『みんなでお祭り』



「……ロールちゃん、そっち側を持ってくれる?」

「うん。じゃあ、せーので持ち上げようか」

『ネッちゃんも手伝うニャよ』

『「……せーのっ」』

 三人で力を合わせて、大きなテーブルを食堂の真ん中に移動する。ゆっくりと床に置くと、掃除が完了した。

 ロールちゃんとネッチャンと、パンッ! とハイタッチする。

「「はい、お仕事終わり!」

『お掃除完了ニャー!』

 今日はカフェの定休日。お休みの日は、みんなでお店を掃除して綺麗にするのが日課だった。

 まだお昼前なので、午後は食材でも探しに行こうか……なんて話していたら、キャンデさんが帰ってきた。クエストには昼過ぎに行くことが多かったけど、たまに朝から出発することもあったのだ。

 キャンデさんは食堂を眺めると、感心した様子で話す。

「おっ、ずいぶんと綺麗になってるな。床も壁もピカピカだ」

「はい、ちょうど掃除が終わったところです。キャンデさんのお部屋は、ロールちゃんが掃除しておいてくれましたよ」

「それは助かる。……ほら、ロール。今週のチップだ」

「はわわ……」

 キャンデさんはロールちゃんに小粒の宝石を渡す。

 はわわ……と満面の笑みを浮かべる彼女を見ていると、コンコンッと窓ガラスを叩く音が聞こえた。小さな灰色の鳩が窓辺にいる。

 不思議なことに、口元には小さな手紙をくわえていた。

「きっと伝書鳩だ。なんだろうね、ロールちゃん」

「見たことない鳩だよ。しかも、このタイミングで来るなんて……怪しい……」

 小粒の宝石を力強く握り締め、いつものように怪しむロールちゃん。宿の財宝を奪いに来たわけではないと思うよ。とはいえ、魔物ではないし手紙を持っているので、窓を開けてあげる。

 手紙を受け取ると、鳩は『くるっくー』と満足げに鳴いて飛び去った。

 手紙の表面には、〔親愛なるカフェ・アンチドートの皆さんへ〕と書いてあり、裏を見ると、なんとパルグタウンの町長さんからだった。

「ロ、ロールちゃん、町長さんからだ」

「ええ~、すごいじゃんっ。レベッカ、開けてみてよ」

 手紙を開けて、みんなで一緒に読む。どうやら、今日から数日間お祭りが開かれるらしく、よかったらどうかと誘ってくれたのだ。とても嬉しいお誘いで、読んだだけでワクワクしてしまう。

「お祭りか~。パルグタウンにもあるんだね」

「レベッカ、行ってみようよ。いや、絶対に行くべき!」

「祭りとは楽しそうじゃないか。私も同行しよう」

『ネッちゃん、お祭り楽しみニャー!』

 ロールちゃんたちとも話し合った結果、満場一致で参加することになった。さっそく準備を始めようとしたら、キャンデさんに止められた。

「ちょっと待て、レベッカ」

「は、はい、なんでしょうか」

 大変真剣な顔をされており、何事かと思いゴクリと唾を飲む。ドキドキと緊張していたら、キャンデさんは至極端的に言った。

「私の飯を作ってから行け」

「か、かしこまりました」

 ということで、パルグタウンには少し早めのお昼ご飯を食べてから行くことになった。


□□□


「「……おおお~、賑わってる~」」

 みんなで昼食を食べた後、私たち四人はパルグタウンに到着した。すでに街中はわいわいと賑わっており、以前訪れたときとはまったく別の雰囲気だ。

 家々から伸びた三角旗さんかくきはゆらゆらと風になびき、道行く人々もみな笑顔。空には楽しそうな歓声が響き、いるだけで楽しい気分にさせてくれた。サンライズ家にいたときはお祭りに行く余裕などなかったので、すごく胸が躍る。道には右にも左にもお店があって、全部見て回りたくなってしまうね。

 高鳴る気持ちを抑え、傍らのロールちゃんに話す。

「お祭りなんて初めてだから、何から楽しめばいいのか迷っちゃうよ」

「わたしも! ……あっ、面白そうな屋台がある!」

 ロールちゃんが指さした方向には、いくつもの景品が棚に並び、おもちゃのボウガンが備えられた屋台が立つ。射的だ。まさしくお祭りと行った具合で、居ても立ってもいられなくなった。

「「行ってみよう!」」

『行ってみるニャ!』

「まったく、もう少し落ち着いたらどうだ」

 キャンデさんは呆れ顔だったけど、私たち三人はタタタッと走り寄ってしまった。店主のおじさんにお金を払い、おもちゃのボウガンと矢を三本受け取る。

 ロールちゃんは手早く準備を済ませると、キリッとした顔で狙いをつけた。

「わたし……絶対にあの宝箱を手に入れる」

 景品の中には小さな宝箱があり、ロールちゃんは中身に多大な期待をしているらしく、大変真剣な表情で矢を放つ。その隣では、キャンデさんが狩人みたいなオーラをまといながらボウガンを操っていた。

「まるで子どもの遊びだな」

 片手間な様子なのに、キャンデさんは百発百中。さすがはSランク冒険者だ。

 さて、次は私の番。

「ネッちゃんは私とやろうか」

『引き金引いてみたいニャ』

「何か欲しい景品ある?」

「あれがいいニャよ」

 ネッちゃんは濃い青色をした魚のぬいぐるみを指す。私がボウガンを構えて、ネッちゃんが引き金を引く。ぽんっ! とおもちゃの矢が飛び出し、三回目でゲットした。

「『いえーい!』」

 景品を貰うと、ネッちゃんは嬉しそうに抱きかかえていた。ロールちゃんとキャンデさんもちょうど終わったみたいで、みんなで別の屋台に歩く。

「レベッカは意外とボウガンがうまいな。それに比べてロールはダメだ」

「もう少し角度を工夫しておけば……」

 ロールちゃんは宝箱を入手できなくてぶつぶつと何やら呟いていたけど、キャンデさんから景品のお菓子を貰うと喜んで食べていた。

 町には他にも色んな屋台があり、《マジカル金魚》掬いなんてお店もある。本物の魚ではなく、魔力でできた魚。一日経つと消えてしまうけど、キラキラ光って綺麗なのだ。

 ネッちゃんが《マジカル金魚》の泳ぐ大きなたらいを楽しそうに眺めていると、キャンデさんが呆れた調子で話す。

「猫が好きそうな屋台だな」

『猫・妖・精ニャ!』

 みんなでチャレンジすることになり、店主のお姉さんにお金を払う。

 ロールちゃんは最初の一回で紙を破いてしまったけど、私とネッちゃんは二匹ゲットできたので一匹わけてあげた。キャンデさんはここでもSランク冒険者の実力を発揮して、シュパパパッ! と一人でたくさんの《マジカル金魚》を掬っていた。

 次はどこに行こうかとみんなで話していたら、宝探しと書かれた屋台の看板を見つけた。へぇ~、面白そう。

「ロールちゃん、宝探しだって」

「宝探しぃ!?

 宝探しと聞いた瞬間、ロールちゃんの瞳はそれこそ金貨のように光り輝く。純銀のメダルのときと同じだ。私とネッちゃんは小さくため息をついた。

「たぶん、ロールちゃんが思っている宝とは違うと思うよ」

『金銀財宝なわけないニャ』

「いや! 実際に確かめてみないとわからないから! もしかしたら、伝説の黄金像とかあるかもしれないし!」

 ということで、店主のおばさんから街の地図を貰い、四人でパルグタウンを探索する。地図には簡単な謎かけが書いてあって、解き明かした場所に行くと係の人が小さな景品をくれた。小鳥の木彫りや天使の絵など可愛い雑貨だ。

 ロールちゃんは血眼になって本当の宝がないか探していたけど、終ぞ金銀財宝や伝説の黄金像といった類いの宝とは巡り会わなかった。

 最後の景品を貰うと、周囲が薄暗いことに気づいた。気づけば、街の灯りも煌々とついている。

「……あっ、もう夜だね。いつの間にか時間が過ぎてたのか……」

「絶対、街のどこかに本当の宝があると思ったのに……」

『レベッカ、お祭りの夜は花火をやるみたいニャよ!』

 ネッちゃんがさっき手に入れた魚のぬいぐるみを抱え、嬉しそうに街の一角を指す。〔花火会場はこちらの草原!〕という看板があり、ぞろぞろと住民たちが向かっている。その光景を見ると、キャンデさんも微笑みながら言ってくれた。

「街のはずれに会場があるみたいだな。行ってみるか?」

「「行きましょう!」」

 四人でパルグタウンの端っこに移動する。とても広い草原が現れるけど、今は人でいっぱいだ。五百メートルほど離れた地面には、いくつもの大きな筒が並ぶ。あれは魔導花火。魔力を込めた火薬の弾を打ち上げる特殊な魔導具だ。ちょうど正面にあたる場所が空いていたので、みんなで草原に座る。

 五分も待たぬうちに、ひゅ~っと火薬弾が打ち上がり、藍色の空に光の花が咲いた。

 赤、青、黄色に緑や白……。

 多種多様な美しい輝きに、私は思わず呟く。

「きれいな景色……」

 花火はどんどん咲いては儚く散る。胸に響く振動も相まって、一体感を覚える素晴らしい光景だった。

「わたしもこんなきれいな花火を見たのは初めてだよ」

『ネッちゃん、ずっと見ていたいニャ』

「これは見事だな」

 みんな、思い思いの感想を口にする。その幸せそうな顔を、花火が明るく照らしてくれた。夜空に光り輝く花火を、私たちはいつまでも眺める……。