『〈劣魔物の知識〉によって、リザルドンとのコミュニケーションが成立しました』
今、こうしてリザルドンを手懐けることができているのは、【大賢者】の[知識]の一つ──〈劣魔物の知識〉のおかげだ。このスキルは低ランクの魔物の知識や言語を習得することができる。うまくいけば、このように手懐けることも可能だ。
このリザルドンが元々人懐っこくて、客車を引くように調教されている魔獣で助かった。ダンジョンに棲息している野生のリザルドンなら、こうもあっさり懐くことはなかっただろう。
リザルドンを飼い慣れた犬のように扱う俺を見て、少女は目を輝かせた。
「気性の激しいリザルドンをいとも簡単に……。もしかして【魔獣使い】のクラスの方ですか?」
「いや、俺は────」
【大賢者】だ、と言いかけて、慌てて口を閉じた。
ジオラントにおいて、クラスを明かすことは自分の弱点をさらけ出すようなものだ。
魔獣相手ならともかく、対人となると、このクラスを知っている知っていないでは、かなりのアドバンテージの差になる。クラスによって相性というものがあるからだ。
千年前の前世で活躍していたときですら、俺は信頼のおける仲間にしか自分のクラスを伝えていなかった。
そんな俺の心境を悟ったのか、彼女は慌てて謝罪する。
「すみません。見ず知らずの人に……」
「いや、別にいいんだ。それより怪我はないか?」
「あ。はい。ありがとうございます」
「そうか。なら、申し訳ないが。俺はこれで倒れるとするよ」
「はい。わかりました。────って、え? 倒れる?」
俺はそのまま少女を横抱きしたまま倒れる。
ちょうど少女に覆い被さるようになってしまったが、もう俺は指一本動かせない。
傷は回復できても、体力はどうしようもない。限界を迎えた俺の身体はついに悲鳴を上げたのだ。
耳元で少女の悲鳴が聞こえる。
清らかな少女の声は、『勇者の墓場』の婆さんのより、遥かに心地良かった。