四章 昨日の敵は今日の友、昨日の友は──



「みなさん、ほしもりとしての新たなる力の覚醒……とても素晴らしく思います」

 少女たちが星守としての新たな力を芽生えさせてから数日後、全員が教室に集められていた。

 きようだんに立つたんがゆっくりとわたす。

「さらに新型イロウスの正体もき止めたことは大きな成果です。みなさんの頑張りで、事件が解決の方向に向かっていることはちがいないでしょう」

 牡丹の一言一句に少女たちが聞き入る。

「私たちとしては、この機会に力を結集し、イロウスを生み出す正体不明の勢力に団結して立ち向かうのが得策と考えました。そこで……」

 なにが明かされるのだろう──少女たちがぐっと身を乗り出す。

「みなさんには、彼女たちと親交を深めていただきます。どうぞ、お入りなさい……」

 牡丹が教室の外へと声をかける。

 ガラリとドアが開いた。

 少女たちの十六ついひとみいつせいに向けられたそこには──


こうがみのん……」

くにえだです」


 かなでみや女学院の制服に身を包んだ二人が、どこか心地ごこちが悪そうにたたずんでいた。

 まさかの二人の登場にだれもが口をあんぐりとさせる。

 そんな少女たちの中で、一番早くリアクションしたのは、やはりうららだった。

「なななななななななんで二人がっ!?

 イスをり倒して飛び上がる。

 穴が空くほど指を突きつけられた花音がプイッとそっぽを向く。

「別に私だって好きできたわけじゃ……」

「花音ちゃん、そういうことは言わないの。ね?」

「詩穂まで……」

 やんわりとたしなめられた花音は、居心地が悪そうに目をせた。

「改めて説明するまでもありませんね。f*fフオルテシモのお二人にこのたび、星守との交流を深めるということで短期間ですが編入していただくことになりました。みなさん、仲良くするように」

『は、はい……』

 少女たちがきんちようおもちで返事する。

すばるちゃん、はるちゃん! アイドルだよ、アイドル!」

「みきってば、そんなにさわがなくても……」

「うららちゃんみたいね」

「高校二年だって……アタシたちと同級生だね」

「うん……お友達になれるかな……」

「二人とも……背が高い……。また私だけ……」

 突然の二人の編入に教室がざわつく。

 そんな中、うららだけが複雑な表情のまま花音と詩穂を見つめていた。


      


 花音と詩穂が新たに加わった星守クラスには、どことなくぎこちないふんただよっていた。

 これまでなにかとしようとつしてきた二人がいきなり編入してきて、接し方が分からなかったのだ。

 そんな時だった。

「ねえねえ、花音せんぱい、詩穂せんぱい」

 二人のところにけ寄った者が一人──ミシェルだった。

 なぜ彼女だったか──それはこの中でミシェルが一番、ひとなつこいからだった。

 アイドルにくわしいわけでもないから、あこがれるあまり遠慮することはない。

 変に緊張することも特別あつかいすることもなく、ごくつうに話しかけたのだった。

「せ、せんぱいって……」

「だってミミよりお姉さんだよ?」

「ごめんなさいね。花音ちゃん、先輩って呼ばれるのに慣れてないから」

 詩穂がそっとフォローする。

 トップアイドルということもあって、奏乃宮女学院で後輩が花音を呼ぶ時はいつだって花音様──である。

 先輩というひびきがどこかくすぐったかった。

「花音せんぱいと詩穂せんぱいはアイドルなんだよね?」

「ええ、そうよ」

「えっと……うららせんぱいもアイドルになりたいーって言ってるんだけど、どうやったらうららせんぱいもテレビに出られるの?」

…………

 詩穂が困ったように笑顔で固まる。

 単純にうららをおうえんしたい、すごいアイドルになってほしい──そんな気持ちからこぼれ落ちた疑問だった。

 しかし当のうららにはずかしいことこの上ない。

 よりにもよって花音と詩穂の二人にそれを聞くかと、顔が真っ赤になる。

「ちょっとミミっち! なんでそこでうららが出てくるのよっ!?

 慌てて背後からミシェルをめにするうららだったが、ミシェルが逆にそんなうららが意外だという顔で、

「だって、うららせんぱい……テレビに出たいっていつも言って……」

「わーっ! わーっ!! わーったらわーっ!!

 これ以上ミシェルに余計なことを言わせないよう、うららが必死に口をふさぐのだった。

「テレビかぁ……たしかに、ちょっと興味あるかも」

 ミシェルの言葉にしよくはつされ、みきがポツリともらす。

「未知の世界だからね、テレビの裏側なんて」

「確かにそうね……少しお話を聞いてみたいかも……」

 昴と遥香も、アイドルとテレビというキーワードに耳をくすぐられた。

 そしてその他の少女たちも。

「どうやってテレビ番組は作られているのかのう?」

「ねーねー、テレビで歌ったりおどったりって緊張しないの?」

「有名人と知り合いになれちゃったり~?」

 一度火がついたこうしんとどまることを知らず、すぐに広がっていく。

「テレビのオファーは、どのように来るんですの?」

「テレビのしようってあるじゃない? あれってレンタル? 買い取り?」

 ぼくな疑問から突っ込んだ質問まで、ばやに花音と詩穂へ投げかけられる。

「ちょ、ちょっと!」

「み、みなさん落ち着いてください……」

 いつの間にか花音と詩穂の周りに少女たちが集まっていた。

 ついさっきまでの余所よそ余所よそしい雰囲気などどこへやら、そこにあったのは転校生にしつもんめをするクラスメイトという、どこにでもある光景だった。

「むみぃ……ミミが聞きたかったのに……」

 すっかり勢いにまれたミシェルがしょんぼりとかたを落とす。

 そしてもう一人、にぎやかな輪の中に入っていけないのが──

「ふんっ、なによ! たかがf*fフオルテシモが来たくらいでみんなき足立っちゃってさ!」

 バレバレの意地を張って強がろうとするうららであった。


 花音と詩穂がクラスにけ込むのにたいした時間はかからなかった。

 ミシェルがきっかけとなって、花音と詩穂に対する見えないかべはゆっくりと崩れていった。

 花音と詩穂の方も星守へのたいこうしんかげひそめ、共にイロウスから人々を守る仲間なのだという思いが少しずつ芽生えていった。


      


 とある放課後。

 花音と詩穂はけんどうじようおとずれていた。

 高校二年生組──のぞみ、ゆり、くるみは放課後、そこですごしていると聞いてのことであった。

 私は別に──としぶる花音だったが、同学年である三人とはきっと話も合うはずだからと、せっかくならみんなと仲良くなりたいと願う詩穂が引っ張ってきたのであった。

「これがしんじゆみねの剣道場……。すごいわね、花音ちゃん」

「まあ……なかなかやるじゃない」

 純和風の立派な剣道場に、乗り気でなかった花音も少しは心をかれたようだった。

「で、私に見せたいものって、結局なんなの?」

「ふふっ、それは見てからのお楽しみ♪」

 二人が剣道場の中をのぞき込むと、そこでは、どうと面をしっかりと着け、竹刀しないを構えたゆりがめいそうをしていた。

「お、きたきた!」

「ふふっ、いらっしゃい」

 望とくるみはというと、ゆりとは対照的に面も胴着も着けず、制服姿のままかべぎわに座っていた。

「ではっ、始めるぞっ!」

 瞑想を終えたゆりが元気よく声を上げる。

 ゆりの方に視線を移した花音は、みようなことに気がついた。

 彼女が竹刀を構える先には相手の姿がなかったのだ。

 代わりに、ゆりの前方数メートル──そこにあったのは、ほのおともったろうそくとそれをせたしよくだいであった。

「まさか……」

 花音が思わず息を吞んだ、その時だった。


…………せいっ!!

 ゆりがするどく竹刀をいつせんさせた。

 すうしゆん後、ろうそくの炎が息をきかけられたかのように消えた。

『おぉーっ!

 見守っていた望とくるみがはくしゆを送る。

「ホントに消えた! さっすが、ゆり!」

「次のゆりの誕生日パーティーが楽しみ」

「いや、バースデーケーキでこれはちょっと無理じゃないか……」

 面を外しながらゆりがつっこむ。

「す、すごいわね……」

 盛り上がる三人をながめながら、花音はゆりのわざに感服していた。

「ほら。来てよかったでしょ? 三人がおもしろいものを見せてあげるからって言ってくれたの」

 無意識のうちに二人とも小さく拍手していた。

「ゆりは剣道部なのよね……剣道をやってると、あんなすごい技も身につくものなの?」

 どちらかというと剣道には地味なイメージしかない花音がたずねる。

「うーん、普通はできないんじゃない?」

「うん、ゆりは特別」

 本人の代わりに望とくるみが答えた。

「ゆりは本当に剣道一筋だからね~。がんって打ち込んできたからこそだよ」

「達人だね」

 まるで我がことのように二人がゆりをめる。

「そ、それほどでも……」

 そんな賞賛にまんざらでもないゆりだった。

 たははっと照れ笑いしていると、そんな彼女を見つめていた花音がふとつぶやく。

…………私も剣道、やってみたいかも」

 その言葉に一同が、花音の方をり返る。

「花音ちゃん、剣道に興味があったの?」

「あったというか……今わいたというか……」

 花音の中で、剣道は地味というイメージからだつきやくしつつあった。

 もちろん今すぐに、ゆりのような技は身につかないだろう。

 それでも、これまで自分とはえんだった剣道というスポーツに対し、しように好奇心をくすぐられた。

「教えてもらってもいい?」

「もちろんだ!」

 ゆりに断る理由などなかった。

 自分の好きなものに興味を持ってもらえて、うれしくないはずがない。

「さあ、こっちだ!」

 ゆりはとして花音のうでを引っ張ると、余っていた竹刀をわたした。

「さあ、まずは私と同じようにやってみるんだ!」

「ちょ、ちょっと待って……」

 ぐいぐい来るゆりに花音が狼狽うろたえる。

 そもそも、剣道についての知識自体がとぼしいのだ。

 いきなり、ゆりと同じことができるわけがない。

 少しずつ教えてもらうつもりだった。

「まずは基本的なことというか、的なことというか……いきなりじつせんってのは……」

「はっ……それもそうだな。すまない、先走ってしまった……」

 分かってくれてよかった──花音が胸をなで下ろす。

 だが、ゆりはさらにななめ上を行った。

「やはり形から入らないとな!」

 ぽんっと手を打ったゆりが倉庫へとけ込む。

 ややあって、彼女は防具一式をかかえてもどってきた。

「さあ、着けてやるぞ!」

「ちょ……」

 花音の制止も聞かず、ゆりはてきぱきと防具を装着していく。

 その流れるような作業に、花音はていこうするひまもなかった。

 みるみるうちに花音の身体が防具に包まれていく。

 最後にすぽっと面をかぶれば──もはやそこにトップアイドルの姿はなかった。

「お、重い……」

 装備の重量に負けそうになってふらつく花音だった。

「花音ちゃん、だいじよう?」

「こんな重いのを身に着けてたのね……あなどってたわ……」

 そして同時に、さっきゆりはこの重さの中で鋭く竹刀を振りいたのだと感心してしまうのだった。

「もう……ゆりってば、あんなにはしゃいじゃって……」

「ふふ、よっぽどうれしかったんだね」

 望とくるみがやんわりとたしなめる。

 それをさえぎったのは他でもない、花音だった。

「私がやりたいって言い出したんだから大丈夫。それに、こういう経験がいつか役に立つかもしれないしね」

 たとえばライブでのパフォーマンスに、剣道の所作を取り入れるのもいいかもしれない。

 何事にもどんよくいどむ花音らしい発想だった。

「さあ、ゆり! どんと来なさい!」

「そんなに剣道を……私は嬉しいぞ!」

 熱心に剣道に取り組んでくれる花音に、気づけばゆりのひとみがうっすらうるんでいた。

「まずはなにをやるの?」

「うむ。り千本だ」

「分かったわ、千本ね……。千本?」

 きっと言いちがえたのだろう──おそる恐る視線を向けた花音に、ゆりは真顔でり返す。

「千本だ。ひょっとして少なかったか?」

「少ないって……」

「私は日課で毎日、二千本は振っているが……」

 さすがに自分と同じ量をこなすのは無理だろうから──そう言いかけたゆりが、ハッとして顔を上げた。

「そうか……。すまない、ひどいことを言ってしまった……」

「い、いや……分かってくれれば……」

 ホッと胸をなで下ろす花音に、ゆりが告げた。

「花音は本気で剣道をやりたいんだったな。だったらえんりよなんてしたら失礼だ!」

…………え?」

「それじゃあ花音! 素振り、二千本だ!」

「ちょ、ちょっとちょっと!」

「さあ、早く始めないとが暮れてしまうぞ!」

 ゆりがキラキラした瞳で花音を見つめる。

 剣道にれてほしい、剣道を好きになってほしい──そんな期待と興奮と感動があふれた瞳だった。

 そんな顔を向けられて、花音がノーと言えるはずがなかった。

「や……やってやろうじゃないっ!」

「か、花音ちゃん!?

「アイドル、煌上花音の本気を見せてあげるわっ!」

 詩穂の制止を振り切り、花音が竹刀を振り始める。

「うむ、その意気だ!」

 負けじととなりでゆりも素振りを始めた。

 二人が並んでひたすら竹刀を持ち上げ、振り下ろすというシュールな特訓が始まった。

「えっと……ごめんね、詩穂。ゆりってばけんどうのことになるとまわりが見えなくて……」

「こうなると、もう私たちもどうしようもないの……ごめんなさい」

 自分たちが二人をここに呼んだばっかりに──と望とくるみが申し訳なさそうに目をせる。

「ううん、花音ちゃんもがんなところがあるから……」

 変なところで波長が合ってしまったのだろうと、詩穂もあきらめるしかなかった。

「ねえ詩穂、二人が終わるまでお話ししよ?」

「二人のこと、いっぱい聞かせてほしい」

 気を取り直した望とくるみのおさそいに、詩穂もすぐにうなずいた。

「ええ、もちろん」

 三人は剣道場のすみっこに移動すると、奏乃宮の日常や神樹ヶ峰の日常、星守についてやアイドルについて語り合った。

「花音! 腕の振りが甘くなってるぞ!」

「わ、わかってるわよっ!」

 ゆりと花音の激しいいきづかいを遠くに聞きながら。


      


 花音と詩穂が神樹ヶ峰女学園にやってきてから、みようにそわそわしている少女がいた。

「あれが……あいどる……」

 ふじみやさくらである。

 基本的にテレビなどあまり見ず、流行にもうとい彼女にとって、アイドルというものは全くの未知の存在であった。

 そんな桜であったため、だんよほどのことがない限り、何事にも動じず自分のペースでのんびりしているのだが、『アイドル』が同じクラスにいることで、いつになく落ち着きがなかった。

 そのため、早々に花音や詩穂と打ち解けた他の中学生組と違って、遠巻きに二人を眺めていることが多かった。

「ねーねー桜ちゃん、なにしてるの?」

「ひゃっ!?

 急に声をかけられた桜が可愛かわいらしい悲鳴を上げた。

「ひなたか……おどろかすでない」

 きょとんとした顔でひなたが立っていた。

「花音せんぱいと詩穂先輩をじっと見てたけど……お話ししないの?」

「む? むぅ……」

 どうなのだろう──桜自身もよく分からなかった。

 ただなんとなく、ばくぜんとした関心はあるものの、なにを話せばいいのかいまいち分からなかった。

「わしには……あいどるというものがよく分からないのじゃ。歌っておどるということは聞いたことがあるのじゃが……」

「変な桜ちゃん……」

 ひとなつっこいひなたには、なかなか理解に苦しむ心境だった。

 めずらしくモジモジする桜を前に、どうしたものかとひなたが考え込む。

…………そうだ!」

「な、なんじゃ急に……」

「いいこと思いついちゃった!」

 何事かと驚く桜に、ひなたがニコッと微笑ほほえんだ。


      


 その日の放課後、桜とひなた、さらにサドネとかえでを加えた四人が音楽室にいた。

「なぜ二人もおるのじゃ?」

「サドネが絶対に音楽室に行くって聞かないので、ついてきたのですわ」

「相変わらずの保護者っぷりじゃのう」

 サドネのいるところ楓あり、である。

「のう、ひなた……これからなにがあるのじゃ?」

「もうちょっと待って!」

「待って!」

 ひなたはなにも説明せず、ただニコニコしながらイスに座って足をぶらぶらさせる。

 すでになにか聞いているであろうサドネも、ひなたと同じで彼女の真似まねをして遊んでいた。

 小さなこうしんと大きな不安を抱えながら、桜が手持ちぶさたに窓の外をながめる──そんな時だった。

「来たわよー」

「すみません、おそくなりました」

 ガラリとドアを開いて現れたのは花音と詩穂の二人だった。

「ど、どうして二人がここに……」

「ひなたが呼んだんだよ!」

「呼んだんだよ!」

 とつぜんのことに目を丸くする桜に、ひなたとサドネが得意気に答えた。

「桜ちゃん、アイドルがよく分からなくて、花音先輩や詩穂先輩と上手にお話しできないんでしょ? だったら二人が普段からどんなことしてるのか、教えてもらうのが早いかなって! ちょうどレッスンするって言ってたしね!」

「ウンウン!」

「なんと……っ!

「すごい行動力ですわ……」

 いつの間にそんなお願いをしていたのか──ひなたの行動力に桜と楓は驚きを通りして感心してしまった。

「ほら桜ちゃん、なにごとも体験だよ!」

「う、うむ……」

 せっかくひなたが二人を呼んでくれたのだ──桜がおずおずと花音と詩穂に近づく。

「その……よ、よろしくたのむ……」

 勇気を出してぺこりと頭を下げた桜を、花音と詩穂が微笑ましく見つめる。

 ういういしい桜のリアクションがおかしくて、どこか愛らしかった。

「それじゃ、まずは歌のレッスンといきましょうか」

 花音が詩穂に目配せする。

「藤宮さん、私と同じようにやってみてくださいね」

「う、うむ……」

 きんちようおもちの桜がぐっと気合いを入れる。

 まず詩穂が高い声を長くばした。

 んだ声が音楽室にひびわたる。

 その声量と美しさにあつとうされた四人がわぁっと瞳をかがやかせ、そんなみんなを花音がやさしく見守っていた。

…………はい、藤宮さん」

「あ、ああ、んん……あ、あ~」

 緊張で声が上ずってしまう。

「ふふっ、そんなにりきまなくてだいじよう。もっとリラックスしてもう一回いきましょ」

「む、難しいのう……」

 人前で歌うことに慣れていない桜は、詩穂の真似をするので精いっぱいだった。

「あいどるというのは大勢の人の前で歌うのじゃろう? は、ずかしくないのか……?」

「私も最初は緊張したわ。でも、今はたくさんの人が私の歌をいてくれることがうれしくて……ね、花音ちゃん」

「ええ」

「すごいのう……」

 人前で大声を出すだけでも緊張するのに──何千人の前で歌うアイドルがどれだけ大変なのか、桜がしみじみと感心する。

 そして同時に、そんなアイドル界でトップを走る花音と詩穂に、いつの間にか尊敬の念がわいてきていた。

「今度はちょっと歌ってみましょうか」

 レッスン用の歌詞カードを差し出す詩穂に、桜も自然と頷いていた。

「うむ! がんるぞ!」

 詩穂の歌声を桜が追いかける。

 桜が取り残されないように、詩穂も普段よりテンポを落としてゆっくりと。

 気づいた時には、身体をらしながら二人で歌声を重ねていた。

「うん……いい声してるわね」

「桜ちゃん、楽しそう!」

「サドネも、歌いたい!」

「なんだか心が落ち着きますわ」

 そんな二人の合唱を花音とひなた、サドネと楓が温かく見守るのだった。


      


 星守たちとの交流を深めて数日が経った。