ロールと名乗った少女とあくしゆする。ブルーグレーの三つ編みおさげに、髪の毛と同じあわはいあお色の瞳。これまた黒と黄のカチューシャリボンが良く似合っていた。としころは私と同じくらいかな。彼女の手はカサついていて、よく見るとその身体もどことなくうすよごれていた。

「ここはあなたの宿屋さんなの?」

「うん。今はほとんど開店休業状態だけど……まずは中に入って。助けてくれたお礼もしたいし」

 お言葉にあまえ、中に入れてもらう。数組分のテーブルとイス。食堂をねていると思われるロビーが、がらんと広がっていた。外観と同じように、廃れたようなちょっとうすぐらふんだ。あまりはんじようしてないのだろうか、失礼だけど。奥にはキッチンがあるっぽいな、とかながめていたら、ロールちゃんがお茶を持ってきてくれた。

「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね」

「ありがとう……はぁ、おいしい」

『あちゃちゃちゃちゃっ!』

 ネッちゃんはさっそくねこじたにやられていた。

「ねぇ、レベッカ。旅人って言ってたけど、こんな辺境に何しに来たの?」

「ああ、それはね。外れスキルのせいで実家を追放されて……」

 例の一件を話す。ロールちゃんはちゆうからなみだが止まらなくなってしまった。

「まさか……そんな辛い過去が……」

『レベッカは苦労人ニャんよ。ネッちゃんも涙なしには聞けなかったニャ』

 過去というには最近過ぎるような気もするけど、まぁこれくらいは誤差か。お茶をすすったところで、ぐ~とロールちゃんのおなかが鳴った。

「あっ、ごめんなさい」

「ロールちゃん、おなかいてるの? そういえば、他に誰もいないようだけど……」

「う、うん。いつからか、この辺りは毒魔物だらけになっちゃって……つうの食材は少しはなれた町に行かないと買えないの。キノコとか野草も毒ばっかだし」

 どうやら、宿の周囲に広がる森は〝毒の森〟というらしい。ロールちゃんのご両親は森の中へたんさくに行ってから、もう数か月ほど帰って来ないということも聞いた。魔物は森深くのダンジョン――〝帰らずのめいきゆう〟に集まっているとも。ロールちゃんは、ぼうけんしやまりでぜにかせいでいるそうだ。

「一人で宿屋なんて大変だったね。でも、女の子一人じゃ心配でしょう。変な人とか来たら」

「大丈夫。そういう人はナイフをり回したらげてくから」

「そ、そうなんだ……」

 思いの外、ロールちゃんはたくましかった。

「レベッカも貴族なのに食堂やってたってすごいね」

「別に大したことじゃないよ。……そうだ、このクッキーも無毒化した毒食材から作ったの」

 持ってきたおやつを出す。細かく切った〈ポイズンハーブ〉を混ぜて焼いたお。名付けて〝ポイクッキー〟。紫色のハート形。

「へぇ、これが」

「毒消ししてあるから食べても大丈夫。お腹いてるなら食べる?」

「あ、いや……」

 スッと差し出したけど、ロールちゃんはかたい表情で断った。

「ごめん、ちょっとしつけがましかったね」

「ち、違うの。一人で暮らすようになってから、すっかりけいかいしんが強くなっちゃって」

 ロールちゃんは顔の前で、手をパパパッ! と振りながら否定する。

「たしかに、そりゃそうか」

「でもお腹は空いているわけでして、えんりよなくいただきましょう…………あああー!」

「『えぇ!?』」

〝ポイクッキー〟をかじった瞬間、ロールちゃんはおどり出してしまった。

「ハーブのき抜けるせいりよう感……まるで夏の風だわ。太陽の熱い日差しに疲れた身体を癒してくれるの。口の中に草原が広がっているようなさわやかさ! クッキーはほんの少しんだだけでサクッと割れちゃう。このかろやかな食感はくせになる~!」

「そ、そんなに喜んでくれて良かったよ」

力豊富ニャぁ……』

 とうかいのワンシーンみたいな踊りをろうした後、ロールちゃんは私の手を力強くつかんだ。

「ねえ、レベッカ! ここでカフェ開いたら!?

「カ、カフェぇ?」

 ロールちゃんは衝撃の一言を放つ。

「毒食材からこんな美味しい料理が作れる人なんて初めて見た。わたしもまってくれる人に料理を提供したいな、って思ってたところなの。毒食材なら調達も困らないよ。なにせ、〝毒の森〟には毒食材ばっかりだからね」

『それは名案ニャね。レベッカの経験が存分にかせるニャよ』

 二人の言うことには一理あるけど、新しい場所はやっぱり不安になる。

「う~ん、それはそうかもだけど……上手くできるかな。家賃のお金もないし……」

「レベッカならできるって。もちろん、タダでここに住んでくれていいよ」

「よし、やりましょうか」

 迷いは一瞬で消え去った。

「掃除とかは後にして、カフェの名前だけでも先に決めとこうよ。レベッカの新しい人生が始まる場所でもあるんだし」

「何がいいかな」

『レベッカを連想させるような名前がいいニャね』

 私を連想なんておそれ多いけど……、と考えていたらピーン! とひらめいた。

「〝カフェ・アンチドート〟!」

「『…………いい(ニャ)!』」

 生きていくため、私は最果ての地にてカフェをやっていくことを決意した。