俺とスイとトウカで配信画面を
「ドローンの人物判定が混乱して、視点がガクガク変わりますね……」
そうなのだ。人狼に化けられた瞬間から、ドローンが誰を映せばいいか分からなくなり、視点が動き回り、その間にヒルネたちの立ち位置が動きまくる始末。映像での確認は不可能だった。
「現代技術頼りにならねぇな。古き良き方法でやるか」
「お願いするね?」
俺は
――
「一六
――
「……そりゃしますよー」
――こういうのは初めて?
「初めてですねー」
――こういうことに興味があったの?
「興味って、
――一人でもする?
「しないでしょ」
「なんか質問おかしくない?」
「おかしいか?」
インタビューといえばこんな感じだったと思うんだがな。
ぶっちゃけ俺もパーティーでこの階層潜ってたわけじゃないから、そんなに
「それじゃあ、別の方法をとるしかないわな」
「他にあったのね」
「ワーウルフは知能が高いとはいえ、人間ほどじゃあない。だから、ちょっと難しい問題を出せばいい。二次関数の計算あたりから出来なくなると言われていたな」
なお、
「この中で二次関数解ける
全員が視線を
本人がワーウルフより頭が悪いパターンは想定していなかった。
ワーウルフの変身は魔法的な能力だ。人知を超えたコピー能力は、
ゲームで例えるなら、アバターとステータスはほぼ
「つーわけでだ。だいたいは、トロッコ問題みたいな
「ううう、すいません」「もっといい感じの問題お願いしますー」「三平方の定理ならまだいけるかもです!」「三平方の定理ってなんだっけ……」「ていへんかけるたかさわるに!」「それだ!」
マジでうるせえ。バカが五人に増えるな。
「よほどお互いのことを理解していないと難しいかもしれませんね……」
トウカが難しい顔をする。
「もしナガに変身されたら、わからない自信あるよ」
スイも不安そうに俺を見る。大丈夫だ、安心しろ。
「そのときは俺同士で殺しあえばいいんだよ。フィジカルじゃなくて小手先で戦うタイプは、ワーウルフに有利を取りやすいからな」
身体能力をコピーできても、
「ヒルネは素の戦闘力はワーウルフより低いだろうから、その方法はとれねぇんだよな。パワーファイターのトウカも同じだ。ワーウルフ自体がパワーあるモンスターだから、力任せの戦い方は
スイはよくわかんねぇや。
「あ、いいこと思いついた」
スイが指を立てた。
「お、なんだ?」
「ちょっと一人ずつと話していい?」
「おう」
俺はドローンからツヴァイハンダーをとり、正座させられているヒルネ
スイが一人一人の耳元で、コソコソと話し、何かメモのようなものを見せる。全員と話し終えたスイは、俺たちの方を向いた。
「わかったか?」
「うん。本物は……」
「ちょっと待て。外れを二体指名しろ」
当たり一人を示せば、それが本当だった場合に、
「これと、これ」
スイが指をさす。同時に、俺は体をひねりながら遠心力を使い、ツヴァイハンダーを振り
「ちょっと! もし私が
「対応ミスったら死ぬのはダンジョンで当たり前だろ。結果として大当たりじゃねぇか」
スイもトウカも目を閉じて首を振った。あり得ないとでも思っているのかもしれないが、思い切りの良さって大事だぞ。生き残りのヒルネたちはガクガク
「一:四で違いが出たんなら、そりゃもう正解なんだよ。いいから言っちまえ」
「え、ええと。これとこれ」
スイが言うが早いか、指された二体が
大正解だな。地面に
「ひ、ひぇ」
半泣きで腰を抜かしているヒルネには悪いが、こういうので「本当に正解なのかなぁ?」だなんて迷っていると、永遠に踏ん切りがつかなくなる。リスクが
「どうやって判別したんだ?」
一応スイに聞いておく。
「ええと」
ちらりとヒルネを見て、少し
「一+一×五は? って。四人が六って答えて、一人だけ一〇って答えたから……」
「あー、逆にバカ一人を発見したってことか」
「そういうわけじゃ」
そういうことだろ。うっかりさんと言い
ワーウルフと逆方向で知性の差があれば、それはそれで発見できるってことだな。昔の冒険者たちに教えてやりたい知識だ。
「これも支部長ちゃん案件か?」
多摩支部:汎用性に欠けますので……。
:馬鹿発見器
:俺もワーウルフに負ける自信あるわ
:ワーウルフ賢すぎんか?
:ゴブリンさん怖すぎだろ
:ヒルネちゃん斬るシーンで配信開いて漏らした
:ワーウルフ判別問題集つくるか
汎用性に欠けるといえばそうか。まぁ、パーティーごとに対策を話し合っておけ、くらいしか言えることはないな。
「さて、そんじゃあヒルネ、集落での報告をくれ」
「少々お待ちください。ナガさんは周囲の
なぜかトウカがテントを広げている。こんな開けた危険地帯でテントだなんて、何考えてんだ?
「何も聞かないで。索敵して」
スイにまで強い口調で言われる。トウカがヒルネの体を
あー。なるほどな?
「ちょっと離れたとこで草でも結んでるわ」
「そうして」
悪いことしたかもしれん。
不思議なことに、
「よし、それじゃあ改めて報告をくれ。配信映像からだと、集落に入った直後からカメラの乱れが酷すぎる」
「なんでそんないつも通りなんですかねー」
ヒルネがぼやいた。
それからヒルネ自身が目にしたものを聞き取る。
集落の規模は建物一〇戸程度で、井戸と馬小屋があるものの、どれも使われた
合流予定のパーティーはいたが、五人組のはずなのに、一〇人いたらしい。複数のワーウルフっぽいやつは特定して
ということらしい。
「良くないな」
「助けに行く?」
スイが難しそうな顔で尋ねてくる。「助けに行こう!」とか言うかと思ったが、なかなか現実が見れているな。
「助けるのはやぶさかじゃないんだがな。ヒルネ、お前はどう思う?」
俺が決めてもいいが、今日の俺は
「えーーーっと。集落に入ってすぐに化けられちゃったってことは、今そのパーティーに化けてる他に、ワーウルフが集落に
「そうだな」
「ただ、化けられないように、みんなで固まっていけば、そんなに苦戦しない気もするから、助けに行ってもいいかなとも思います!」
「それもそうだ」
俺はトウカにも視線をやるが、こくりと頷くだけだった。
「一応言っておくとな。この階層はワーウルフとコボルトが出る。コボルトが姿を消している理由がまだわかっていない。イレギュラーが発生したら、この草罠を仕掛けている場所まで
全員がしっかり頷いた。
罠はいいぞ。簡易的な防衛拠点としても使えるからな。
俺は
集落の中。井戸が設置してある広場に、似たような
「おいおい、ひでぇ空気だな。魚の群れの方がまだアットホームだぞ」
「なんだお前は……なんなんだお前は?」
声をかけてみれば、全員の疑いの目が、綺麗に
「見るからに
スイが
「私が連れてきた
「荷物の
ヒルネとトウカも前に出てくれる。
おかしくねぇか? モンスター相手だと俺が最前線なのに、人間との対話で一番後衛にされるの
「ワーウルフと人狼ゲームで遊んでるって聞いたからな。尋問の手伝いしに来てやったぞ」
「ワーウルフじゃねぇなら、身の潔白を証明したいはずだろ? ここで嫌がる奴はワーウルフってことで良いか?」
「ナガさん。そういう
前衛は火力出すのも仕事だもん!
そんな俺たちのやり取りに、
「
「ほー」
俺は少しばかり感心した。
舐められる。弱いと思われる。そうすると、仕事がなくなる。仕事がなくなれば割の悪い仕事を引き受けることになり、自分や仲間の命を
こいつらには物資の運搬をしてもらうんだしな。力を貸し合っての対等な関係ってもんよ。
「じゃあお前のセットからな。適当な建物に入るぞ」
俺は山里二人を連れて、大きめのボロ家に入る。それぞれを後ろ手に
「で、どうするつもりだ? 俺はお前を知らないし、お前も俺を知らないだろう?」
山里が
俺はドローンから刎ねたワーウルフの生首を取り出し、テーブルにダンと叩きつけるように置いた。
「ワーウルフは社会性の高いモンスター、という情報があってだな」
「そうだな」
群れを作り
「知性も高いから、同族と他を区別できるんじゃねぇかなと」
「それはそうだろうさ。だがな。ワーウルフの死体で
「そうか。やっぱり無視するんだな。
「……おい」
山里たちの口元がひきつった。察しが良くて、大変結構。
「今から君たちには、俺の手料理を食べてもらう」
本格的に飯にするってわけでもない。
人間だって「人肉食べなさーい」なんて出されたときに、
足の
ワーウルフの皮下
毛皮を
ギリギリひたるくらい水を入れ、塩コショウをバッバッと雑に入れたら、一〇分ほど煮込むだけだ。味は保証しない。ギリ人間が食えりゃいいんだよ。揚げ焼きにしたんだから、半分くらいは
「おら、食え」
山里二人組の前に、それぞれ一個ずつ置いてやる。見た目はブルブルした獣の手って感じだな。そのまんまだ。
「いや、無理だって」「ワーウルフの生態以前に、人間も食えねぇだろコレ」
二人
「そんじゃどっちもワーウルフか」
ツヴァイハンダーの刀身の中ほどを持ち、
「待て待て待て待て、そんじゃじゃないだろ!?」
「食う、食う! 食えばいいんだろ!?」
片方だけが食った。
「おえ、マジでくせえ」
「どうだ?」
「
「そうか。それなら
俺は食わなかった方の頭をカチ割った。血と脳が飛び散り、白目を
「おいおい、やれば食えるじゃねぇの」
「やっぱこいつおかしいだろ。本当にお前らの仲間なのか?」
山里がくっそ失礼なことを言うが、俺の仲間三人は気まずそうに目を逸らしている。おい。
「とりあえずこの作戦はアタリだな。ぱっぱ片付けようぜ」
:倫理観アップデートしろ
:こっちの方法は汎用性高いな。高いのか……?
:ワーウルフ1匹目見つけるのがムズイ定期
:レトルトにしようぜ
:ヒルネちゃんの犠牲は無駄じゃなかったんや……
:なんというか、手心を
:殺しの絵面が歴代最悪なのよ
いつも通りウザいコメント
「案外、簡単に終わったか?」
必死になって水で口をゆすいでいる奴らを見下ろしながら言う。なんとなく嫌な予感がしたんだが、外れたか?
「ナガ以外はかなりダメージ負ってると思うよ」
そんな馬鹿な。
「こうして見ると、ただのと言うにはちょっと体形がおかしいですが、
外に捨てるためにワーウルフの死体を持ち上げたトウカが言った。最後に俺が心臓を一突きにしたやつだな。
「そうだな……は?」
「え、なに?」
「ワーウルフってこんなに狼だったっけか?」
俺はトウカから死体をひったくると、山里の目の前に放り投げた。
「うぉっ、何するんだ」
「よく見ろ。草原でワーウルフと正面戦闘したことくらいあるだろ。こんなんだったか?」
「こんなもんだろ。ワーウルフの四足歩行は……いや、なんだ。なんか違うような気もする」
俺たちは妙な違和感に揃って首をかしげる。
「持ち上げて立たせてみますー?」
「そうだな」
ヒルネの提案に頷き、ワーウルフを持ち上げてみる。なんとなくシルエットはワーウルフっぽいが……。
「小さい?」
「そうだな……なんか小せえ気もするし、口が小さくて耳が大きい、のか?」
なんというか、パチモン感がすげえ。
「
トウカがワーウルフの足首を指さした。
なるほどな?
犬や
人間はもちろん、熊やリスなんかの二足立ちの姿勢をよくとる生き物は、足の裏がベッタリついた骨格をしている。その方が安定するからだ。逆に、つま先立ちの骨格は、立ち上がることを捨てて、
「こいつら、『ワーウルフ』じゃねえな。なんなら、ワーウルフというものについて、俺らは誤解していたかもしれねぇな?」
「どういうこと?」
「呼び方を分けた方がわかりやすいな。この『ワーウルフ』は、ただの変身能力がある賢い狼だ。そして、俺たちが今までワーウルフだと思っていたモンスターは、ワーウルフが変身していた別のモンスターだったってことだ。『ライカンスロープ』とでも呼ぼうか」
「ライカンスロープ……」
どっちも訳せば
「となりゃあ、コボルト連れて
思わず口から思考が漏れる。周囲の
「ワーウルフの行動も妙だ。同じ程度の身体能力になれるなら数で
考える――が、わからん。情報が足りなすぎる。
「スイ、ヒルネ、トウカ。撤退すんぞ」
俺の言葉に全員が理解を示すよりも一呼吸早く。
オオオオオオオオォォォォォン……。
スマートウォッチを確認する。現在は一七時。ダンジョン内の
「ヒルネが先頭、道案内だ。トウカはヒルネを守れ。スイがバックアップしろ。接敵したら山里のパーティーが前に出てくれ。俺は
山里のパーティーは、リーダーの山里がロングソード。以下四人が
――おい待て、シャベルいたな。思想強いぞ、こいつは。
一人で下がろうとしたところ、なぜか不満そうな顔をするスイにしっしと手を
「
「俺が
山里は
集落の周りは不気味なほど静かだ。風が草を
走らず、さりとて遅くもなく、早歩きくらいを維持しながら隊は進む。走って急に接敵したら、後ろの仲間に
振り返った。何もいない。
「
言われた報告に、目を細めてじっと見れば、確かに草の流れが散り散りになっているような気もする。ただでさえ見た目に分かりづらいのに、
「ヒルネよくやった! 右手に
上手く
草罠を
「ヒルネは前方と左の警戒! 俺は右と後方を警戒する! 山里のパーティーは右への対応、。縦に並んでくれ。ヒルネ、トウカ、スイは左側で並んで、山里たちのカバーに動いてくれ。死角への意識は無くすなよ!」
一番後ろから声を出せるのをいいことに、好き勝手に指示を飛ばす。山里たちは良い思いをしないだろうと考えていたが、意外にも
相対的に後列に下がって来たスイが声をかけてきた。
「思ったより早い合流だったね」
「そうだな」
「単独で下がったとき、ナガは一人で戦う気なのかと思った」
「なんだそりゃ」
スイは真っすぐに正面を見ている。俺と目線を合わせないその姿には、不思議と気高さのようなものを感じる。
「ワーウルフと乱戦になったら、私たちじゃ自分のコピーに勝てるか怪しいから……」
俺が食い止める、お前らは先に行けってか?
「そんな自殺志願者じゃねぇよ、俺は」
スイを助けたのだって、水が
思想も信条も、一本筋の入ったものは持っちゃいねえ。非合理的なことをするために、その場
「それじゃあ、一緒に戦ってもいい?」
「当たり前だろうが、サボんな戦え」
こいつは何を言っているんだ。二五年間も会話してねぇし、今どきの子の考えなんて知らねえし、わかんねえよ。
俺の答えの何にどう思ったのか、スイは小さく笑った。
「距離五〇! 数は……いっぱい!」
「よーし、気合入れろてめぇら!」
「「「おおおおおおお!」」」
俺たちの上げた
数を数えるのも馬鹿らしい。これは「いっぱい!」だな。
「……多すぎる」
山里の
「移動を重視しろよ。分断されねぇように前後で声を
一割くらいがライカンスロープってところか?
元のライカンスロープなのか、それに化けてるワーウルフなのかは知らないが、どっちでもいい。ようは、そこそこデカくてパワーのあるのが交ざってるってことだけだ。
ガキくらいの大きさのコボルトたちの中で、タッパが一八〇センチくらいあるライカンスロープはよく目立つ。
オオオォォォォォン。
遠吠え。それを合図にコボルトの群れが一気に押し寄せてくる。念のため背後と左を確認して、と。
ツヴァイハンダーを
「よっしゃ、戦争だオラァァァ!」
先頭のコボルトたちが草罠にかかり、つんのめる。
つんのめり、死体に引っ掛かり、まごつけば後続に押されて、体勢を崩しながら向かってくるコボルトをぶち殺しながら、隊列は進む。
殺し、ときには防いで受け流し、前への歩みは止めない。必然、どんどん後ろに敵が
右よりも後ろに向かってツヴァイハンダーを振る機会が増えていく。思いっきり真横に振り回した
全然考えてなかった。ライカンスロープを
コボルト相手に
ガン、と金属を叩く大きな音がした。思わず視線をやると、宙に
「トウカ――!?」
ヒルネの悲鳴が聞こえた。
風景がゆっくりと流れる。無意識のうちに足が動いていた。ツヴァイハンダーから手を放し、
加速する世界の中で、大きく手を広げ、トウカの落下地点に
お
「生きてるかい、お
「逆に、私は生きているのですか?」
「ひとまず今は、な」
トウカが飛んできた方向に目をやった。全身の毛穴が広がり、どっと
短剣を構えながらも
目を
「……
すかさずシャベルマンがツヴァイハンダーを拾ってきてくれた。
「山里、ちょっと
「おう」
倒れたトウカを守るように
「ヒルネ、下がって円陣に加われ」
俺はヒルネを庇うように前に出た。
「――で、お前はなんなんだ?」
ツヴァイハンダーを片手で持ち、その切っ先を
狼の口がにんまりと
「人間ごときが、その無礼。同じ世界樹の仔で無ければ許されんぞ」
低く、それでいてやけに通る声だった。オペラのバリトン歌手のような、
いや、
「世界樹の仔ってのは、みんな仲良し地球の命って感じのアレか?」
「何を言っているんだ?」
「貴様も感じただろう、余を目にしたときに
「ああん? それが何だってんだよ」