第三章:〝焼き魔 女 リンゴのぶるぶるベリージャム添 え〟
「はぁ~……何回見ても美しいなぁ……」
「ロールちゃん、そんなにむき出しにしていると危ないよ」
『この辺りには変な人もいるんじゃなかったのかニャ』
「うぅん……わかってるぅ……」
スクアーさんの来店から数日後。ロールちゃんは毎日金貨タワーを作っては眺めていた。ウットリした表情は見ていて
「ねぇ、食材集めに行こうよ。〈ポイズンハーブ〉が見つかったら、また〝ポイクッキー〟作ってあげるから」
『昨日の夜はあんなにやる気だったじゃニャいか』
「うぅん……」
ネッちゃんと一緒にロールちゃんをゆさゆさ
食材は一人でも探しに行けるけど、この状態のロールちゃんを置き去りにするのは危険
「ほら、ロールちゃん、お願いだから」
『金貨は
「はぁぁ~」
ぼんやりしたロールちゃんから金貨を回収。隅っこの床下に収納。宿屋の
「じゃっ、食材集めにいきましょうかっ」
「『ああ、良かった(ニャ)』」
金貨を隠すと、ロールちゃんはいつもの彼女に戻ってくれた。ルンルンと進む後ろについていく。その様子を見ていると、自然と呟きが
「ロールちゃんは自分の世界に入り込んじゃうタイプなんだろうねぇ」
『レベッカもそういうところあるニャよ』
「んん? どういうことぉ?」
私は別に自分の世界に入り込んだりはしない。確かに料理しているときはテンションが上がる。でも、それはただテンションが上がっているだけだ。断じて自分の世界に入り込んだり、周りが見えなくなることなどない。
『自覚がなさそうなところもそっくりだニャね』
「だから私は違うって~」
ネッちゃんの言葉に笑いながら、ロールちゃんの後を追う。猫妖精にも
「レベッカ、今日は何探そうか」
「木の実とか果物の食材があったらいいな」
『ここの森は大きいから、探したらありそうだニャね』
キノコや野草エリアとは別の場所へ行ってみよう。〈満月茸〉や〈フォアカブト〉の生えているところを抜けて森の
「ロールちゃん、毒魔物が出てきたらイヤだね。私、とろいから
「この辺りはまだ〝帰らずの
「そうかなぁ……」
ロールちゃんはそう言うけれど、いまいち実感が湧かない。もしかして、私の自覚がないだけ……? いや、そんなまさか。私はいつだって普通そのものだ。
「でも、用心に越したことはないね。わたしに毒魔物は
「うん、静かに
自分に言い聞かせるように呟く。慎重に、慎重に……。ふと、顔を上げると赤い木の実が目に入った。
「あああー!! 〈魔女リンゴ〉があるー!!」
「レベッカ、大きな声出さないでっ……!」
『静かに慎重に進むんじゃなかったのかニャ……!』
普通の物より一回り小ぶりなリンゴ。真っ赤な皮には魔女みたいな模様が
「《毒消し》!」
「『だから、静かに……!』」
無毒化した〈魔女リンゴ〉を何個か採ってかごにしまう。もっと果物ないかなぁ? キョロキョロと辺りを見回す。数歩奥に
「〈ぶるぶるベリー〉があるよ!」
「『お願いだから、もっと小さな声でっ!』」
サササッと近寄ってみる。やっぱり〈ぶるぶるベリー〉だ。ブルーベリーと同じような酸味とそれ以上の栄養があるけど、体温が下がってしまう毒を持っている。
「〈毒ナッツ〉があるじゃん! いやぁ、テンション上がるねぇ!」
「毒魔物が来ないように
『もうどうしようもないニャ……』
ズボッと引っこ抜くと、根っこの先にたくさんの落花生がついていた。
「もうちょっと毒食材ないかな……〈ポイズンハーブ〉だぁ!!」
「もう何も言わないよ……」
『ネッちゃんたちが静かにしてればいいんだニャ……』
ようやく見つけましたよ。我らが〈ポイズンハーブ〉。木の
「これで〝ポイクッキー〟を量産しよう。スクアーさんも喜ぶはず」
「良く見つけたね、レベッカ」
『毒魔物に
一通り毒食材を集めたので、一度宿屋に戻る。キッチンに並べてみると、小さな台がいっぱいになるくらいの量があった。
「リンゴとかはどんな料理にするの?」
「そうだねぇ。焼きりんごとかおいしいよ。〈ぶるぶるベリー〉はジャムにしようかな。ナッツも一緒に出すと、カリカリ具合が良いアクセントになると思う」
「おいしそう!」
『カフェっぽいニャ!』
「外のメニューに追加しておこうか。私が書いてくるね」
入り口横の看板にメニューを書き足す。キッチンに戻って下準備を始めるわけだけど……。
「できればお肉やお魚が
「実はわたしもそう思っていたんだよね。そのうち、お肉料理お魚料理も出したいな」
『野菜ばかりじゃ男の人は食べ足りないだろうニャね』
毒食材のお肉やお魚というと、基本的には毒魔物となる。そもそも魔物自体が
みんなでううん……と
「失礼するぞ」
ゆらりと
「「いらっしゃいませ! 空いているお席にどうぞ!」」
「……」
私たちが言うと、お姉さんは無言で席に着いた。ロールちゃんはお水を、私はお
お姉さんは大柄というかガタイが良い体つきで、全体的にがっちりしている。目を引く真っ赤な
「こんにちは。〝カフェ・アンチドート〟にようこそいらっしゃいました。メニューは〝満月
「……焼き魔女リンゴ」
「承知しました。〝焼き魔女リンゴのぶるぶるベリージャム添え〟でございますね」
「早くしろ」
ギロリと
「なにあの人、感じ悪っ。宿屋をやってて一番態度悪いお客さんだよ」
「まぁまぁ、ロールちゃん落ち着いて」
『きっとクエストとかで疲れてるんだニャ』
「まさか
ネッちゃんと一緒になだめるも、ロールちゃんはプリプリと
「何はともあれ、早くお料理を作ってあげないと。お
「お店の備品が
ロールちゃんはチラチラとお客さんを見張っている。厳しい一人暮らしで警戒心が強くなっちゃったんだ。彼女の
食材の《毒消し》を済ませ、静かな心でナイフを握る……。
「最初は〈魔女リンゴ〉をスライスしますよぉ! 空気に当てるほど甘みが増すぅ!」
「また始まっちゃった……」
『こればかりは本当にしょうがないニャ』
〈魔女リンゴ〉を半分にカット! サクサクとくし形切りしたら、重ならないようお皿に並べておく。こうすることで、砂糖が
「味付けは〈ぶるぶるベリー〉のジャムですよぉ! 〈魔女リンゴ〉の甘みに、この酸味は
「せめてもう一段階、声のトーンを落としてくれるとありがたいんだけど……」
『料理が完成するまではずっとこんな感じだろうニャよ……』
〈ぶるぶるベリー〉をよく洗って、ボウルの中にインっ。乳棒でぐるぐるぐるぐる練り
「そして、そして、そしてぇ! 〈毒ナッツ〉を
「なんだかわたしも楽しい気分になってきた……」
『ネッちゃんも同じニャ……きっと、レベッカの気持ちがうつってきたんだニャよ』
〈毒ナッツ〉の
「〈魔女リンゴ〉チェーック! ……とろけるような甘さがぎゅうぎゅうぅ!」
「わたしも一口! ……かぁぁぁ~! これはもうリンゴの甘さを
『一口食べただけで
焼いた〈魔女リンゴ〉を並べ、〈ぶるぶるベリー〉のジャムを添え、〈毒ナッツ〉を散らし……。ラストはもちろん……。
「最後の締めは〈ポイズンハーブ〉ゥ! ほんのちょっと載せるだけで、こんなに
「これはまさしく色の
『ネッちゃんも食べたくて仕方ないニャん!』
〈ポイズンハーブ〉をお皿の端に置く。焼きりんごもジャムも甘い。口直しにさっぱりした
「では、お出ししてくるね」
「絶対おいしいって言ってくれるよ」
『お客さんも楽しみだろうニャ~』
キッチンを
「お待たせしました。〝焼き魔女リンゴのぶるぶるベリージャム添え〟でございます」
テーブルにことりとお皿を置くと、すぐさまギロリと睨まれた。
「ずいぶんと騒がしい
「……申し訳ありません」
ぐうの音も出ない。またやらかしてしまった。あんなに気を付けてたのに……。というか、最後の方はロールちゃんとネッちゃんも騒いでいたような気がするけど。チラッと食堂の
「まずかったら二度と来ないぞ」
「はい……すみません」
最悪だ。食べる前からカフェの印象が地に落ちてしまった。せめて、もう一段階声のトーンを下げていれば……! 心の中で
「くぅぅっ! 私を殺してくれぇ!」
「なんで!?」
お姉さんは一口
「これほどの衝撃を受けた飯は
「あ、ありがとうございます……」
ほ、褒められている? とてもそんな雰囲気じゃないのですが。だって、お姉さんの顔すっごく怖いよ? 強い魔物と
「私の負けだ。いや、完敗だな。文字通り手も足も出なかった。
「は、はぁ……」
あの~、私たち勝負してましたっけ? さっきから勝手に話を進められているような気がしてなりませんが……。そう言いたいのだけど、お姉さんが怖くて言い出せない。
「リンゴを一口食べた瞬間、もうダメだと思った。一欠けらで体中に広がる深い甘さ……。それでいて後味がさっぱりしていて美味い。これはどんなに高級な砂糖を使っても出せない味だろう。何より、
「昇天……」
「美味すぎて死ぬところだったぞ」
「そんな……」
あの
「このジャムは
「〈ぶるぶるベリー〉は栄養価が高いので」
お姉さんは食材一つ一つに
「ナッツのカリカリとした食感もまた
「はい、私がお作りしました」
「なるほど……。まさしく、絶対に越えられない
お姉さんは静かな微笑みを
「そして、私は
「か、覚悟ですか? いったい何の……」
「さあ、この剣で私の首を一思いに
「す、すみません、何がなんだか」
「私の覚悟はできている!
「それは構いませんが……斬り殺されたらもう食べられないと思いますけど」
食堂は時が止まったかのように静かになった。お姉さんは一言だけ言葉を発する。
「……たしかに。よく気づいたな」
「あ、いえ……」
「ここで死んだら悔いが強く残りそうだ」
お姉さんは剣を置き、食事を再開する。普通に
お姉さんは口を
「貴様、名はなんという?」
「レベッカ・サンデイズと申します」
「ふむ……」
それっきり喋らなくなってしまったので、お皿を持ってキッチンに
「だ、大丈夫だった? なんか変なお客さんだね。いきなり殺してくれとか言うし。食べたら早く帰ってくれないかなぁ」
『あんなリアクションが
「……二人とも、私と
「『あ、いやぁ……』」
ロールちゃんにもネッちゃんにも、やんわりと断られてしまう。なんとなくわかっていたけどね。
「レベッカ、こちらに来い。残りの二人もだ」
まぁ片付けするか、と思ったらお姉さんの声が聞こえた。
「まだ名乗っていなかったな。私はキャンデという者だ。見ての通り、冒険者をやっている」
「よろしくお願いします」
「わたしはロールと言います……」
『ネッちゃんだニャ』
キャンデさんは
「まぁ、この辺りでは〝
「へぇ~、かっこい……」
「〝惑乱の凶星〟!?」
かっこいいですね、と言おうとしたら、ロールちゃんが悲鳴を上げた。ゴーストでも見たかのような顔をしている。
「ロールちゃん、どうし……」
「どんな魔物も
ロールちゃんは
「毒食材なんて
「はい、そのことでございますが……」
状況を簡単に説明する。毒食材は
「毒食材にこんな
「ええ、野草ばかりではレパートリーが少ないと思っています」
「そこでだ、一つ考えがある。私をここに泊めろ。毒魔物を狩ってきてやる。もちろんタダだし宿代も
キャンデさんの言葉にロールちゃんの表情が硬くなる。
「どうだ? 悪い話ではないと思うが」
「お言葉でございますが! あいにくと、わたしどもの宿には空き部屋が……!」
「前金だ」
キャンデさんはドサッと
「はわわ……」
まさか、この反応は……!
「……どうぞどうぞ! お部屋には空きがございますので! 最上級のお部屋をご用意いたしますよ!」
「そうか、それは助かる」
「『(ロールちゃん……)』」
ロールちゃんは
「泊まってほしくないんじゃなかったっけ?」
『そのはずニャけど……』
ロールちゃんは最初は
ロールちゃんは二階の角部屋にキャンデさんを連れて行く。
「こちらが最上級のお部屋でございます!」
「ふむ、悪くない。ほら、今週のチップだ」
「はわわ……」
キャンデさんは
「シーツは一日三回お取り
ロールちゃんの