あとがき
初めまして。本作でデビューとなりました、乾茸なめこと申します。
この度は本作『ダンジョンに閉じ込められて25年。救出されたときには立派な不審者になっていた』を手に取ってくださり、誠にありがとうございます。
変なタイトルですよね。変なタイトルです。断言します。
本当はもっと格好良くて、スタイリッシュで、センスがきらりんちょと輝くようなタイトルを付けたかったのです。でも、どれだけ考えても、ここに行き着いてしまいました。この締まらなさ、格好の付かない感じが、逆に主人公のナガにぴったりなのかなと思っています。
さて、本作を書くにあたり考えていたことについて、少し触れたいと思います。
著者にとっては、およそ七年ぶりに書いてみた文章でした。
様子がおかしい街で、様子のおかしい仕事に就いていたので、その間は文化と呼べるものに触れることはありませんでした。
ひどい地域でした。路上でパンツ丸出しの女が暴れていたり、女装男性の集団にサラリーマンが拉致されていたり、トラックが堂々とビル前に数トンのゴミを不法投棄して逃げていったり……。電柱に登って揺らし、へし折ろうとする泥酔ゴリラなんかいましたね。ああ、エレベーター内で堂々とうんちしている人もいました。逃げ場がなくて大変です。
当時は文章を書くとしたら、食い逃げを捕まえたときの被害届ぐらいでしたね。
余談ですが、あれ結構ひどいんですよ。食い逃げって「支払う気はあった。でも財布がなかったんだ」と言い張ると、刑事事件にならないんです。民事事件になるので、警察は不介入。相手が自ら身分証を出して連絡先を出してこないと、裁判すら出来ないんですよね。
怪しいと思ったら監視カメラでフォーカスして、ポケットに触れる仕草を全てピックアップして「この段階で財布がないことには気づいているはずだ。詐欺の意図があった……」みたいに、何時間もかけて警察の方と検証して、やっと被害届を出すに至るという。
そんな日々を送っていましたので、ダンジョンよりもモンスターと戦う暮らしだったのかもしれません。ナガ、私も戦っていたよ……。
去年ふと我に返り、魔窟を脱出して、日の当たる場所に帰ってきました。そのときの心情を表現するのに一番ピッタリだった題材が、現代ダンジョンでした。本作のモンスターが人間っぽいのは、人間にこそモンスターが混ざっているという意識の表れかもしれません。
ただいま、人間界。
少しだけ主人公と、その周りにも触れたいと思います。
不審者たるナガは基本的に、周囲の人間から引かれています。ヒーローらしくはありませんが、書いていてとても自然な感覚でした。なんだこいつ、と距離を置かれながらも、関わりは持って貰える。魅力には気がついて貰える。良いところ、悪いところを平等に判断して貰える。ある意味で、偏見なく受け入れられた結果の扱いです。
色々な人間が寄り添って生きていく中で、こんな関係性があったら良いな、という理想が詰まっています。「お前なんか変だよ」と言いながらも、一緒にいてくれる優しさがスイ達のドン引きに表れているのです。…………本当かなぁ。
彼を取り巻く環境は、常識に縁取られています。
怒りを示してはいけない。話が通じない相手でも殴ってはいけない。変な物を食べてはいけない。問題を残酷な方法で解決してはならない。
現実世界と同様の、息苦しくなるような閉塞感の中で、彼が見せる暴力に開放感のようなものを感じていただけたら嬉しく思います。良いところばかりではない男ですが、共感できる部分や、憧れる部分を見つけてもらえることを願っています。
最後に、この場を借りまして本作に関わってくださった多くの方々に厚く御礼申し上げます。時系列順に失礼いたします。
制作に先立ち相談に乗ってくださった、しろいるか様(代表作『崩壊世界のアノミーは心の在り処を示せるか』)。
ウェブ連載時に多くの応援をしてくださった読者の皆様。
連載中に相談に乗ってくださった、嶋野夕陽先生(代表作『私の心はおじさんである』)。
打診等の見慣れぬ連絡が来はじめた頃、「詐欺師共め!」と勘違いしていた私に色々と教えてくださった、しょぼんぬ様(代表作『農民関連のスキルばっか上げてたら何故か強くなった。』)。
何も知らない私に懇切丁寧に教えてくださり、共に作品を作り上げてくださった、担当編集者のM様。
最高に格好良いイラストを担当してくださった、芝様。あまりに素敵で空に吼えました。
デザイナー様、校正様、印刷~流通までで関わってくださった皆様。
そして、改めまして本作を手に取ってくださった皆様。
心より感謝を申し上げます。ありがとうございます!
次巻を出せることを、そしてまたお目にかかれることを願っております。では!