第六章:〝いちげきいちごのたっぷり満足パフェ〟



「右も左もキラキラ~。宝箱の中にいるみたい~」

「ロールちゃん、金貨もレアせきもたくさんの宝石もしまってね。ピカピカだからね」

『いい加減わかってほしいニャよ』

 ロールちゃんがテーブルに広げた貴重品を、ネッちゃんと集めてかくし金庫にしまう。日ごとに財産が増え、色んな意味で危なくなってきた。室内から宝物庫のごとき輝きが消えるも、ロールちゃんはふわふわしたままだ。

「ロールちゃん、しっかりしてよ。起きて」

「起きてるぅ~」

『まだまだ夢の中ニャね』

 財産が増えるほど、ロールちゃんのいんは長くなる。いずれ、どうにかしたいところだね。しばらくすっていると、その目に少しずつ力がもどってきた。じよじよに、いつものたよりがいがあるロールちゃんになる。

「ねえ、ロールちゃん。今日は何をしようか。また片付けでもする?」

「そうだねぇ……せっかくの休みだから有効活用したいところだけどぉ……」

〝カフェ・アンチドート〟は、週に二日休むことにした。定休日を作ったのだ。休みの日は、食材調達やカフェの整理にてる。まぁ、私は毎日料理しても全然つかれないけどね。毒食材にれれば触れるほど、体の中から元気がみなぎるのだ。ロールちゃんはしばしあごに手を当て考えていたけど、やがてポンッと手をたたいて笑顔で言った。

「……そうだ! いつもと違う場所に食材を探しに行かない? レベッカも色んな食材を使いたいでしょ?」

「いいね! 大賛成だよ」

『ネッちゃんも賛成だニャ』

 相変わらず、毒食材は〝毒の森〟かキャンデさん経由で入手することが多かった。森にしろキャンデさんにしろ、毎回多種多様な食材が手に入るけど、そろそろ行動はんを広げてもいいだろう。食材の種類が多いほど、作れる料理のはばも広がるのだ。

「たしか、宿のおくに〝テトモモハ〟の地図があったはず……ちょっと待っててね」

 ロールちゃんはカウンターの奥に行き、五分ほどすると戻ってきた。手ににぎるは丸まった羊皮紙。テーブルに広げると、大きな地図が展開された。

「ここから西に行くと、〝パルグタウン〟っていう小さな町があるよ。その近くには豊かな森があるから、珍しい食材がたくさん手に入るかも。なにせ、〝ほうじようの森〟って呼ばれているくらいだからね」

「ふ~ん。聞いただけで豊かそうな森だね」

『〝毒の森〟とは偉いちがいだニャよ』

〝パルグタウン〟は〝カフェ・アンチドート〟からちょうど真西の方角にある。歩いて片道一時間ほどらしい。食材は地域が変われば種類もガラッと変わるからね。いやぁ、楽しみ楽しみ。愉快な気持ちになったけど、次の瞬間にはある重大な事案に気づいた。ネッちゃんもまた、張り詰めた表情でふるえている。

「ロ、ロールちゃん、一ついいかな……」

『大変ニャ……』

「どうしたの、二人とも。そんなに深刻な顔をして」

「貴重品がぬすまれたらどうしよう……。キャンデさんもいないし……」

『人っ子一人いなくなるニャ……』

 キャンデさんは早朝からクエストだ。夕方までには帰ってくる、みたいなことを言っていたっけ。逆に言うと、それまでは宿が無人になる。〝毒の森〟は宿屋の周りにあるし、いつものたんさくは三十分ほどで終わる。でも、今回はそこそこの遠出だ。ロールちゃんの半身とも言える貴重品が盗まれたら……と考えると、心配で胸が張りけそうだった。

「なんだ、そんなことか。レベッカの料理の方が大事だよ。わたしたちのためにも、ずっとおいしい料理を作ってね」

「『ロールちゃん……』」

 予想に反して、ロールちゃんは笑顔で答えてくれた。貴重品より友達を優先してくれるなんて……。いつもはしゆせんなロールちゃんが、その時ばかりは天使のように見えた。

「毒食材のない森だから、新しいメニューが生まれるかもよ」

 ロールちゃんは生き生きと話す。が、私の耳はしようげきをもってその言葉を受け止めた。

「……え? 〝豊穣の森〟には毒食材ないの?」

「うん、昔から一つもないよ。森にあるのは、おいしい無害の食べ物ばかり。だから、豊穣なんて名前がついているんだけどね」

「そ、そんな……」

 かのじよの言葉を聞いた瞬間、なぜか体の力がしおしおとけていく。ロールちゃんがあわてて私の体を揺する。

「ど、どうしたの、レベッカ! だいじよう!?

『毒食材がないと聞いて、テンション下がっただけニャ』

「ああ~」

 これまた、なぜかなつとくした様子のロールちゃん。何に納得したのだろう。

『さっさと準備して行くニャ』

「そうだね。おやつに、レベッカの〝ポイクッキー〟も持っていこうか」

 二人はテキパキと準備を進める。ぼんやりした視界の隅で、ロールちゃんが書き置きを残しているのが見えた。キャンデさんにもあいかぎわたしてあるので、鍵を閉めても特に問題ない。まぁ、いざとなったらどうにかして入りそうだけど。

「レベッカ、そろそろ行くからね。ほら、かばんも用意しといたよ」

『しっかりしてニャ。だんのレベッカに戻るんニャよ』

 ロールちゃんにかたけカバンを持たされ宿の外に出るも、いまいち気分が上がらない。

「ほら、レベッカ。ちゃんと歩いてよ~」

『いくら毒食材がないからってテンション低すぎニャ』

「う~ん……」

 ロールちゃんとネッちゃんが私の背中を押す。二人に押されて、ようやく足が前に出た。なんだか、いつもより元気が出ないのだ。背中を押されながら西に向かう。疲れが溜まっているのかなぁ~?


「ロールちゃん、ネッちゃん~、なんか町が見えてきたね~」

「はぁ……はぁ……ようやく着いた……」

『まさか、ずっと背中を押し続けるハメにニャるなんて……』

 宿屋から西に進むこと数時間。〝パルグタウン〟にとうちやくした。レンガ造りの家々が並ぶ小さな町だ。小一時間と聞いていたけど、なぜか倍くらいかかった気がする。道には子どもの遊ぶ声や、商売の陽気な掛け声があふれる。小さいながらも町民は多いようだ。

「レ、レベッカ……自分の足で歩い……て……」

『も、もう限界だニャ……』

「だって、力がぁ~」

〝カフェ・アンチドート〟を出てから、私の足には力が入らない。いったいどうして。

『毒食材を食べさせてみたら復活するかもニャ……』

「なるほど……」

 ロールちゃんとネッちゃんと小声で話すと、おやつの〝ポイクッキー〟を渡してきた。

「レベッカ、〝ポイクッキー〟だよ」

「……え? 別におなか減ってないけど……」

「いいから、食べて」

「だからお腹いっぱいなのに……」

 断ったけど、ずいっと差し出される。しょうがないので一枚食べた。たちまち身体に広がるハーブのせいりよう感……。全身にパワーが満ちて、なぞの疲れが完全に消し飛ぶ。気持ちがたかぶり、空に向かって思いっきりこぶしき上げた。

「力がみなぎってくるよぉー!」

「ああ、良かった……」

『〝ポイクッキー〟持ってきてよかったニャね……』

 ロールちゃんとネッちゃんは、息も絶え絶えに話す。なぜだろうね。どうやら、大変に疲れているようだ。いつもと違う場所だからきんちようしているのかな。

「ねえ、ロールちゃん、ネッちゃん。まずは市場の食材を見てみようよ。どんな食べ物が売っているか楽しみになってきちゃった」

「休むひまもないんだね」

『やれやれニャ』

「え? なにが?」

「『なんでもない(ニャ)』」

 二人と一緒に町の中心部へ向かう。ふんすい広場となっており、八百屋さんや武器店など色んな屋台がところせましと並んでいた。どんな食材が売っているんだろう。私たちはわくわくしながら屋台を練り歩くも、すぐに楽しい気持ちはしぼんでしまった。

「なんか……食材があまり売っていないね。売り切れちゃったのかな」

「そうだね。わたしもそう思ったところだよ」

『食べ物が少ないのは悲しいニャね』

 市場にはお肉屋さんやお魚屋さんなど、食べ物を売るお店はたくさんあった。でも、かんじんの食材が全然ない。肉や魚はおろか、野草などの簡単に採取できそうな食材もうんと少ない。八百屋さんの様子をみんなで眺めていたら、店主のおばさんに話しかけられた。

「お嬢ちゃんたちも買い物に来たのかい? 品数が少なくてごめんねぇ。でも、今はこれが精いっぱいでね」

「あ、いえ、買い物ではなくてですね。私たちは東の方に住んでいるんですが、〝豊穣の森〟を見に来たんです」

「遠いところからわざわざありがとうよ。……おや? 空飛ぶねこなんて珍しいね」

ねこようせいニャ』

 おばさんは四十代半ばくらいで、くるくるした茶色のかみをしていた。町に溶けんだ雰囲気から、長く住んでいるのだろうと想像つく。

「お嬢ちゃんたち、せっかく来てくれたところ悪いけどね。〝豊穣の森〟に行くのは、今は止めた方がいいよ。食通オークがせんりようしちゃっているのさ」

「『……食通オーク?』」

「ああ、そうさ。初めて聞いたときはあたしも耳を疑ったよ。うまい物に目がないオークらしくてね。おれたちのメシをうばうな……って、占領してんのさ。あそこは豊かな森だから、気に入っちまったんだろうよ。おかげで、町の食材はすっかり減っちまってね」

 おばさんはため息をつきながら話す。〝パルグタウン〟は魚や肉も〝豊穣の森〟にそんしているので、森に入れなくて困っているとも聞いた。

「そんな事情があったのですね。私たちにも何かできればいいんですけど……」

「あいにくとせんとうは苦手なんです。オークなんてわたしもこわくて……」

「いやいや、あんたらが気をむことはないよ。とはいえ、困ったもんだね。この町にぼうけんしやなんていないし……」

 おばさんのため息が大きくなる。オークは乱暴な性格の持ち主が多いので、見かけたら近寄らないことが鉄則とされていた。

「ねぇ、ロールちゃん、ネッちゃん。キャンデさんに相談してみようか」

「うん、それがいいかも。きっと、どうにかしてくれるよ」

にらんだだけでオークなんかげそうニャね』

 ここは下手に手出しをせずに、専門の人を頼った方が良さそうだ。三人で静かに相談していたら、おばさんがポツリとつぶやいた。

「オークを追いはらってくれたら、町長さんがほうしゆうをくれるっていう話だけどね……」

「報酬ぅ!?

 報酬という言葉を聞いたしゆんかん、ロールちゃんの目がキランキランに輝く。思わず、私とネッちゃんは小さなため息をついた。

「ただの報酬じゃなくて、純銀のメダルなんだよ。でも、だれも手を挙げなくてねぇ」

「純銀のメダルゥ!?

「ロールちゃん、浅ましいよ」

『欲で目がよどんでいるニャ』

 ロールちゃんの目には、もう純銀のメダルとやらしか見えていない。私たちが何か言う間もなく、彼女はこわだかに宣言した。

「おばさん! わたしたちがそのオークを追い払います!」

「……え? で、でも、まだほんの子どもじゃないかい。危険すぎるよ」

「大丈夫です、こっちには料理の天才がいるので! 他の人が森に行きそうだったら止めてくださいね! 報酬が横取りされたら大変ですから!」

「ロ、ロールちゃん、ちょっと話が急なんじゃ……」

『キャンデさんはどうなったんだニャ……』

 私とネッちゃんが言うと、ロールちゃんはゆっくりとり向いた。私のかたを力強く掴み、見たことないくらいしんけんな顔でさけぶ。

「レベッカ! 町の人が困っているの! わたしたちが何とかしないと!」

「『ロールちゃん……』」

 目が血走っているよ。報酬が出ると聞いた瞬間、我らがロールちゃんは守銭奴に戻ってしまった。

「さあ、行こう、レベッカ! ネッちゃんも! 〝豊穣の森〟に!」

「『はい(ニャ)……』」

 元気マンマンのロールちゃんを先頭に、私たちは食通オークがいるという〝豊穣の森〟へ向かう。〝パルグタウン〟から歩くこと約二十分。私たちはくだんの森に到着した。

「ここが〝豊穣の森〟か……」

「やっぱり、わたしたちのいる森とは雰囲気が違うね」

『なんだか明るい雰囲気だニャ』

 町からは一本道だったので迷わず来られた。森の入り口は木の枝が大きなアーチのように曲がり、訪問者を静かに待っている。おばさんの話では、森に入ろうとするとオークに追い返されるようだ。しかし、周囲にはオークどころか動物の一ぴきもいなかった。

「ロールちゃん、オークはどこにいるんだろう」

「レベッカッ、わたしの名前は呼ばないでっ」

「え、な、なんで?」

 何気なく話しかけたら、ロールちゃんに厳しく言われてしまった。いつの間にか、私の背中に隠れるように身をかがめている。

「オークに目をつけられたら大変だからっ」

 私はいいのか……と思ったけど、だまっておく。にしても、オークはどこにいるんだろう。アーチの中に首を突っ込んで様子をうかがっていたら、ぬっ……と目の前が暗くなった。

『何の用ダ』

「『出たあああっ』」

 叫ぶロールちゃんとネッちゃん。二人とも、私の身体をたてにするのはやめてくれるかな。オークの身長は約2mで、い緑の身体は筋肉がモリモリ。右手には太いこんぼうを下げ、かたはばも広くて結構なあつ感だ。乱暴という話だけど、こちらから何もしなければこうげきされないはずだ。棍棒だって地面に向いているし。まずは落ち着いて冷静に話そう。

「あ、あなたがこの森を占領しているオークですか?」

『いや、違ウ』

「えっ? そうなんですか?」

 違うと言われ、ひようけした。もっとやさしそうなオークが出てくるのかな、と期待していたら、左右からぬぬぬっ……と怖そうなオークが追加で二人現れる。

『俺たちダ』

「なるほど……」

 ……そういうことね。なんだか肩の荷が重くなった気がする。

『さっきも言ったが、すぐに出て行ケ。お前ら人間にうまいメシは分けないゾ』

 オークたちは横に並び、私たちの行く手をはばむ。でも、引き下がるわけにはいかない。

「〝パルグタウン〟の人から、あなたたちはおいしい食べ物が好きだと聞きました」

『ああ、そうダ。わかっているのなら出て行ケ。俺たちはこの森のメシを食いくすまで出て行かなイ』

「でしたら、この森よりおいしい食べ物があったらどうでしょうか」

『……どういうダ?』

 私が言うと、真ん中のオークは疑問をかべた。ここまではうまく話せた。〝豊穣の森〟に来るまでに、会話を練習してきたのだ。ロールちゃんの厳しい指導で。

「私たちは〝毒の森〟の近くでカフェをやっているんですが、良かったら来ませんか? おいしかったらこの森をけ渡してほしいんです。来店されるたびお作りするので。このままじゃ、〝パルグタウン〟の人たちがえてしまいます」

『ふム……』

 三人のオークはたがいに相談する。しばらく話すと、私を見た。

「ど、どうでしょうか」

『ダメダ』

「えっ!」

『お前のメシがうまいというしようがなイ。俺たちがいなくなったすきに、人間がメシを奪ったらどうすル』

 そんな……。でも、たしかに、私の料理のおいしさをこの場で証明できない。困ったね。一度町に戻ってキッチンを貸してもらう? だがしかし、毒食材がない。頭をなやませていたら、くいくいと背中を引っぱられた。ロールちゃんだ。

「レベッカ……〝ポイクッキー〟渡したら……」

「ああ~」

 おやつの〝ポイクッキー〟があった。〈ポイズンハーブ〉で作ったさわやかな味わいのクッキー。ロールちゃんはおじづいているのに、こういうところは頭が回る。きっと、純銀のメダルがかかっているからだろうね。何はともあれ、言われた通り〝ポイクッキー〟を三枚差し出す。

「これは〝ポイクッキー〟と言いまして、私のカフェで作ったのですが……」

『寄越セ』

 最後まで言う前に、オークたちは〝ポイクッキー〟をつかみ取る。何のちゆうちよもなく、あ~んと口にほうり込んだ。やっぱり、オークって度胸があるんだなぁ。

『『うまいゾ! なんだ、これハ!』』

「ええっ!」

 食べるやいなや、オークたちはかんせいを上げた。そのまま、とうとうと〝ポイクッキー〟の感想を話してくれる。

『最初に感じるは、ハーブの爽やかサ! 口を抜け鼻を抜け、体中をそうかいな風が吹き抜けル! まるで初夏のおとずれを感じさせるゾ!』

『爽やかさの中に現れるのは、ほのかなあまサ! 食べた者を優しく包みム! これはクッキーなのだと俺たちに教えてくれル!』

のサクサク具合は軽やカ! かつじゆうこう感があル! 素晴らしい食感と味のハーモニーがさらなる食欲をそそル!』

「あ、ありがとうございます」

 怖そうなふんから一転。オークのイメージがくつがえされるようなハイテンションの感想に思わずされた。

『よし、わかっタ。明日、お前のカフェに行ク』

「あ、明日ですか?」

『一刻も早く食べたいのダ。このクッキーみたいな甘いメシを喰いたイ』

 オークたちは、ぽわぁ~っとした顔で言う。喜んでもらえて何よりだけど、明日か。間に合うかな。隠れていたネッちゃんが顔を出す。

『材料全部集まるかニャァ?』

「そうねぇ……帰ったらすぐに食材を集めないと……」

「レベッカッ、絶対明日がいいよっ」

 とつぜん、黙っていたロールちゃんが小声で叫んだ。

「ど、どうして? だって、材料が……」

「報酬が横取りされたらどうするのっ」

「『ロールちゃん……』」

 目が血走っているよ。結局、オークの来店は明日と決まった。〝パルグタウン〟に戻り、おばさんにオークとの一件を話す。計画を伝えたら驚いていたけど、店にはSランク冒険者がいると話したら安心していた。おん便びんに済むならそれが一番とも。他の町民にはおばさんが伝えてくれるということで、私たちは〝カフェ・アンチドート〟に帰る。

 目が血走ったロールちゃんを先頭にかんかんりよう。なぜか、帰りは小一時間もかからなかった。鍵を開けて店内へ。ロールちゃんは真っ先に隠し金庫へ走り、中の貴重品をかくにんしては喜んでいた。私はさっそく頭を悩ます。

「う~ん、どういう料理にしよう。甘い物……甘い料理……」

『まずは森に出てみようニャ。探しているうちに思いつくニャもよ』

「たしかに」

 ネッちゃんの言う通り、まずは行動あるのみだ。悩んでいても始まらない。ロールちゃんもさそおうとしたとき、二階からキャンデさんが下りてきた。

「なんだ、帰ってきたのか?」

「ええ、みんなで〝パルグタウン〟に行ってきました。私の料理のレパートリーを増やすため、〝豊穣の森〟へ行きたかったんです」

「ああ、あそこは色んなものや動物もいるからな」

「ですが、ちょっと問題がありまして……」

「問題?」

 オークの一件を伝える。

「……ということで、明日オークのお三方が来店します」

「へぇ~、オークに食通なんているんだなぁ」

 やはり珍しいらしく、キャンデさんも驚いた。

「明日の料理を考えるので、また食材を調達に行ってきます。ばんはんまでには戻ります」

「食材ならクエストついでにいくらか採ってきたぞ。見るか?」

「ほんとですか!? 見ます、見ます!」

「キッチンに置いてある」

 いつの間にか貴重品チェックが終わったロールちゃんもフラフラと合流し、キッチンへ向かう。テーブルの上を見たとたん、悩みなんてき飛んだ。念願の毒食材がたくさん並んでいたのだ。

「これは〈夢ミルクルミ〉ィ!? まさしく夢のような出会い!」

「レベッカ~なんでそんな叫んでいるの~……ほぁぁ~」

「〝帰らずのめいきゆう〟の第二層に木が生えていた。しかし、相変わらずすごい勢いだ」

『いつものことニャ』

〈夢ミルクルミ〉は、くだくと牛乳みたいなおいしいじゆうが出てくる不思議な木の実。つうの牛乳より数倍ものうこうだ。その代わり、強力な毒で数週間悪夢の世界にとらわれちゃう。

「こっちにあるのは〈メガ眠ト〉の葉っぱ! 良く見つかりましたねぇ!」

「だんだん意識がはっきりしてきた……夢から目覚めるような気分……」

「〝毒の森〟の東の先に小さな群生地を見つけた。少し落ち着け」

『無理な注文ニャね』

〈メガ眠ト〉は大きなミントみたいな植物。あざやかな緑色。食べるとねむくなり、どんなにがんっても目が閉じちゃう。だが、普通のものより晴れ晴れとした風味があるのだ。熱すると固く収縮するので、お菓子みたいにも食べられる。さらにそのとなりには三角の赤い実。

「〈一撃いちご〉まであるんですか! こりゃあもう天からのめぐみだぁ!」

「いつの間にか、レベッカのテンションがすごいことに」

「〝ならず者のくつ〟の入り口で入手した。このひようへんには慣れるしかないか」

『そういうことだニャ』

 一見すると、普通の赤いいちご。種がむらさきいろなのを除いては。しんの中心まで忘れられない甘みがまる。だがしかし、その毒は強力だ。大きなドラゴンの尻尾しつぽこうげきを思わせる、ちようつよい一撃をらったようなショックを受けてしまう。まさか、キャンデさんが毒食材をゲットしてくれていたなんて。これだけあればおいしい料理ができるよ。思わず、き着いてしまった。

「キャンデさぁん! あなたは私の救世主ですぅ!」

「な、なんだ、どうした」

『色々あったんだニャ』

 ぐいぐいと押され、体から引きがされる。毒食材を見た瞬間、私の頭にはとある料理がおもい浮かんでいた。

「よし! 明日はパフェを出そう!」

「『……パフェ!?』」

 ロールちゃんたち三人の顔がかがやく。パフェ……それはわくの言葉。オークたちも喜んでくれると思う。〝パルグタウン〟のためにも、おいしい料理を出すぞ。試作を重ねるうちに、夜は静かにけていった。


 翌日。私たちは緊張しながら〝カフェ・アンチドート〟を開く。今日、オークたちがお店に来る。しっかり準備したけれど緊張するね。この来店には、〝パルグタウン〟の問題解決もかかっているのだ。

「オークは財宝より食事にしゆうちやくするらしいけど……決して油断できないね……いざとなったら丸ごとかついで逃げなきゃ……」

 けいかいしんが復活したロールちゃんは、険しい顔で窓の外を見る。ブツブツと貴重品を守るための思考をめぐらせていた。キャンデさんが私の肩に手を置いて言う。

「レベッカ、心配するな。オークどもが暴れたら私がげき退たいしてやる」

「ありがとうございます。キャンデさんがそう言ってくださると私も安心できます」

 たとえ攻撃されても、こっちにはキャンデさんがいる。そう思うと安心できた。

「おっ、どうやら来たみたいだな。では、私はちゆうぼうで待機する」

『あのオークたちだニャ』

「隠し金庫の場所はさとられないようにしないと……」

 みんなの言葉に気持ちが引きまる。森の中から三人のオークが現れた。すかさず、とびらを開けておむかえする。

『来たゾ』

「い、いらっしゃいませ。中にどうぞ」

 オークたちはぞろぞろとお店に入り、一番大きな丸テーブルにすわった。ロールちゃんはそ~っとお水を置くと、すぐキッチンに引っ込んでしまった。

『昨日のクッキーみたいな甘いメシはあるカ』

「いちごのパフェなんていかがでしょうか」

『三つ寄越セ』

 注文を聞き、私とネッちゃんもキッチンに戻る。ロールちゃんはカウンターのかげから様子を窺っていた。さて、いよいよ料理の時間だ。何にしろ、さわぐ調理はけた方がいい。うるさいより静かな方が好印象なはずだ。なぎのごとく心を落ち着かせる……。

「最初にやるのは〈夢ミルクルミ〉でクリームを作りましょうぅ! かき混ぜ混ぜ混ぜ混ぜまくれぇ!」

「結局、レベッカはいつも通りなんだね」

『ネッちゃんはわかっていたニャ』

「そのたんりよくは素晴らしい」

〈夢ミルクルミ〉を割って、果汁をボウルに集める。グルグルかき混ぜていると、ふんわりした生クリームになった。かくはんり返すたび、砂糖のような優しい甘さが引き立つ。スプーンですくって、ペロリと味見。ふわっとした食感の中に、のうしゆくされた牛乳のような風味としっかりした甘みが感じられるよ。

「お次は〈一撃いちご〉をスライスカットォ! 切るとあふれる豊かな果汁ぅ! 春のような香りもごたんのうあれぇ!」

「もうダメだ~、騒ぐのまんできない……今までで一番フレッシュないちごの香りぃ!」

「私もそのパフェ食べたいぞ! 一つ余分に作ってくれ!」

『気持ちがおさえられないニャ!』

〈一撃いちご〉はサクサクッと縦切り二回。らしいみずみずしさ。香るにおいだけで見事な酸味と甘さが想像つく。切ってお皿に並べたら、最後の食材を調理する。

「〈メガ眠ト〉の葉っぱは~、温めるとチップのようにかたくなる~。ちぎってポイポイ、ちぎポイポイ!」

「『ちぎポイポイ(ニャ)!』」

〈メガ眠ト〉の葉を小さくちぎってフライパンに載せる。熱が加わると収縮し、それこそうすいクッキーみたいな硬さと食感を持つのだ。ミントみたいな清涼感もほどよい感じになる。量は口直し程度でいいかな。食材はキレイに入れて見た目もはなやかにいこう。〈メガ眠ト〉チップ、〈夢ミルクルミ〉のクリーム、〈一撃いちご〉を順番に重ねる。

「パフェパフェパフェェ! これぞパーフェクトパフェだぁ!」

「おおお~! 華やかさがきわまれりー!」

「あひゃひゃひゃ! パーフェクトパフェ! おもしろすぎる!」

『だから、面白くもなんともないんニャよ!』

 いちごがたっぷりのパフェが完成した。赤と白のしまようが美しいね。そこまで重くないので一人で運んだ。騒がしさでめいわくをかけてなければいいけど……。

「お待たせいたしました。〝一撃いちごのたっぷり満足パフェ〟でございます」

『うるさい厨房ダ』

「……大変申し訳ございません」

 思った通り、いきなり苦言をていされてしまった。どうしていつもこうなるのだ。

『何はともあれ、うまそうなパフェだナ』

「ありがとうございます」

『では、いただク』

 オークたちはあ~んとパフェを口に運ぶ。〝パルグタウン〟に食材が戻るのか、ロールちゃんが新しい貴重品をゲットできるのか、全てはこの瞬間にかかっている。

『『……おいしさの極みだゾ!!』』

「うわぁっ!」

 パフェをほおった瞬間、オークたちは叫んだ。とても大きな声で、カフェの窓ガラスがビリビリと揺れるくらい。私がおどろくのも構わず、かれらはまくし立てるように感想を話す。

『こんないちごは初めて食べル。春のあまっぱい、それでいて豊かな風味がどこまでも感じられル。たびじゆうがあふれ、まるでジュースを飲んでいるようなうるおいダ。もはや、種までおいしいナ』

「〈一撃いちご〉と言いまして、目を見張るほどの甘酸っぱさや果汁があります」

 オークたちはクリームをめると、表情の明るさが一段と増した。

『このクリームもおそろしいほど濃厚ダ。すぐにけてしまうほどやわらかいしたざわりがいやされル。いちごをじやしないおくぶかい甘さが非常に印象的であル。いちごと合わさることで、ひつぜつに尽くしがたいおいしさをかなでるゾ』

「〈夢ミルクルミ〉の果汁から作ったクリームです。牛乳から作るより、ふんわりしっとり仕上がります」

 いちごを食べ、クリームを舐め、オークたちはあのチップにたどり着く。パリパリとかじると、かんたんの声を上げた。

『……こいつはうまイ。やや硬い歯ごたえが最高ダ。ミントのようなすっきりする感じもいイ。甘さの中でひかえめな存在感を放ち、さらにパフェを食べたい気持ちにさせてくれル』

「〈メガ眠ト〉の葉っぱをチップにしました。よいアクセントになっていると思います」

 感想を述べては、ガツガツとパフェを食べるオークたち。十分もたずに完食となった。

『あぁ~うまかっタ。大変に満足できるパフェだったゾ。予想以上ダ』

「ありがとうございます」

 ホッとして食器をキッチンに下げる。キャンデさんはどっしりしていたけど、ロールちゃんとネッちゃんはビクビクと震えていた。

「いきなり大きな声で騒いだりして……やっぱりあやしい」

『レベッカ、うで食べられてニャいか?』

「食べられてないよ」

 どうなることかと思ったけど、気に入ってくれたようで何よりだ。一息ついたところで、オークたちの声が聞こえた。

『女たち、こっちに来てくレ』

 ロールちゃんとネッちゃんを背中にかくし、食堂にもどる。キャンデさんもいつしよ

『俺はオークのガルグといウ。こっちは弟のギルグとグルグという名ダ。よろしク』

「レベッカ・サンデイズと言います」

「ロールです……」

「キャンデだ」

『ネッちゃんだニャ……』

 オークたちは名乗る。あくしゆしたら、見た目通りがっしりした筋肉を感じた。キャンデさんと同じかそれ以上かも。

『最高のメシだっタ。改めて礼を言ウ』

「喜んでいただけて私もうれしいです」

 ガルグさんはおもむろに、純白に輝くうでふところから取り出した。まさか、それは……。

『これは俺の家に代々伝わるプラチナの腕輪ダ。代金として受け取レ』

「え、いや、しかしですね。そんな貴重な物をいただくわけには……」

「ありがとうございます! はわわ……」

 ロールちゃんはあんなに怖がっていたのに、すごく嬉しそうにプラチナの腕輪をもらう。一件落着な雰囲気が出ているけど、まだ終わってはいない。重要なことを聞かねばならないのだ。……意を決して言う。

「あ、あの、〝ほうじようの森〟の件ですが……」

『ああ、もちろん明けわたス。お前の料理は本当にうまかっタ』

 そっと胸をで下ろす。断られたらどうしようと思っていた。ガルグさんはがおで言う。

『絶対にまた来ル』

「ご来店ありがとうございました。どうぞまたおしくださいませ」

 カフェの出口までご案内し、笑顔のガルグさんたちを見送る。最初は怖かったけど、おいしいご飯があれば誰とでも仲良くなれるんだと実感する出会いだった。

「レベッカ! 今すぐ〝パルグタウン〟に行こう!」

「え……? ど、どうして……?」

『な、何しに行くんだニャ?』

 ガルグさんたちが森の中に消えるや否や、ロールちゃんが私の肩を激しく掴む。ぼんやりする私とネッちゃんを差し置いて、彼女は勢い良く叫んだ。

「純銀のメダルをもらわないと!」

「『ロールちゃん……』」

 目が血走っているよ。キャンデさんに留守番をお願いし、片付けもそこそこに私たちは〝パルグタウン〟へとける。


□□□


「……さあ、レベッカ殿。みなの歓声に応えておくれ」

「は、はい」

「「ありがとうー、レベッカちゃーん!」」

 私は今、広場の中心ではくしゆかつさいを浴びていた。専用に用意された小さな台に、町長さんと一緒に乗って。ひようしようしきが開かれているのだ。

 あのおばさんにガルグさんたちの話をすると、町民のみなさんはすぐに〝豊穣の森〟へ向かった。森の明け渡しが確認され、町長さんへとれんらくが届く。私の功績がたたえられ、あれよあれよと表彰式までかいさいされてしまったのだ。

殿でんのおかげで町の死活問題が解決された。ありがとう、心より感謝申し上げる」

「い、いえ、そんな大層なことではございませんので……」

けんそんなど必要ないのだ。レベッカ殿の功績はまことに素晴らしい」

「表彰式なんて……なんかすみません」

 町長さんは、豊かなカイゼルひげたくわえたかつぷくのいい男性だ。黒い中折れぼうがよく似合っていらっしゃる。

「レベッカ殿、これが約束の報酬だ。受け取ってくれ」

「あ、ありがとうございます。高価な物をいただいてしまって恐縮です」

 町民さんが私の首に純銀のメダルをかける。広場はひときわ盛り上がった。いつしゆん断ろうかと思ったけど、ロールちゃんのせつまった表情が恐ろしくてなおに受け取った。

 再度大きなはくしゆをもらい、表彰式はしゆうりよう。みなさん、今度〝カフェ・アンチドート〟に料理を食べに行きたいと言ってくれた。町長さんたちに手を振り、私たちは帰路にく。いやぁ、色々あったけど何だかんだ楽しかったな。新しい料理も作れたし。

「あ、あの~、レベッカ……そのメダルだけど、もしよかったらわたしが管理しても……」

 ロールちゃんはおずおずと、私の首にかかった純銀のメダルを指す。表彰式の間、かのじよはずっとそわそわしていた。このメダルを手に入れたくてしょうがないのだ。

「ロールちゃんにあげるよ」

「え!? いいの!? やった! ありがとう! …………はわわ……」

 首から外してロールちゃんにわたすと、はわはわしながら輝くひとみながめていた。

『結局こうなるんニャね』

「まぁ、これもいつも通りということで」

〝カフェ・アンチドート〟への一歩をみ出す。

 無事、五組目のお客さんにも笑顔になっていただけた。