四章 昨日の敵は今日の友、昨日の友は──
「みなさん、
少女たちが星守としての新たな力を芽生えさせてから数日後、全員が教室に集められていた。
「さらに新型イロウスの正体も
牡丹の一言一句に少女たちが聞き入る。
「私たちとしては、この機会に力を結集し、イロウスを生み出す正体不明の勢力に団結して立ち向かうのが得策と考えました。そこで……」
なにが明かされるのだろう──少女たちがぐっと身を乗り出す。
「みなさんには、彼女たちと親交を深めていただきます。どうぞ、お入りなさい……」
牡丹が教室の外へと声をかける。
ガラリとドアが開いた。
少女たちの十六
「
「
まさかの二人の登場に
そんな少女たちの中で、一番早くリアクションしたのは、やはりうららだった。
「なななななななななんで二人がっ!?」
イスを
穴が空くほど指を突きつけられた花音がプイッとそっぽを向く。
「別に私だって好きできたわけじゃ……」
「花音ちゃん、そういうことは言わないの。ね?」
「詩穂まで……」
やんわりとたしなめられた花音は、居心地が悪そうに目を
「改めて説明するまでもありませんね。
『は、はい……』
少女たちが
「
「みきってば、そんなに
「うららちゃんみたいね」
「高校二年だって……アタシたちと同級生だね」
「うん……お友達になれるかな……」
「二人とも……背が高い……。また私だけ……」
突然の二人の編入に教室がざわつく。
そんな中、うららだけが複雑な表情のまま花音と詩穂を見つめていた。

花音と詩穂が新たに加わった星守クラスには、どことなくぎこちない
これまでなにかと
そんな時だった。
「ねえねえ、花音せんぱい、詩穂せんぱい」
二人のところに
なぜ彼女だったか──それはこの中でミシェルが一番、
アイドルに
変に緊張することも特別
「せ、
「だってミミよりお姉さんだよ?」
「ごめんなさいね。花音ちゃん、先輩って呼ばれるのに慣れてないから」
詩穂がそっとフォローする。
トップアイドルということもあって、奏乃宮女学院で後輩が花音を呼ぶ時はいつだって花音様──である。
先輩という
「花音せんぱいと詩穂せんぱいはアイドルなんだよね?」
「ええ、そうよ」
「えっと……うららせんぱいもアイドルになりたいーって言ってるんだけど、どうやったらうららせんぱいもテレビに出られるの?」
「…………」
詩穂が困ったように笑顔で固まる。
単純にうららを
しかし当のうららには
よりにもよって花音と詩穂の二人にそれを聞くかと、顔が真っ赤になる。
「ちょっとミミっち! なんでそこでうららが出てくるのよっ!?」
慌てて背後からミシェルを
「だって、うららせんぱい……テレビに出たいっていつも言って……」
「わーっ! わーっ!! わーったらわーっ!!」
これ以上ミシェルに余計なことを言わせないよう、うららが必死に口を
「テレビかぁ……たしかに、ちょっと興味あるかも」
ミシェルの言葉に
「未知の世界だからね、テレビの裏側なんて」
「確かにそうね……少しお話を聞いてみたいかも……」
昴と遥香も、アイドルとテレビというキーワードに耳をくすぐられた。
そしてその他の少女たちも。
「どうやってテレビ番組は作られているのかのう?」
「ねーねー、テレビで歌ったり
「有名人と知り合いになれちゃったり~?」
一度火がついた
「テレビのオファーは、どのように来るんですの?」
「テレビの
「ちょ、ちょっと!」
「み、みなさん落ち着いてください……」
いつの間にか花音と詩穂の周りに少女たちが集まっていた。
ついさっきまでの
「むみぃ……ミミが聞きたかったのに……」
すっかり勢いに
そしてもう一人、
「ふんっ、なによ! たかが
バレバレの意地を張って強がろうとするうららであった。
花音と詩穂がクラスに
ミシェルがきっかけとなって、花音と詩穂に対する見えない
花音と詩穂の方も星守への

とある放課後。
花音と詩穂は
高校二年生組──
私は別に──と
「これが
「まあ……なかなかやるじゃない」
純和風の立派な剣道場に、乗り気でなかった花音も少しは心を
「で、私に見せたいものって、結局なんなの?」
「ふふっ、それは見てからのお楽しみ♪」
二人が剣道場の中を
「お、きたきた!」
「ふふっ、いらっしゃい」
望とくるみはというと、ゆりとは対照的に面も胴着も着けず、制服姿のまま
「ではっ、始めるぞっ!」
瞑想を終えたゆりが元気よく声を上げる。
ゆりの方に視線を移した花音は、
彼女が竹刀を構える先には相手の姿がなかったのだ。
代わりに、ゆりの前方数メートル──そこにあったのは、
「まさか……」
花音が思わず息を吞んだ、その時だった。
「…………せいっ!!」
ゆりが
『おぉーっ!』
見守っていた望とくるみが
「ホントに消えた! さっすが、ゆり!」
「次のゆりの誕生日パーティーが楽しみ」
「いや、バースデーケーキでこれはちょっと無理じゃないか……」
面を外しながらゆりがつっこむ。
「す、すごいわね……」
盛り上がる三人を
「ほら。来てよかったでしょ? 三人が
無意識のうちに二人とも小さく拍手していた。
「ゆりは剣道部なのよね……剣道をやってると、あんなすごい技も身につくものなの?」
どちらかというと剣道には地味なイメージしかない花音が
「うーん、普通はできないんじゃない?」
「うん、ゆりは特別」
本人の代わりに望とくるみが答えた。
「ゆりは本当に剣道一筋だからね~。
「達人だね」
まるで我がことのように二人がゆりを
「そ、それほどでも……」
そんな賞賛にまんざらでもないゆりだった。
たははっと照れ笑いしていると、そんな彼女を見つめていた花音がふと
「…………私も剣道、やってみたいかも」
その言葉に一同が、花音の方を
「花音ちゃん、剣道に興味があったの?」
「あったというか……今わいたというか……」
花音の中で、剣道は地味というイメージから
もちろん今すぐに、ゆりのような技は身につかないだろう。
それでも、これまで自分とは
「教えてもらってもいい?」
「もちろんだ!」
ゆりに断る理由などなかった。
自分の好きなものに興味を持ってもらえて、
「さあ、こっちだ!」
ゆりは
「さあ、まずは私と同じようにやってみるんだ!」
「ちょ、ちょっと待って……」
ぐいぐい来るゆりに花音が
そもそも、剣道についての知識自体が
いきなり、ゆりと同じことができるわけがない。
少しずつ教えてもらうつもりだった。
「まずは基本的なことというか、
「はっ……それもそうだな。すまない、先走ってしまった……」
分かってくれてよかった──花音が胸をなで下ろす。
だが、ゆりはさらに
「やはり形から入らないとな!」
ぽんっと手を打ったゆりが倉庫へと
ややあって、彼女は防具一式を
「さあ、着けてやるぞ!」
「ちょ……」
花音の制止も聞かず、ゆりはてきぱきと防具を装着していく。
その流れるような作業に、花音は
みるみるうちに花音の身体が防具に包まれていく。
最後にすぽっと面をかぶれば──もはやそこにトップアイドルの姿はなかった。
「お、重い……」
装備の重量に負けそうになってふらつく花音だった。
「花音ちゃん、
「こんな重いのを身に着けてたのね……
そして同時に、さっきゆりはこの重さの中で鋭く竹刀を振り
「もう……ゆりってば、あんなにはしゃいじゃって……」
「ふふ、よっぽどうれしかったんだね」
望とくるみがやんわりとたしなめる。
それを
「私がやりたいって言い出したんだから大丈夫。それに、こういう経験がいつか役に立つかもしれないしね」
たとえばライブでのパフォーマンスに、剣道の所作を取り入れるのもいいかもしれない。
何事にも
「さあ、ゆり! どんと来なさい!」
「そんなに剣道を……私は嬉しいぞ!」
熱心に剣道に取り組んでくれる花音に、気づけばゆりの
「まずはなにをやるの?」
「うむ。
「分かったわ、千本ね……。千本?」
きっと言い
「千本だ。ひょっとして少なかったか?」
「少ないって……」
「私は日課で毎日、二千本は振っているが……」
さすがに自分と同じ量をこなすのは無理だろうから──そう言いかけたゆりが、ハッとして顔を上げた。
「そうか……。すまない、
「い、いや……分かってくれれば……」
ホッと胸をなで下ろす花音に、ゆりが告げた。
「花音は本気で剣道をやりたいんだったな。だったら
「…………え?」
「それじゃあ花音! 素振り、二千本だ!」
「ちょ、ちょっとちょっと!」
「さあ、早く始めないと
ゆりがキラキラした瞳で花音を見つめる。
剣道に
そんな顔を向けられて、花音がノーと言えるはずがなかった。
「や……やってやろうじゃないっ!」
「か、花音ちゃん!?」
「アイドル、煌上花音の本気を見せてあげるわっ!」
詩穂の制止を振り切り、花音が竹刀を振り始める。
「うむ、その意気だ!」
負けじと
二人が並んでひたすら竹刀を持ち上げ、振り下ろすというシュールな特訓が始まった。
「えっと……ごめんね、詩穂。ゆりってば
「こうなると、もう私たちもどうしようもないの……ごめんなさい」
自分たちが二人をここに呼んだばっかりに──と望とくるみが申し訳なさそうに目を
「ううん、花音ちゃんも
変なところで波長が合ってしまったのだろうと、詩穂も
「ねえ詩穂、二人が終わるまでお話ししよ?」
「二人のこと、いっぱい聞かせてほしい」
気を取り直した望とくるみのお
「ええ、もちろん」
三人は剣道場の
「花音! 腕の振りが甘くなってるぞ!」
「わ、わかってるわよっ!」
ゆりと花音の激しい

花音と詩穂が神樹ヶ峰女学園にやってきてから、
「あれが……あいどる……」
基本的にテレビなどあまり見ず、流行にも
そんな桜であったため、
そのため、早々に花音や詩穂と打ち解けた他の中学生組と違って、遠巻きに二人を眺めていることが多かった。
「ねーねー桜ちゃん、なにしてるの?」
「ひゃっ!?」
急に声をかけられた桜が
「ひなたか……
きょとんとした顔でひなたが立っていた。
「花音
「む? むぅ……」
どうなのだろう──桜自身もよく分からなかった。
ただなんとなく、
「わしには……あいどるというものがよく分からないのじゃ。歌って
「変な桜ちゃん……」
「…………そうだ!」
「な、なんじゃ急に……」
「いいこと思いついちゃった!」
何事かと驚く桜に、ひなたがニコッと

その日の放課後、桜とひなた、さらにサドネと
「なぜ二人もおるのじゃ?」
「サドネが絶対に音楽室に行くって聞かないので、ついてきたのですわ」
「相変わらずの保護者っぷりじゃのう」
サドネのいるところ楓あり、である。
「のう、ひなた……これからなにがあるのじゃ?」
「もうちょっと待って!」
「待って!」
ひなたはなにも説明せず、ただニコニコしながらイスに座って足をぶらぶらさせる。
すでになにか聞いているであろうサドネも、ひなたと同じで彼女の
小さな
「来たわよー」
「すみません、
ガラリとドアを開いて現れたのは花音と詩穂の二人だった。
「ど、どうして二人がここに……」
「ひなたが呼んだんだよ!」
「呼んだんだよ!」
「桜ちゃん、アイドルがよく分からなくて、花音先輩や詩穂先輩と上手にお話しできないんでしょ? だったら二人が普段からどんなことしてるのか、教えてもらうのが早いかなって! ちょうどレッスンするって言ってたしね!」
「ウンウン!」
「なんと……っ!」
「すごい行動力ですわ……」
いつの間にそんなお願いをしていたのか──ひなたの行動力に桜と楓は驚きを通り
「ほら桜ちゃん、なにごとも体験だよ!」
「う、うむ……」
せっかくひなたが二人を呼んでくれたのだ──桜がおずおずと花音と詩穂に近づく。
「その……よ、よろしく
勇気を出してぺこりと頭を下げた桜を、花音と詩穂が微笑ましく見つめる。
「それじゃ、まずは歌のレッスンといきましょうか」
花音が詩穂に目配せする。
「藤宮さん、私と同じようにやってみてくださいね」
「う、うむ……」
まず詩穂が高い声を長く
その声量と美しさに
「…………はい、藤宮さん」
「あ、ああ、んん……あ、あ~」
緊張で声が上ずってしまう。
「ふふっ、そんなに
「む、難しいのう……」
人前で歌うことに慣れていない桜は、詩穂の真似をするので精いっぱいだった。
「あいどるというのは大勢の人の前で歌うのじゃろう? は、
「私も最初は緊張したわ。でも、今はたくさんの人が私の歌を
「ええ」
「すごいのう……」
人前で大声を出すだけでも緊張するのに──何千人の前で歌うアイドルがどれだけ大変なのか、桜がしみじみと感心する。
そして同時に、そんなアイドル界でトップを走る花音と詩穂に、いつの間にか尊敬の念がわいてきていた。
「今度はちょっと歌ってみましょうか」
レッスン用の歌詞カードを差し出す詩穂に、桜も自然と頷いていた。
「うむ!
詩穂の歌声を桜が追いかける。
桜が取り残されないように、詩穂も普段よりテンポを落としてゆっくりと。
気づいた時には、身体を
「うん……いい声してるわね」
「桜ちゃん、楽しそう!」
「サドネも、歌いたい!」
「なんだか心が落ち着きますわ」
そんな二人の合唱を花音とひなた、サドネと楓が温かく見守るのだった。

星守たちとの交流を深めて数日が経った。