「なんと、〝惑乱の凶星〟ではないか。そんな大物までおるんじゃなぁ」
キャンデさんは握手しないけど、軽く会釈していた。
「それでは、王様。中へご案内します」
「今日は世話になるの」
お店の扉を開けたとき、衛兵さんの一人――女性の衛兵さんがガクッと膝をついた。
「「おい、大丈夫か?」」
お仲間が呼びかけるも返事はない。何か様子がおかしく、私たちも急いで
「ど、どうしたんじゃ、これはっ。足が石になっておるぞっ」
「……すみません、王様。数年前、強力な
「急いで医術師を呼ぶんじゃ!」
今や、〝カフェ・アンチドート〟の前はパニック状態だ。ロールちゃんから近くの町に医術師はいないと聞くと、キャンデさんが険しい顔で言った。
「私が
「ああ、〝惑乱の凶星〟がいてくれれば
王様たちの話を聞く間、私はとある可能性を考える。今まで色んな毒食材を毒消ししてきたけど、その中には身体が少しずつ
「あの……王様。一度、私に《毒消し》させてもらえませんか? 以前にも、身体が変化する毒を毒消ししたことがあります。やってみないとわかりませんが、石化の呪いも消せるかもしれません」
私が言うと、王様は
「……なるほど、それは一考の余地があるの。レベッカ嬢、頼む。お主のスキルは一級品じゃ。きっと、彼女の呪いも治せる」
「お、お願いします、レベッカ嬢……」
女衛兵さんの足首に手を当て、
「《毒消し》!」
いつものように私の手が白く光る。どうか治って! 力強く念じていると、肌に張り付いたような石はじわじわと
「「せ、石化の呪いが消えたぞ! レベッカ嬢が解呪してくれたんだ!」」
「なんと……本当に消してしまうとは……。お主は素晴らしいスキルの持ち主じゃ!」
「レベッカ嬢……心の底から感謝いたします。身体が石になる恐怖から解放されました」
女衛兵さんは
「レベッカ、すごいよ! 最高!」
『カッコよかったニャ!』
「さすがは我らがレベッカだ」
「でも、《毒消し》で呪いまで消せちゃうなんて、私もビックリしました」
《毒消し》はあくまで毒を消すだけ。実際にできるか不安だったけど、呪いも解呪できちゃうんだ。王様はしばし考えると、やがて
「レベッカ嬢のスキルは成長しているのかもしれんぞよ」
「え……? い、いや、しかし、成長しないものと私は思っておりましたが……」
「スキルには、まだまだワシらの知らない世界が広がっているのじゃろう。レベッカ嬢はスキルの常識を
王様が言うと、先ほどの女衛兵さんも力強く話した。
「私もそう思います。レベッカ嬢の解呪はどんな薬や回復スキルより強力でした。実際に経験したからわかるのです。あなたのスキルは特別なものだと」
成長しないはずのスキルが成長……。絶対にあり得ないとされていた現象だ。でも、あり得ないとは言い切れない気がする。私は毎日と言ってもいいくらい、《毒消し》を使ってきた。ひょっとしたら、スキルは使えば使うほど成長するのかも……。
「さあ、レベッカ嬢よ。お主のおいしい料理を食べさせておくれ」
「私もすごく楽しみにしておりました」
王様と女衛兵さんの言葉を聞き、現実へと
「改めまして、お
「冷たいお水もありますよ!」
『レベッカの料理は本当においしいニャよ!』
〝カフェ・アンチドート〟八組目のお客さんは、フリーデン王国の王様たち。皆さん、ワクワクした様子で席に着く。このお店には色んな人たちが訪れたけど、今回はさらに一層特別なお客さんだ。みんなのためにも
「では、王様。メニューでございますが、以前お聞きした物でよろしいでしょうか」
「ああ、よろしく頼むぞい。みなもワシと同じでよいか?」
衛兵の皆さんもそろってうなずく。メニューを
「王様にお食事を提供するなんて、宿屋始まって以来だよ! 緊張するぅ!」
『ネッちゃんも緊張で胸が張り裂けそうだニャ』
「ふんっ、レベッカの料理を食べたら、あのジジイは
「「キャ、キャンデさん……あの方は王様……」」
たかが料理、されど料理。お客さんが満足できるかは私の
最大最高級の平常心を呼び覚ませ! 明鏡止水の心で
「さっそく作りますよぉ! パンケーキの素は〈デビルエッグ〉のメレンゲだぁ! まずは、卵を黄身と白身にしっかり分けるぅ!」
「『やっぱり……』」
ボウルに〈デビルエッグ〉を割って入れる。こいつはスイーツにも使える
「お次はかき回していくよぉ! この勢いに
「レベッカの料理は楽しいなぁ……」
『なんだかネッちゃんも気持ちがぽわぽわしてきたニャ』
「私も
くぁぁあ! と、それぞれの卵をかき混ぜる。空気を入れてふんわりしたメレンゲを作るのだ。
「フライパンで焼きますよぉ!
「
『こういうのをかぐわしい香りって言うんだニャ~!』
「ああ、私はあの日を思い出す……そう、レベッカの料理を初めて食べた日だー!」
五分も経たずに、パンケーキは焼き上がった。立ち
「アクセントはベリーのみんなぁ! 出番がきたよぉ! それそれそれそれー!」
「なんという腕
『ただフルーツを並べているだけなのに、すごいカッコいいニャ!』
「新しい技に取り入れるぞー!」
〈ぶるぶるベリー〉と、森でゲットした〈ルーズベリー〉を載せる。どちらも
「『……うぅ~ん、ふんわりふわふわで甘酸っぱ~い!』」
うむ、おいしい。パンケーキはふわんふわんに焼き上がったし、ベリーたちの味も素晴らしい。運ぶ! ……
「お待たせいたしました……〝カフェ・アンチドートのパンケーキ〟でございます……」
「レベッカ嬢は見かけによらず、おてんばな一面もあるんじゃのぉ、ホッホッホッ」
「あ、いえ、本当に申し訳ございません……」
王様は穏やかに笑いながら、私の
「見た目も
「「これがレベッカ嬢のお料理……」」
王様も衛兵の皆さんも、はぁぁ~っと
「では、いただくとするかの」
王様たちは、あ~んとパンケーキをお口に運ぶ。毎度のことながら、この
「皆の者、起立したまえ」
「「はっ!」」
パンケーキを食べた瞬間、王様と衛兵の皆さんが立ち上がった。な、なに!? 突然の事態に
「「……わ~れらがフリーデンは~世界一~。ど~の国より栄えてる~。今日~も一日頑張るぞ~……」」
皆さんは
こ、これは……国歌! フリーデン王国の国歌だ! しかも、王様の生歌。
「「……あああ~フリーデ~ン……!」」
国歌
「王様、衛兵の皆さん。素晴らしい歌をありがとうございます。まさか、王様の歌が聞けるなんて……」
「いやいや、お礼を言うのはこちらの方じゃよ。思わず神聖な国家を歌ってしまうくらい、お主の料理はうまかったのじゃ」
王様は嬉しそうな笑顔で語る。
「こんなにふんわりとしたパンケーキは初めてじゃ。ふわふわなのに、適度な
「ありがとうございます、王様。そちらは、〈デビルエッグ〉から作ったメレンゲで焼いております」
「なんと! あの
「毒消ししてあるので安心してください」
〝カフェ・アンチドート〟がどんなお店かは知っているはずだけど、改めて言われると王様たちは
「お主は〝毒の申し子〟じゃな」
「あ、ありがとうございます」
やはり〝毒の申し子〟……。
王様にまで言われるなんて、正当な評価なのだろうか。そう思いつつ、解せぬ自分がいた。
「このベリーたちもおいしいのぉ。ほどよく甘くて
「近くの森に、
「何を言っておる。食材の
全然大したことじゃないのに、王様は褒めてくださった。うん、感謝の言葉は
「さて、忘れる前にお礼を
「いえ、お代は結構ですので……」
王様にお金をもらうのは何だか悪いな。この国で一番
「なにケジメじゃよ、ケジメ。皆の者、あれを持ってきてくれ」
「「はっ! ……陛下、こちらでございます」」
衛兵さんが一枚の紙を王様に
……ん? ……紙?
「これは小切手じゃ。どれ、これくらいで足りるかの?」
「いやっ! さすがに多すぎます!」
「じゃがのぉ……」
「正規の値段でいいので……」
「ありがとうございます! いただきます!」
わかってはいたけど、ロールちゃんにすごい勢いで回収された。
「はわわ……」
ロールちゃんのはわわが始まる。何はともあれよかった。王様も兵士の皆さんも、興奮した様子で料理のおいしさを語る。それを見て、私はようやく
無事、王様にも喜んでいただくことができた。