『このお花も食べられるリスか?』

「はい、もちろん食べられます。それは〈フォアカブト〉のお花でして、ハッカのような清涼感があります。お口直しにどうぞ」

かざりじゃないんだリスね。……うまぁ! ハッカより一段とひんやりした甘さが美味しいリス。爽やかな風が吹き抜けるようなすがすがしさリスよ。山に登っているとき、つらさを癒してくれるめぐみの風を思わせるリスね……』

 さすがは行商人だ。豊富な語彙力でスープの美味しさを語ってくれる。スクアーさんは、はぁぁ……とこうこつとした表情でしばらくたんのうしていた。

『いやぁ、美味うまかったリスね~。こんなに美味しい食事は久しぶりリスよ~。ごちそうさまリス~』

「ありがとうございます。気に入ってくださって私も嬉しいです」

『いやぁ、辺境の森の中にこんな素晴らしいカフェがあるとは思わなかったリスね。いずれは天下の大名店となるに違いないリスよ』

 ひとしきり感想をいただいたところで、食器を下げてキッチンに持っていく。ロールちゃんとネッちゃんは、ドキドキした様子で待機していた。

「ど、どうだった、レベッカ。喜んでくれているみたいだけど」

『〝リス人族〟の調子はどうだニャ』

「おいしいって言ってくれたよ。私も安心した」

「そっか、別に怪しい人じゃないみたいで良かったよ」

 食事の様子を伝えると、二人ともホッとため息を吐いた。ロールちゃんはまだけいかいしんが完全には抜けないようだけど、ひとまずは安心したらしい。

『レベッカ殿~、ちょっと来てくれリスか~? お店の人たちにも来てほしいリス』

「あっ、は~い、今行きます」

 お皿を洗おうとしたらスクアーさんの声が聞こえてきた。片付けは後ですることにして、みんなで食堂へ戻る。

「どうされましたか、スクアーさん」

『いやぁ、レベッカ殿の料理の美味しさに深いかんめいを受けたんだリス。まずは、ちゃんとした自己しようかいをするリスね。こう見えても、あちきは〝ル・スクワロ商会〟の商会長なんだリスよ』

「「え! そうなんですか!?」」

 スクアーさんがさらりと告げたことに、私たちはしようげきを受ける。〝ル・スクワロ商会〟と言ったら、フリーデン王国最大手の商会だ。しかも商会長だったなんて……。スクアーさんはただの行商人ではなく、とんでもない大物だった。

『そちらのおじようさんたちにはきちんとお話ししてなかったリスね。どうぞよろしくリス』

「わ、わ、わ、わたしは宿屋をやっているロールでございます。よろしくお願いいたしますっ」

『ネ、ネッちゃんだニャっ』

 ロールちゃんとネッちゃんは緊張した様子であくしゆわす。当のスクアーさんはというと、来店したときと変わらぬふんで二人ともおしやべりしていた。こうしてみるとつうの(とは言っても〝リス人族〟だけど)少女みたいだ。スクアーさんは少しお喋りした後、食器をていねいに置くとしんけんな表情で告げた。

『レベッカ殿、改めてお願いがあるリス』

「は、はい、なんでしょうか?」

 活発な少女から一転、商売人のキリッとした目つきに変わっている。な、何を言われるんだろう……。緊張して心臓がドキドキしてきたよ。

『うちの商会と業務ていけいしてほしいリス』

「業務提携!? ……ですか?」

 まったく想像もしていないことだった。ぎょ、業務提携ってどういうこと? 〝カフェ・アンチドート〟と〝ル・スクワロ商会〟が? いや、そうなんだろうけど、どうして……。疑問と混乱で頭の中がいっぱいだ。なんでかな? と思っている間も、スクアーさんはたんたんと話を続ける。

『あちきはこんなに美味しい料理を食べたことがないリス。商会には各国、各地域の貴重な食材が集まってくるリスが、レベッカ殿の料理には足元にもおよばないリス』

 その口調や表情からは、ピシピシと商売人のオーラが伝わってきた。お世辞や冷やかしなどではない。真剣な評価をもらって、嬉しくも緊張がいてきた。

「ありがとうございます、スクアーさん。そんなにめていただいてとても嬉しいです。しかし、なぜ業務提携を……」

『レベッカ殿の料理を売らせてほしいんだリス』

 スクアーさんは真剣な表情のまま、きっぱりと告げた。

「わ、私の料理を売ってくださるのですか……?」

『あちきの目と舌は確かだリス。絶対に売れ筋商品になるリスよ。どうだろうか、レベッカ殿。もちろん、ギャランティもたっぷりおはらいするリス』

 こんなことを言われたのは初めてだ。どうしよう……とロールちゃんたちを見たら、二人とも激しく首を縦にっていた。

「と、とても光栄です。でしたら、ぜひお願いしたいです」

『ありがとうリス! いやぁ、そう言ってくれて良かったリス。実は、〝テトモモハ〟に商品を探しに来たんだリスが、なかなか良い品がなくて困ってたリス』

 スクアーさんは、たはは……と笑っている。そうか、来店したときにここはカフェか? と聞かれたのはそれが理由だったのか。

『ああ、そうだ。これはお代だリス。お礼の気持ちも入っているリスよ』

 スクアーさんは小包をテーブルに置いた。ジャラジャラと大量の金貨が出てくる。

「こ、こんなにいただいてしまっていいんですか!?

『もちろんだリス。えんりよしないで受け取ってほしいリス』

「はわわ……」

 ロールちゃんは大金を目にすると、たんにはわはわしだした。目も金貨と同じようにキラキラ輝いている。

『レベッカ殿。さっそくで申し訳ないリスが、保存が利いて流通しやすそうな料理を考えてほしいリス』

「あ~、そうですね。では、今日からでも……」

「はい! お望みとあらば、いくらでもお作りします! 保存が利くお料理もたくさんご用意いたします!」

 突然、今までだまっていたロールちゃんが快活に叫んだ。あの~、作るのは私なんですけど……。とは言えず、スクアーさんのお見送りの時間になった。

『レベッカ殿、本当にありがとうリス。また必ず食べに来るリスからね。業務提携の件は改めて手紙を送るリス』

「はい、楽しみにお待ちしております。どうぞまたおしくださいませ」

 じようげんのスクアーさんは、バイバーイ! と笑顔で帰って行った。姿が見えなくなってから店内に戻る。さて、片付けするかな、と思ったら、チャリ……チャリ……という金属音がどこからか聞こえてくる。不気味な音に心臓がね上がった。

「え……な、なに……?」

『し、しんにゆうしやかニャ……!?

「金貨が一枚……二枚……」

 見たことないくらいのホクホク笑顔のロールちゃんがいた。それはもう嬉しそうに金貨でタワーを作っている。

「スクアーさん、次はいつ来てくれるかなぁ……」

 ロールちゃんは金貨タワーを作ったら、うっとりとながめていた。最初はあんなにけいかいしていたのに……。

「なんだ、ロールちゃんか」

 ホッとしていたら、ネッちゃんがぼそりと呟いた。

『ちょっと現金な一面があるっぽいニャね……』

「ま、まぁ、資金のやりりも厳しかったみたいだし……」

 ロールちゃんの新しい一面が明らかになりつつ、無事に最初のお客さんに喜んでいただけた。