『ああ、かたよった食生活は健康にも悪い。よく言われる血を吸うのは、特別なときだけだ』

「なるほど」

 ふーん、そうなんだぁ。思えば、本物の吸血鬼に会ったのは初めて。伝承といっても、結局はただのウワサ話。真実は違うというわけだね。

『これでも私はこうしやく家の出身なんだ』

 グリゴリーさんはとんでもない一言を放つ。

「えっ、侯爵家!? すみません、そんな位の高い方だったなんて知りませんでした。色々と失礼を……」

『いや、別に気にすることはない。そもそも、失礼なことなどなにもしてないのだから』

「ありがとうございます。でも、吸血鬼にもしやくがあるなんて初めて聞きました」

『まぁ、歴史の深い〝亜人〟だからな』

「さようでございますか……」

 どうりで高貴な印象があると思った。まさか、吸血鬼の貴族だったとは。

『君の料理の腕をんで……私からたのみがある』

「はい、なんでしょう」

 頼み……。これは初めての展開だ。料理系のお願いだったらいいな。私はご飯を作るしか能がないからね。グリゴリーさんは深呼吸すると、静かに告げた。

『どうかこの店を……私のプロポーズの場とさせてくれないか?』

「えっ、それはどういう意味で……?」

「『ダメーーーー!』」

『な、なに!?

 突然、キッチンでひかえていたロールちゃん、ネッちゃん、キャンデさんがんできた。私とグリゴリーさんの間に。

『レベッカは絶対に渡さないニャ! ネッちゃんとずっと一緒にいるのニャ!』

「わたしに許可なく、レベッカとけつこんだなんてダメですっ! レベッカがよくてもわたしが認めませんっ!」

「いくら侯爵家でも横暴すぎるぞっ! これはれっきとした討伐理由になるっ!」

 三人は興奮した様子でまくしたてる。なんかもろもろかんちがいしているらしい。

「あ、あの、ちょっと、みんな落ち着いて……」

『わ、私は別にレベッカじようにプロポーズするわけじゃ……』

「『これが落ち着いていられるかぁ(ニャ)!』」

 三人は私たちの言葉など聞こえないように、わあわあわあとさわぎまくる。グリゴリーさんのプロポーズ相手が私のはずがない。だって、今日会ったばかりなんだから。まずはとりあえず話を……と、何度も何度もお願いするばかりだった。


□□□


『私には人間のこいびとがいるんだ。理解を深めるため、つねごろから人間の料理を食べるようにしている』

「『あっ、はい(ニャ)……』」

 グリゴリーさんから事情を聞くと、ネッちゃんたちは落ち着いた。一通り自己しようかいも終わったので、グリゴリーさんともきよが近づいたと思う。

てきなお話ですね。種族が違う恋人のために歩み寄るなんて、グリゴリーさんのやさしさが伝わります」

『ありがとう、レベッカ嬢。あのは本当に優しい子なんだ。吸血鬼の私にも分けへだてなく接してくれる』

「で、二人の出会いはなんだったんだ?」

 キャンデさんはあんなに討伐うんぬん言っていたのに、今や一番乗り気で質問していた。

『あれはそう、今から三年前だ。私の領地に広がる深い森で、ものに襲われている彼女を救ったのがきっかけだった』

 それから、恋人さんは不当にこんやくされ、追放までされたごれいじようということも聞いた。悪役令嬢だとふいちようされひどく傷ついた彼女は、心身ともグリゴリーさんに救われたそうだ。たがいに愛を深める毎日は、本当に幸せだと言っていた。

「なんて……なんて感動的な話! わたし、なみだが止まらないです……!」

「そ、そんな深い話があったとは……! うっうっ、私は自分の心のせまさがずかしい……!」

『ネッちゃんは感動したニャ! 感動したニャよ!』

 ロールちゃん、キャンデさん、ネッちゃんは大号泣。涙をき、勢いよく鼻をかみ……三人とも感情豊かな性格なのだ。ちなみに私は泣いてないけど、別にごくあくどうだと言いたいわけでない。

『私と彼女の気持ちは通じ合っていると思う。だが……なかなか最後の勇気を持てないのだ』

 そう言うと、グリゴリーさんはややしょんぼりとした。大事な関係だからこそ、踏みめないのだろう。サンデイズ食堂のお客さんにも、同じようなじようきようの方がいた。互いに特別な関係だとおもい合っているのに、最後の一歩が踏み出せない……。そのもどかしい気持ちはよくわかる。グリゴリーさんはピシリと姿勢を正すと、すわったまま丁寧におした。

『だからレベッカ嬢……私に力を貸してくれないか? 君のおいしい食事があれば、彼女へのプロポーズもうまくいくと思うんだ』

 態度や言葉の端々から、グリゴリーさんのしんな思いが伝わる。もちろん、私の答えはただ一つだ。

「ええ、ぜひ任せてください。絶対に成功させてみせます」

 私にできることはおいしい料理を作ることだけ。でも、せいいつぱいがんるだけだ。

『レベッカ嬢……ありがとう……』

 相談した結果、食事はコース料理を、プロポーズは来週の満月の日に決まった。決心が揺らがないうちに気持ちを伝えたいそうだ。代金をはらい、グリゴリーさんは帰る。

 その日は、初めてロールちゃんがはわわ……しない日となった。


□□□


「では、レシピを考えますか」

 翌日のキッチン。さっそく、グリゴリーさんのプロポーズに向けてのレシピを考えることとした。

「レベッカ、どんな料理にするの?」

『やっぱりごうなメニューかニャ?』

 サンデイズ食堂でプロポーズやけつこんしきのような経験をしたことはない。田舎いなかのしがない食堂だったからね。それでも、どんなお料理がいいかはわかる。

「味はもちろんだけど、見ているだけで楽しい気持ちになるメニューがいいね。うん、晴れやかなイメージのお料理にしよう」

「『おぉ……たよりがいがある(ニャ)』」

 プロポーズなんて、人生で一番緊張するイベントだろう。思い出に残って、グリゴリーさんの愛がしっかり伝わるような品々を作りたい。保存中の食材を見る。

〈満月茸〉、〈じよリンゴ〉、〈どくどくチキン〉、〈あばれんぼうサーモン〉、〈いちげきいちご〉、〈雷神鳥〉などなど……。どれも良い食材だけど……。

「コース料理となると、ちょっと荷が重いかも。新しい食材を探しにいこうかな」

「わたしも手伝うよ。少しでも力になりたいし」

『ネッちゃんもいつしよに行くニャ。おいしそうな食材を探すニャよ』

「ありがとう、二人とも」

 出かけようと食堂へ向かうと、キャンデさんが武器の準備をしていた。

「食材を探しに行くのだろ? 私も協力するぞ」

「えっ、いいんですか? キャンデさんがいてくれたら最高です。……あっ、でも、クエストでお忙しいんじゃ……」

「あんな話を聞いた後では、力を貸さずにはいられないじゃないか」

 キャンデさんは思い出し泣きしたのか、目元がっすらと赤かった。昨日の感動はいんとなって残っているらしい。自然となおな感想が口をついて出る。

「キャンデさんって……お優しいですよね」

「さすがはSランク冒険者。心も広い……」

『こう見えても温かい心を持っているんニャね』

 私が言うことに、ロールちゃんとネッちゃんも賛同した。うんうんと私たちがうなずいていると、キャンデさんは顔を真っ赤にして否定する。

「バ、バカ言うなっ! こ、これはあれだ! ついでだ! クエストのついでに行くんだ!」

 照れたキャンデさんは、おこった様子でずかずかと歩きだす。私たち〝カフェ・アンチドート〟一同は、ここ一番の食材探しへと足をみ出した。