間章:そつとう(Side:アンジェラ)



 これで食材は確保できた。あとは適当に調理すれば……。

「アンジェラ! 何をやってるの! 早く作りなさい!」

「国王陛下が待っているんだぞ! いつまでぼんやりするつもりだ!」

 お母様たちがキッチンにやってきた……。ウンザリして気絶しそう。

「今ちょうど食材を見つけたところです。さあ、お母様どうぞ」

 凍った魚をお母様に差し出す。だが、受け取らない。お義父様に差し出す。こちらも受け取らない。

「あんたが調理しなさい、アンジェラ。私は料理なんかしないわよ」

「そうだ、そうだ。アンジェラがやりたまえ。レベッカの妹なんだからできるだろ」

「……はぁ!?

 二人は揃ってあたくしに料理しろと言いまくる。この役立たずどもがぁ。とはいえ、調理しないことには何も始まらない。何より、このまま出したら、不敬罪と言われる危険だってある。魚を丸ごとだもの。ぐぅ、どうする。

 しばし考えた結果、焼くことにした。魚なんて火を通せばいいのよ、火を通せば。加熱しとけば、とりあえずは食べられるでしょ。かまどに火をつけフライパンを載せ、ドカッと魚を置いた。そのまま、焼き上がるまでジッと待つ。少しすると、お母様たちがげんな表情で話した。

「……アンジェラ、これでいいの? ただ焼いているだけじゃない」

「うまくもなんともなさそうだが……」

「うるさいわね! 料理なんかやったことないのだから仕方ないでしょ!」

 お母様たちのいやを振りはらうように言う。文句あるんなら自分でやれっての。五分ほど焼いていると魚の氷も解けてきて、じゅううっという音がした。焼き加減とかもよくわからないけど、適当でいいでしょう。ちょうどいい具合にソースの入れ物があったので、ドバドバッとかける。王様と言えど、しよせんはおじいさん。そんな人に出す料理は味がついてりゃいいのよ。カッコいい王太子なら別だけどね。黒っぽいソースをかけたら、色が変わって美味しそうな見た目になった。

「あら、意外と良さそうじゃない。アンジェラもやればできるのね。感心したわ」

「ふむ、悪くないな。これなら王様も満足するかもしれん。できるんなら早くやればいいんだ」

 お母様とお義父様が、地味に嫌味のある評価を下す。……いちいち腹立つわね。はんこうするとめんどうなので、適当な皿にうつえて食堂へ運ぶ。王様はワクワクした様子で待っていた。さっさと食べさせて早く追い返そう。

「お待たせしました。お料理を持って参りました」

「おぉ、今か今かと待っておったぞ」

「どうぞ」

 お皿をテーブルに置くと、王様は嬉しそうながおになった。

「ほぉ、ずいぶんと大きな魚じゃの。これは何という名前の料理なんじゃ?」

「……え?」

 料理名? そんなものあるわけないでしょうが。まどっていると衛兵たちが訝しげな表情に変わったので、あわてて適当な名前を考える。

「そうですねぇ……えっと、〝魚のソース焼き〟でございます」

「見たまんまじゃの。まぁ、名前より大事なのはもちろん味じゃ。では、さっそくいただくとしよう」

 王様は軽くおいのりをささげると、フォークとナイフを手に取った。すいすいっとなぞの魚を切り分ける。ソースにつけてあ~んと食べた。

「ずいぶんとしょっぱい味付けじゃの。魚もなんだか冷たいし……」

 王様は文句を言いながら魚を食べる。もしかして、食べ終わるまで待ってなきゃいけないの? はぁ、めんど。さっさと食べてよね。気がついたら、お母様とお義父様があたくしのとなりにいた。ニコニコと人受けがいい笑顔を王様に向ける。

 は? なに、良いとこどりしようとしてんのよ。

 この調子の良さはあきれ果てるわね。イライラしていると、十分くらいで王様の食事は終わった。

「ふぅ、ごそうになったの。思ったほどではなかったが、おいしい食事だったぞよ。さて、レベッカ嬢にお礼を……」

 王様は立ち上がろうとした体勢で、ピタリと止まった。今度は何。デザートが食べたいとか言うんじゃないでしょうね。そんなもの用意してないわよ。やれやれと思っていたら……王様はゆらりとゆかたおれてしまった。張りめるような緊張感が室内を包む。

「「お、王様? ……王様!?」」

 衛兵たちがおおあわてでけ寄った。けんめいするけど、王様は動かない。チラッと見たら、顔面が真っ青でくちびるがブルブルと震えていた。あたくしまでこわくなり背筋が凍る。

「「レベッカ嬢ー、レベッカ嬢ー! 大変ですぞ! 王様が卒倒しました!」」

 衛兵たちはキッチンになだれ込む。ドタドタと激しい音がしたと思ったら、数分もたずに食堂へもどってきた。

「「レベッカ嬢はどちらに!?」」

「「あっ……」」

 あたくしたちは返答にきゆうする。答えに困っていると、お母様が開き直ったように告げた。

「も、もういませんわ。先日追放しましたから」

「「いないだって!? じゃあ、この料理は誰が作ったんだ!?」」

「「アンジェラです」」

 打って変わって、お母様とお義父様はそくに返答した。あたくしを指差して。ちょ、ちょっと、やめなさいよ。お母様たちの指を下ろしていたら、衛兵につかみかかられた。

「「いったい何を食べさせたんだ!」」

「さ、魚よ! 魚! それよりも、あたくしには回復スキルがあるのよ! 王様を治してあげるわ! その名もなんと~?」

「「早くしろ!」」

《傷の癒し手》と言う前に、王様の前にき出された。ったく、もっと丁寧にしなさい。こんなにか弱くて美しいれいじようなのだから。お義姉様を追い出してから、あたくしは何度かスキルを使っている。森のスライムに石をぶつけてケガをさせ、治してやったのだ。あたくしが魔力を込めれば、傷は一瞬でふさがった。だから、今回もだいじよう。……とは言ったものの、目の前の王様を見ると気が引けた。

「く、苦しい…………こんなに苦しいのは……生まれて初めてじゃ……」

 王様は消え入りそうな声でつぶやくばかりだ。唇は真っ青でブルブル震え、額からはあぶらあせにじむ。づいたけど、すぐ考えを改めた。ここで王様を助けたら、あたくしの評価はきゆうじようしようするわね。むしろ、功績により王太子のきさきになれるかもしれない。

 具合が悪くなったのだって、どうせ古傷が痛んだとかでしょ?

 王様の胸に手を当て魔力を込める。

「《傷の癒し手》!」

 あたくしの手が緑色に光った。うん、いつも通りだ。

「「おお……回復スキルの光だぞ」」

 衛兵たちのかんたんとする声が聞こえる。ふんっ、あたくしの力を思い知ったかしら。せいぜい、そこでありがたく思っていなさい。魔力を注ぐこと数分。

 ど、どうしよう……全然治らない……。