間章:王様が来た!?(Side:アンジェラ)



「アンジェラ! 早くそうしなさい! あなたが一番若いんだから、そつせんして家事をしなさい!」

「だから、子どもなんだから若いのは当たり前でしょ!」

「そうだ、そうだ! 本当なら言われる前にやらなければいけないんだぞ、アンジェラ!」

「お義父様も賛同しないで!」

 マーグレイブ辺境はくが怒って帰ってからというもの、あたくしへの風当たりは増すばかりだった。おまけに、サンデイズ家のあらゆる雑用をし付けられている。掃除をしろ、せんたくをしろ、買い出しをしろ、服の手入れをしろ、手紙を管理しろ……。

「アンジェラ!」

 うつうつとしていたら、お母様にかんだかい声でられた。耳がキンキンしてしょうがない。叫ぶように怒鳴り返す。

「今度はなに!」

 お母様はまどわくを、つつつっと指ででる。かと思いきや、指先についたほこりをフッ……とき飛ばした。

「まだ全然掃除できてないじゃないの」

「まったく何をやっているんだ、アンジェラ。掃除もできないのか?」

 文句あるなら自分たちでやりなさいよ!!

 ……ものすごいストレスの毎日だ。今まではこんなことなかったのに。どうしてこうなったの? これはきっと、お義姉様のせいだ。家から逃げたから、お母様たちのこうげき対象があたくしに変わったのだ。お義姉様めぇぇぇ! ふつふついかりがいてくる。

「あと、アンジェラ」

 お母様の声。がっくりして気絶しそう。はんこうの意思を示すため、どアルトの声を出してやった。

「……なんでしょうか」

「あんたのおづかいだけど、今月から無しにしたからね」

「ええ!?

 無しにしたからね、したからね、からね……。頭の中にお母様の声がひびく。

「な、なんで!」

「なんでって、食堂が閉まったからに決まっているでしょう。少しでも節約しないと」

 サンデイズ食堂をへいして、の収入は激減した。土地の貸し借りとか、代わりの収入源があるのかと思いきや何もなかった。

なつとくできませんわ! あたくしのドレス代は誰にも渡しません!」

「おだまりなさい!」

 お母様はめんどうなことがあると、お黙りなさい! を発動する。その金切り声は、あらゆる気力をうばうのだった。これも全て、お義姉様が追放宣言を受けたとき反発しなかったのが原因だ。家に残るとこんがんしなさいよ。そうすれば、あたくしはこんな目に遭うこともなかった。お黙りなさい! で奪われた気力を奮い立たせ、お母様と話す。

「で、でも、今週末にあるお茶会はどうするの。新しいドレスを買わないといけないのに」

「そんなの古い服でいきなさい」

 貴族のお茶会は文字通りお茶を飲む会、ではない。将来のけつこん相手を探す大事なチャンスなのだ。お母様もわかっているはずでしょう。……というか。

「お母様が節約すればいいじゃないの! 今週何枚のドレスを買ったのよ!」

「……チィッ!」

 仕立て屋から届いた分厚いせいきゆうしよをテーブルに叩きつける。手紙の管理をやらされている中、目ざとく見つけておいたのだ。人のことをこき使いやがって。仕返ししてやるんだから。請求書を見ると、お義父様がふるえる手で拾い上げた。

「お、お前、こんなにドレスを買ったのか? しばらく買わないと約束したばかり……」

「……何か文句でも?」

「いや、何でもない」

 お母様に睨まれたたん、お義父様はぐんぐん小さくなる。しっかりしてよ、もう! お義父様がそんなんだから、お母様は横暴になったのよ。……というか。

「そもそも、サンデイズ食堂を閉店にしたのはお義父様じゃないですか! どうして、あたくしにしわ寄せが……」

「人のせいにするんじゃない、アンジェラ! お前をそんなむすめに育てた覚えはないぞ!」

 ぬあああああ!

 なんてえらそうな義父。サンデイズ家にはまともな人間がいないの? 右を向けばお母様に、左を向けばお義父様に文句を言われる。あたくしはなんて可哀かわいそうな女の子なんでしょう。自分の悲運に悲しくなってきた。

 まとめると、これも全てお義姉様のせいだ。自分が追放された後のことを、全然考えていなかったのが悪い。長女ならもっとちゃんとしなさいよ。

「「サンデイズ家ー! サンデイズ家の者はいないのかー!」」

 外から男性の声が聞こえる。何かしら? と思う間もなく、お義父様がカッ! と指を鳴らした。

「アンジェラ、出なさい」

「……」

 またあたくしかよ。聖女のように心が広いあたくしでも、さすがにもうまんならない。

「たまにはお義父様が出たらどうですかっ」

「口答えするな! お前が一番若いのだから率先して……」

 リビングに小言を残してげんかんへ向かう。だるい気持ちでドアを開けると、身なりのキチッとした男性が数人立っていた。辺境伯のときとはちがった意味で緊張する。

 こいつらは王宮の衛兵だ。制服を見たことがあるもの。何しに来たんだろう。ハンサムな人は一人もいないので、ローテンションのまま対応する。

「何用でしょうか」

「「あ! ……なたはサンデイズ家の者ですか?」」

 またこの反応だ。衛兵たちはあたくしをギョッと見る。うら若きレディーに失礼でしょうが。きっと、美人のあつかいに慣れてないんでしょうね。見るからにモテないモブ男ばかりだもの。

「アンジェラ・サンデイズですが、何か?」

「「レベッカじようはどちらです?」」

 ……またお義姉様かよ。どこまであたくしをイライラさせれば気が済むのだ。追放したと言ってやれ。

「お義姉様はつい……」

 と言いかけたところで、言葉を止めた。またお母様たちにいやを言われるのはイヤだ。

「今ちょうどお料理を作っているわ」

「「お料理を? サンデイズ食堂は閉店したのでは?」」

「また再開したんです」

 面倒だから適当にしておいた。さっさと帰りなさい。

「「そうですか、そうですか。いやぁ、それを聞いて安心しました」」

 衛兵たちはホッとした表情。お義姉様の話をしているときはうれししそうじゃないの、ムカつくわね。多少イライラしながら質問する。

「安心したって、どういうことで……」

 言い切る前に、衛兵たちはとんでもないセリフをいた。

「「国王陛下―。サンデイズ食堂は再開したそうです」」

「おお、そうかそうか。ようやく、レベッカ嬢の食事が食べられるのだな。これほど楽しみなことはない」

 衛兵の後ろから出てきたのは……あろうことかフリーデン王国の王様だった。豊かな白い口ひげに、短いつつみたいなぼうからこれまた長い髪が見えている。おんこうそうに緑の瞳を曲げ、ホッホッホッと笑っていた。マーグレイブ辺境伯以上のしようげきがあたくしを襲う。

 フリーデン王国にある百個ほどの貴族家をべ、外交や内政の全てに決定権を持つ最高権力者。王様が直接誰かの家に訪問するなんて、三大こうしやく家クラスでもめつにない。ま、まさか、王様が来るなんて予想外もいいとこだ。

「「さあ、国王陛下、参りましょう」」

「そうだな、レベッカ嬢の料理が食べられる日がくるとは」

 王様は衛兵に連れられ、サンデイズ家に足をみ入れる。今さらうそを吐いたなんて絶対に言えない。王様をだますなんて、それだけで大罪だ。お義姉様はもういない、サンデイズ食堂は閉店した。

 ……なおに言えばよかった!