「よせよ。レティシアが自分で決めたことなんだから、口出ししても仕方ないだろう。それより早く食べよう。今日は裏庭の花壇の手入れがあるんだから」

「そうだったわね。ごめんなさい。2人は今日も美化委員の活動があったのよね?」

 ヴィオラが慌てた様子で謝ってきた。

「ええ、そうね。早く食べないと」

 ひょっとしてイザークは気を利かせて、今の話を中断させてくれたのだろうか? 私は相変わらず無表情で食事を口に運んでいるイザークをそっと見つめた。


 食後、私はヴィオラと別れて、イザークと裏庭の花壇の手入れをしていた。園芸用エプロンに軍手をはめたイザークは一生懸命花壇の雑草を取り除いている。彼も私と同じ伯爵家の令息、自宅で庭仕事などおそらくしたことがないはずなのに……。

 すると私の視線に気付いたのか、イザークが顔を上げた。

「なんだ? 何か用か?」

「いいえ。ただ、一生懸命に仕事しているなと思って」

「当たり前だ。一度引き受けたからには最後まで責任を持ってやらないと。そんなのは当然のことだろう?」

「そうね。でもイザークも美化委員の仕事が好きだとは思わなかったわ」

「……別に好きというわけじゃない」

 ポツリと呟くように答えるイザーク。

「え……? そうだったの? てっきりあなたも園芸が好きなんだと思ったけど」

 なぜ好きでもない美化委員になったのだろう?

「役員決めをした時、美化委員に手を上げたのはレティシアだけだっただろう?」

「え? ええ。そうだったわね」

 新しいクラス編成になって、委員会の委員の選出が行われた。それぞれの委員会は各クラスから代表で2名選出されることになっていたが、美化委員に手を上げたのは私しかいなかった。

 全員貴族の生徒たちは、美化委員の仕事をやりたがらなかったのだ。

「ヴィオラは既に広報委員に決まっていたし、他に誰も美化委員に手を上げなくて、困っていただろう? だから俺がやることにしたんだよ」

「そうだったの? ごめんなさい……」

 まさかイザークがそんな理由で美化委員になったなんて。申し訳ない気持ちになる。

「なぜ、そこで謝るんだ?」

 不思議そうな顔をするイザーク。

「え? だって……なんと……なく?」

 なんとなく、私が困っているから手を上げてくれたのでしょう? と言うのは気が引けた。それではまるで自分が自惚うぬぼれれているように思われてしまうかもしれないから。

「なんだ? なんとなくって。別にレティシアは何も悪くないだろう? どのみち、全員何らかの委員会に所属しないといけないんだから。俺は特にやりたい委員会がなかった。だから美化委員になっただけだ」

 淡々と語るイザークは……やっぱりよく分からなかった。でも分かったことは、彼がとても責任感の強い人だということだった。

 そしてその後も、私とイザークは花壇の手入れを続けた。


 ──カーンカーンカーン。


 昼休み終了10分前の鐘が鳴り響いた。

「……よし、終わったな。用具の片付けをしよう」

 イザークが雑草の入った麻袋の口紐を縛りながら声をかけてきた。

「ええ、そうね」

 用具を片付けていると、じっとイザークが私を見つめている。一体どうしたのだろう?

 すると、イザークは無言で近づいてくると、私の顔に手を伸ばしてきた。

「な、何?」

 いきなり至近距離に近づいてきて手を伸ばされた私が、焦って一歩後ろに下がった時──

「髪」

「え?」

「髪の毛に葉っぱがついている」

 イザークは私の髪に触れると葉っぱをつまんだ。

「あ……葉っぱね……」

 びっくりした……思わず安堵の息を吐いた時。

「……プッ」

 突然いつも無表情のイザークが口元に笑みを浮かべた。

「え?」

 驚いた次の瞬間には、元通り無愛想な彼に戻っている。

「それじゃ用具を片付けに行こう」

 イザークはそれだけ言うと、麻袋を持って歩き出した。

「え、ええ」

 スコップが入った袋を持つと、私も彼のあとを追った。