第二部 第三話


 ◆◇◆◇◆  誤算  ◆◇◆◇◆


「陛下! フィルミア陛下!!

 帝宮の廊下を歩いていたフィルミア・ヤ・ティフディリアは足を止めた。

 秘書や政務官、さらに警護する近衛兵たちに囲まれたティフディリア帝国の君主は、何事かと振り返り、目を細める。息を切らし、少々慌てた表情を浮かべていたのは、この国の内大臣だった。その仕事は帝宮から国内の管理と幅広く、さらにその諸問題を吸い上げ、皇帝に報告するというものだ。その大臣は人払いを促した後、近くの使われていない客間で、皇帝陛下と密談を始めた。

「陛下。あの勇者をどうするおつもりですか?」

「勇者? ミツムネ殿のことか?」

「恐れながら陛下。彼は危険すぎます」

「だからこそ強い。違うか?」

 皇帝の目が光る。その鋭い眼光から目を逸らしながら、大臣は汗を拭った。

「ひ、否定はしません。ですが、素行が悪すぎます。私の耳に入ってくる噂だけでも頭が痛くなるものばかりです。この前など、騎士団と喧嘩した挙げ句、三人死傷させました。陛下はそれをお許しになられたとか」

「何か問題でもあるのか? 勇者様の話では、騎士団側から喧嘩をふっかけたというではないか。にもかかわらず、その者たちは勇者様の前に敗れ去った。つまり、勇者様より弱いということだ。そのような弱き騎士など、ティフディリア帝国には不要だ」

「それだけではありません。あのミツムネに与えている〝A〟ランク以上の魔獣を運送するコストがかかりすぎです。既に三つの治水事業を完了できるほどの費用がかかっております。どうかこれだけでもお考え直しください。ロードル管理官にバレたら……」

「だめだ。……勇者様が欲しているかぎり、必要なものを与える。それだけだ」

「恐れながら、陛下。正気にお戻りなさいませ。帝国には問題が山積しております。ルーラタリア王国から借り受けた貴重な魔導書を盗んだ下手人の所在もわかっておりません……。これがかの国に知られたら外交問題となりましょう。勇者にかまけている場合では────」

「ボクたちがなんだって?」

 客間に子どもの声が響く。振り向くと、異世界の服を着た少年が壁に寄りかかりながら、こちらを見ていた。部屋に入る際、誰もいないことは確認済みである。一つしかない部屋のドアが開いた様子もない。ただ少年はこつぜんと部屋の中に現れた。

「ひぃ! 勇者!!

 反射的に内大臣は仰け反る。大きなお尻を地面につけると、先ほどまで紅潮していた顔はみるみる青くなっていった。そのまま地面に手を突き、内大臣は後ろに下がる。背中に何かが当たって、振り返ると、話に出ていたミツムネという勇者が立っていた。

 淡い金髪とは対照的な暗い瞳で、内大臣を覗き込む。

「ひぃいいいいいいいいいいい!」

 半泣きになりながら、内大臣は部屋から退出していく。悲鳴は廊下の角を曲がっても響いていた。

 慌てて逃げていく大臣を見て、ショウが尋ねる。

「いいの? 放っておいて」

「構いませんよ、勇者様。要職にあるとはいえ、所詮は宮仕えです。余の言うことには逆らえません。ところで、何か御用ですかな?」

 皇帝陛下が促すと、ミツムネは一枚の紙を差し出した。

 そこにはメルエスで剣闘試合が行われることと、募集要項が書かれている。

「クソガキが見つけてきた。面白そうだから出てみようと思ってな」

「こんな田舎の剣闘試合など出ずとも、お披露目はもっと盛大に執り行いますのに」

「そうでもないみたいだよ。優勝賞金額が高いのと、ほら……貴重な魔導書が手に入るって書いてある。それ目当てで、隣国からも参加者が集まってるみたい」

「ほう……」

 皇帝陛下は少し考えた後、頷いた。

「わかりました。手配いたしましょう」

「話がわかるじゃないか、おっさん」

「ボクはパスするよ。ここから北の国境でしょ? 寒いところは苦手なんだ」

 ショウは二の腕をさすり、ぶるりと震え上がるのだった。


 ◆◇◆◇◆


 食休みの後、早速ダンジョンへと思ったが、その前にミィミの装備を整えることにした。

 いつまでも奴隷の服のままじゃ、逆に目立つしな。

 なので、最初に向かったのは武器屋ではなく、服屋だ

「この子に似合うような服を見繕ってくれないか。予算はこれぐらいで」

 金貨三枚を渡すと、最初ぼろぼろの奴隷を店に連れてきた俺を見て、渋い顔をしていた店員は甲高い裏声を響かせ、歓迎してくれた。

「あるじ! どう? 似合う? 似合う?」

 やや前のめりになりながら、ミィミは私服を見せびらかしてくる。

 黒のホットパンツに、赤のキャミソール。靴はミィミのしなやかな足を守るため、革のロングブーツを採用し、ちょっと見えそうになっているお腹には大きなバックル付きのベルトを着けた。

 首には銀の装飾がついたチョーカー。さらに服を炎から守るレッドバードの羽根がついたアンクレットをサービスでつけてもらう。

「ああ。かわいいぞ、ミィミ」

「えへ……。へへへへ……」

 尻尾を振って、めっちゃ喜んでる。

 ただ……、ちょっと露出が過ぎるな。本人が気に入っているならいいが、あとでマントをサービスとして付けてもらうか。この姿を万人にさらすのは、さすがに目の毒だ。


 次に向かったのはメルエスにある鍛冶屋である。

 そこで採寸してもらい、ミィミの武器と防具を作ってもらおうと思っていた──のだが……。

「悪いな、兄ちゃん。今からだと、三ヶ月待ちだ」

「三ヶ月?」

 どうやら例の剣闘試合のせいで、メンテナンスや防具の新調などの仕事が殺到しているらしい。

 聞けば、メルエスだけではなく、近くの街の鍛冶屋も似たような状況なのだそうだ。

「田舎の剣闘試合なんてそんなに盛り上がらないと思ってたんだけどよ。ほら、あれ見ろよ」

 店主は店の貼り紙を指差す。この辺の地方紙の切り抜きのようだが、数行の記事に付随して、魔法で転写された人の顔が描かれていた。見覚えのある顔に先に身体が反応する。忘れもしない。そこに描かれていたのは、勇者ミツムネ──つまりさなみつむねだったのだ。

「なんでも皇帝陛下と勇者様が参加されるそうだ。陛下の前で好成績を残して、あわよくばって思ってる欲張り野郎どもが多いらしい。まあ、こっちは仕事が増えて大助かりだけどな」

「皇帝陛下と、ミツムネが……」

【大賢者】としての記憶を思い出した今でも、あのミツムネの顔だけは脳裏から離れない。

 暴力を賛美し、正道を憎む──その典型みたいな男だった。

 そのミツムネが剣闘試合にやってくる。俺の中で沸々と燃えたぎるものがあった。

「あるじ? 大丈夫? ポンポン痛い?」

「ん? ああ。大丈夫だよ、ミィミ。すまん。次の鍛冶屋に行こう」

 心配そうに見つめるミィミの頭を撫でてやる。

 落ち着け。折角、ミィミがやる気になってくれているんだ。今は彼女のサポートに集中しろ。

「クロノ殿ではないか?」

 街中を歩いていると、ミュシャに出くわした。先日と違って今日は鎧姿だ。

「ミュシャか。どうしたんだ、こんなところで」

「以前頼んでいた武器のメンテが終わったと聞いてな。今から取りに行くところだ。そっちは……もしかして奴隷を買ったのか? それにしてもその娘……」

「まあ、ちょっといろいろとな。うちの秘密兵器だ」

「秘密兵器?」

 隠すことでもないと思って、俺はミュシャにここまでの経緯を話した。

「なんと! その娘を剣闘試合に参加させる、と」

「驚くのも無理はないよな」

「いや、クロノ殿が選んだ娘だ。相当強いのだろう。私にはわかる。ミィミ殿、そなたは既にかなり強いだろう」

「ミィミ、強いよ。とっても強い」

「ほう。それは楽しみだ」

 ミュシャは目を細め、睨む。その鋭い眼光をミィミはニコニコしながら真っ向から受ける。

 両者は激しく火花を散らした。剣闘試合がまだ先だというのに、血気盛んなことだ。

 少年漫画の主人公じゃないんだぞ、お前たち。

「それでクロノ殿。鍛冶屋を探しているのだったな」

「ああ。ミュシャ、何か宛てはないか?」

「あるぞ。穴場の鍛冶屋がな。今からそこに剣を取りに行くところだ。そこならば仕事を請けてくれるかもしれない」

「本当か? 助かる」

 こうして俺たちは、ミュシャが世話になっている鍛冶屋に向かった。


 ミュシャが向かった先は、メルエスの外だ。さらに北へと歩き、森の中へと入っていく。

 うつそうと木々が茂る森は暗く、ひともない。とても鍛冶場があるようには見えなかった。

 しばらくして、ミュシャは立ち止まる。

 穴だ。ちょうど人が一人入れるぐらいの狭い縦穴が、突如森の中に現れた。見ると、なわ梯子ばしごがかかっていて、穴底へ向かって続いている。縄梯子はった縄と一緒に、細い鉄線が入っていてかなり頑丈な作りになっていた。

 ジオラントでは、鉄線のような細かい加工品は珍しい。魔法で成形するものは、どれも大きなもので、小さいものはやはり手作業になるからだ。

 そして、こういう細かい仕事を請け負う種族が、千年前にも存在した。

「ミュシャ、ドワーフに知り合いがいるのか?」

「さすがクロノ殿だな。この縦穴を見て、すぐに察するとは」

「地下で暮らす酔狂な種族なんて、そんなに多くはないからな」

 真っ暗な地下に下りると、そこからは立って歩けるぐらいの横穴が続いていた。

 ミュシャは慣れているのだろう。魔光灯をけて、ややぬかるんだ地下道を進む。

 ドワーフ族は地下を縄張りとする種族だ。全体的に背が低く、歳をとっても子どものような見た目をしていたりする。火と土の魔法にけ、その属性に近いクラスが付与されることが多い。

 地下に住んでいるためか、土を掘る技術に優れ、その派生として鍛冶などの仕事を生業としている者が多い。鉱物にも詳しい彼らは、良い鉱石かそうでないかという目利きにも優れ、質の良い道具や武器を作ると昔から評判だ。

 千年前、俺たちの活動をサポートする仲間にも、ドワーフがいた。

 とてもいい腕をもっていて、当時の俺も、ミィミもとても世話になった。

 しかし、ミィミはあまりこの地下がお気に召さないらしい。

「あるじ、ここ臭い。ミィミの鼻曲がりそう」

 古い油と、硫黄の臭いが混じった空気に、ミィミは泣きそうになっていた。俺には不快というほどではないのだが、嗅覚に優れた緋狼族のミィミには悪臭以外のなにものでもないのだろう。

 しばらく歩くと、金属を叩くような音が聞こえてきた。

 さらに進んだ先にあったのは、小さな工房だ。

 明かりが一つしかなく、火床の炎の光がユラユラと揺れている。

 その金床で一心不乱に刃を叩いていたのは、灰色髪の少女だった。

 相当作業に集中してるらしい。俺たちが近づいても、黙々と作業を続けている。

「アンジェ!」

「うわあああああ! ……って、ミュシャさん。来てたんですか?」

 地下で大声を上げたドワーフは、ゴーグルとヘルメットをとって、こっちを向いた。

 灰被りと呼ばれる髪が揺れる。地下にいながら陽に焼けたような褐色の肌に、やや自信なさげなどんぐりまなこがこっちを見た──かと思えば、すぐに目をそむけてしまう。人族に抵抗があるのか、自分に自信がないのか。どこか所在なさげにおろおろしていた。

 それは恰好にも表れていて、よく見るとアンジェは自分のサイズに合わせた鎧を着ていた。

 ヘルメットと思ったのも、割と分厚い鉄兜である。

「心配しなくていい。後ろの二人はクロノ殿と、その従者ミィミ殿だ。紹介しよう、クロノ殿。私の友達でもあり、剣のメンテナンスを頼んでいる鍛冶屋のアンジェリカだ」

「初めまして。アンジェリカと申します。アンジェと呼んでほしいのです」

 アンジェはペコッと頭を下げると、すぐさまミュシャの後ろに隠れてしまう。

 上目遣いで見られると、ミィミとまた違う、小動物のような愛らしさがあった。

「ちょっと人見知りだが、腕はこの辺りの鍛冶師の中ではピカイチだ。私が保証しよう」

 工房にかかっているサンプル品を見ると、確かにレベルが高い。

 しかも一般的に流通している鋳造品ではなく、鍛造品だ。つまりは日本刀などに代表されるようなしなやかでいながら、硬く、粘りのある刃が地下の中で光っていた。

 俺は一本の剣を取り、ジッと眺める。

「焼き入れも、綺麗にかつ均等に入っている。磨きの技術も見事だな」

「わ、わかるのですか?」

 俺の発言は、少しアンジェの興味を引いたらしい。

 それまでミュシャの後ろに隠れていた彼女は、半歩前に出て俺に尋ねる。

「特にこの剣はすごいな。しなやかで美しい。何より……」

 俺は軽く振る。魔光灯が当たる中で、剣は星屑のようにきらめいた。

 剣を振るのは、千年ぶりだ。今は杖だが、昔はよく剣をものにして戦っていた。だが、記憶は蘇っても、身体が替わっては以前のようには動けない。いくらギフトといえど、そこまで都合良くことは運ばないようだ。

 俺は何気なしにその場で剣を振るう。

「ん?」

 手に馴染む。それに今、身体がほぼイメージ通り動いた気がする。

 八割といったところだろうか。筋肉の付き方が昔と違うから、細かい部分まで再現できてないが。

 すると、拍手が聞こえてきた。

「すごいです、クロノさん。その剣をそんな風に振る人、初めて見ましたです」

「ああ。私も驚いた。クロノ殿、そなた剣もできるのではないか」

「あるじはやっぱりかっこいい!」

 千年前の俺を知るミィミが俺の剣筋を見て、目を輝かせる。

 皆が驚くということは、先ほどの俺の剣筋がそれだけ見事だったということなのか。

(だとすれば、俺も……)

 ふと脳裏に、昼間見たミツムネの顔が浮かんだ。

「アンジェ、悪いが試し切りをさせてくれないか?」

「いいのですよ」

 そうして用意されたのは、大人がやっと抱えて持ち上げるぐらいの木の幹に、鉄の鎧を鋲で打ち付けたものだった。

 試し切りを頼んだのは、俺だけど……。さすがにこれはやり過ぎだろう。

 木の幹も相当太いし、そこに鉄の鎧を巻くなんて。

 もしかして、アンジェ。俺に意地悪してる?

「頑張ってくださいです、クロノさん」

 ごめん、アンジェ。疑った俺が悪かった。

 つまり、これはアンジェの信頼の証──と思うことにしよう。

 失敗したところで問題ない。そもそも、元は引きこもりの身体なわけだし。

「行くぞ」

 俺は腰を落とし、一度ゆっくりと深呼吸をする。

 集中力が増していくのを感じる。視野が狭まり、木の幹を睨む。

 呼吸とタイミングを計り、筋肉が総毛立つような瞬間を感じた。

 全てが一致したせつ、俺は鞘に収めた剣を抜刀する。

 思った以上に斬った感覚はない。俺が抜いた剣は、鎧を巻き付けた幹の横にあった。

 次瞬、ズズッと音を立てて、幹がズレる。ゆっくりと傾斜していくと、鎧の重さもあって、地面に落下してしまった。静かな地下にガチャリと金属音が響く。

「斬っ……た……」

「すごいのです。本当に斬ったのです」

「あるじ、すごい! すごい!」

 ミュシャ、アンジェが息を呑み、ミィミはその場でぴょんぴょん飛びながら拍手する。

 嘘だろ。本当に斬ってしまった。

 アンジェの剣がすごいのもあるだろう。だが、それだけでは据え物は斬ることはできない。

 今さっき感じた感覚は、間違いなく千年前に魔王と一対一で戦っていたときの感覚に似ていた。

 間違いない。いつの間にか俺の身体は千年前の感覚に戻りつつある。

 でも、いつだ? 最初にギフト『おもいだす』が発動したときは、そうじゃなかったと思うが。

 徐々に身体が馴染んできた? いや、それも何か得心いかない。

 きっと何かしらの転機があったはずなんだ。

「そうか。ギフトのレベルが上がったときだ」

 あのとき、欠けている記憶が蘇るかと予想していたが、そんなことは起こらなかった。

 おそらく蘇ったのは、過去の感覚……。俺が最も充実していたときの戦いの感覚と記憶が身体に蘇ったのだろう。

 それが事実ならミツムネにだって勝てるかもしれない。

「なあ、ミィミ。俺も剣闘試合に出ていいか?」

「ん? じゃあ、ミィミはどうなるの?」

「ミィミもそのまま参加してくれ。二人でワンツーフィニッシュを決めよう」

「おお! あるじと二人でワンツーフィニッシュ!」

「ごほん」

 盛り上がる俺とミィミに、ミュシャが割って入る。

 鋭い視線を俺たちに投げかけた。

「まるで誰が優勝するか決まっているような言い草だな。しかもワンツーフィニッシュなど。……よもや私が参加することを忘れたわけではないだろう、クロノ殿」

「もちろん忘れてないよ、ミュシャ」

「それに私はまだミィミ殿の力を見せてもらっていない」

「じゃあ、ここで見せてあげようか?」

 ミィミの言葉にミュシャの眉がピクリと跳ねる。

 おそらく挑発に聞こえたのだろうが、ミィミにそんな気持ちはじんもない。

 ミュシャが殺気立っているというのに、ミィミはニコニコと笑っていた。それがミュシャの強い気持ちに拍車をかける。

「面白い……。やるか」

「あの~~、です!」

 火花を散らすミュシャとミィミの間に、アンジェが割って入る。

「ここはアンジェの工房なのです……。戦うなら試合場でしてほしいのですぅ」

 アンジェの言う通りだな。子ウサギのように大人しいように見えて、意外と度胸はあるのかもしれない。

 ドワーフの少女の忠告に、二人とも納得したらしい。

 ミィミが手を下ろせば、ミュシャも刀の柄から手を離した。

「ところで、クロノさんたちは何しにこの工房へやってきたのですか?」

「肝心なことを忘れていた。実は君にミィミの防具と武器を作ってほしい。頼めるか?」

「ミュシャさんのご紹介ですし。承るのです。その……あの…………」

「ああ。もちろん、お金は払うよ。あとで見積もりを出してくれないか。あと、納期も」

「い、いえ。そのお金はもちろんいただくのですが……。その…………クロノさんはいらないのかな、と思いまして。剣闘試合に参加されるというなら、一振り持っておいた方が良いと思ったのです」

「じゃあ、この剣を売ってくれるか。今振ってみたが、かなりしっくり──」

「だめです!!

 先ほどまで大人しかったドワーフの少女の表情が、みるみる険しくなっていく。

「剣には使う人の肩幅や身長、体重によって適正な刀身というものがあるのです。そこから少しでも外れると、変な筋肉がついてしまったり、怪我をすることにも繋がったりするのです。見本品ではなく、自分に合った剣を使わなければだめなのです!」

「…………」

「……あ。すみません。お客さんに怒鳴るなんて。……その、アンジェは武器や防具のことになると見境がなくなるというか。周りが見えなくなるのです」

「謝らなくていい。アンジェの言うことはもっともだ。ただ、ちょっとびっくりしてな」

「びっくりしたですか?」

「昔、そっくりそのまま同じことを言われたことがあるんだ。それを思い出してな」

 気が付けば俺はアンジェの頭に手を乗せて、ふさふさの灰色の髪を撫でていた。

 あまり目立たない色だが、なかなか触り心地が良い。

 ミィミの尻尾とどっちがいいだろうか。

「じゃあ、俺の剣も一振り頼む。最高の剣を頼むぞ」

「はい! お任せくださいなのです!」

 バチンとゴーグルを着けると、アンジェは早速作業に取りかかった。

 かと思えばアンジェは突然手を止めて、俺たちのほうを振り返る。

 ちょっと照れくさそうに俺を見つめた。

「その……、クロノ様。あまり髪を撫で撫でしないでほしいのです」

「わ、悪い。つい……。嫌だったか」

「あ、あまり子ども扱いはしないでほしいです。アンジェ、これでも──────」

 それは衝撃の一言だった。

 ドワーフ族は歳をとっても、子どものような容姿をしていることは知っているが、まさかアンジェが、そんな年齢だったとは。……いや、逆に考えるんだ、クロノよ。

 これは合法ロ────。

「あるじの顔、やらしいこと考えているときの顔」

「ほほう……。それはどういうことだ、クロノ殿」

「ち、違う! 断じて考えてない!」

 断じて考えてないからな。


 そうして日が経ち、ついに剣闘試合の日を迎えるのだった。


【名前】クロノ・ケンゴ

【ギフト】おもいだす LV Ⅱ   【クラス】 大賢者 LV 1

【スキルツリー】LV 30

[魔法効果]LV 10   [知識]LV 10   [魔法]LV 10

 魔力   50%上昇  賢者の記憶    魔法の刃

 魔力量  50%上昇  劣魔物の知識   貪亀の呪い盾

 魔法速度 50%上昇  薬の知識     菌毒の槍

            弟子の知識    小回復


【固有スキル】【隕石落としメテオラ

       【緊急離脱エマージエンシー


【装備】 魔導士のローブ 三角帽 樫の杖