俺とスイとトウカで配信画面をさかのぼり、化けられたときの様子をかくにんした。だが。

「ドローンの人物判定が混乱して、視点がガクガク変わりますね……」

 そうなのだ。人狼に化けられた瞬間から、ドローンが誰を映せばいいか分からなくなり、視点が動き回り、その間にヒルネたちの立ち位置が動きまくる始末。映像での確認は不可能だった。

「現代技術頼りにならねぇな。古き良き方法でやるか」

「お願いするね?」

 俺はひだりはしのヒルネからじんもんを開始した。

 ――なんさい

「一六さいです」

 ――きんちようしてる?

「……そりゃしますよー」

 ――こういうのは初めて?

「初めてですねー」

 ――こういうことに興味があったの?

「興味って、じようきようてきに仕方なくじゃないですか」

 ――一人でもする?

「しないでしょ」

「なんか質問おかしくない?」

「おかしいか?」

 インタビューといえばこんな感じだったと思うんだがな。なぞに配信コメントも盛り上がっている。

 ぶっちゃけ俺もパーティーでこの階層潜ってたわけじゃないから、そんなにくわしくはないんだよな。あと、そもそも俺がヒルネについて詳しくないっていうな。

「それじゃあ、別の方法をとるしかないわな」

「他にあったのね」

「ワーウルフは知能が高いとはいえ、人間ほどじゃあない。だから、ちょっと難しい問題を出せばいい。二次関数の計算あたりから出来なくなると言われていたな」

 なお、ぼうけんしやの大半は二次関数がわからないから、えんざいしよけいが多発した模様。そんな話をすると、ヒルネたちが顔を真っ青にしている。まさかな。

「この中で二次関数解けるやつ

 全員が視線をらした。うっそだろ、おい。

 本人がワーウルフより頭が悪いパターンは想定していなかった。

 ワーウルフの変身は魔法的な能力だ。人知を超えたコピー能力は、もうまくパターンやもんなどの生体的なものはもちろん、おくなんかの領域もほうする。ただ、人間に対してのこうげきせいするためかは知らないが、価値観や思考能力まではできない。

 ゲームで例えるなら、アバターとステータスはほぼいつしよだが、技・スキル・プレイヤーのくせなんかにちがいが出てくる感じだな。

「つーわけでだ。だいたいは、トロッコ問題みたいなりんかんのテストだったり、数学や理系のような思考力をためす問題を出すんだが……コレじゃあな」

「ううう、すいません」「もっといい感じの問題お願いしますー」「三平方の定理ならまだいけるかもです!」「三平方の定理ってなんだっけ……」「ていへんかけるたかさわるに!」「それだ!」

 マジでうるせえ。バカが五人に増えるな。

「よほどお互いのことを理解していないと難しいかもしれませんね……」

 トウカが難しい顔をする。

「もしナガに変身されたら、わからない自信あるよ」

 スイも不安そうに俺を見る。大丈夫だ、安心しろ。

「そのときは俺同士で殺しあえばいいんだよ。フィジカルじゃなくて小手先で戦うタイプは、ワーウルフに有利を取りやすいからな」

 身体能力をコピーできても、せんとう中の思考はワーウルフ基準だ。知識はあれど、目まぐるしく動くせんきようの中で、それをかしきれる知能はワーウルフにはない。

「ヒルネは素の戦闘力はワーウルフより低いだろうから、その方法はとれねぇんだよな。パワーファイターのトウカも同じだ。ワーウルフ自体がパワーあるモンスターだから、力任せの戦い方はい」

 スイはよくわかんねぇや。みように思い切りの良さがあるからな。

「あ、いいこと思いついた」

 スイが指を立てた。

「お、なんだ?」

「ちょっと一人ずつと話していい?」

「おう」

 俺はドローンからツヴァイハンダーをとり、正座させられているヒルネたちの背後に立つ。気分はしよけい人だ。

 スイが一人一人の耳元で、コソコソと話し、何かメモのようなものを見せる。全員と話し終えたスイは、俺たちの方を向いた。

「わかったか?」

「うん。本物は……」

「ちょっと待て。外れを二体指名しろ」

 当たり一人を示せば、それが本当だった場合に、にせもの四体が一斉に暴れだす。外れ二体だった場合、残されたワーウルフは「自分はまだバレていない」と望みを持つから、大人しくしている可能性がある。

「これと、これ」

 スイが指をさす。同時に、俺は体をひねりながら遠心力を使い、ツヴァイハンダーを振りいた。くるりと回転の勢いを乗せながら踏み込み、もう一発。二つの首がね飛ばされる。

 き出す飛沫しぶきの中、ヒルネのようだった体がぐにゃりとゆがみ、毛むくじゃらの狼のそれに変化した。

「ちょっと! もし私がちがえていたらどうするの!?

「対応ミスったら死ぬのはダンジョンで当たり前だろ。結果として大当たりじゃねぇか」

 スイもトウカも目を閉じて首を振った。あり得ないとでも思っているのかもしれないが、思い切りの良さって大事だぞ。生き残りのヒルネたちはガクガクふるえている。

「一:四で違いが出たんなら、そりゃもう正解なんだよ。いいから言っちまえ」

「え、ええと。これとこれ」

 スイが言うが早いか、指された二体がたんけんを抜きながら立ち上がろうとした。が、どうたいごとり捨てた。ツヴァイハンダー、使いやすいな。重さに引っ張られるようにして動いたら、想像以上に早く移動もできるぞ。

 大正解だな。地面にくずれ落ちたのは、両断された狼の死体。

「ひ、ひぇ」

 半泣きで腰を抜かしているヒルネには悪いが、こういうので「本当に正解なのかなぁ?」だなんて迷っていると、永遠に踏ん切りがつかなくなる。リスクがこわくて決断できないなら、ダンジョンには潜らない方が良い。

「どうやって判別したんだ?」

 一応スイに聞いておく。

「ええと」

 ちらりとヒルネを見て、少し躊躇ためらいがちに続ける。

「一+一×五は? って。四人が六って答えて、一人だけ一〇って答えたから……」

「あー、逆にバカ一人を発見したってことか」

「そういうわけじゃ」

 そういうことだろ。うっかりさんと言いえれば良いのか?

 ワーウルフと逆方向で知性の差があれば、それはそれで発見できるってことだな。昔の冒険者たちに教えてやりたい知識だ。

「これも支部長ちゃん案件か?」


多摩支部:汎用性に欠けますので……。

:馬鹿発見器

:俺もワーウルフに負ける自信あるわ

:ワーウルフ賢すぎんか?

:ゴブリンさん怖すぎだろ

:ヒルネちゃん斬るシーンで配信開いて漏らした

:ワーウルフ判別問題集つくるか


 汎用性に欠けるといえばそうか。まぁ、パーティーごとに対策を話し合っておけ、くらいしか言えることはないな。

「さて、そんじゃあヒルネ、集落での報告をくれ」

「少々お待ちください。ナガさんは周囲のさくてきをしていただけますか?」

 なぜかトウカがテントを広げている。こんな開けた危険地帯でテントだなんて、何考えてんだ?

「何も聞かないで。索敵して」

 スイにまで強い口調で言われる。トウカがヒルネの体をかくすようにき起こした。

 あー。なるほどな?

「ちょっと離れたとこで草でも結んでるわ」

「そうして」

 悪いことしたかもしれん。こうかいはしていないが、反省はした。

 不思議なことに、よごれ一つない服にえたヒルネがテントから出てくる。なんでこんな平地で着替えているんでしょうねえ!

「よし、それじゃあ改めて報告をくれ。配信映像からだと、集落に入った直後からカメラの乱れが酷すぎる」

「なんでそんないつも通りなんですかねー」

 ヒルネがぼやいた。

 それからヒルネ自身が目にしたものを聞き取る。

 集落の規模は建物一〇戸程度で、井戸と馬小屋があるものの、どれも使われたけいせきはない。

 合流予定のパーティーはいたが、五人組のはずなのに、一〇人いたらしい。複数のワーウルフっぽいやつは特定してばくしたが、その過程で学習されたのか、それぞれ最後のワーウルフを特定できず、しんあんじようきよう

 ということらしい。

「良くないな」

「助けに行く?」

 スイが難しそうな顔で尋ねてくる。「助けに行こう!」とか言うかと思ったが、なかなか現実が見れているな。

「助けるのはやぶさかじゃないんだがな。ヒルネ、お前はどう思う?」

 俺が決めてもいいが、今日の俺はしよう気分だ。いいとこが少ないやつには出番をやらねぇとな。

「えーーーっと。集落に入ってすぐに化けられちゃったってことは、今そのパーティーに化けてる他に、ワーウルフが集落にひそんでるってことだから、危険性は高いかなーと」

「そうだな」

「ただ、化けられないように、みんなで固まっていけば、そんなに苦戦しない気もするから、助けに行ってもいいかなとも思います!」

「それもそうだ」

 俺はトウカにも視線をやるが、こくりと頷くだけだった。

「一応言っておくとな。この階層はワーウルフとコボルトが出る。コボルトが姿を消している理由がまだわかっていない。イレギュラーが発生したら、この草罠を仕掛けている場所までてつ退たいするぞ」

 全員がしっかり頷いた。

 罠はいいぞ。簡易的な防衛拠点としても使えるからな。

 俺はたおしたワーウルフの死体をドローンにみ込んで、集落に向かった。


 集落の中。井戸が設置してある広場に、似たようなめいさいふくを着こんだ集団がたむろしている。黒とグレーで構成された、ドット絵みたいながら。薄暗い空間を想定したデジタルめいさいってところか。

 ふんは最悪。お互いを疑いの目でかんしあっている。

「おいおい、ひでぇ空気だな。魚の群れの方がまだアットホームだぞ」

「なんだお前は……なんなんだお前は?」

 声をかけてみれば、全員の疑いの目が、綺麗にほこさきを俺へと変えた。そんなひどい言われようするほどじゃないだろ。ひげだって指でつまめるかなー、くらいしか伸びてないぞ。

「見るからにあやしいですし、雰囲気とか変ですけど、悪い人じゃな……ええと、私たちのパーティーメンバーなんです」

 スイがかばってくれた。が、もっと言いようがあるだろ。あと、悪い人じゃないって言いきれ。

「私が連れてきたおうえんです!」

「荷物のうんぱんを依頼していたパーティーです」

 ヒルネとトウカも前に出てくれる。

 おかしくねぇか? モンスター相手だと俺が最前線なのに、人間との対話で一番後衛にされるのなつとくいかねぇぞ、おい。

「ワーウルフと人狼ゲームで遊んでるって聞いたからな。尋問の手伝いしに来てやったぞ」

 かれらはお互いのリアクションを確かめ合うように、視線をわす。ろう一〇人で顔色うかがい合うな。修学旅行の夜にする好きな子発表会じゃねぇんだから。

「ワーウルフじゃねぇなら、身の潔白を証明したいはずだろ? ここで嫌がる奴はワーウルフってことで良いか?」

「ナガさん。そういうあおりはいけませんよ」

 前衛は火力出すのも仕事だもん!

 そんな俺たちのやり取りに、いらった顔をした男が一人前に出た。そいつは大きくため息をついてから、俺たちに言う。

められちゃ終わりの商売だけど……いい加減疲れた。出来るってんなら、手を貸してもらおう。俺はこのパーティーのリーダーをしている、やまざとせんだ」

「ほー」

 俺は少しばかり感心した。たのむ姿勢ではあるが、決して下手に出ない。世間いつぱんからしたらめられた様子じゃないだろうが、暴力商売ならこれで正解だ。

 舐められる。弱いと思われる。そうすると、仕事がなくなる。仕事がなくなれば割の悪い仕事を引き受けることになり、自分や仲間の命をたたき売りする羽目になる。

 こいつらには物資の運搬をしてもらうんだしな。力を貸し合っての対等な関係ってもんよ。

「じゃあお前のセットからな。適当な建物に入るぞ」

 俺は山里二人を連れて、大きめのボロ家に入る。それぞれを後ろ手にに縛り付け、強制的にしよくたくテーブルにつかせた。

「で、どうするつもりだ? 俺はお前を知らないし、お前も俺を知らないだろう?」

 山里がい顔でしかめっつらを作りながら言う。なんかこいつ、あいきようある顔立ちしてんな。野球部ならキャッチャーしてそう。

 俺はドローンから刎ねたワーウルフの生首を取り出し、テーブルにダンと叩きつけるように置いた。

「ワーウルフは社会性の高いモンスター、という情報があってだな」

「そうだな」

 群れを作りれんけいしてりを行うからな。

「知性も高いから、同族と他を区別できるんじゃねぇかなと」

「それはそうだろうさ。だがな。ワーウルフの死体でどうようさそおうと思ったんだろうが、だ。こいつらは仲間の死体を無視する」

「そうか。やっぱり無視するんだな。まいそうとかの概念はないが、目の前にしんせんな肉があっても、同族のは無視するんだな」

「……おい」

 山里たちの口元がひきつった。察しが良くて、大変結構。

「今から君たちには、俺の手料理を食べてもらう」

 本格的に飯にするってわけでもない。みたいなもんだ。そんなに量は作らなくてもいいだろうな。どちらかというと、原形を残すことを重視した方がいいだろう。

 人間だって「人肉食べなさーい」なんて出されたときに、うすりベーコン状だったらギリ食えるだろうが、頭の丸焼きだったらキツイだろ。

 足のみにするか。

 はいおくのキッチンにあったてつなべを、かまどにせる。かなり古そうだが、表面がしっかりくろさびおおわれていて、十分使えそうだ。というか使い終わったら持っていこう。俺のもんだ!

 ワーウルフの皮下ぼうをじっくりと火にかけて油を出す。一緒にチューブのニンニクを入れて、香りを立てる。油かすのにくへんがじゅわじゅわとあわを立てたら、ワーウルフの手首から先をほうんだ。

 毛皮をがして、肉球とつめは残したワーウルフの足を、バチバチと音を立てながらげ焼きに。四頭分で一六個の足がきつね色になったところで、油はその辺にぽい。ダンジョンにかんきよう問題なんか存在しねぇ!

 ギリギリひたるくらい水を入れ、塩コショウをバッバッと雑に入れたら、一〇分ほど煮込むだけだ。味は保証しない。ギリ人間が食えりゃいいんだよ。揚げ焼きにしたんだから、半分くらいはくさみも抜けてるだろ。

「おら、食え」

 山里二人組の前に、それぞれ一個ずつ置いてやる。見た目はブルブルした獣の手って感じだな。そのまんまだ。

「いや、無理だって」「ワーウルフの生態以前に、人間も食えねぇだろコレ」

 二人そろって嫌がる。

「そんじゃどっちもワーウルフか」

 ツヴァイハンダーの刀身の中ほどを持ち、くいのようにして振りかぶる。

「待て待て待て待て、そんじゃじゃないだろ!?

「食う、食う! 食えばいいんだろ!?

 片方だけが食った。

「おえ、マジでくせえ」

 きながらも、無理やりのどを動かして、なんとかみ込むところまで見守る。

「どうだ?」

かたい。い。舌に臭いあぶらが残る。胃のおくで犬飼ってるような臭いがする」

 なみだで俺をにらみながら、ざんてい山里は言った。あんなに手間かけたのに無駄だったか。いや、手間かけたからギリ食える仕上がりなのか?

「そうか。それならふたの兄貴をうしなっても、もうさびしくないな」

 俺は食わなかった方の頭をカチ割った。血と脳が飛び散り、白目をいた狼の頭がテーブルにどしゃりと突っす。はからずも、ワーウルフ煮込みが半開きの口にし込まれた。

「おいおい、やれば食えるじゃねぇの」

「やっぱこいつおかしいだろ。本当にお前らの仲間なのか?」

 山里がくっそ失礼なことを言うが、俺の仲間三人は気まずそうに目を逸らしている。おい。

「とりあえずこの作戦はアタリだな。ぱっぱ片付けようぜ」


:倫理観アップデートしろ

:こっちの方法は汎用性高いな。高いのか……?

:ワーウルフ1匹目見つけるのがムズイ定期

:レトルトにしようぜ

:ヒルネちゃんの犠牲は無駄じゃなかったんや……

:なんというか、手心を

:殺しの絵面が歴代最悪なのよ


 いつも通りウザいコメントらんに中指を立ててから、次の組を呼ぶ。嫌そうな山里の協力も得て、ひとまず山里たちに化けていたワーウルフを始末した。

「案外、簡単に終わったか?」

 必死になって水で口をゆすいでいる奴らを見下ろしながら言う。なんとなく嫌な予感がしたんだが、外れたか?

「ナガ以外はかなりダメージ負ってると思うよ」

 そんな馬鹿な。

「こうして見ると、ただのと言うにはちょっと体形がおかしいですが、つうの狼みたいですね」

 外に捨てるためにワーウルフの死体を持ち上げたトウカが言った。最後に俺が心臓を一突きにしたやつだな。

「そうだな……は?」

「え、なに?」

「ワーウルフってこんなに狼だったっけか?」

 俺はトウカから死体をひったくると、山里の目の前に放り投げた。

「うぉっ、何するんだ」

「よく見ろ。草原でワーウルフと正面戦闘したことくらいあるだろ。こんなんだったか?」

「こんなもんだろ。ワーウルフの四足歩行は……いや、なんだ。なんか違うような気もする」

 俺たちは妙な違和感に揃って首をかしげる。

「持ち上げて立たせてみますー?」

「そうだな」

 ヒルネの提案に頷き、ワーウルフを持ち上げてみる。なんとなくシルエットはワーウルフっぽいが……。

「小さい?」

「そうだな……なんか小せえ気もするし、口が小さくて耳が大きい、のか?」

 なんというか、パチモン感がすげえ。かいぞくばんか?

あしも二足歩行に適していないような印象を受けますね」

 トウカがワーウルフの足首を指さした。

 なるほどな?

 犬やねこの足の裏っていうのは、人間でいうならば指先だけの部分に当たる。常につま先立ちしているようなもんだな。ワーウルフは犬と同じつま先立ちの骨格だ。

 人間はもちろん、熊やリスなんかの二足立ちの姿勢をよくとる生き物は、足の裏がベッタリついた骨格をしている。その方が安定するからだ。逆に、つま先立ちの骨格は、立ち上がることを捨てて、しゆんびん性としのび足に特化した骨格とも言える。

「こいつら、『ワーウルフ』じゃねえな。なんなら、ワーウルフというものについて、俺らは誤解していたかもしれねぇな?」

「どういうこと?」

「呼び方を分けた方がわかりやすいな。この『ワーウルフ』は、ただの変身能力がある賢い狼だ。そして、俺たちが今までワーウルフだと思っていたモンスターは、ワーウルフが変身していた別のモンスターだったってことだ。『ライカンスロープ』とでも呼ぼうか」

「ライカンスロープ……」

 どっちも訳せばおおかみおとこだ。雰囲気での呼び分けにすぎないが、名前をつけるだけでもきよううすれる。

「となりゃあ、コボルト連れてしゆうげきするのはライカンスロープの習性か? なんでワーウルフはだんライカンスロープに化けている? そもそも狼ばっかのこのエリアは食物れんが機能してないんじゃねぇのか?」

 思わず口から思考が漏れる。周囲のみなはぶつぶつとつぶやく俺を不気味なもののように見てくるが、そんなことは気にしていられない。

「ワーウルフの行動も妙だ。同じ程度の身体能力になれるなら数であつとうできるはず。まるで時間かせぎのような動きだったような……」

 考える――が、わからん。情報が足りなすぎる。かいな気分じゃねえが、仕方がない。

「スイ、ヒルネ、トウカ。撤退すんぞ」

 俺の言葉に全員が理解を示すよりも一呼吸早く。

 オオオオオオオオォォォォォン……。

 とおえ。かつて聞いたどれよりも低く重たいそれがひびいた。一人残らず立ち上がり、武器を抜く。無駄におびえる者もこうちよくする者もいない。流石さすがは地下二六層にもぐっている者たちってところか。

 スマートウォッチを確認する。現在は一七時。ダンジョン内のも季節も不明だが、この階層だと、かたむいた太陽が空のはしに黄色を落とすころいだ。日暮れまでに階段にてつしゆうしたい。

「ヒルネが先頭、道案内だ。トウカはヒルネを守れ。スイがバックアップしろ。接敵したら山里のパーティーが前に出てくれ。俺はさいこうだ」

 山里のパーティーは、リーダーの山里がロングソード。以下四人がせん・モーニングスター・やり・シャベルと、全員が近接系の装備になっている。

 ――おい待て、シャベルいたな。思想強いぞ、こいつは。

 一人で下がろうとしたところ、なぜか不満そうな顔をするスイにしっしと手をって、先に出て行ってもらう。

なが、だったか? 良いのか、殿しんがりやってもらって」

「俺がげやすいように、ちゃーんと前切り開けよ? おそかったらケツすからな」

 山里はかたをすくめ、建物を出た。

 集落の周りは不気味なほど静かだ。風が草をでる音が、いやに大きく聞こえる。

 走らず、さりとて遅くもなく、早歩きくらいを維持しながら隊は進む。走って急に接敵したら、後ろの仲間にかれちまう。

 れる草の流れを見る。風に揺れる葉先は波のように動く。流れが乱れる点があれば要注意。そこには草の動きをさまたげる何かがある。

 振り返った。何もいない。

 いやになるな。来ると確信している伏撃に備えているときほど、精神がけずれるものはない。常に後ろを向いて歩けるわけでもないのに、前を向く数秒間に冷汗が流れた。

けいかい! 一時の方向、一〇〇メートル!」

 言われた報告に、目を細めてじっと見れば、確かに草の流れが散り散りになっているような気もする。ただでさえ見た目に分かりづらいのに、きよによって角度がほぼ水平になっていて、変化をくのは至難のわざだ。

「ヒルネよくやった! 右手にくさわながくるように、槍を目印に動くぞ!」

 上手くおんみつした敵を発見してしゆうを防いだ。せつこうとしては最高の仕事だ!

 草罠をはさんで会敵できりゃ、とつげきの勢いを殺せる。俺たちの目的は階段までの撤退であり、敵のせんめつじゃねぇ。わざわざ正面からしようげきりよくのぶつけ合いをしてやる筋合いもない。

「ヒルネは前方と左の警戒! 俺は右と後方を警戒する! 山里のパーティーは右への対応、。縦に並んでくれ。ヒルネ、トウカ、スイは左側で並んで、山里たちのカバーに動いてくれ。死角への意識は無くすなよ!」

 一番後ろから声を出せるのをいいことに、好き勝手に指示を飛ばす。山里たちは良い思いをしないだろうと考えていたが、意外にもなおに動いてくれる。

 相対的に後列に下がって来たスイが声をかけてきた。

「思ったより早い合流だったね」

「そうだな」

「単独で下がったとき、ナガは一人で戦う気なのかと思った」

「なんだそりゃ」

 スイは真っすぐに正面を見ている。俺と目線を合わせないその姿には、不思議と気高さのようなものを感じる。

「ワーウルフと乱戦になったら、私たちじゃ自分のコピーに勝てるか怪しいから……」

 俺が食い止める、お前らは先に行けってか?

「そんな自殺志願者じゃねぇよ、俺は」

 スイを助けたのだって、水がしかったからだ。

 思想も信条も、一本筋の入ったものは持っちゃいねえ。非合理的なことをするために、その場しのぎで合理的っぽい判断をしているだけだ。欲に流され、状況に流され、感情に流されて、今の俺があるんだから。

「それじゃあ、一緒に戦ってもいい?」

「当たり前だろうが、サボんな戦え」

 こいつは何を言っているんだ。二五年間も会話してねぇし、今どきの子の考えなんて知らねえし、わかんねえよ。

 俺の答えの何にどう思ったのか、スイは小さく笑った。

「距離五〇! 数は……いっぱい!」

「よーし、気合入れろてめぇら!」

「「「おおおおおおお!」」」

 俺たちの上げたかんせいに、これ以上の隠密は無理だと察したか、ぞろぞろと草の中からけものの頭が起き上がる。風景の色が、緑から黒灰色に一気にわった。

 数を数えるのも馬鹿らしい。これは「いっぱい!」だな。

「……多すぎる」

 山里のうめきが聞こえた。嫌な予感が的中しちまったか?

「移動を重視しろよ。分断されねぇように前後で声をけ合うんだ!」

 一割くらいがライカンスロープってところか?

 元のライカンスロープなのか、それに化けてるワーウルフなのかは知らないが、どっちでもいい。ようは、そこそこデカくてパワーのあるのが交ざってるってことだけだ。

 ガキくらいの大きさのコボルトたちの中で、タッパが一八〇センチくらいあるライカンスロープはよく目立つ。

 オオオォォォォォン。

 遠吠え。それを合図にコボルトの群れが一気に押し寄せてくる。念のため背後と左を確認して、と。

 ツヴァイハンダーをみぎかたに載せる。ほんのりケバブの臭いがして、ちょっとだけ笑った。

「よっしゃ、戦争だオラァァァ!」

 先頭のコボルトたちが草罠にかかり、つんのめる。いつせいに俺たちの武器が振り下ろされた。

 つんのめり、死体に引っ掛かり、まごつけば後続に押されて、体勢を崩しながら向かってくるコボルトをぶち殺しながら、隊列は進む。

 殺し、ときには防いで受け流し、前への歩みは止めない。必然、どんどん後ろに敵があふれだした。

 右よりも後ろに向かってツヴァイハンダーを振る機会が増えていく。思いっきり真横に振り回したけんさきが、ライカンスロープのあごふんさいした。

 全然考えてなかった。ライカンスロープをいちげきで殺せないからって、ぼうぎよけんせいだけして、どんどん後ろに流してきやがる! 最後尾の負担がエグい。上手い奴らと組むのも考えものだ!

 コボルト相手にそうゲーだと思っていたら、強敵に囲まれるハクスラゲーみたいになってんぞ。遠心力を味方に、回転切りのようにして、周囲のライカンスロープを一気に片付けた。そのとき。

 ガン、と金属を叩く大きな音がした。思わず視線をやると、宙にき飛ばされた人間の姿があった。西日に照らされた全身よろいが光を反射する。

「トウカ――!?

 ヒルネの悲鳴が聞こえた。

 風景がゆっくりと流れる。無意識のうちに足が動いていた。ツヴァイハンダーから手を放し、き出されるそうなど受けるがままに。

 加速する世界の中で、大きく手を広げ、トウカの落下地点にり込む。全身の骨がきしむような重みと共に、トウカの体をりよううででしっかりと受け止めた。

 おひめさまっこの状態でトウカの体をざっとかくにんする。両腕はへし折れ、曲がってはいけない方向に曲がっているが、頭部にも胴体にも目立つ外傷はない。ずいぶん重たいこうげきたてで受けたのか?

「生きてるかい、おじようさま?」

「逆に、私は生きているのですか?」

「ひとまず今は、な」

 しようげきで意識が半分飛んでんのか、痛みに泣きも呻きもせず、ぼんやりとしたまなしで、うわごとのように呟いた。生きちゃいるが戦線だつってとこか。

 トウカが飛んできた方向に目をやった。全身の毛穴が広がり、どっとひやあせが噴き出す。全身の神経にびりびりとでんげきが走ったようなさつかく

 短剣を構えながらもこしが引けているヒルネ。それと向き合っているのは、何のへんてつもないライカンスロープ。だが、そいつが視界に入っただけで、脳の中で激しくけいしようが鳴る。

 目をはなさないようにしつつ、トウカを地面にゆっくりと横たえた。

「……だれか、武器を」

 すかさずシャベルマンがツヴァイハンダーを拾ってきてくれた。

「山里、ちょっとえんじんでトウカ守っててくんねぇか?」

「おう」

 倒れたトウカを守るようにじんけいが動いていく。ありがてえな。

「ヒルネ、下がって円陣に加われ」

 俺はヒルネを庇うように前に出た。

「――で、お前はなんなんだ?」

 ツヴァイハンダーを片手で持ち、その切っ先をおおかみおとこに向ける。

 狼の口がにんまりとり上がった。まるでおもしろいものを見るような目つきを俺に向けている。

「人間ごときが、その無礼。同じ世界樹の仔で無ければ許されんぞ」

 低く、それでいてやけに通る声だった。オペラのバリトン歌手のような、げんと深みを感じる声が、目の前のモンスターの口から出た。

 いや、おどろくことでもねえな。ワーウルフだって人間に化けて会話する知性はあるし、アンデッドだってほう言語をあつかう。人語を解するモンスターは、別に何も不思議じゃない。

「世界樹の仔ってのは、みんな仲良し地球の命って感じのアレか?」

「何を言っているんだ?」

 ちがうらしい。バカにするような顔をされた。

「貴様も感じただろう、余を目にしたときにきようれつしびれを」

「ああん? それが何だってんだよ」

 えらそうな態度をしていやがる。殺してやりたいし、さっさと殺せばいいんだが、大事な情報を語ろうとしている気がする。