炎の剣


 ──Dランクダンジョン『水溜まり』


「なあ悠よ」

「どうかしたのか?」

 ダンジョン中ほどまで進んだ辺りで、猫の姿に化けているアングラウスが俺の肩に乗り、話しかけてきた。

「ぴよ丸の力がどの程度使えるか、確認してみてはどうだ?」

「ん? どういうことだ?」

 力が使えるか確認?

 ぴよ丸は赤ん坊なので、基本値はとんでもなく低い。まあ俺と違ってレベルが上がっていってるので少しずつ上昇してきてはいるのだが、正直、劇的な変化を感じるほどではなかった。まあたぶん、魔法タイプなんだろう。

 攻略者の中には、魔法を扱える者がいる。スキルによって扱えるようになるわけだが、その手のスキル持ちは、レベルアップ時の能力上昇が総じてフィジカルより魔力の方が高い傾向にあった。

 当然だが俺は魔法が使えないので、ぴよ丸の魔法タイプとしての成長は、相性的にはあまりよろしくなかったりする。

「忘れたのか? ぴよ丸にはスキルがあっただろう?」

「あ……そういやあったな。確か、ファイヤーバードだっけか?」

『ワシの出番か!』

 唐突にぴよ丸がたけびを上げる。ファイヤーバードに反応したようだ。

「うむ。あれだ。折角あるのだから、試しても罰は当たらんだろう」

「うーん……」

 ぴよ丸のファイヤーバードは毛先がちょこっと炎になって、微妙に飛べるようになるだけのスキルだ。まあ空を飛べるのは魅力的ではあるが……軽いぴよ丸でさえ十センチほどしか飛べてないのだ。俺のサイズだと浮かぶかすら怪しい。

 まあ融合状態で使えばその分出力が上がるかもしれないし、試してみても損はないか。

「まあそうだな。ぴよ丸、ファイヤーバードを使ってみてくれ」

『それには素敵な呪文が必要じゃ!』

「素敵な呪文?」

 急に何言ってんだ、こいつは?

『マヨネーズを腹いっぱい食わせてやるという素敵な呪文じゃい!』

 ぶれない奴だ。

「ああ……まあダンジョンから出たら腹一杯やるから、取りあえず使ってみてくれ」

『我が運命はマヨネーズと共に! マヨディスティニー!』

 嫌な運命もあったものである。

『さあマスター! しかと見届けよ! これが我が力の神髄……ファイヤーバード‼』

「お……」

 俺の両掌から炎が噴き出す。ぴよ丸が最初に出していた、マッチの火みたいなのに比べてかなり大きい。俺と融合した影響で、出力が上がったようだ。まあもしくは、レベルアップの影響かもしれないが。

「これなら期待できそうだな」

「どれどれ……」

 俺の手から噴き出す炎に、肩から飛び降りたアングラウスが飛び込む。

「おいおい……」

 アングラウスは炎を突き抜けて地面に着地した。毛が焦げた様子はないので、この炎では彼女にダメージは与えられないようだ。まあ、当たり前ではあるか。何せ、相手はレベル一万の化け物なわけだからな。

「これは特殊な炎だな」

 アングラウスが体をブルブルと揺する。動物が体についた水を飛ばす感じのあれだ。燃えてはないが、炎の何かが体についたってことだろうか? すすとか?

「まあそりゃ、空が飛べるようになるんだからそうだろ」

「何を言っている? この炎では空は飛べんぞ?」

「え? でもぴよ丸は飛んでただろ」

「あれは羽で羽ばたいたからだ。飛行に炎は全く関係ない」

 意味なかったのかよ! ぴよ丸が必死に「ファイヤバード!」って叫びながら飛んでたから、てっきり能力なのかと思ってた。紛らわしい奴である。

「まあ……なんだ……じゃあこの炎は、敵にぶつけたりして使えばいいのか?」

 飛べないのは純粋に残念だ。

「そのままで使うよりも、物質化した方がいいだろう。物質化して使えば、悠にとっていい武器になるはず」

「物質化?」

「ああ、それは物質化できる性質を持つ炎だ。お前の命の力と繋がってるようだから、悠の方からコントロールできるはずだぞ」

「命と繋がってるのか……だったら、俺の命の状態で威力も上がる武器ができるってわけか」

「そうなるだろう」

 数による出力増加もそうだが、命と繋がっているのなら、エクストリームバーストで威力が上がるかもしれない。それなら期待大だ。素手でも戦えるが、やはり武器があった方が何かと便利だしな。

「なるほど。確かにいい武器になりそうだな。で、どうコントロールすればいいんだ?」

「そんなものは知らん」

「おいおい」

 やれと言っといて知らないとか、無責任な。

「我には命のコントロールなどできんからな。持っていない能力の扱い方など、さすがに伝授できんよ。お前はその道のプロなのだから、自力で模索してみるがいい」

「プロね……」

 まあ一万年以上扱ってきたわけだからな。確かに、俺以上に命の扱いにたけた人間はいないだろう。今なら師匠すら凌駕している自信がある。

「どれ……」

 命に意識を集中させてみると、手から出ている炎への繋がりを感じることができた。俺はその繋がりを通じ、命を操る要領で剣の形をイメージする。想像したのは、昔やってたゲームのカッコイイ剣だ。

「お、うまくいった」

 両掌から出ていた炎が一つになり、イメージ通りの剣へと変わる。意外と簡単だ。

「どれ……」

 それを握って軽く振ってみる。恐ろしいほど手にフィットして扱いやすい。まるで自分の体の一部のようだ。いやまあ、実際に体の一部なわけだが。

『これがワシらの新たな力! マスター! ワシはこの剣をマヨソードと命名するぞ!』

 ぴよ丸が興奮気味に叫ぶ。

「却下」

 が、もちろん却下だ。そんな名前の武器、振り回したくない。