「ええ、分かったわ」

「いいか? 今週は美化週間だから、明日の昼休みも活動があることを忘れるなよ?」

「はい。……ごめんなさい」

「別に謝ることはない。それじゃ俺は用具を片付けているから、レティシアは先に教室に戻っていいよ」

「え? ……いいの?」

「ああ。早く行けよ」

 イザークは私を見ることもなく、用具を片付け始めた。

「ありがとう。なら、お言葉に甘えて先に行くわね」

 私は急ぎ足で教室へ向かった。今日の放課後のことを考え、嫌な予感を抱きながら……。

 そして、私の予感は的中することになるのだった──


「はぁ……」

 本日全ての授業が終了し、帰り支度をしながら憂鬱ゆううつな気分でため息をつくと、ヴィオラが声をかけてきた。

「どうしたの? レティ。ため息なんかついちゃって」

「ええ……実は家に帰りたくなくて」

 つい、本音が口をついて出てしまう。

 セブランの馬車に乗って帰れば、フィオナとイメルダ夫人が姿を現すかもしれない。そう考えると、どうしても暗い気持ちになってくる。

「それなら今日は私の馬車に乗らない? 実はね、つい最近おしゃれな喫茶店を発見したのよ。帰りに寄りましょうよ」

「ヴィオラ……」

 彼女の誘いはとても魅力的だった。けれど、今日に限ってセブランと一緒に帰るのを断れば、フィオナだけではなく、イメルダ夫人にも……そして父からも反感を買ってしまいそうな気がする。

「ごめんなさい……あなたの誘いはとても嬉しいけど、今日は帰ったら父の仕事を手伝わなくてはいけないの」

 ヴィオラには新しい家族の話はしていない。彼女には悪いけれども、嘘をつくことにした。

「そうなの? でもお父さんの命令なら聞かないといけないわよね。残念だけど諦めるわ」

「ええ。本当にごめんなさい。今度また誘ってくれる?」

「分かったわ」

 その時、帰り支度を終えたイザークが、私たちの側を通り過ぎる時に声をかけてきた。

「レティシア、セブランが廊下で待っているぞ」

「え?」

 廊下を見ると、開け放たれた教室の扉からこちらを見つめているセブランと目が合った。

「大変! もう来ていたのね! ごめんね、ヴィオラ。私、もう行くわ」

「ええ。また明日ね」

 笑顔で手を振るヴィオラ。するとイザークが私に声をかけてきた。

「レティシア。明日の美化委員の活動、忘れるなよ」

「分かったわ」

 頷くと、私はカバンを持ってセブランの元へ向かった。

「待たせてしまってごめんなさい、セブラン」

「大丈夫だよ、僕もついさっき来たところだから。それじゃ帰ろうか?」

 笑顔で話しかけてくれるセブラン。彼はとても優しい。私はそんな彼が大好きだった。

「……ええ。それじゃ帰りましょう」

 そして私たちは一緒に校舎を出た。

 馬車の中で、私とセブランは他愛もない話をした。今日一日、学校でどんな出来事があったか、最近読んだ本の話……などなど。大好きなセブランとの会話。それは私にとって至福の時間でもあった。

 やがて馬車がカルディナ家の門をくぐり抜けると、窓の外を眺めていたセブランが声を上げた。

「あれ? 誰か扉の前で待ってるよ?」

「え?」

 私も一緒になって屋敷に視線を移し……息を呑んだ。扉の前でフィオナがイメルダ夫人と並んで立っていたのだ。間違いない。フィオナとイメルダ夫人はセブランと話がしたくて、帰宅時間に合わせて外で待っていたのだ。

「もしかして僕たちが帰るのを待っていてくれたのかな?」

「え、ええ……そうかもしれないわね」

 セブランの声がどこか嬉しそうに聞こえるのは……気のせいだろうか?

 馬車が屋敷の前に停車すると、彼が扉を開けてくれた。

「それじゃ降りようか?」

「ありがとう」

 いつものようにセブランの手を借りて馬車を降りると、フィオナが笑顔で駆け寄ってきた。

「お帰りなさい! レティシア! セブラン様!」

「た、ただいま……フィオナ」

 すると、遅れてイメルダ夫人がやってきた。

「お帰りなさい、レティシア。それにようこそ、我が家へ。セブラン様」

 イメルダ夫人は『我が家へ』という時だけ、私に視線を送る。

「ただいま戻りました……」

「こんにちは、夫人、フィオナ」

 私の帰宅の挨拶に引き続き、セブランが2人に挨拶をする。

「あ、あの……なぜ外にいたのですか?」

 おそらく私たちを待っていたのは一目瞭然いちもくりょうぜんだったけれども、念のために確認しておきたかった。すると──

「ええ、私が使用人たちに、セブラン様の馬車は何時頃屋敷に到着するのか聞いて、お待ちしていたのよ」

 イメルダ夫人が答えた。

「え……?」。

 てっきりフィオナの意思で、2人は外で私たちを待っていたと思っていただけに驚いた。

「私は厨房ちゅうぼうを借りて、趣味のクッキーを焼いていたのだけど、お母様が呼びに来たのよ。もうすぐ2人が馬車に乗って帰ってくるから、外で待っていましょうって」

「え? フィオナはクッキーが焼けるの?」

 男性ながら、甘いお菓子が好きなセブランがフィオナに尋ねた。

「はい、そうなんです。あの、よかったら私の手作りクッキーを召し上がっていかれませんか?」

 そしてフィオナは魅力的な笑みを浮かべる。

「本当? レティ、少しお邪魔していってもいいかな?」

 セブランがなぜか私に尋ねてきた。

「ええ、もちろんよ」

 頷くと、イメルダ夫人が首を傾げた。

「セブラン様、別にレティシアの許可など取る必要はないじゃありませんか。今回お誘いしたのは私たちなのですから」

「え? でも……」

 困った様子でセブランが私を見る。ここはイメルダ夫人の顔を立ててあげなければ……。

「そうね。セブラン、私に尋ねなくても大丈夫よ。あなたは家族のようなものなのだから遠慮しないで?」

「ええ、その通りですわ、セブラン様。それでは私たちと一緒に応接室へまいりましょう?」

「早く行きましょう。みんなで私のお手製クッキーをいただきましょうよ」

 フィオナはともかく、イメルダ夫人は完全に私の存在を無視してセブランに話しかけている。3人が連れ立って応接室に向かって歩き出すさまを見ながら、私は成すすべもなく立ち尽くしているしかなかった。すると、突然フィオナが振り返った。

「あら? どうしたの? レティシア。一緒にクッキーを食べに行きましょうよ」

「え? あ……そうね。行くわ」

 私は声をかけてくれたフィオナに心の中で感謝しながら、3人のあとに続いた。


「さぁ、どうぞ。セブラン様、それにフィオナも」

 応接室に到着すると、イメルダ夫人は自ら私たちに紅茶をれた。よい香りが室内に漂う。

「いただきます」

 セブランがカップを手に取り、口をつける様子を見た私も、紅茶に手を伸ばした。

「……美味しい。夫人、本当に美味しい紅茶です。淹れるのがお上手なのですね」

 セブランが感心したようにイメルダ夫人を見る。確かに彼女が淹れてくれた紅茶はとても美味しかった。

「お母様は紅茶を入れるのが得意なのよ。ね?」

 得意げにフィオナが話す。

「まぁね、一応貴族ではあるけれども、いろいろと訳ありで……フィオナと2人きりで暮らしていたから、おかげさまでなんでも得意になれたわね」

 そして意味深な目でチラリと私を見る。それは遠回しに私とお母様のせいだと責められているようで、胸がズキリと痛む。

「そうだったのですか……ご苦労されたのですね」

 けれど人のよいセブランは、夫人の言葉の裏を理解していないようで、しんみりと答える。

「セブラン様。私はお菓子作りが得意なの。焼きたてだから食べてみてください。レティシアも食べてね」

 今度はフィオナが大皿に載せられたクッキーを勧めてきた。皿には数種類のクッキーが載っている。

「うわぁ……すごい。これをフィオナが一人で作ったの?」

 甘いお菓子に目がないセブランが、感心したようにフィオナを見つめる。

「はい。これは茶葉を練り込んだクッキーで、こっちはチョコチップが入っているの。このクッキーはココア味ですよ」

 フィオナは丁寧ていねいにセブランに説明し、彼は身を乗り出すように聞いている。

「それじゃ、早速いただこうかな」

 セブランはクッキーに手を伸ばすと口に入れた。

「……うん、すごく美味しいよ! 今まで食べたクッキーの中で一番美味しいね」

 笑顔でフィオナを見つめるセブランの頬は少し赤く染まって見えた。……誰の目から見ても、彼がフィオナに興味を持っているのは明らかだった。

「あら? どうしたの? レティシアも食べてみてよ」

 フィオナが私を見て小首を傾げる。

「あ……そ、そうね。あまりにも上手に焼けているから、つい見惚みとれてしまったわ。それじゃいただきます」

 私は紅茶のクッキーに手を伸ばすと、早速口に入れてみた。ホロホロと口の中で崩れるクッキーの甘さと紅茶の香りがとてもよく合った。

「本当に美味しいわ。フィオナはお菓子作りの天才ね」

「フフフ……ありがとう。ところでレティシアはお菓子作り、得意なの?」

「え……?」

 その言葉にドキリとした。

 私はこの家の伯爵令嬢であり、料理は全て使用人たちが用意する。だから当然、料理どころかお菓子すら作ったことはない。私が得意なのは勉強と刺繍ししゅう。それに父の仕事の補佐だった。

「あの……お菓子は作ったことがなくて……」

「あら? そうだったの?」

「それは当然よ。何しろ、彼女はこの屋敷の令嬢なのだから。使用人がするようなことをするはずないでしょう?」

 夫人は刺すような視線を向ける。セブランは気まずそうに私と夫人を見比べている。きっと夫人に気を使って口を挟めないのだろう。するとフィオナが笑顔を向けた。

「だったら私が今度、クッキーの作り方を教えてあげるわ。上手にできたらセブラン様にプレゼントしましょう。ね、セブラン様」

「うん、そうだね。楽しみにしてるよ。レティ」

 セブランは安堵したような表情を浮かべて私を見る。

「え、ええ……待っていてね。上手にできるように教えてもらうから」

 重苦しい気持ちを抱えながら、私は無理に笑みを浮かべた。


 夫人から誘われたお茶会が終わり、私たちは屋敷の外でセブランのお見送りに出ていた。

「セブラン様、明日からフィオナも同じ学校に通うことになるので、よろしくお願いしますね」

「お願いします、セブラン様」

 夫人とフィオナに頼まれて、セブランは笑顔を見せる。

「ええ、もちろんです。僕の方こそ明日からよろしくお願いします」

 そして馬車に乗り込むと、セブランは私に顔を向けた。

「レティ、また明日ね」

「ええ、セブラン。また明日。それでは馬車を出してください」

 男性御者に声をかけると、彼は「はい」と頷いて馬車が走り始める。私たち3人は馬車が見えなくなるまで見送ると、夫人がポツリと言った。

「……行ったわね。さ、部屋に戻りましょう。フィオナ」

「はい、お母様……あ、そうだわ。レティシア」

 突然フィオナが私を振り返った。

「何かしら?」

「あのね、私もあなたのことをこれからレティと呼んでもいいかしら。セブラン様みたいに愛称で呼びたいのよ」

「ええ、いいわよ」

 別に断る理由もないので頷いた。もとより、断る気にもなれなかった。なぜなら、夫人が刺すような目で私を見つめていたからだ。

「あら、よかったわね。出会ったばかりなのに2人は本当に仲が良くて安心したわ。それじゃ中に入りましょう」

「はい、お母様」

「はい」

 夫人に促され、私たちは屋敷の中へと入っていった──


 ──その日の夕食の席。

 私を除いた3人は、今夜も楽しげに会話をしながら食事をしている。

「……それで、セブラン様にクッキーを焼いてあげたら、とても喜んで食べてくれたの。お父様の仰っていた通りだったわ。ありがとう」

 フィオナの話に、思わず身体がこわばる。

「そうか。彼はまだ小さな子供の頃から甘い菓子が大好きだった。喜んでもらえてよかったじゃないか」

 父が笑みを浮かべてフィオナを見る。

「ふふふ……あなたの助言に従ってよかったわ。すっかりセブランはフィオナが気に入ったみたいだから」

 イメルダ夫人の言葉で確信を得た。夫人はセブランの気をフィオナに向けさせるために、セブランがどのようなものを好むのか父に尋ねたのだ。そして父はそれを2人に教えて……。

 フォークを持つ手が震えてしまう。一体父は何を考えているのだろう。セブランの両親からは遠回しに、将来は私を彼の妻に迎え入れたいという話が以前から出ている。それなのになぜ、フィオナがセブランに気に入られるように力を貸しているのだろう?

「……シア、レティシア!」

 不意に名前を呼ばれて、ハッとなって顔を上げると、父が私をじっと見つめている。

「一体どうしたのだ? 呼ばれたら返事をしなさい」

「す、すみません。考えごとをしていたものですから」

「なんだ? それでは話を聞いていなかったのか?」

 父は眉をひそめて私を見る。

「……すみません。あの、もう一度お願いします」

「仕方ない……いいか、明日からフィオナも同じ学校に通うことになる。フィオナが困らないように、お前が校内できちんと面倒を見てあげなさい。姉なのだから……分かったな?」

 有無を言わさぬ強い口調だったが、言われなくてもそうするつもりだった。

 いよいよ明日からフィオナが同じ学校に通うことになる……。

「お願いね、レティ」

 フィオナが笑顔で私を見る。

「ええ。任せてちょうだい」

 私も笑顔で頷く。そう、私は2人の幸せを奪ってしまった責任があるのだから……。


 ──翌朝。

 私とフィオナは同じ制服を着用し、屋敷の扉の前でセブランの馬車がやってくるのを待っていた。当然イメルダ夫人も一緒だ。今日は転入初日ということで、フィオナと一緒に学校についていくことになっていたからだ。その話も今朝の朝食の席で突然聞かされたのだけれども。

 彼女はいつもとは違う外出用のデイ・ドレスを着用している。……あのデザインは確か最近流行のデザイナーのドレスだ。父に買ってもらったのだろうか?

「フィオナ、その制服よく似合っているわ。あなたは器量良しだから何を着ても似合うわね」

「ありがとう。お母様に似てよかったわ」

 そんな母娘の仲睦まじげな会話を、私はぼんやりと聞いていた。母は私を産んだ直後に狂気に囚われてしまった。だから私はあの2人のように母娘の仲睦まじい会話を交わしたことがなかった。少しだけ、2人の仲が羨ましい……そう思った矢先、フィオナが声を上げた。

「あ! セブラン様の馬車が来たわ!」

 見ると、彼を乗せた茶色の馬車が、こちらに向かってくるのが見えた。馬車は私たちの前で止まると、扉が開かれてセブランが降りてきた。

「セブラン、おはよう」

「おはようございます、セブラン様」

 2人で声をかけると、セブランは笑顔で私たちに挨拶を返す。

「おはよう、レティ。フィオナ、それに……」

 セブランはイメルダ夫人が外出着姿なのを見て、首を傾げた。

「あの、夫人……?」

「おはようございます、セブラン様。今日は娘の転入手続きがあるので、私も一緒に学校へ行くのでご一緒させてください」

 そしてニコリと夫人は微笑む。

「そうだったのですね。分かりました。では皆さん、馬車にお乗りください」

 イメルダ夫人に続いて、フィオナが乗り込む時に、私は彼に小声でささやいた。

「ごめんなさい、セブラン。まさかイメルダ夫人まで一緒に来るとは思わなかったの。今朝、いきなり聞かされたから」

「大丈夫だよ。少し驚いたけどね。さ、レティも乗って」

 そう言ってセブランは笑いかけてくれた。

 馬車の中では、ほとんどイメルダ夫人とフィオナが一方的にセブランに話しかけていた。セブランはにこやかに話に応じている。私も本当は会話に加わりたかった。けれどイメルダ夫人が怖かったので、黙って馬車の窓から外を眺めた。

 ……大丈夫、イメルダ夫人が私たちと一緒に馬車に乗るのは今日だけだから。

 私は自分に言い聞かせて、学校に到着するまでの息苦しい時間を耐えた。


「それでは私たちは理事長室に行ってきますね。セブラン様、馬車に乗せていただきありがとうございました」

 学園に到着し、馬車から降りると、イメルダ夫人がセブランにお礼を述べてきた。

「いいえ、お役に立ててよかったです」

「またね、セブラン様。レティ」

 フィオナは笑顔で私たちに手を振ると、夫人と共に去っていった。

「それじゃ、レティ。僕たちも行こうか?」

「ええ、行きましょう」

 歩き始めると、すぐにセブランが声をかけてきた。

「レティ、馬車の中ではずっと静かだったけど……もしかして具合でも悪いの?」

「いいえ、大丈夫よ。ただ……イメルダ夫人が一緒だったから、ちょっと緊張してしまっただけよ。ほら、一応、私の義理のお母様になる人だから」

 言葉をにごすようにセブランに説明した。

「そうだったのか。確かに僕も夫人がいた時は少し驚いたけどね」

「ごめんなさい、迷惑かけて」

「迷惑なんて思ってないから気にしなくていいよ」

 そこまで話した時、教室の前に到着した。

「それじゃ、レティ。また放課後にね」

「ええ、セブラン」

 私とセブランは教室の前で別れた。……大丈夫、セブランは優しい。きっと私のことを考えて、あの2人にも親切な態度をとっているだけに違いない。

「不安に思う必要は……ないわよね」

 私は無理に自分に言い聞かせるのだった……。


「おはよう、レティ」

 教室へ入ると、ヴィオラが声をかけてきた。

「おはよう。ヴィオラ」

「あら、どうしたの? なんだか朝からずいぶん疲れているように見えるけど。何かあったの?」

「ヴィオラ……」

 もうフィオナは転入生として、この学校にやってきた。ヴィオラに事情を説明してもいいだろう。

「あのね。実は……」

 私は何があったのかを説明した。イメルダ夫人のこと、そしてフィオナのことを。……もっとも、セブランが彼女に惹かれているかもしれないことは伏せて。

「……そんなことがあったのね。それにしても、レティのお父さんに、妾どころかその子供がいたなんて……」

 話を聞き終えたヴィオラがため息をつく。妾という言葉で私は焦った。

「待って、ヴィオラ。別に妾というわけでは……」

「何を言ってるの? そんなの誰が聞いても妾の関係よ。恋人同士だった? そんなのは関係ないわ。だって、レティのお母さんが奥さんだったわけでしょう?」

「それは……そうだけど……」

 でも父は、イメルダ夫人とフィオナをとても大切にしている。それにあの3人はとても仲が良い。だから私は、自分の方が場違いな居心地の悪さを感じていたのだ。

「まったく、それにしても図々しい親子よね。レティのお母さんが亡くなってまだ2カ月しか経っていないのに、母娘で上がり込んでくるなんて。しかも我が物顔で屋敷の中で振舞っているなんて……許せないわ」

「落ち着いて、ヴィオラ。少なくともフィオナに悪気はない……と思うの」

 最後の方はしりすぼみの声になってしまった。フィオナに悪気はないと言いながらも、本当にそうなのだろうかと自問自答している自分が嫌だった。

「分かったわ。もし彼女と会っても何気なく接するようにする。けれど、私の見ている前であなたに嫌な態度を取ったりすれば流石の私も黙っていられないけどね」

「ありがとう、ヴィオラ」

「フィオナはどのクラスになるのかしら。同じクラスになりたくないわ」

 私は返事ができなかった。できればセブランとも同じクラスにはなってほしくない。こんな風に考えてしまう自分が嫌だったから……。