかく、皇国は帝国の属国でもなんでもない。馬の取引で命令されるような筋合いはない。腹が立つのも分かる。
「父上は今、体調が優れませんので。この件は兄と相談させてくださいね」
「ありがとうございます」
カーラーンさんはしばらく皇都に滞在するらしい。こうして会えたのは嬉しいけど……素直に喜べないのは、やはり帝国の話が出たからだろう。
「そうだわ。ヴィルはしばらく、カーラーン様の護衛としてお貸しいたしましょう」
「は、え……?」
「ヴィル。よろしくね」
そう言うとマヨ様はニコリと俺に笑みを向ける。
マヨ様、あれだな。わりとその場の勢いで物事を決定する方なんだな。決断力があるというかなんというか。
それから俺は、カーラーンさんに貸し出された屋敷の警護を担当することになった。おかげでじっくりと話せる時間も得られたし、これもマヨ様なりの気遣いだったのだろう。
だが、そんな日々は長く続かなかった。俺に新たな命令が下ったのだ。
「オウマ領に行くことになった……?」
「そうなんです。賊の討伐が終わればまた皇都に戻ってきますが」
皇国は賊がよく流れ込んでくるが、帝国と隣接しているオウマ領に100人規模の賊が現れたらしい。
オウマ領に配置されている武人や皇国軍兵士でも対応は可能だが、こうした動きはこれまでなかったので、念のため少し武人を回してほしいと要望があった。
帝国と隣接している領地はオウマ領を含めて3つあるが、時同じくして他の2つの領地にも大規模な賊の集団が現れたらしい。
何か帝国内であったのだろうと予想が立てられており、これをできるだけ探ってくるように……とも命令を受けていた。
皇都にいる武人も決して多いというわけではない。だが今回の事態に対応するため、また情報を集めるために武人頭はそれぞれの領地に武人を派遣することにしたのだ。
「その賊も元は食うに困った村人か、傭兵崩れだろう。……生まれた国の者と戦うのはつらいな、ヴィル」
カーラーンさんは俺に気を遣うような声色で話す。だが俺は首を横に振った。
「今の俺はこの国の武人ですから。そして武人としての日々を続けるためにも……俺は行きます」
あの時のように、平和に過ごしていた日々を奪われるのはもうごめんだ。今の俺にはその日々を守る力もある。
「……ヴィル。きみに星々の導きがあらんことを」
「ありがとうございます」
遊牧民にとって、星は自分の位置と方角を計る大切な指標だ。星々の導きがあらんことを……というのは、無事に帰ってきてくれという願いが込められた言葉になる。
俺はマサオミ、キヨカと合流するとオウマ領を目指して皇都を出た。
◆◇◆◇◆◇
アマツキ皇国と隣接する帝国領、カルドート。
その地の領主であるマイバル・カルドートは昼間から酒を飲み、一枚の板で両手と首を拘束した女をベッドの上で乱暴に犯していた。
「ひぎぃ……! り、領主、さまぁ……! もう、ゆるしてぇ……」
「うるさいっ! ブタが生意気な口をきくんじゃない!」
「あぎぃっ!?」
その女は村の視察に出た時に目についた女だった。屋敷に連れ帰ろうとしたところ、彼女の夫という男がお許しをと頭を下げてきたのが不快だったため、こうして乱暴に犯していたのだ。
女はバックで激しく突かれ、尻は何度も叩かれ真っ赤になっている。マイバルはそのでっぷりとした腹を揺らしながら、快楽を貪っていた。
「お前らがこうして生きていけているのは、全て領主である俺のおかげだというのに! まったく、学がないブタどもはこれだから……! ふんっ!」
「ああっ!」
この地は元々帝国ではない、別の国が治めていた土地だ。しかし10年以上前に帝国が支配し、各地には領主として帝国貴族が送られそれぞれの領地を管理している。
マイバル自身も元は帝都に住居を構える中央貴族だった。正直、辺境の領主と中央貴族、どちらがいいかは難しいところだ。
しかし領主はその土地の王である。こうしてその権力を振るえるのはやはり気持ちがいい。
「失礼します」
全身に汗を流しながら腰を振っているところに別の男が部屋に入ってきた。さっき部屋に来るように呼んだ男だ。
マイバルはそちらを見ることもなく女との行為を続ける。
「来たか、ブリスよ」
その男はマイバルが見つけた傭兵だった。刻印持ちであり、実力も確かだったため、こうして手元において使っているのだ。
「あの件はどうなっている?」
「アマツキ皇国ですね。まだ返答の使者は来ていません」
「なぁにぃ~!? この……!」
「
っ!? お、んん……っ! お、おやめ、ください……っ!」
ブリスの言葉を聞き、マイバルは部屋中に響くような強さで女の尻を叩く。だが腰を振る速度は緩まなかった。
「もう30日は待ったぞ……! ふん、これまで帝国が隣接していなかったから、生き残れていただけの小国が……!」
「……一応準備は進めていますが。本当にやられるので?」
「当然だ……! 中央の指示だからな!」
マイバルは以前、皇国に対し使者を送っていた。内容は遊牧民との取引をやめることと、帝国と商取引を進めていこうというものだ。
商取引といっても、決して対等ではない。皇国製の物は越境手数料を取るし、帝国から売る物は1の価値があるものに対し、2~3の価格で取引しろというものである。要するに不平等な商取引を強要しているのだ。
これにはいくつか理由があった。まず純粋にその国力の差である。
国土の広さはもとより、兵数でも帝国が圧倒的に勝っているのだ。アマツキ皇国など平民戦力を合わせても、兵士数が4万人に届くかどうかといったところだ。
対して帝国には15万人を超える騎士団があるし、それとは別に領主が抱える領軍もある。強引な徴兵を領主が行えば、もっと増やすこともできる。
何より歴史が長い分、貴族の数……刻印を持つ騎士の数も多い。
もちろんその全兵力を1つの地方に固められるというわけではない。だが昔よりいくらか体制が整いつつある今、中央がその気になれば皇国を侵略することもできる。
そうした武力の差以外にも、皇国に強気な態度を取るのには帝国の都合も関係していた。
「アマツキ皇国の騎士……武人と言いましたか。相当な
「だからこそだろぉ!? 隣にあんなに恵まれた土地があるんだ、もし帝国に取り込めたら……! 武人どもは全員、西に送って暴れてもらおうじゃないか!」
「素直に言うことを聞きますかね?」
「聞くだろ? 皇族を人質に取ればよぉ!」
長く他国と争っていないアマツキ皇国は、それなりに豊かだ。隣接する国も1つだけ、海もあって食べ物にも恵まれている。
これまでは欲しくても手が出せない領土だったが、帝国も最近になって余裕ができてきたため、中央はここで皇国に目を付け始めた。
なんせ後ろ盾になっている国もない小国なのだ。そのくせ潤っているというのだから、財政面で疲弊してきた帝国としては是が非でも欲しい。
とは言え最初の出方にはやはり慎重になる。そこでまずは様子見に、少し無茶に感じる要求を使者を通して打診した。皇国としては決して不可能ではないが、国家として呑めるかはまた別の話になる。
もしプライドを捨てて帝国の要求を飲めば、時間をかけてさらに無茶な要求を繰り返していく。いずれ皇国も堪忍袋の緒が切れる時がくるが、その時には既に疲弊しているだろう。
一方で要求を呑まずに断ってきたら。その時はいろいろ口実を作って攻め込み、強引に併合すればいい。それができるだけの準備は整えてきた。
「もう30日経ったんだ……! 中央も騎士団を回すと言ってきた! 最初はうちから犠牲を出すが、帝国政府はその補填もすると言ってきている! ふん……辺境の領主なんてと思っていたが、いよいよ俺にもツキがきたなぁ!」
「はうっ!?」
マイバルは女の腰に両手を回すと、しっかりと組んで女を逃さないようにと互いの性器の密着度を高める。そして腰の動きを止めた。
これに嫌な予感を覚えた女が、悲鳴に近い声を上げる。
「ひっ……!? ま、まさ、か……!? お、おやめください、中には……な、中には、出さないで……!」
「あぁん!? なぁんでブタ如きが領主である俺にそんな口をきいてんだぁ……? だがお前が俺に対する忠誠と愛を口にしたら、気分によっては考えてやるぞぉ?」
そう言いながらもマイバルは両手に力を込め、女をより強く抱きしめる。
このままではまったく抵抗できず、深い位置で子種を出される。その恐怖から女は懇願するように口を開いた。
「わわ、私は、偉大な領主様のブタです……! 民に優しく寛大な領主様を心からお慕い申しておりますっ! どうか、どうか……!」
「ふぅ~~~~~~。……あ? なんだって?」
「………………!?」
マイバルは女の膣内で自分の肉棒をビクビクと痙攣させていた。ブルリと
女も自分の体内で不気味に動く領主の肉棒を感じながら、今まさに自分が種付けされていることに気づいた。
「い……いやああぁぁぁぁ! ぬ、ぬい、ぬいてぇぇぇ! お、おね、おねがい、です! き、今日は……ほ、本当に、できちゃう日なんです……! いや……い、いやああぁ……!」
「ぶっへっへ! 偉大で民に優しい、寛大な領主を心から慕っているんだろぉ!? その俺の子種だ、元気な子を産めよ!」
「ひいいいぃぃぃぃ!」
女の膣内で射精をしながら、マイバルはブリスと会話を続けた。
「よぉし。兵士に適当な武装をさせておけ」
「……兵士なんて言っても、彼らはろくに訓練も受けていない平民がほとんどです。使いものにはなりませんよ?」
「んなもん、分かってる。それでいいんだよ、それでよぉ。ふぅ~~……。しかしせっかくの戦争だ、我が領に仕える騎士やお前にも楽しんでもらわないとなぁ?」
女は叫ぶのをやめ、過呼吸を起こしながらすすり泣いている。マイバルはそんな女に、もはや意識が向いていなかった。
「中央から騎士団が来たら、本格的に侵攻を開始する。略奪も許可する。どうせそれなりに豊かに暮らしてんだ、ちょっと荒らしても問題ないだろ」
「それは良かった。略奪が許されるかどうかは、士気にも関わりますからね」
略奪は命を懸けて得た勝者の権利であり、また敵国の国力を直接削ることにも繋がる。ブリスはこれから始まる戦いの予感を胸に、部屋をあとにした。