第七章:〝雷 神 鳥のソテー、毒リコットのジャム添 えと爆 裂 モロコシの炙 り菓 子 〟
「ロールちゃん、金貨も
『せっかくの警戒心はどこ行ったのニャ』
「うぅ~ん、だってぇ~……」
お昼ご飯の後。相変わらず、私たちはロールちゃんから貴重品を回収する日々だ。隠し金庫にしまっても、目を
「おーい、またうまそうな食材を見つけてきたぞ」
「キャンデさん、お帰りなさい。ほら、ロールちゃん、しっかりして」
キャンデさんもまた、食材調達に協力してくれる毎日だ。クエストでお
「私にとっても久しぶりの大物だったぞ。〝毒の森〟をうろついていた」
ドサリと置かれたのは大きな鳥。短くて太い
「ららら〈雷神鳥〉じゃぁないですかぁ~!」
雷の
「ネッ! 隠れ
『するわけないニャ! だから、ネッちゃんは
キャンデさんとネッちゃんが何か
「ついでに果物も採取してきた」
「〈毒リコット〉とまた出会えるなんて!」
「〝毒の森〟を南に進むと〝
差し出されたのは、
「ネコは果物も好きそうだな」
『
だがしかし! 決して油断することなかれ。その身には危険な毒が詰まっている。一口
「〝冥闇沼〟では、こんな物も見つけた。これからはもっと
「〈爆裂モロコシ〉のお出ましだ~!」
テーブルに置かれたのは紫色のトウモロコシ。見た目通りの毒々しい食材。食べた毒は身体の中で
「と、まぁ、こんな感じだが。どうだ?」
「どれもこれも素晴らしい食材ばかりです。まさしく、毒食材が
「あひゃひゃひゃっ! 鳥が選り取り
たったそれだけで大笑いするキャンデさん。日々クエストで命のやり取りをしていると、笑いのツボが浅くなるのだろうか。
『これで本当にSランク
ネッちゃんはため息交じりに
「新しい食材が入ったことだし、レシピを考えようかな」
「私は甘い味付けが好きだぞ」
『ネッちゃんはしょっぱい味がいいニャ!』
何はともあれ、レシピを考えるのはワクワクするね。あれこれ頭の中で料理を始める。う~ん、やっぱりロールちゃんの意見も聞きたいな。ここの宿の主人だし。
「ロールちゃん、一緒にレシピ考えよ~?」
返事がない。そういえば、さっきからどこにいるんだろ。心配になって食堂に戻ると、窓のそばに彼女はいた。険しい顔でお店の外を見張っている。
「あ、あの……どうしたの?」
「安心して、レベッカ。怪しい人はいないみたい」
エルフ
□□□
「今日はお客さん来なかったね、レベッカ」
「うん。来るとしたらお
『きっと、みんなお腹いっぱいだったんだニャ』
夕方が過ぎ、夜が深くなってくる。キャンデさんはもう
「ロールちゃん、看板片づけようか」
「そうだね。もう
『ネッちゃんも手伝うニャ』
みんなでぞろぞろと入り口へ向かう。やれやれ、店じまいか。
『すまない。開いているか?』
扉に手をかけようとしたとき、自然にガチャリと開かれた。誰かが開けたから。静かに入ってきたのは、いかにも
でも違う。人間より大きく
「『あっ……』」
予期せぬ来客に、思わず身体が固まる。きゅ、吸血鬼!?
彼らは〝
『夜分
「『え……?』」
『やはり、もう遅かったか……迷惑をかけたな。失礼する』
吸血鬼さんはしょんぼりしながら扉を閉めていく……。ので、
「お、お待ちくださいっ。まだやってます! ご飯作れますよ!」
『……そうなのか? てっきりもう閉店かと思ったが』
「お気になさらずっ、こちらへどうぞっ」
吸血鬼さんをテーブルにご案内する。お水とメニューをお出ししたら、ロールちゃんにすごい勢いでキッチンに連行された。きつい顔で
「レベッカ!」
「は、はい、なんでしょうっ」
「どうしてお店に入れちゃったの!」
小声で問い詰められた。
「ど、どうしてって、お客さん……」
「吸血鬼なんて怪しいでしょっ!」
こういう展開はある程度予想していた。でも大丈夫。いい答え方がある。
「ロールちゃん、落ち着いて聞いて。吸血鬼の苦手な物はなに?」
「苦、手、な物……?」
ロールちゃんはしばしの間考えると、ぽつぽつと呟きだした。
「にんにく……
「そうそう。他には何があるかな?」
う~んと考えるロールちゃん。
「……銀の
「そうだよ! 銀が苦手なんだから、純銀のメダルはおろか、金貨も宝石も
「たしかに!」
ロールちゃんはポンッ! と手を
『で、でも、レベッカ。料理は何を出すんだニャ』
「何をって、普通のご飯だよ」
『血とかじゃなくていいのかニャ』
「……たしかに」
吸血鬼と言えば、血を吸うお方……のイメージ。我々が食べるようなご飯は食されるのだろうか。言うまでもなく、〝カフェ・アンチドート〟に血液の類はない。
『もし血がなかったら、ネッちゃんたちの血でお腹を満たすかもしれないニャよ』
「そんな……」
お、思ったより大変なお客さんだった。怖い話が現実
『きっと、どの料理が一番血の気が多いか確かめているんだニャ』
「怖いこと言わないでよ、ネッちゃん。選んでいるだけだってば」
『血の
「もうっ! メニューを聞いてくるからねっ!」
ネッちゃんが
「ご、ご注文はお決まりでしょうか?」
『これを作ってほしい』
そのスラリとした美しい指が差しているのは……。
「〝雷神鳥のソテー、毒リコットのジャム添えと爆裂モロコシの炙り菓子〟でございますね」
昼間、キャンデさんが採ってきてくれた食材の料理だ。レシピを考え、すでにメニューへ
『ああ、そうだ。……できるか?』
「ええ、もちろんでございます。ちょうど今日の昼、
『なるほど、それは楽しみだ』
吸血鬼さんは笑顔で話す。思ったより普通の人だった。……いや、人って言うのはおかしいかもだけど。明るい気持ちでキッチンに戻ると、ネッちゃんが出迎えてくれた。
『別に怪しくなんかなかったニャね。実はネッちゃんも心配だったニャ』
「うん、すごく良い人だったよ」
「銀はダメでも金や宝石なら問題ないかも……むしろ、レア魔石ならパワーアップする可能性だってあるし……」
ロールちゃんはまたぶつぶつと何かを呟いていた。せっかく安心させられたと思ったのに……。まぁ、それは置いといて調理を始めましょうか。吸血鬼さんもお腹を
「〈雷神鳥〉は一口大に切りますよぉ! 筋取りが
「どうして吸血鬼が人間の料理を食べるんだろう……怪しい」
『今回もまた一波乱ありそうだニャね』
昼間の内に下処理は済ませていたから、後は切り分けるだけ。それにしても〈雷神鳥〉は柔らかい。ナイフを入れただけで、すーいすーいと切れていく。柔らかいから分厚くても良いのだ。うまみが詰まった
「ジュウウウウ!」
「自ら調理音を……」
『いつにも増して気合十分だニャね』
「〈爆裂モロコシ〉の
「レベッカ見てると楽しくなってくる……」
『いつものように、ネッちゃんも騒ぎたくなってきたニャ』
〈爆裂モロコシ〉の粒を熱したフライパンにイン! 蓋をしてゆさゆさ
「『……う~ん、サクサクふわふわ(ニャ)~』」
噛むたびに広がる香ばしさと、ほどよいしょっぱさが美味! 軽い食感なのに食べ応えがしっかりあるね。なぜならモロコシだから。味見が終わったところで、〈雷神鳥〉にもしっかり火が通ったようだ。最後の仕上げ。
「味付けは〈毒リコット〉のジャムぅ! 昼間作っておいたぁ!」
果実の種と皮を取って、ぐりぐりぐりと混ぜ合わせたものだ。果肉をふんだんに使ったので、豊かな甘酸っぱさがさらに
「蓋を開けただけで香る自然の
『食べる前から口の中が甘酸っぱくなってくるニャ!』
〈雷神鳥〉のソテーに丁寧にかける。とろりと載っかるオレンジ色のジャム。味見。
「『ベリ~デリシャス(ニャ)~』」
お肉の柔らかさとジャムの酸味がベストマッチ。いやぁ、これはうまい。
「おい、レベッカ。夜食の時間だ。腹が減ったぞ」
「あっ、キャンデさん、おはようございます」
料理ができあがったところで、キャンデさんがキッチンに入ってきた。彼女はたまに、夕ご飯後の夜食を所望するのだ。しかも、軽食かと思いきや、結構ガッツリめな料理を。
「おっ、さっそく今日の鳥か。ほぉ~、
「すみません、食べないでください。これはお客さんに出すお料理でして」
「客ぅ? こんな時間にぃ?
キャンデさんはキッチンからひょいと食堂を
「ぬわぁにぃっ! きゅ、吸血鬼じゃないか!
「キャンデさん、落ち着いて! 私たちのお客さんですから!」
『まだ何もしてないニャ!』
「ええい、どけ! よくわからんが、冒険者の血が騒ぐんだ!」
「『抑えてっ(ニャ)!』」
「……お待たせしました。〝雷神鳥のソテー、毒リコットのジャム添えと爆裂モロコシの炙り菓子〟でございます」
『ハハハ、ずいぶんと
また苦情を言われるのかと思ったが、吸血鬼さんは笑顔を見せてくれた。ちょっと安心。
「温かいうちにどうぞお
『では、さっそくいただこう』
吸血鬼さんはお肉を上品に切り分け、お口へ運ぶ。ゴクリと緊張してその光景を見る。果たして人間の味覚が合うのかどうか、それが問題だ。
『……』
吸血鬼さんは静かに料理を食べられている。丁寧にナイフで切ってはジャムにつけ、お口に運ぶ。〈爆裂モロコシ〉のお菓子も静々と食べる。特にリアクションはなさそうだったので、私もキッチンへ戻る。ネッちゃんは不思議そうな顔で呟いた。
『なんか静かなお客さんだニャ』
「そうだね。これが
「静かすぎるのもまた怪しい……」
「我々を襲うための力を
二人とも失礼な。ロールちゃんとキャンデさんがそんなことを言っている間にも、吸血鬼さんは静かに食事を進める。彼女らはああ言っているけど、私にはとても丁寧な人に思えた。
『……料理を作った方、こちらに来てくれないか?』
キッチンにまで吸血鬼さんの声が届いた。どうやら、お食事が終わったらしい。
「え……ど、どうしたの?」
『いよいよデザートの時間だニャっ』
「きっと、レベッカの血を吸いつくすつもりなんだっ」
何を言い出すかと思ったら……。心配してくれるのはありがたいけど、さすがに
「あはは、あり得ないって。もうお腹いっぱいだろうし」
笑いながら言ったものの、徐々に不安になってきた。こう見えても、私は
「……あり得ませんよね、キャンデさん?」
「いや、十分あり得るぞ。吸血鬼といえば人間の血が大好物だ。特に若い女性の血が……という話が有名だからな」
「そんな……」
キャンデさんに同意を求めた結果、硬い表情で告げられてしまった。追い打ちをかけるように、ロールちゃんとネッちゃんも注意
『
「何かあったらキャンデさんと一緒に助けに行くからねっ」
「私の剣を持っていけ」
キャンデさんの剣はお断りして、食堂に向かう。怖くないと言えばウソだけど、考えていても仕方がない。ええい、血を吸われたらその時はその時だ。《毒消し》スキルで抵抗しまくれ。
『君がシェフかね?』
「は、はい、レベッカ・サンデイズと申します」
吸血鬼さんは相変わらず静かだ。表情にも変化がないし、まるで絵画みたい。いや、違う。
『君の作った料理に私は深く感動した。食事でこんなに感激するとは思わなかった』
「あ、ありがとうございます。
『
「あ、いえ、こちらこそよろしくお願いします」
この方はグリゴリーさんというのか。私たちは握手を
『あんなにおいしい鶏肉のソテーを食べたのは生まれて初めてだ。ナイフが抵抗なく入る柔らかさと、品のある深い味わいは
「鶏肉は〈雷神鳥〉を、ジャムには〈毒リコット〉を使用しました」
『どちらも有名な毒食材ではないか。それをこんなに
グリゴリーさんは
「《毒消し》というスキルで無毒化して調理しています」
『ほぉ、初めて聞いたスキルだ。というと、あのふわふわした菓子も毒の食材から作ったのか? 豊かな香ばしさが鼻をくすぐり、食べる前から胸が熱くなった。これはどんなにおいしいのだろうと……。食感だけでなく、塩味の加減も見事だった』
「はい、あれは〈爆裂モロコシ〉から作りました。炙ると弾けてあのようなお菓子になるんです。塩味は食材に元々ついている味を
『聞けば聞くほど素晴らしい話だ』
グリゴリーさんは驚きながら私の説明を聞いた。吸血鬼の中でも、毒食材は食べられないことで有名らしい。気に入ってくれてよかったな。チラッとロールちゃんたちの様子を
「あの、吸血鬼の方々も私たちみたいなお食事をされるんですか?」