一五層は、屋外にも出ることができる、巨大な城のような構造をしている。西洋の様式の巨大な城と、城を囲む城じよう壁へきや尖せん塔とうがあり、その外側にはまた同様の巨大な城が延々と繰くり返されているような感じだ。

 一五層の拠点は、謁えつ見けんの間みたいな巨大な一室を占せん拠きよして作られていた。

 出入り口になる扉とびらは鉄板で補強され、手前の廊ろう下かにはスライド式の鉄製の門や有ゆう刺し鉄線などの障害物がある。門の横には見張りの特定地下探索者がおり、俺らが通るときに不ふ審しんそうにまじまじと観察された。

 室内にはタイル状の板を張り合わせた壁かべが建てられており、用よう途とごとに部屋を作っているようだ。入り口のあたりは役所の受付前みたいな感じで、ベンチがずらっと並べられている。

 水や行動食などの物資が置かれた倉庫なんかもあるらしく、様々なものが豊富に用意されているようだ。こんな場所にデカい拠点と豊富な物資だなんて、相当な金がかかってるな。

「つ、つきましたね……。生きて帰れるなんて……」

 急に安心したからだろうか。スイがベンチにへたり込んだ。

 無理もない。見たところまだ十代の少女だ。それがたった一人で大群相手に命懸けの戦いをしていたのだ。助けられた後だって、とても気を許せない激クサ不ふ審しん者しや野や蛮ばん人じんの怪あやしいおじさんと二人きり。心身ともに疲つかれ果てていることだろう。

 通りかかった探索者の若い男女がぎょっとした顔で俺らを見ていた。

「お、ちょうど良かった。そこの君たち。シャワーと、もしあれば衣類が欲ほしいんだが、場所はわかるか?」

「あ、ああ。案内する」

 男の方がたじろいだ様子ながらも答えてくれた。

「あんた、どうしてそんな格好になってるんだ? それにひどい臭いだ」

「道に迷って帰れなくなってな。長いことダンジョンで暮らす羽目になって、この通りだ」

「それは災難だったな。よく生きてたもんだ。連れ帰ってくれたスイちゃんにはしっかりお礼した方がいいぜ。ほれ、これが下着類で、服ったらこの辺りの戦せん闘とう服ふくだな。靴くつは適当なサイズで選んでくれ。アメニティがこれ。シャワー室はこっちだな」

 どれも無地のカーキ色で、これに着き替がえたら全身カーキ統一マンになってしまうだろう。それでも、ほぼ裸はだかの現状よりはマシだ。さっきまでは「ダンジョンにいる」という感覚が強かったが、拠点に来てからはなんとなく気き恥はずかしさを覚えていたところだ。

「親切にありがとうな。というか、あの子のこと知ってるんだな。有名人なのか?」

 男は驚おどろいた顔をする。

「知らないのか? 結構人気なダンジョン配信者だぞ。というか、マジで臭いからさっさとシャワー行けよ」

「すまん」

 大人しく案内されたシャワー室に入った。

 狭せまいシャワー室には、シール状の張るタイプの鏡が備え付けられている。久々に自分の顔を見たが、あまりにも酷ひどい有様で笑ってしまった。

 垢あかと土つち埃ぼこりに血汚よごれが溜たまりすぎて、真っ黒になった肌はだ。ガッタガタに伸のびた髪かみは、これまた各種汚れで動物園の羊みたいな質感だ。ずっと磨みがいていない歯はすっかり黄ばんでいて、目だけが爛らん々らんとしている。

 シャワーの熱い湯を浴びてみても、体の表面に膜まくが張ったような感覚。流れるお湯が真っ黒だ。俺はシャンプーとボディーソープを全力で使い、ボロボロ剥はがれる垢を全力でこそぎ落とした。四〇分は己おのれの汚れと戦っただろうか。髭ひげもしっかりと剃そった。

 なんというか、劇的なビフォーアフターだ。髪かみ型がたこそなんか変だが、文明人に戻った気がする。

「ん? んんん?」

 何かおかしい。いや、変な顔という意味ではない。

「なんか、若くねぇか?」

 鏡に映る姿は、どう見ても二〇代のものだ。二〇代前半くらいに見える。

 おかしい。俺の年齢は四八のはず。なんなら、ワイルド過ぎる環かん境きようで二五年間過ごしたんだから、見た目年齢はもっと老ふけていたっておかしくない。なんでだ。あれか? ずっとモンスターばっか食ってたからか?

 二五年間もダンジョンにいると、心当たりが多すぎてわからん。やけくそになってはっちゃけてた時期もあるからな。

 ま、こんだけ技術が進歩しているんだ。地上に戻れば、なんか分かるだろ。

 考えても仕方のないことを頭から振り落とし、俺は久々の衣服に袖そでを通し、エントランスに移動した。

「よう、お待たせ。すっかり綺き麗れいになったぞ」

 ベンチで目を閉じながら舟ふねをこいでいたスイに声をかける。薄うす目めを開いて俺を見たスイは数秒間そのまま停止した。細い声で言う。

「え、だれ」

「俺だよオレオレ。さっき助けてもらった、半裸のおじさんだよ」

 スイの目がカッと見開かれた。

「えええええええええ!?」

 うるさ。あ、こいつ、まつ毛長いな。あと歯が真っ白。俺おれも地上に戻ってお金貯まったらホワイトニング行こ。

「嘘だ、絶対嘘だ!」

「マジマジ。こんな髪かみ型がた俺しかいないって」

「あの格好で髪型なんて印象に残らないよ!? っていうか、本当にそうなら、さっきの話が嘘になるでしょ!」

 混乱して言葉がぐちゃぐちゃになっているが、言わんとしていることは伝わる。

「いや、マジで四八歳なんだよ。あ、そうだ。免許証見る? 配信に映しちゃってもいいぞ」

 今さら隠かくすものも、守るものもないからな。

 あらゆるものが強制解約されているだろうし、賃ちん貸たいの家は当然のように強制退去だろう。銀行口座も五年以上入出金していないから凍とう結けつされているはず。本人確かく認にんの身分証はもれなく期限が切れていて、それを再発行するための身分証もない。さらには、家賃スマホ電気水道、その他サブスクに引き落としの借金ばかりが残っているに違ちがいない。それらも時効で消しよう滅めつしているかもしれんが。