二章 アイドルとアイドル



 f*fフオルテシモのステージはいつだって観衆をりようする。

 ステージ上でり広げられるれいなダンス、美しい歌声が人々にほうをかけ、夢の世界へと引き込んでしまう。

 その人気はデビュー以来、うなぎ登りでとどまるところを知らない。

 流星のごとく現れたニューヒロイン、それがf*fフオルテシモだった。


「全力で行くわよーっ!」

 国際競技場で行われたライブは、万をゆうにえる人々を集めての規模だった。

 はるか遠くまでくされた観衆をわたしながら、のんが元気よく声を張る。

「みんな、楽しんでるー?」

 の呼びかけに観衆もだいかんせいこたえる。

 ともすればあまりの数にみ込まれてしまいそうなプレッシャーだが、二人は逆にそれを励みにするように、ステージ上を右へ左へとけ回った。

「ほらほらどうしたの? もっと声出るでしょ?」

 花音が観衆に発破をかける。

 それに詩穂が目を細めた。

「ふふっ、花音ちゃん、楽しそう」

「楽しいに決まってるわ!」

 バッと花音がりよううでを広げる。

「ここにいるお客さんたちは、みーんな私たちf*fフオルテシモのライブを見に来てくれてるのよ!」

「うん、お客さんがいっぱい……すごく、キラキラしてるわねっ!」

 感きわまったようにうるんだ瞳で詩穂も盛り上げる。

「こんな時間がずっと続けばいいのに……」

「もう、詩穂ったら……まだ始まったばかりでしょ! これから、もっともっと盛り上げていくんだからねっ!」

 その勢いに詩穂は一つうなずき、観衆へと呼びかける。

「みんなーっ! ちゃんとついてきてねーっ!!

「ついてこないと置いていっちゃうんだからっ!」

 ちようはつするような花音のセリフを合図に、次の曲のメロディが流れ始めた。


      


「おつかれ様でした!」

 ライブを終えた花音と詩穂は、スタッフにあいさつをするとひかえ室へともどった。

 まだった身体からだからあせしたたらせながら、大きな達成感をみしめていた。

「ふぅ……お疲れ様、詩穂!」

 控え室で二人きりになった花音が相方をねぎらう。

 すると、さっきまでがおでスタッフに応えていた詩穂の表情が、わずかにくもっていた。

「どうしたの、詩穂?」

「ごめんね、花音ちゃん……ダンス、一カ所だけミスしちゃった」

「ミス……? あぁ、あれね」

 ライブのちゆうばん、激しいダンスがあるタイミングで、確かに詩穂の動きが半歩だけおくれていたことを思い出す。

 もともと花音はダンス、詩穂は歌の方が得意だ。

「あのくらいならカバーできるから、全然だいじようよ!」

 詩穂の得意不得意なんて知り尽くした花音である。

 そんなこと気にしなくてもいいと、満面の笑みで応える。

「う、うん……ありがとう……」

「それよりもラストの歌、最高だったわ!」

 花音が興奮した声で身体を乗り出してきた。

「なんていうか、詩穂の歌には心があふれてるのよね……私も負けてられないわ!」

 詩穂の歌声にれ込んでいる花音にとって、それはユニットの相方というだけでなく、一人のファンとしての感想だった。

「うん……ありがとう……」

 最高級の花音のめ言葉にも詩穂のリアクションはうすい。

 まだダンスのミスを気にしているのだと察した花音が、仕方ないわねとつぶやく。

「……詩穂?」

「えっ……」

 コツン──顔を上げた詩穂の額に、自分の額をくっつけた。

「あの日の約束、覚えてる? 私が詩穂をアイドルにさそった、あの日の約束のこと……」

 詩穂はハッとしたように目を丸くした。

「……もちろん覚えてる……忘れるわけないもの」

 花音の手をぎゅっとにぎりしめながら答える。

「おたがいの強みを合わせて高みを目指す……」

「そう……このヘアピンにちかった……」

 花音の手が詩穂のかみをそっとなで、そこにあるヘアピンにやさしくれる。

f*fフオルテシモはまだまだ上を目指せる……世界のてっぺんるまで、あしみしてるひまなんてないんだからね?」

「うん……うんっ……」

 詩穂もまた、花音がつけていたヘアピンをそっとなでた。

「二人で駆け上がるわよ……どこまでもっ!」

「うんっ……花音ちゃん!」

 ピピピピピ──

「なによ、もう……こんな時に……」

 電話の呼び出し音に花音が口をとがらせる。

 そのムスッとした顔がみように子供っぽくて、詩穂は思わずクスリと笑った。

『やっほ~、元気~?』

 花音の耳に陽気な声が飛び込んでくる。

…………おかけになった電話番号は現在、おつなぎできませ……」

『ちょっとちょっと、急に着信きよにしないでよ~!』

「もう……どうしたの、あおいちゃん?」

 二人のマネージャー的な存在であり、めんどうをみてくれたり面倒をかけたりしてくる困った人──ななしま葵だった。

『ちょっと用があってね……詩穂もそこにいるんでしょ?」

「ええ、葵先生」

 電話口に口を寄せて詩穂が答える。

「言っておくけど、もうおは買いに行かないから」

『そんなんじゃないって~。とりあえず、ライブお疲れ様ってことで。二人の声が聞きたかったの』

「はぁ……。分かったわよ。それでどうしたの?」

 やれやれと花音は先をうながした。

『イロウスを退治しにいって休んだ授業の補習についての相談♪』

 補習という単語を耳にして、しばし花音の表情が固まった。

『やっぱり学生だから、そういうところはちゃんとしないとね~』

…………おかけになった電話番号はたった今、使用不可能に……」

『だから着信拒否にしないでってば~!』

 そんな感じで葵とじゃれ合う花音を、詩穂は微笑ほほえましく見守るのだった。


      


 かなでみや女学院。

 全国でも有数のおじようさま学校で、通うのも名家のれいじようがほとんどのこの学校。

 そんな学校の登校時間ともなれば、飛びうのは『ごきげんよう』というお上品な挨拶ばかりだ。

 そんな中、校門の一角に黄色い声が飛び交う人だかりがあった。

「花音様!」

「ごきげんよう、詩穂様!」

「あ、あの! 昨日のライブ行きました! とっても楽しかったですっ!」

「あの……これっ、クッキー作ってみたんです!」

「あ、けなんてずるい!」

「わ、私も明日、なにか作ってきます!」

 花音と詩穂の周囲に女生徒たちがひしめき合っていた。

 人気絶頂のアイドル二人は、学校でも注目の的だった。

「ふふっ、いつもおうえんありがとう!」

「これからもがんりますね」

 しっかりとファンサービスも忘れない二人は、一人ひとりにていねいに相手をし、そんな姿がまた女生徒たちを夢中にさせていった。

「はーい、みんな、そこまでー」

 どこか間延びした声が近づいてきた。

「奏乃宮の生徒は、しとやかに気高く、がモットーでしょ~? あんまりミーハーになっちゃダーメ」

 やってきたのは、ちょうど出勤してきた女性教師、七嶋葵だった。

 ショートボブでどこか幼い容姿である。

 注意された女生徒たちは、後ろがみを引かれるような名残なごりしさをいだきつつ、しかし先生の言葉に校舎へとトボトボ進む。

 ようやく花音と詩穂にへいおんが戻ってきた。

「ふふっ、花音ちゃんってばモテモテね。ほら、クッキーのふくろにお手紙が……ラブレターかしら」

 詩穂がちょっとイジワルっぽく微笑む。

 すると花音がどことなくげんな顔になって、

「そういう詩穂だってこの前、だれかに呼び出されてなかった?」

「部活のこうはいに呼び出されて進路の相談を受けていただけよ」

 なんでもないと答える詩穂にジト目の花音がめ寄る。

「ホントに?」

「本当に。ひょっとして私が取られちゃうって心配した?」

「べ、別に心配なんか……」

 ほんのり顔を赤くした花音がそっぽを向き、そんな彼女を詩穂は微笑ましく見つめていた。

「やっほ~、お待たせ」

 生徒たちを教室へゆうどうした葵が戻ってきた。

「おはよ、葵ちゃん」

「もう、葵ちゃんじゃなくて葵先生でしょ~?」

「ふふっ、おはようございます、葵先生」

「詩穂は良い子ね~、花音も見習ってほしいわ~」

「ほっといてよ、もう……」

 自分はそういうキャラじゃないの、と花音が口をとがらせる。

「そうそう、お願いがあったんだった……」

 葵がショルダーバッグをごそごそとあさり、取り出したのはペンと色紙だった。

「葵先生、これって……」

「うん、サインちょーだい!」

「ちょーだいって……さっきえらそうに生徒に注意してたのはどこの誰よ……」

 とことん思考回路の読めない葵に、しようするしかない二人だった。

「ん~、まあ、サインがほしいのは本当だけど……気にしてないかなって思って」

『気にする……?』

 意味が分からず首をかしげる二人だったが、葵はそっと詩穂に、

「昨日のダンスのミス……気にしてないかなって」

「あっ……。気づかれて……いたんですね」

 予想外の耳打ちに詩穂もおどろく。

 いつしよおどっていた花音ならともかく、葵にまでかれていたのは予想外だった。

「まーね~。これでも一応、あなたたちの先生だからね~」

 抜けているようで大事なところではするどい──花音も詩穂も、そんな葵のことをなんだかんだでしんらいしているのだった。

「詩穂のことだから変に深刻に考えてないかなーって」

「大丈夫よ。ちゃんと私がフォローしておいたから」

 書き慣れた様子でサインを終えると、花音は色紙を葵へと返した。

「ん、ありがと! それじゃーねー」

 受け取った葵が子供みたいにはしゃぎながら校舎へと走っていった。

「葵ちゃんってば……ホント、脳天気なんだか鋭いんだか」

「ふふっ……そこが葵先生のてきなところね」

「まあ、葵ちゃんのおかげで私たちもいろいろ助かってるしね」

 たよれるお姉ちゃんのような、手のかかる妹のような──なかなか一言では言い表せないのが七嶋葵という存在だった。

「花音ちゃん、私たちも教室に急ぎましょう」

「そうね、トップアイドルがこくしたらかっこ悪いし」

 f*fフオルテシモから奏乃宮女学院の生徒へと気持ちを切りえる。

 こうなると、二人が交わす会話も年相応のものになるわけで──

「詩穂、今日は久しぶりにオフの日だし、放課後にどこか寄っていかない?」

「ステキね。そういえば最近、しぶに新しくケーキ屋さんができたって聞いたわ。パンケーキが美味おいしいらしいの」

「パンケーキ! いいわね! 私もちょうど甘いものが食べたいなって思ってたの。さすが詩穂!」

「もう、花音ちゃんってば……それじゃあ放課後。一緒に行きましょうか」

 そんな他愛たわいないおしゃべりをしながら、二人は教室へと急いだ。


      


『みんな、楽しんでる?』

『ついてこないと置いてっちゃうんだからねっ!』

 ほしもりクラスに大きなモニターが持ち込まれ、f*fフオルテシモのライブ映像が上映されていた。

「あの二人、ホントにアイドルだったんだ……」

 モニターにしがみつくようにしてみきが見入る。

「戦ってた時もすごかったけど……」

「歌もダンスもすごいのね……」

 すばるはるもステージでの二人のかがやきに目をうばわれていた。

 地下空間での花音と詩穂のことは、その場にいなかった遥香たちにも伝えられていた。

「ホント……すごいね」

「すごいなんてもんじゃないのっ!」

 何気ないみきの感想にうららがびんかんに反応する。

f*fフオルテシモはいま、絶好調のちようにんアイドルなんだから! 知らないとかありえないんだからっ!」

「でも、うららちゃんもしばらく思い出せなかったんだよね……」

「それを言っちゃダメー!」

 アイドルを目指す者として、人気絶頂のアイドルの名前を思い出せなかった自分を認めたくないうららだった。

「こほん! いい機会だからみんなにf*fフオルテシモのすごさを教えてあげる!」

 誰にたのまれるまでもなくうららが勝手に語り出す。

f*fフオルテシモこうがみ花音とくにえだ詩穂の二人組ユニットよ」

「煌上花音は、そのカリスマ性と驚異的運動神経によるダンスで人気を集めてるの。母親も若いころは伝説のアイドルだったらしいから、もう遺伝子的にも売れっ子アイドルが約束されていたのも同然ね!」

「へー、そうなんだー」

「うらら、やけにくわしいな」

 アイドルにあまり興味があるわけでもないのぞみやゆりたちも、うららの語りにめられた情熱に、じよじよに引き込まれていった。

「ふふん、これくらいとーぜんよ♪ あと、国枝詩穂はいわゆるやし系ってやつね。大人のりよくみたいな~、うららとはちょっと別のタイプね。でも、その歌唱力は本物なの。百年に一人のうたひめ、なんて言われてるんだから!」

「うむ、あれはなかなかのものじゃったな」

「ええ……ワタクシも感動してしまいましたわ」

 さくらかえで、中学生組も、詩穂のき通るような歌声にすっかりりようされていた。

「煌上花音のダンスと国枝詩穂の歌……おたがいの強みを生かしたコンビネーションは、もはやアイドルの域をえてアーティストね! あらゆるジャンルのわくを超えたユニット、それがf*fフオルテシモよっ!」

『おぉー!』

 語りきったうららに自然とはくしゆが起こった。

「でも……そんなすごいアイドルが、どうしてイロウスと戦ってるんだろう……?」

 みきがふと疑問を口にする。

「確かに……不思議だよね……」

「あの時の様子だと、以前からイロウスの相手をしてきたみたいでした……」

 昴とここが、二人と出会った時のことを思い返す。

 事情はどうであれ、花音と詩穂の二人がアイドルでありながら、同時にイロウスをたおす力を持っているのは事実だった。

「なるほど。だがそうなると彼女たちと一度、話をしてみたいな。星守ではない彼女たちがなにを考え、なにを目的に戦っているのか……」

「でも……どこに行けば会えるのかな?」

「ライブ会場なら確実でしょうけど、会って話すのは難しいでしょうし……」

 明日あすやひなた、くるみが彼女たちと出会う手段に頭をなやませていると、

「……あ」

 みきがなにかに気がついたかのように声を上げた。

「どうしたの、みき?」

「ねえ、昴ちゃん。そういえばあの二人、制服着てたよね……?」

「制服……? 言われてみれば確かにそうだったかも。どんな制服だったっけ……」

「ええっと……」

 心美がおくを頼りに制服の絵をえがく。

「そうそう、そんな感じのやつだったわ……」

 できあがっていく絵を参考に、あんこがネット上でそれらしい制服を探し始める。

…………あった。これね」

 心美のわずかな記憶を頼りに、あんこはしゆんに画像を見つけてしまった。

「そうです! これです! さすが、あんこせんぱい!」

「フフッ、これくらい、簡単よ」

 どれどれと星守たちが画像をのぞき込む中、明日葉がふとつぶやく。

「見たことあるぞ……。確か奏乃宮女学院、かなりの名門校だったはずだ」

「う~ん……前に課外授業で行った場所の近くに校舎があったかも~?」

 れんも思い当たる節があるようだった。

「れんれん先輩、あずっち先輩、それってどこにあるの!?

 しばらくだまっていたうららが急に身を乗り出す。

「ふふっ、うららちゃんってば、ほんっと~にf*fフオルテシモのことが大好きなのね♡」

 蓮華が意味ありげにニンマリと微笑ほほえむ。

「ち、ちがうもんっ! あくしゆしてほしいなーとか、サインがほしいなーとか、そんなこと全然、考えてないもんっ!」

 あせあせしながら視線を泳がせたうららが、心美のうでをつかんで引き寄せる。

「こ、ここみがどーしても会いたいって言ってたから、うららもつき合ってあげよっかなーって!」

「うららちゃん!?

 なみだうつたえる心美の腕を、意地でも放そうとしないうららなのであった。


      


 放課後、星守一同は奏乃宮女学院へとおもむいた。

 あの二人はなぜ、そしてどうやってイロウスと戦っているのだろうという疑問と、テレビの中でかつやくするトップアイドルに会えるというわずかながらのワクワク感をいだいていた一同だったが、とうちやく直後に洗礼を浴びることとなった。

「ごきげんよう、また明日」

「ごきげんよう、お元気で」

「ごきげんよう、今日はこれからご予定は?」

 ごきげんよう、ごきげんよう、ごきげんよう──

「……ねえここみ、ここって『ごきげんよう』って最初に言わなきゃしやべっちゃいけないルールとかあるのかな?」

「わ、私に聞かないでよう……」

 心美は、しんじゆみねとは違うおじようさまオーラにすっかりまれ、うららの腕にずっとしがみついていた。

「それより……視線が痛いのう……」

「みんな、カエデみたいなあいさつしてる……」

 桜とサドネが心地ごこちが悪そうにモジモジしていた。

 制服が違う彼女たちは完全にいた存在だった。

 奏乃宮の生徒たちがものめずらしげにながめている。

「うぅ……f*fフオルテシモのお二人、早く出てきてくれないかな……」

「なかなか出てこないな」

「今日はお休みなのかしら~?」

 みきとゆり、蓮華もf*fフオルテシモの二人を行き交う生徒たちの中からさがそうと必死に目をこらす。

 だがそんな努力もむなしく、下校する女生徒たちは、だんだんと少なくなり、やがてかたむき始めた。

「仕方がない。今日は引き上げてまた後日にするか……」

 明日葉がみんなに呼びかけ、引き上げようとした、その時だった。

 聞き慣れた、でも決して聞きたくはない警告音が聞こえてきた。

「イロウス警報!?

 まばらだった女生徒たちが、教師にうながされて校舎へとなんする。

「みきっ!」

「うんっ……! よし、みんな! とりあえず今はイロウスを倒しにいくよ!」

 f*fフオルテシモの二人に会うことはまだかなっていなかったが、みきたちはイロウスへの対応を優先させることにした。


「あっちの商店街の方だっけ!?

「うんっ!」

 息を切らして走りながら、学園から伝えられた情報をかくにんする。

 すでに周辺住民の避難は終わり、しんとなった商店街をけた。

「もうすぐ……あの角を曲がった向こうが現場だよっ!」

 さあ行くぞ、と少女たちがせいとなる。

 すなぼこりを巻き上げながら急カーブしたその先で──


「詩穂! こいつで最後よ!」


 まさに、花音が最後のイロウスを仕留めるところであった。

 人型イロウスのきよくずれ落ち、苦しげにうめく。

「花音ちゃん、おつかれ様」

「詩穂こそ、ケガはなかった?」


 そこで星守たちが目にしたものは、先ほどまでテレビの中でれいに歌い、おどっていた二人の少女が、イロウス相手にやくどうする姿であった。

「あれが、f*fフオルテシモ……」

「また、アタシたちより先にイロウスを……」

「それより、ねえ……警報が鳴ってからどれくらいったっけ?」

 f*fフオルテシモの戦いぶりに感心する遥香と昴に、みきがそっとたずねる。

「まだ……五分も経ってないと思うよ……」

「それなのにもうあの二人が来ていて、しかもイロウスを倒し終わっているだなんて……」

 昴と遥香もにわかには信じられなかった。

 あまりにも早すぎる。

 確かに二人の力量は、あの地下空間でのせんとうで知ってはいたが──イロウスの出現を察知して、駆けつけて、とうばつするまで五分弱だなんて異常だ。

 まるでイロウスの出現を予測し、戦闘態勢を整えていたような──

「あら、あなたたち……」

 星守の存在に詩穂が気づく。

 おくれて気づいた花音はムッとまゆをしかめた。

いまごろ来たの? もうイロウスはいないわよ」

「なぜ……そんなに早く……?」

「真実が、微笑んでくれたの」

「なっ……! なによそれっ! うららたちには、教える気はないってわけ!?

 意味深な詩穂の言葉に、うららがみつく。

「あんたたちには関係ないでしょ? ま、一言で言えば指導者の差ってところかしら」

「私たちにはゆうしゆうな先生がついているんです。その人がこれまでのデータをもとに、イロウスの出現場所を予測してくれるの」

「だから、警報なんかが出る前に駆けつけられるってわけ」

「そ、そんなことが本当に可能ですの?」

「むみぃ……ミミ、よく分かんない……」

 楓やミシェルが疑問を持つのも当然だった。

 神樹ヶ峰女学園にもそれほどまでの技術力は、まだない。

 ふうらんという優秀な研究者をようしてなお、そのレベルにまでは達していないのだ。

 それなのに花音と詩穂を率いている教師には、それが可能だと言っている。

「二人とも……何者なんですか……?」

 みきがしんけんな表情で問う。

「何者……か。ずいぶんと直球なのね」

「だって、星守でもないのにイロウスをたおせるなんて……」

「あなたたちには関係ない。私たちがどんな力を持っていようとも、別にあなたたちと協力しようだなんて思ってないしね」

「な……なんなのよ、さっきから! うららたちがなにをしたっていうのよっ!」

 花音の相変わらずの厳しい言葉に、うららが反応する。

「まあまあ、花音ちゃん。別に話してあげたっていいじゃない……私たちのことを知ってもらういい機会でもあるし」

「ま、まあ詩穂がそう言うなら、別に話してあげてもいいけど……」

 花音がしぶしぶなつとくすると、詩穂が静かに語り出した。

あたえられたんです……。あの日、力を……」

「与えられた……?」

「そう……あれは、ライブからの帰り道のことだった……」


      


「ふーっ! 今日もお疲れ様。詩穂の歌声、とってもキレイだったわ。お客さんたちも、とっても喜んでた」

 ライブを終えて、花音はまだ興奮が抜けきらないテンションでねぎらった。

「うん……ありがとう、花音ちゃん」

 一方で、それにこたえる詩穂の声には元気がなかった。

「……どうしたの、詩穂?」

「うん……えっとね。今日の開演前、会場の近くでイロウス警報が出たでしょ? それで、開演も一時間遅れになっちゃって……。仕方のないことだけど、イロウスがいなくなってすっかり平和になったら、お客さんたちも、もっと安心して楽しめるのかなって……」

「詩穂……」

 彼女の落ち込んだ声に、花音もつられて思いめてしまった。

「……って、そんなこと言ってもどうしようもないよね! 私たちには、私たちのできることをやるしか……」

 湿しめった空気をなごませようとした詩穂に、しかし花音は真剣な表情で言った。

「……どうしようもなく、ないんじゃない……?」

「えっ……?

「詩穂の言うとおり、私たちは私たちができることをすればいい。私たちは、歌とダンスでみんなを楽しませて、それでみんなを幸せにできる。たとえ、イロウスがいたとしても……そうでしょ?」

「花音ちゃん……」


      


「ライブの達成感にひたりながら、イロウスについて話していた、ちょうどその時でした。私たちが、人型のイロウスに初めておそわれたのは……」

「人型のイロウスに……」

「でも、その時、お二人はまだイロウスと戦う力を持っていなかったんですよね……?」

 詩穂の告白にみきたちも思わず息を吞む。

「ええ、だから……」


「なによこれっ!」

「花音ちゃん、逃げて!」


「私たちはげることしかできなかった。イロウス警報もすぐには鳴らなかったし、人通りの少ないところだったから、助けてくれる人もいなかった……必死に走って逃げたけれど、すぐに追いつかれてしまって……」

「やがて、私たちは気を失った……イロウスに追いつかれたところまでは覚えてるけど、それからのことはよく覚えていないわ……」

 花音が当時のことを思い出すかのように、少しおびえた表情で話を引き取った。

「でも、その時だった。気を失って、なにも見えないくらやみの中で声が聞こえてきたの」


      


『コウガミカノン、力がほしいですか?』

「力……? どういう意味……? あなたはだれ? なんで私の名前を知ってるの? それに詩穂はどこに行ったの……?」

『ふふっ、そんなまつなことは、今はどうでもいいのです……。コウガミカノン、もう一度問います。あなたは、力がほしいですか?』

「力……そうだ、きっと今頃、詩穂は危ない目にってる。私がなんとかしなきゃ……そうしなきゃ、詩穂も私も……」

『では、力がほしい……ということでよろしいですね……?』

「……ええ、もちろん……。あなたが誰かなんて関係ない。たとえ……あくまであったとしても構わない。私は……詩穂を守るためなら、誰かを守るためなら、どんな力だって迷わず受け入れる……。いいわ、私に力をちょうだい!」

『いいでしょう……その言葉、忘れないように……。ほこり高きあなたたちに、力をさずけましょう』


      


「……そうやって気がついた時には、私たちはそれまでの私たちとは決定的になにかが変わっていることに気がついた。私も、詩穂もね……」

「なんとなく、分かったんです。私たちにはイロウスを倒す力が備わったことを。そして、それをどう使えばよいのかも」

「その日、私たちは初めてイロウスを倒した。そしてちかったの。f*fフオルテシモとして歌とダンスでみんなを幸せにするだけじゃなくて、この授かった力を使ってイロウスも倒すって……」

 自分の手をじっと見つめながら花音が語る。

「あんなこわい思いをするのは、もう私たちで最後にする。だから、アイドルも、イロウスとの戦いも、私たちは絶対にあきらめない。たとえ、なにがあったとしても……」

 言い終えた花音は、厳しい目で星守たちをキッとにらんだ。

「そんなことが……」

 花音と詩穂の思わぬ告白に、星守たちはかけるべき言葉が見つからなかった。

 とつじよ、自分たちの目の前に現れ、イロウスをさつそうと倒し、厳しい言葉をり返す二人の少女が、こんなにも強いかくを持って戦っていたということに、じゆんすいに胸を打たれた。

 そして同時に、自分たちの戦いについて、り返らずにはいられなかった。

 だが──

「でもでもっ! だったらひなたたちといつしよに戦おうよ!」

「そうですわ、別に敵対する必要はないのではありませんの?」

「サドネ……みんなと一緒に戦いたい……」

 ひなた、楓、サドネがそう疑問に思うのも当然であった。

 イロウスを倒して平和を取りもどしたい──星守たちもf*fフオルテシモも、目的は同じはずだ。

 なにも争う必要などないはずだ。

「なんで……私たち星守のことを、そんなにきらっているんですか……?」

 みきの疑問に対する花音の答えは、どこまでも厳しく、そしてシンプルなものであった。


「あなたたちを信用することができないから。ただそれだけ」


「私たちを、信用……」

 投げかけられた言葉をそのまま繰り返すだけの心美を、花音はキッとにらみつけた。

「五年前にイロウスに地球をうばわれた時も無力だった。そして今も、イロウスの動きに対して後手後手の対応しかできていない……そんなので、いったい誰を守れるっていうの?」

 あまりの厳しい言いぐさに思わずうららも激しく言い返してしまう。

「守れるわよっ! そもそも地球からイロウスを追いはらって取り戻したのだって星守じゃない!」

「そうね……それは感謝してる。私も詩穂も……いいえ、きっとたくさんの人たちが感謝してる……」

「それならっ!」

「でもね」

 うららの言葉をさえぎるように花音が言い切った。

「あの時、私たちを守ってくれなかったじゃない……それに、新型のイロウスを倒すことができないのも事実でしょ」

 その言葉に、いつしゆん全員が声を失った。

 花音が放った一言は、まぎれもなく真実だったからだ。

「で、でもっ! あれは、うららたちだって、いきなりでおどろいただけでっ!」

「そ、そうです! ちゃんと特訓して準備すれば……っ!

「言い切れる? 絶対に倒せるって……」

 反発した二人に花音はなおも静かに問いかける。

「それは……」

 人型のイロウスを思い出すと、その不気味さとあつ感は今もなお、少女たちの胸をめ上げていた。

 断言したい。次は絶対にだいじようだと胸を張りたい。

 でも──そう言い切れない弱さが、心のどこかに巣くっていた。

「私は言い切れる。絶対に倒すって。すべてを守るために……」

 だまり込んでしまった星守たちに花音が告げる。

 一握の迷いももないぐなひとみだった。

「ね、詩穂?」

「うん、花音ちゃん」

 詩穂もまた花音の決意をじんも疑っていなかった。

 花音と一緒ならどこまでも強くなれる──そう信じているかのような目をしていた。

「分かった? だから、私たちはあなたたちと協力する気はない。星守は、もう過去の存在なの。あのイロウスをたおせる実力がないのなら、足手まといになるだけだからおとなしく手を引いて」

「そんな……そこまで言わなくても……」

「そうよっ! うららたちだって、別にサボってるわけじゃないもんっ!」

 心美とうららの言葉にも、花音はただ黙って二人を見つめるだけだった。

「ま、いいわ……好きにすれば。私たちは私たちのやり方でやるだけ。詩穂、行きましょ」

「ごめんなさいね。花音ちゃんも決していじわるで言ってるわけじゃないの。ただ、誰も危険な目に遭ってほしくないだけ……また、なにかあったら一緒にがんりましょうね」

 背中を向けてさっさと歩き出してしまった花音を、詩穂は星守たちにおをしてから追いかける。

 残された星守たちは、花音に痛いところをかれ、ショックをかくせない様子ではあったが、とはいえ、あれだけ好き放題に言われてしまっては、くやしい気持ちがないわけでもなかった。

「きぃー! なによ、あの言い方っ! 確かに、うららたちもほんのちょ~っと、あの新型のイロウスに手こずっちゃったけど、あんな言い方しなくてもいいじゃんっ!」

「う、うららちゃん、落ち着いて……」

「ま、あの二人が言ってたことはだいたい合ってたけどね」

「ん~でも~、あんなにかわいい子でも、あんなふうに言われちゃうと、さすがのれんげもちょっとショックかな~?」

「なんにせよ、私たちのしゆうれんが足りなかったことは事実だ。今後はより一層、厳しい戦いになることが予想されるだろう。なにか対策を考えなくてはだな」

 明日葉の言葉に、少女たちは力強くうなずく。f*fフオルテシモの二人に実力の差を見せつけられ、厳しい言葉を浴びせられたのは確かにショックだ。

 だが、悔しいのであれば、それをバネにして前を向けばいい。

 彼女たちの目はすでに未来に向けられていた。

「よーっし! みんな、もっともっと頑張るよー!」

 みきの言葉を合図にするかのように、彼女たちは少し明るい表情で学園へと戻っていった。


      


 f*fフオルテシモの二人の言葉にショックは受けたものの、少しずつ前向きになりつつあった星守たちだったが、うららだけがどこかかない顔をしていた。

「……うららちゃん、どうかした?」

…………

 そんなうららの様子にいち早く気がついた心美が声をかけるも、うららは相変わらず険しい顔をして黙ったままであった。

 どんなときでも強気で、時にはごういんとも呼ぶべき性格であるうららのそんな表情を見るのは、心美にとってもめずらしいことであった。

(うららちゃん、やっぱりf*fフオルテシモの二人のことで……)

 うららがなにを考えているのかは、心美にもなんとなく察しはついていた。

 自分たちでは歯の立たなかった新型イロウスを難なく倒すことができ、おまけに、星守は過去の存在とまで切り捨てたなぞの二人が、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いのちようにんアイドルデュオだったのだ。

 うららが悔しくないはずがなかった。

 星守として戦いながらアイドルを目指す、つねごろからそう繰り返していたうららの目に、すでにその両方を手にした二人の存在がどのように映っていたかは、想像にかたくない。

(でも……)

 そんななやめる親友を前にして、心美にはかけるべき言葉が見つからなかった。

 なぜなら、心美には痛いほど分かってしまっていたからだ。

 彼女の親友にとって、こんな時に他人から心配されることが一番イヤだということを。

 そんなことは、うららのプライドが絶対に許さないということを。

「うららちゃん……大丈夫?」

「……なにが?」

 案の定、うららは心美の方を振り返りもせず、ぶすっとした表情で言葉少なにつぶやくだけであった。

「なにがって……それは、その……」

「……だーっ! もう考えるのめた! こんなことで考え込むだなんて、うらららしくないもん! 未来のスーパーアイドルうららが負けるわけないの! ほら、ここみ、いくわよっ!」

 うららは無理矢理ひとりで自己完結してしまったかのように、走り出してしまった。

「えぇ……待ってよ、うららちゃ~ん!」

 そんな少し自分勝手なうららに、心美はいつも通り後ろを追いかけていくしかなかった。

 これ以上、その話題についてれることはできなかった。

(友達なんだから、悩みがあるなら相談してほしいんだけどな……)

 結局その日、心美はうららが心の内にめるおもいに気がついていながら、うらら自身の口からそのことを聞き出すことはできなかった。


      


 後日、たんの号令のもと、少女しつそう事件とイロウスとの関係について本格的に調べることが決まった。

 少女たちは連れ去られている間のおくがなく手がかりがないのでは──そうてきする星守たちに、得意げに答えたのが風蘭であった。

「新たな手がかりが手に入った」

「手がかりって……」

「救出した子たちへの聞き取り調査の結果、みんな記憶を失う前に、ある同じものを見かけていることが判明した」

 注目を集める中、風蘭が一枚のイラストをテーブルに置いた。

 星守全員でそれをのぞき込む。

 そして異口同音に一言、

『……なんですか、これ?』

 そこにえがかれていたのは、ウサギのようなイヌのような、クマのようなネコのような、なんとも形容しがたい物体だった。

ちようしゆした内容を全部まとめて平均化して、機械で画像化したものだ。なんなのかはアタシも分からん!」

『そんな得意気に言われても……』

 イラストと風蘭の顔をこうに見ながら全員で頭をかかえる。

 まさかこれを探せというのだろうか。

 この──よく分からないイラストを手がかりに。

「さあ、さっそく全員でそうさくだっ!」

『やっぱり……』

 勢いだけは元気な風蘭に、少女たちは深いため息をついた。


 星守たちによるかくにん生物の探索は手分けして行われた。

 港地区にはうらら、心美、ひなた、桜がおとずれていた。

「あんなイラストだけで探せって、つるぎ先生もテキトーだよね~」

「そうじゃのう……」

 ゴミ箱を開けたり、しげみの中を覗き込みながら、ひなたと桜がポツリとこぼす。

「桜ちゃんは、正体はなんだと思う? わんちゃん? クマさん?」

「ウサギであり犬でありくまでありねこ……これはもう、ぬえじゃな」

 みようしんみような顔つきで桜が答える。

「ぬえ?」

「日本に古代から伝わるようかいじゃ。いろんな動物の部位をあわせ持つ。どうたいとら尻尾しつぽへび……だったかのう?」

「でも、御剣先生のイラストはトラさんっぽくなかったよ?」

「うーむ……では鵺ではなく、キメラかのぅ」

「きめらー?」

「キメラというのは……」

 ひなたと桜のちん問答がり広げられていた。

 それを横で聞きながら、うららと心美も辺りを探す。

「そんな変な動物ホントにいるの?」

こわい動物だったらイヤだなあ……」

 桜が変な話を始めたせいで、心美の中で謎の動物に対するイメージが悪い方へとかたむいていた。

だいじようよ、ここみ。いざとなったらうららが助けてあげるから!」

「うららちゃん!」

 自信たっぷりのうららに、心美が思わず瞳を潤ませた。

「どんなかいぶつだろうと、このうららが成敗しちゃうんだから!」

「ありがとう、うららちゃん!」

「もう、どーんとこいってやつよ! どんなのが相手でも……」

 言いかけたうららの顔が固まった。

 何事かと心美が首をかしげる。

「う、うらら……ちゃん?」

「……いた」

 うららはそれだけ言うと、勢いよく走り出した。

「えっ……」

 心美がくるりと反転して、うららの視線の先を追いかける。

 そこには──


 ウサギのようなイヌのようなクマのようなネコのような──やはりなんとも形容しがたい生き物が浮かんでいた。


「見つけたーっ!」

 うららの大声にひなたと桜も目標のちんじゆうを見つける。

 同時に、珍獣の方も声におどろいたのか、回れ右してげ始める。

つかまえるぞーっ!」

「うむ、追いかけるぞっ!」

「逃がさないんだからーっ!」

「み、みんなにもれんらくしなきゃ……!

 勢いで追いかける三人におくれて心美が続く。

 珍獣は妙にすばしっこく、なかなかきよめられない。

「このっ……ちょこまかと……」

「もーっ! おとなしくしてってばーっ!」

 うららとひなたが悲鳴を上げる中、心美がたんまつからの知らせを三人に伝えた。

「みんながもう少しで来てくれるって!」

「どっちから来るのじゃ?」

「橋の向こうからみたい!」

 心美が指差した先にはサイドブリッジ──港にかかるきよだいな橋があった。

「……よーし! そっちに追い込むわよっ!」

 四人は三方から追い込むようにして、珍獣をサイドブリッジの方へとゆうどうした。

 橋の両側からはさちにする作戦である。

「やった、あっちに行った!」

 ねらい通り、珍獣がサイドブリッジをわたり始めた。

 そのまま反対岸へとうぼうしようとする。

 だがその時、反対岸からみきたちが姿を見せた。

 行く手をさえぎられた珍獣が、追い返されるようにうららたち四人の方へ逃げ帰ってくる。

「さあ、もう逃げられないわよ珍獣!」

 うららが通せんぼしながらじりじりと距離を詰め、圧力をかける。

 すると──珍獣がしやべった。

「ボクはなにもしらないでしゅ!」

「うわっ、しゃべった!?

「おおお、落ち着け望!」

「お花さんが喋るのと全然ちがう……」

 望やゆり、くるみがギョッとしていた。

「そんなに驚くとかひどいでしゅ! ボクはこんなに愛くるしいんでしゅ!」

「まあ……見ようによっては可愛かわいいかも?」

「す、昴ちゃん!?

「ほら、なんかもふもふしてるし」

「昴、眼科に行きましょう」

「遥香ってば酷いっ!」

 一部に好意をいだく少女がいたものの、あつとう的多数で珍獣に対して厳しくせまる。

「さあ、洗いざらい喋ってもらうわよ! あんたがなにをたくらんで……」

 あんこがぐいっと圧力をかけた──その時だった。


「や、やや……やめんかいボケェ!」