「こんなにたくさんの毒食材が採取できるなんて、キャンデさんすごいですね。さすがSランクぼうけんしや〝惑乱の凶星〟です」

「調理できる方が十分すごいと思うが……」

「レベッカは色々自覚がないですからね」

『それがレベッカの良いところでもあるニャ』

 毒食材を見ていると、それだけで気持ちが盛り上がる。これでどんなお料理を作ろうかなぁ。鶏肉と卵にお米とトマト……。想像がふくらんでしょうがないですよぉ。今まで集めた食材も使ってあげたいね。

「鶏肉のオムライスとかどうですかね」

「あっ、おいしそう」

「なかなか良いじゃないか」

『ネッちゃんも食べたくなってきたニャよ』

 外の看板に追加しよう。キャンデさんはクエストがあるということで、北にあるダンジョン――〝ならず者のくつ〟へと向かって行った。

「すみません……開いてますか?」

 看板にメニューを書き終わったちょうどそのとき、森の方から三人組の男女が歩いてきた。すぐお店の中に案内する。

「はい、どうぞ! 開いてますよ! お好きな席にお座りください!」

 三人は無言で席に着いた。だいぶ慣れてきたけど、来店のしゆんかんはやっぱり緊張する。〝カフェ・アンチドート〟、三組目のお客さんたちだ。

「メニューはいかがいたしましょうか。三品ご用意できます」

「「……」」

 看板を運び入れて見せる。お客さんは無言で眺めていた。ちやぱつの少年にくろかみの少年、そしてきんぱつの少女。だんせいじんけんたずさえているし、女性はつえを持っていた。この人たちも冒険者パーティーかな。それにしても、さっきからふんが悪いのはどうしてだろう。ギスギスした空気がただよう。

「どのお料理もおいしい食材を使っていますよ」

「「じゃあ、オムライスで……」」

「はい、承知しました」

 キッチンに戻ると、さっそくロールちゃんはけいかいモードに入っていた。

「また新しいお客さんだ。最近はよく来るなぁ。でも、なんか雰囲気悪いよ。少しも油断できないね」

「まぁまぁ、きっと疲れてるだけだと思うから」

『怪しい客には見えないニャよ』

 また大金を出されると手の平を返すのだろうか。ロールちゃんを見つつ、食材と向き合う。たかが料理だけど、されど料理。私の作ったご飯で、あの人たちが少しでも元気になったらいいな。そのためには、冷静に料理するのが大事だ。そう冷静に。

 静かに《毒消し》を済まそう。気持ちをしずめて手を食材に……。

「〈迷子米〉を洗いますよぉ! 洗うだけですぐ食べられるのだぁ!」

「今回も始まったね」

『毎度のことだけどテンション高いニャ』

〈迷子米〉はりよくめるとすぐにだつこくできる。お水でジャブジャブ洗って水を切る。炊くのは後。チキンと一緒にいためる所存。

「具材は〈満月茸〉も入れましょうぅ! 卵とキノコで、とろみの二重奏! とろんとろんのオムライスゥ!」

「とろみの二重奏……」

『今日の名言いただいたニャ……』

〈満月茸〉を細かく刻んでいく。お肉ばかりじゃバランスが悪いからね。

「〈どくどくチキン〉はよくたたいてやわらかくするよぉ! 身が引き締まってるけど、そのままじゃ硬いからぁ!」

「すごいナイフさばきだ」

『冒険者にも負けないくらいに違いないニャ』

 ドドドドッ! とナイフの背中で〈どくどくチキン〉を叩く。せんを切って柔らかくするのだ。焼く前の下準備が料理の完成度を引き上げる。ここのところ野草や果物ばかりだったからね。久しぶりなこともあって、お肉の調理は気持ちがたかぶりますなぁ! 食べやすいように小さく刻む。

「味付けは〈トキシントマト〉と〈じよリンゴ〉のソースだぁ! 酸味と甘みのハーモニーを味わいたまえぇ!」

「なんだか今回も楽しくなってきた……」

ぐうニャね。ネッちゃんもニャよ……』

 すりつぶした〈トキシントマト〉と〈魔女リンゴ〉を混ぜ合わせる。ヘラを持ち上げたりして、空気と良く混ざるように。スプーンで一口めたら、正解の味だった。ご飯にピッタリな酸っぱさと甘さ。

「それでは炒めますよぉ! まずは〈どくどくチキン〉からぁ! あぶらが良く乗っているねぇ! 〈迷子米〉も一緒に炒めていくぅ!」

「食欲をそそる音とにおいー! もうすでにおいしいぞー! わたしも食べたくなっちゃったー!」

『お肉を焼いただけでこれニャんて、完成品はとんでもないニャ!』

〈どくどくチキン〉を熱したフライパンに載せる。鳴り響くジュウウ! という音。いやぁ、素晴らしい。全体に散らばるようていねいに広げる。ほどよく脂が出たところで、〈迷子米〉をイン! お肉の味をみ込ませるのだ。

「火が通ったらぁ! 〈トキシントマト〉と〈魔女リンゴ〉のソースを投入ぅ!」

「色がついてさらにおいしそうになったー! 赤いご飯がおいしそうー!」

『見た目だけじゃなくて味だっておいしいに違いないニャー!』

 ソースは入れすぎると味がくなるので、お米が真っ赤になるくらいにしておこう。火が中まで通ったら、いつたんふたをする。別のフライパンで一番大事なところを作るのだ。

「オムライスのきもはふんわり卵ぉ! 〈どくどくチキン〉の卵をふんだんに使いますよぉ! この勢いにり落とされるなぁ!」

「目にも留まらぬ早さのかくはんだー! 卵がとことん混ぜられていくー!」

『これで作ったオムライスはふんわりしているに違いないニャー!』

 白身と黄身が完全に混ざるように、卵をばやいていく。それでいてあわてないよう注意する。あくまでもオムライスの卵として、柔らかくすることを意識。数分混ぜると黄色の卵ベースができた。ライスがえんけいになるようにお皿へ載せる。これで下準備はかんりようだね。

「いよいよライスを包むときが来たぁ! 卵は火を通し過ぎないのがポイントォ! 半熟くらいがベストだよぉ!」

「料理もきように入ってきたー!」

『一番重要なところで緊張するニャー!』

 焼きすぎると硬い卵になってしまうので、半熟状態で火を止める。フライパンをすると、ぷるぷる震えていた。いいね! ライスの上に載せナイフでそっと切る。とろり……と卵が割れて、チキンライスをやさしく包んだ。

「『おおお~!』」

 黄金のような輝き。想像以上の出来ですよぉ、これはぁ。しかも、まだ終わりではないのだ。

「仕上げはこのトマトソースだぁぁぁ! 料理にはいろどりも大事だよぉぉ!」

「おいしそうな感じが十倍は増したー!」

『もうたまらんニャー!』

 黄色の卵に赤いソースがまぶしい。味見用に作っておいた物をみんなで食べる。

「スーパー美味!」

「ハイパー美味!」

『ウルトラ美味ニャ!』

 こりゃあ、とんでもないオムライスですよぉ。お客さんたちに食べてもらうのが楽しみだ。

「三人分だからわたしも運ぶよ」

「ありがとう、ロールちゃん」

 二人でお皿を持って食堂へ。

「お待たせしました。〝どくどくチキンのオムライス〟でございます」

 ことりとテーブルに置いたら、黒髪少年ににらまれてしまった。

「調理しているのはあなたですか?」

「あ、はい、私です」

ちゆうぼうから大きな声が聞こえてきたのでビックリしましたよ。もう少し静かにしてほしいんですけど」

「……申し訳ありません」

 ロールちゃんとネッちゃんは、すでに食堂のかべ退たいしている。二人はスン……と静か。……最後の方は二人ともさわいでなかった? 毎回私だけおこられている気分になるのはどうして?

ぼくたちは静かに食事したいのです」

おれつかれてんだよ」

「困ったものですね」

「すみません……」

 少年たちは文句を言いながら、オムライスを口に運んでいく。騒いでしまったのはもうしょうがない。料理でばんかいしろ、レベッカ!

「「ヤバい!!」」

「ひぃぃっ!」

 一口食べた瞬間、少年たちはそろってヤバイ!! と叫んだ。ヤ、ヤバイってなに? もしや……まずかったってこと? なんという大失態。とんでもないミスをおかしてしまい、サラサラと灰になっていく……。

「これはすごい! まさしく史上最高のオムライスですよ! こんな辺境の地でこれほどおいしい料理が食べられるとは思いませんでした!」

「俺、こんな旨い物食べたことねえ! 食べるのがもったいないくらいだぜ!」

「まさかこのような名店があるなんて、私のグルメブックにさいしなければ!」

 ヤバイとはまずいという意味なのかと思っていたけど、どうやら真逆のようだった。少年少女は目をキラキラさせてオムライスを食べる。いやぁ、安心した。まずかったらどうしようかと思ったよ。

「特にこの卵の柔らかさがらしいです! スプーンを載せただけで切れてしまうほどの柔らかさなんて! 深くて濃厚なコクも特筆すべきおいしさです! せんぱいおごってもらったSランク魔物〈ドラゴニックブロイラー〉の卵より格段においしいですね!」

「しかもこのソースはなんだ! はじける酸味! たゆたう甘み! 美しいハーモニーをかなでてやがる! 肉のしょっぱさだって絶妙だ! ふっくらしていながら引き締まった食感! こいつはオムライスじゃねえ、もはや芸術品だな!」

「ご飯はつぶ立ちがはっきりしていて、一粒ごとにしっかりした歯ごたえを感じます! お肉の味が染み込んだご飯はそれだけで食が進みますよ! 私独自の調査でも、この味にひつてきする料理を出せる店は王国内にもありません! 私史上初、星四つを差し上げます!」

 みなさん、大変な声量で感想をお話しされる。あの~、静かに食事したいって言ってませんでしたっけ?

「「いったいどんな食材を!」」

「え、ええ、ここでは無毒化した毒食材を調理してまして……卵とお肉は〈どくどくチキン〉を使って、ソースは〈トキシントマト〉と〈魔女リンゴ〉を……」

「「それはすごい!」」

 最後まで言い切らぬうちに、わあああ! とはくしゆされた。キャンデさんもそうだけど、冒険者の人ってリアクションが激しいのかな。

「ライスには〈満月茸〉も入ってますよ。ぜひ、卵といつしよに食べてみてください」

「「……これはもう、とろみの二重奏! 豊かな山の味と卵の風味がゆうごうして、最高のおいしさ極まれり!」」

 やっぱり、私の声は結構大きいのだろうか。キッチンと食堂は半分吹きけでつながっているしね。とにかく冷静な調理をこころけなければ。この先、王様みたいな偉い人とか来たら大変だよ? まぁ、ありえないけど。

 少年少女のお客さんはモグモグと食べ、すぐにお皿は空になった。とりあえず、キャンデさんの時みたいに殺してくれ! とか言われなくてよかった。

「「ごちそうさまでした! 本当においしかったです!」」

「こちらこそ、完食いただいてありがとうございました。では、お皿を下げますね」

 お皿を持ってキッチンへ行く。いつものように、こっそり近寄るロールちゃんとネッちゃん。

「なんかリアクションの激しい人たちだなぁ。わたし、警戒しちゃうかも」

「ロールちゃんは警戒心が強いもんね」

『でも、変な人たちではなさそうだニャよ』

 仲良く話すかれらを見ていたら、こちらの気持ちまで明るくなってきた。がおが一番だね。

「せっかくだから、〈ポイズンハーブ〉のお茶でもサービスしようかな」

「『賛成 (ニャ)!』」

 お湯をこぽこぽと注ぐ。これも料理に分類されるかもしれないけど、別にテンションが上がって騒ぎはしない。さすがにそこまで自分を見失ってはいないのだ。

「〈ポイズンハーブ〉のお茶ですよ~」

「二人とも……さっきはごめん!」

 お茶を持っていったら、とつぜんくろかみ少年が頭を下げた。

「いや……俺も悪かった。自分のミスをたなに上げて、お前らのせいにしちまった」

「私こそ申し訳ありませんでした……。あんな弱い敵もたおせないなんて、しゆぎよう不足もいいところです」

 黒髪少年の言葉に続くように、茶髪少年と金髪少女がつぶやく。彼らが話すたび、最初のギスギスした空気はやんわりと丸い雰囲気になっていった。けんでもしていたのかな? 私の疑問に答えるかのように、黒髪少年が話した。

「僕たちは新米冒険者パーティーなんです。でも、なかなかクエストが上手うまくいかなくて……ちょっと喧嘩してしまったんです」

「疲れと空腹で気分も最悪でさ。解散の話まで出たんだぜ」

「解散する前に食事でもろうということで、私たちはこちらのカフェにうかがいました」

「そうだったのですか」

 だから、来店したときはあんなに空気が悪かったのか。黒髪少年は笑顔で話を続けてくれた。

「あなたのお料理のおかげで、僕たちはまた新しい一歩を踏み出せます。ぜひ……お名前を教えてくださいませんか?」

「レベッカ・サンデイズと言います」

「「名前までおいしそうだ!」」

 ……それはどうなんですかね。私が名乗ると、少年少女があくしゆしながら自己しようかいしてくれた。

「僕はロビンです。こんなんでもリーダーをやってます」

 黒髪少年はロビン君という名前だった。十四さいくらいかな。私より少し幼く見えた。短いかみさわやかな笑顔がよく似合っている。片手剣の名手になりたいそうだ。

「俺はナサリエル。この中じゃ一番の年長者だ」

 茶髪少年の名前はナサリエル君。私と同じ十六歳だった。両手剣が得意とも教えてくれた。

「私はフィオナと申します。パーティーでは主にえん役をになっております」

 フィオナちゃんはサラサラの金髪ヘアがうらやましいね。せんとうは得意じゃないけど、まずは仲間のサポート技術を身に付けたいそうだ。

「僕たちは絶対にあなたのことを忘れません。レベッカさんはご飯で僕たちを救ってくれたんです」

「本当にありがとな。下手したら冒険者の夢をあきらめるところだったよ」

「まさしく、人の心まで救う料理人ですね」

 ロビン君たちがたたえてくれていると、キャンデさんが帰ってきた。

「おーい、クエストついでに別の毒魔物をってきてやったぞー……うおっ!」

「「〝わくらんきようせい〟」」

 キャンデさんを見るやいなや、ロビン君一行はかのじよを取り囲む。大金を見た時のロールちゃんみたいに目が輝いていた。

「「こんな大物冒険者までいるなんて、とんでもない食堂だ!」」

「お、おいっ! 私がここにいることはだれにも言うんじゃないぞっ!」

「「ええ、それはもちろん! その代わりサインください!」」

 キャンデさんがタジタジとするほどの勢いで、彼らはサインを求める。Sランク冒険者なんて、新米パーティーにはあこがれの存在なんだろう。剣やかばん、ポーションのびんにまでひとしきりサインをもらうと、お別れの時間になった。

「レベッカさん、おいしいご飯を本当にありがとうございました。これはお礼です」

 ロビン君たちはどさりと、何個かのキレイな石っころをテーブルに置く。

「これは何で……うわっ」

「はわわ……」

 私をしのけるように、ロールちゃんがドカッと走ってきた。震える手で石を持つ。

「こ、これは……Sランクのレアせき! わたし、初めて見た! しかも、こんなにたくさん! どうやって手に入れたの!」

「ダンジョンのわなに落ちたら、ぐうぜん見つけたんです。お料理の代金として、どうぞお受け取りください」

 魔石は自然界に漂う魔力が石のようにぎようしゆくしたけつしようたいで、スキルの補助やどうの製作などに使われる。便利な一方で、魔物の力を強める作用もある。純度の高さによって効力と希少価値が変わり、Sランクのレア魔石なんて一つで家が一けん買えちゃうよ。

 ……こんな貴重なほうしゆうをいただくわけにはいかない。

「いや、さすがにもらいすぎで……」

「ありがたくちようだいしますね!」

 ていちようにお断りしようとしたけど、ロールちゃんの声にかき消された。

「「絶対また来ます! ありがとうございましたー!」」

 ロビン君たちは笑顔で手を振りお店を出ていく。

「……はぁ……はぁ……もう二度とサインなどしないぞ……」

「冒険者のお客さん、これからもジャンジャン来てくれないかなぁ……せいいつぱいのおもてなしをするんだけど……」

 キャンデさんは息も絶え絶えになっており、ロールちゃんはウットリとレア魔石を眺めている。やっぱり手の平を返していた。まぁ、彼女が幸せならそれで良いのだ。

 無事、三組目のお客さんたちも笑顔で見送ることができた。