チンピラのようなせいひびき渡った。

「しまった……つい故郷の言葉が出ちゃったでしゅ」

 取りつくろうように再びこびを売ろうとする珍獣だったが、もはやネコの皮をかぶってもおくれである。

「やっと正体を現したな」

「サドネ……なんか怖い……」

「大丈夫ですわ、ワタクシがサドネを守りますわ!」

「遥香……アタシ、眼科に行くね」

「分かってくれてうれしいわ、昴……」

 ひようへんした珍獣をだれもが異質と認識した、その時だった。


「見つけた、あそこよ!」

「待って、花音ちゃん!」


 とつじよ、二つの声が割り込んできた。

 星守たちがり返ると、そこにいたのはf*fフオルテシモだった。

「葵先生の指示で来てみたけれど……」

「ちょっと、どういうじようきようなの?」

 息を切らした二人がたずねると、うららが急に得意気な顔になって、

「ふふん! 今回はこっちが先に見つけたみたいね」

「な、なによその言い方!」

 あからさまなちようはつに花音がつい乗ってしまう。

「花音ちゃん、ケンカはダメよ」

「うららちゃんも落ち着いて……」

 詩穂と心美がそれぞれ火花を散らす二人をなだめる。

「私たちは、女の子たちが連れ去られる直前に見たっていう、なぞの生き物を追ってきたんです」

 みきの説明に、花音と詩穂が例の珍獣の方を見やる。

「あれのことね……」

「なるほど……」

 二人がまじまじと見つめる。

 さらに増えた視線の数に珍獣が後ずさる。

「さあ、白状しちゃいなさい! あんたはなにをやったのっ!?

 うららが詰め寄る。

 すると珍獣はしん退たいきわまったように首を振り回しながら──言った。


「ボ、ボクは無実でしゅ! なにもやってないでしゅ! 女の子たちをイロウスに変えたりなんてするわけないでしゅ! …………あ」


 にわかには信じられない言葉が出てきた。

「女の子を……イロウスに変える……ですって?」

「聞き捨てならないな」

 楓と明日葉が視線であつする。

「そそそそんなこと言ってないでしゅ!」

「言ったわよね、詩穂……」

「ええ、確かに言ったわ……」

 証人が十数人もいる以上、珍獣に言いのがれる余地はなかった。

「マズイでしゅマズイでしゅ……これはマズイのでしゅ!」

 珍獣がガクガクとふるえる。

「もっとくわしく話を聞かせてもらうわよ!」

「よし、いくよ! 昴ちゃん、遥香ちゃん!」

「絶対に逃がさない!」

 進退窮まった珍獣をらえようと、みきたちが手をばそうとしたその時──


「まったく、なにをやっているのよ、アルル」


 冷たい声が頭上から降り注いだ。

 少女たちが見上げると──そこには中空にかぶ一人の女性がいた。

 その顔に、誰もが見覚えがあった。

『エヴィーナ!?

 そう──サドネをあやつり、力をうばい、イロウスを束ねていた悪の首領だ。

 地球だつかん以降は姿を現さなかったのに、ここに来て登場するなんて──誰しもにきんちようが走る。

「エヴィーナ! ちょうどいいところに来たでしゅ! 助けてほしいのでしゅ!」

 珍獣──アルルが救世主の出現に声をはずませる。

「別にあんたの都合で来たわけじゃないわよ。私はあのお方の計画がくるうのがイヤなだけ」

 感情のとぼしいまなしで言い捨てるエヴィーナに、みきたちがみつく。

「答えてください! 女の子をイロウスに変えるって本当なのっ!?

 なにはともあれ確かめなければならないのはそこだ。

 人間がイロウスになる──そんなことがあり得るのか。

 しかし考えてみればこれまでも、イロウスをとうばつしてしばらくすると行方ゆくえ不明だった少女たちが発見されてきた。

 あの地下空間でも、さいおうで気絶した少女たちを見つけて以降は、イロウスのしゆうげきは受けていない。

 つまり──アルルが口をすべらした証言は、これまでの現象と決してじゆんしないのであった。

「答えてっ!」

 追及されたエヴィーナは、めんどうくさそうにかみをかき上げると、

「そうよ……それがなに?」

 まるで平然と答えたのだった。

「そんな……人間をイロウスにするなんて……いったいどういうつもり!?

「どうもこうも、私は利用できるものを利用するだけよ。この地上を再び私たちの手に取りもどすために……」

 エヴィーナがその手をぎゅっとにぎる。

「意外と簡単だったわよ? 人間の心のやみに、弱さにつけ込み、さぶり……そうして芽生えたきようしんさいしんどく感、れつとう感に、ちょっとかくめ込んであげれば、あら不思議……ぎようのイロウスの完成というわけ」

「なんて……なんてことを……」

 少女たちは誰もが言葉を失っていた。

 人間をイロウス化できるということ、それがかつての敵であるエヴィーナのわざであるということ。

 そしてなにより、エヴィーナにじんも罪の意識がないことに。

「……許さないっ!」

「あーっはははっ! 許さなかったらどうするっていうわけ?」

 少女たちのげつこうもエヴィーナは意にかいさない。

 むしろ逆──ニタリと笑った。

つうの人間であっても、あなたたちでは歯が立たないほど強力なイロウスになる……ふふっ、うふふふふふ……あーっはっはっは!」

 エヴィーナはかいで仕方がないといった様子で高らかな笑い声を上げる。

「なにがそんなにおかしいの!? あなたはもう私たちに囲まれてる! 今度は絶対にがしはしないんだから!」

 みきが勇ましく声を上げるのとは対照的に、エヴィーナは不気味なほど落ち着いた、冷たい声で続ける。

「……ふふっ、今のうちにせいぜいえておくといいわ。でもね……たとえば、あなたたち星守が心の闇にみ込まれちゃったら……おもしろいものが見れるとは思わない?」

「なにを言って……」

「……っ!?

 しゆんかん、周囲の大気が一変した。

 まるでねばついたように身体からだにまとわりつき、自由を奪う。

 ついさっきまで、エヴィーナ相手に勇ましく立ち振るっていたのがうそみたいに、声を出そうにも肺が空気を送り出してくれない。

(なに……これ……)

 とつぜんのことに混乱する星守たちの頭上で空間が割れた。

 青空だった場所にれつが入り、ちたタイルのようにはがれ落ちる。

 その向こうに見えたのは──血の色の世界。

 赤と黒の入り交じった異様な光景が広がっていた。

「さあ! 見せてもらおうかしら! あなたたちの闇をっ!」

 エヴィーナが指を鳴らす。

 たんに少女たちの身体が浮き上がった。

 吸い込まれるように巻き上げられる。

 悲鳴一つあげることもできず。

 誰の手を握ることもできず。

 少女たちは散り散りになりながら、血の色の世界へとほうり込まれていった。