第九章:王宮からの使者



「ロールちゃん、金貨も大粒の砂金もレアせきも大量の宝石もプラチナのうでも純銀のメダルも特大のダイヤもしまおうね~」

『そこら辺のダンジョンの宝より高価な品が集まっているんニャよ。もっと自覚持ってほしいニャ』

「んああ~」

 お客さんがたくさん来るようになっても、私の日常は変わらない。ロールちゃんから貴重品を回収し、食材を集め、料理を作る。キャンデさんも相変わらず〝カフェ・アンチドート〟を出入りしているし、ネッちゃんも元気。昨日だって、お風呂からのがれるためお店の中を何周もげ回るほどだった。いつもの毎日が送れる幸せをみしめる。色んな宝物をしまい、ロールちゃんが余韻から覚めたところで、キャンデさんがクエストから帰宅した。

「「お帰りなさい、キャンデさん」」

「ただいま。今回のクエストでは、毒食材は入手できなかった。すまんな」

「いえ、お気になさらないでください。まだまだ保管している食材がありますから」

 キャンデさんはクエストのついでに食材を集めてくれる。でも、おいそがしいときだってあるのだ。感謝の気持ちを込めて〈ポイズンハーブ〉のお茶を出したとき、お店の外から大きな声が聞こえてきた。

「「レベッカ・サンデイズ嬢……レベッカ・サンデイズ嬢はいらっしゃいますかー!?」」

 何人かの男性の声だ。誰だろう。お客さんじゃないことだけはわかった。声だけでもせつまった様子が伝わるのだ。今までにないパターンで、店内に緊張感が生まれる。

「レベッカ、誰だろうね」

『ずいぶんと慌ててるっぽいニャ』

「わ、わからない。聞いたことない声だよ」

「念のため、私もいつしよに出る」

 みんなに付きわれながら、そっととびらを開けた。お店の前には、武装した数人の男性が集まっている。あ……この人たちは……。あいさつしようとしたけど、かれらの武器を見たしゆんかんキャンデさんが飛び出した。

「貴様ら何者だ! とうぞく!? この店をおそうつもりならようしやはしない!」

「「ち、違います、我々は……」」

「キャンデさん、大丈夫です! この人たちはフリーデン王国の衛兵のみなさんです!」

 誤解から争いが始まる前に、慌てて彼らの間に入った。武装した人たちはフリーデン王国の衛兵。その証に、胸には国のもんしようであるけんおのが交差したプレートをつけている。説明すると、キャンデさんも剣を下ろしてくれた。

「……ったく、そうならそうと先に言え」

「「申し訳ございません……」」

 キャンデさんがSランクぼうけんしやの〝わくらんきようせい〟であることを知ると、衛兵の皆さんもきようしゆくしていた。

「あの……レベッカ・サンデイズは私ですが、いったいどうされたんでしょうか?」

「「ああ、お会いできて良かった……。実はですね、今国王陛下が大変なことになっています。サンデイズ食堂にて食事をしたら、非常に強力な毒に襲われてしまったのです」」

「「えぇ!?」」

 おどろく私たちに、彼らは事のしようさいを話してくれた。

 実家は私の追放をかくしたこと……、冷凍保存されていた〈ハザードフグ〉をそのまま出したこと……アンジェラの《傷の癒し手》はおろか、国中のどんな医術師でも治せないこと……。

 要するに、実家の面々は私が注意したことを何も聞いていなかったというわけだ。

「……サンデイズ家がごめいわくをおかけして申し訳ありません……本当に……」

「「い、いえ! レベッカ嬢のせいではないですから!」」

 頭をかかえ謝罪した。家族が本当に申し訳ない。

「「それでですね、レベッカ嬢。ぜひ、あなた様のお力を貸していただきたいのです。聞くところによると、どんな毒も無毒化してしまうとか」」

「ええ、もちろんです! すぐにでも行きます! 私の《毒消し》スキルなら無毒化できると思います」

 こうしちゃいられない。急いで王宮へ行かないと。

「「それを聞いて我々も安心しました。王宮の専属じゆつから転送プレートを預かっています。さあ、こちらへどうぞ」」

 衛兵の皆さんに連れられ、お店前の広々としたスぺースへ。プレートを落とすと、地面にほうじんが刻まれた。私が転送される前に、ネッちゃんが急いで飛んできた。

「ネッちゃん……」

『一緒に行くニャ!』

「あの、ねこようせいも一緒に行けますか?」

「「……え? はい、構いませんよ。さあ、行きましょう」」

 ネッちゃんとともに魔法陣の中心へ立つ。

「レベッカ、気を付けてね!」

「毒なんかさっさと消して戻ってこい!」

 ロールちゃんとキャンデさんがおうえんしてくれる。ありがとう、二人とも……。温かい声に笑顔で答えた。

「「〈テレポーテーション〉! 我らをフリーデン王国の王宮へ転送せよ!」」

 衛兵の皆さんがじゆもんを唱え、じよじよに白い光が私たちをおおう。これが転送魔法……目を開けたときには王宮に着いているのかな。そう思っているうちに、白い光に包まれた。


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「「レベッカ嬢、どうぞ目を開けてください。王宮に着きましたよ」」

「『うっ……』」

 光に包まれて数秒後、衛兵さんの声が聞こえた。そっと目を開ける。石造りのろうに、私とネッちゃんは立っていた。

「「お身体に異常はありませんか? 人によっては軽いめまいを起こすことがあります」」

「私は大丈夫です。ネッちゃんは平気?」

『全然平気だニャ!』

「「良かったです。それでは、さっそくですが国王陛下の毒消しをお願いします。陛下はその扉の中にいらっしゃいます」」

 私たちの目の前には大きな扉がある。あのおくに、毒で苦しむ王様がいるのだ。グッと気合を入れた。

「はいっ、お願いしますっ」

 衛兵さんたちが扉を開き、私たちを案内する。入ってすぐのベッドに……王様はていた。見ただけで体調の悪さがわかる。お顔も唇も真っ青で、呼吸も非常に浅い。息を吸えていないんじゃないか、と思うくらいだ。苦しみの表情から、私の胸まで痛くなった。ベッドの周りには、医術師や薬師たちがいる。みな、緊張したおもちで私を見た。どうやら、すでに話は伝わっているようだ。

「王様……今、治しますからね」

 気持ちを落ち着けながらベッドのそばに行く。いくら強力な毒でも、所詮はただの毒。私のスキルで無毒化できるはず……。王様の胸に手を当てりよくを込める。

「《毒消し》!」

 いつものように、私の手が白く光る。何度も私を助けてくれたやさしくも力強い光。

 今度は王様を助けて……!

 いつしようけんめい魔力を込める。魔力を込めて、何分も何時間も経った気がする……いや、実際はわずか数秒だったかもしれない……。時間の感覚がわからなくなるほどの緊張感に襲われたとき、その瞬間はとつぜんおとずれた。

「はぁ……はぁ……がはっ! げほっ、ごほっ! はぁはぁ、ワシはどうなったんじゃ……? ……生きているのか?」

 王様はせきみながらガバッと起き上がり、何度も不思議そうに胸をさすっていた。慌てて周りの人たちが駆け寄る。

「「国王陛下! ご無事ですか! 体調は問題ありませんか!?」」

「ああ、ごくのような苦しみがキレイサッパリ消えてしもうた。不思議なこともあるもんじゃの……おや? こちらのお嬢さんは?」

「「そちらはレベッカ・サンデイズ嬢です! レベッカ嬢が類まれな《毒消し》スキルで国王陛下をどくしてくれました!」」

「なんと!」

 王様はガシッと私の手を握り、笑顔でお礼を言ってくれた。

「そなたがレベッカ嬢だったか! 会えてうれしいぞよ! ありがとう……ありがとう、レベッカ嬢! 殿でんは命の恩人じゃ!」

「は、はい、私も治せて良かったです」

 王様の言葉を皮切りに、室内のみなさんがいっせいに叫ぶ。

「「お……王様が回復されたぞー!」」

 かんの叫び声がとどろき、何人もの衛兵さんがなだれ込んできた。

「王様が治ったって本当ですか!? ああ、ベッドに起き上がられている! 顔色も良い!」

「レベッカ嬢! あなたならどうにかしてくださると思いました!」

「ありがとうございます、レベッカ嬢! あなたはこの国を救ってくださったのです!」

 せいじやくとは打って変わった室内で、私とネッちゃんは顔を見合わせる。

 無事、王様が元気になってくれて良かった。