第五章:〝暴 れん坊 サーモンとビリビリエビの川鮮丼、サワーガニの素 揚 げ付き〟
「ロールちゃん、金貨も魔石もしまおうね~」
『そんなに散らかしちゃ、
「うぅん……わかってるって~……」
ロールちゃんは相変わらず、金貨をウットリと眺める毎日だ。今ではそこにレア魔石まで加わっているので、危なっかしくてしょうがない。ネッちゃんと一緒に
「おい、
「あ、お帰りなさい。ほら、ロールちゃん、キャンデさんが帰ってきたよ」
「そうだねぇ~……」
貴重品を金庫にしまったところで、キャンデさんが釣りから
「レベッカ、こいつは
「ええ、ちょうど今の時期が
キャンデさんが釣ってきてくれたのは、
「《毒消し》!」
〈暴れん坊サーモン〉は、ぱぁっ! と白い光に包まれ毒消し完了。目つきからも凶暴性が消え去った。早く食べて? と目で
「今度はどんな料理になるか楽しみだ。甘い物の他に、特に魚料理が好きでな」
「魚料理がお好きだったんですか。私はてっきりお肉かと」
「いや、思い返せば肉も全部好きだった」
キャンデさんは私の料理を大層気に入ってくれたらしい。朝ご飯に十時のおやつ、お昼ご飯に十五時のおやつ、夕ご飯に夜食にと、とにかくたくさん食べていらっしゃる。作りがいがあり、まさしく料理人
『この人は見るからに肉食系ニャよ』
キャンデさんはネッちゃんを見ると、
「おい、ネッ! つまみ食いするんじゃないぞ。ネコは魚が大好物だからな」
『失敬ニャ! そんなことするわけないニャ! そして、ネッちゃんはネコじゃなくて
「何も変わらんだろ」
『それと、ネッちゃんの名前はネッちゃんニャ! ネッ! じゃないのニャ!』
キャンデさんは、ネッちゃんのことをネッ! って呼ぶ。何でも、〝ちゃん〟は
「魚以外にも色々と調達してきたぞ。一緒に調理してくれ」
キャンデさんは
「こ、これは、〈サワーガニ〉じゃないですかっ」
「うろついていたから
「なんとまぁ」
こいつは〈サワーガニ〉。沢の近くに生息する
「川を
「ビ、ビ、〈ビリビリエビ〉~!?」
さらに姿を現したのは
「いやぁ、キャンデさんのおかげでたくさん食材が集まりましたね」
「今日も美味い飯を作ってくれ」
さっそく下処理でも始めるか。ナイフを
「た、大変だよ、レベッカ!」
ロールちゃんだ。ぼや~っと窓から外を見ていたけど、
「どうしたの、ロールちゃん。そんなに
「また変な人たちが来る!」
「変な人ってお客さんでしょ? ちょっと失礼すぎ……」
「見て!」
バンッ! と窓に叩きつけられた。
「そ、そろそろ窓から
「どうしてこんなところに! ……そうか! 金貨とレア魔石を
「
ロールちゃんは
『こんにちは~、お店ってやっていますか~?』
「はい、営業中でございます! どうぞお入りください!」
隠し金庫の上に荷物を置くロールちゃんをよそに、ガチャッと
「いらっしゃいませ! お好きな席にお
『は~い。カフェがあって助かりました』
エルフの御一行は、ぞろぞろぞろと中に入る。ず、ずいぶんと大人数ですね。なんと全部で十五人。一族で旅でもされているのだろうか。ここ最近で一番多いお客さんだ。しかも全部エルフ。ロールちゃんやネッちゃん、さすがのキャンデさんも面食らっていた。とりあえず、ロールちゃんと一緒にお水やお
「お水とお手拭きをどうぞ。私、エルフにお会いしたのは初めてなんです」
『あら、そうなのですね。私も人間のお店に入るのは初めてですわ』
お姉さんはニコニコと話す。世の中には、人間以外にも人の言葉を話す生き物がいる。彼らは〝
エルフの皆さんは美しいのだけど、不思議なことに……顔が一緒だ。もしかして、
「どのようなお料理をご
『看板で見たのですけど、ここは毒食材を使ったお料理なのでしょうか?』
お店に入ってくるとき、先頭にいたエルフさんが話す。そういえば、さっきからこの人しか話していない。他の方々は
「ええ、このカフェでは無毒化した安全な毒食材を使用しています。今日は魚やエビ、カニなどを仕入れできました」
『素晴らしいですわっ!
「ゲテモノ……」
こんなキレイな方からゲテモノなんて単語を聞くとは。いやはや、人生とは不思議だ。
『毒食材はまさしくピッタリですわね。食べ応えのあるお料理がいいです』
「でしたら、〝暴れん坊サーモンとビリビリエビの川鮮丼、サワーガニの素揚げ付き〟などはいかがでしょうか」
『それでお願いします。皆さんもよろしいですか?』
エルフの方々は目をつぶったままうなずく。なかなかに
「では、さっそくご用意します」
キッチンに
「お帰り、レベッカ。どうだった?
「別に怪しくなんかないよ。やけに静かだけど」
「あんなに静かなのはやっぱり怪しいね。レベッカに様子を探ってもらって良かった」
「ロールちゃん、私をダシにしないでよ。……いや、別にうまいことを言おうとしたわけじゃないんだけど」
「……あひゃひゃひゃっ。レベッカのダシ……うますぎるっ……!」
キャンデさんは今のやり取りが笑いのツボに入ったらしく、一人で
「ネッちゃんも一緒に応対してくれていいんだからね」
『あ、いや、ネッちゃんはいいのニャ……』
こう見えて、ネッちゃんは結構
「きっと、隠し金庫のありかを探っているんだ……」
「違うと思うよ」
事情はわからないけど、私にできるのはおいしい料理を作ることだけ。おいしいご飯で少しでも気持ちが明るくなってほしい。そのためには、冷静な調理が必要だ。そう、冷静な調理が。目の前には懐かしい食材たち。深呼吸して昂るテンションを
よし……冷静にいけぇ、レベッカぁ!
「まずは〈迷子米〉を炊きますよぉ!
「今回も始まりましたね」
「いつも通りだな」
『これがないとレベッカじゃないニャ』
〈迷子米〉をザックザクと洗いまくる。洗えば洗うほど炊き上がる時間が短くなるのだ。今度はモチモチになるようにしたいね。お
「今回の料理は
「すごい熱量です。レベッカの熱で揚がっちゃいそうな」
「レベッカの熱で素揚げっ……! あひゃひゃひゃっ」
『この人、笑いのツボが浅すぎるニャね』
〈サワーガニ〉はよく洗った後、そのまま油にポチャン。この食材は、元々身に水分がたくさん
「『う~ん、カリカリ食感最高 (ニャ)!』」
うましっ。まさしくデリシャスフード。
「〈暴れん坊サーモン〉んんん! 君の出番が来たぁ!」
「見ているだけで楽しくなってくるのはどうして……?」
「奇遇だな。私もだ……」
『なんだか騒ぎたくなってきたニャね……』
本日のメインディッシュ、〈暴れん坊サーモン〉。今の時期は身も卵もおいしさが
「まるでルビーのような
「『パチパチパチパチ弾ける(ニャ)!』」
宝石みたいだけど、ロールちゃんは別にはわはわしてなかった。やっぱり、金銭的価値がないとダメらしい。
「〈暴れん坊サーモン〉の身はスラスラスライスぅ! 引き
ピンク色の身をナイフで分厚くカット。元々大きい魚だし、キャンデさんがたくさん釣ってきてくれた。
「『はぁ~……とろけちゃうっ(ニャ)!』」
口に入れた瞬間、おいしさがあふれでる。たった一切れですごい満足感だ。旬の物は旬の時期に食べるに限るね。特に、ネッちゃんは大変気に入ったようで、二、三枚追加で食べていた。
「おい、ネッ! そんなに食べたら私の分が無くなるだろうが。お前は本当にネコだな」
『だから、ネッちゃんはネコじゃないのニャ! 猫妖精ニャ!』
「ネコだろうが」
激しく論争する二人は置いといて、最後の食材を調理する。そう、〈ビリビリエビ〉。毒消ししても、なお腐りやすい。ゆえに、本当に
「〈ビリビリエビ〉も生で食べようぅ! こいつは相当な
パリッと皮を
「『ジュジュジュ、ジューシー!』」
まんべんなく広がる
「ロールちゃん、運ぶの手伝ってくれる?」
「え? あ、うん……もちろん……」
テンションが下がったロールちゃんと一緒に料理を運ぶ。エルフの皆さんは、絵画のように黙ってお待ちになられていた。ロールちゃんは料理を運ぶと、すぐに壁際へ
「お待たせしました。〝暴れん坊サーモンとビリビリエビの川鮮丼、サワーガニの素揚げ付き〟でございます」
料理をテーブルに置く。リーダーさん以外は、片目を開けて
『ず、ずいぶんと
「あ……すみません」
なぜか、リーダーさんは
も、もしかして、
それで、リーダーさんが接待を命じられたとか。だとするとまずい。あんなに騒いだら接待失敗じゃん。ああもう、またやらかした。ロールちゃんたちは壁際で静かにしてるし。
『それでは気を取り直して……いただきま~す』
エルフの皆さんは揃って、あ~んとご飯を口に運ぶ。騒いだ過去は変えられない。どうかお口に合ってくれ!
『『……』』
エルフの皆さんは
ま、まずかった……かな……?
いや、本来ならこれが普通のリアクションなのかもしれない。今までのお客さんたちがハイテンション過ぎたのだ。納得した瞬間、
『『うまエルフ!』』
「えぇっ!?」
少しもズレずに、とても大きな声で叫ばれる。まったく予期せぬことで
『あなたが作ったのでしょうか!?』
「あ、はい、そうですが」
『まさしくあなたは天才です。こんな辺境にここまで
暗い表情から一転して笑顔に変わり、リーダーさんは
「す、すみません。うまエルフとはいったい……?」
『エルフ語で最上級の褒め
「な、なるほど……」
エルフ語にそんな言葉があったのか。リーダーさんは流れるように料理の感想を述べる。
『このピンク色のお魚は何ですか! 口に入れた瞬間とろりと
「そ、そちらは〈暴れん坊サーモン〉でございます。ちょうど今の時期が旬で、脂が乗りに乗っています」
『はぁーっ、そんな魚がいるんですね。世界的に有名な〈黒曜マグロ〉より豊かな味わいでした。こんなおいしい物を食べたのは、今から百五十三年前……いや、百五十四年前です』
「ありがとうございます……」
さすがはエルフ。話のスケールが一味
『ルビーのように真っ赤な卵! まぁっ、なんて
「〈暴れん坊サーモン〉の卵です。栄養価が非常に高く、この時期おすすめの一品でございます。おっしゃる通り、いくらでも食べられるおいしいイクラだと思います……いや、別にうまいことを言おうとしたわけではなく……」
皆さん、ご飯と一緒にどんどん食べる。お
『この白くてぷりぷりのエビもおいしいですわ! 目が覚めるような食感は
「非常に貴重な〈ビリビリエビ〉の身です。腐りやすいので、本当に鮮度が良くないと食べられません」
『この
やはり、私の声は大きいらしい。次からはとにかく冷静に調理しよう。リーダーさんは〈サワーガニ〉の素揚げを食べる。
『
「近くの沢で採ってきた〈サワーガニ〉をカラッと揚げました。水分が抜けたので、味がさらに凝縮されています」
『いやぁ、こんな美味しい料理は本当に数百年ぶりですよ。ところで、あなたのお名前を教えてくださいませんか? 素晴らしい料理人の名前を覚えておきたいのです』
「私はレベッカと申します。レベッカ・サンデイズです」
こんなに喜んでくれるなんて
「さっきまでは静かだったのが急にお
「みんないい人だよ、ロールちゃん。怪しくないよ」
ロールちゃんが大金を見せられなくても
「うまエルフ……! イクラをいくらでも……! あひゃひゃひゃっ!」
『いつまで笑うつもりだニャ』
キャンデさんは一人で大笑いしている。その話はだいぶ前に終わったと思いますけど……。
『レベッカさ~ん、ちょっとこちらへ来てくださいませ~』